さぁ、奴隷を捕まえよう!
「といっても、実際問題、山賊なんてどうやって倒すのさ。
普通はやっぱり国から軍隊を派遣したりするもんだよ」
俺はちっちっちと指を振る。これではかいこうせんが出たりしたら楽なんだが、俺のはそういう能力じゃないし、出たとしてもリアルラックのせいでにらみつけるがいいところだろう。
だが確かに、山賊という以上一人だけということもないだろう。しかし、俺は与えられた能力をしっかりと理解した上で、ある一つの打開策を見出した。
「ふふふ、アルクくん。それがなんと、もう一人仲間に引き入れるだけで多分簡単に山賊なんかぶっ飛ばせるんだ」
「えっそんな人が!? カラミさんですか? でも、カラミさんといえど山賊を相手には……」
俺はニヤリと笑う。ふっふっふ。わかってないようだなアルク。俺の能力は簡単にいえば、異世界あるあるをこなせばこなすほど強くなるというものだ。つまり、転移者にとってのマストアイテム、食物連鎖の最底辺である、そう!
「奴隷だよ奴隷! ちょっと優しくしただけで心をわしづかみにできる、まさに一人いるだけでワンランク上のあなたを演出してくれ、最高の異世界ライフを提供してくれる奴隷さんだよ!」
「うわぁ……最底だよあんた……」
アルクくん、ドン引き。
「なに引いてんだよ。まさか奴隷いないタイプの異世界?」
「いや、いますけども。大体他国から拐われたり、飯を食うにも困った親が売り飛ばしたりと、なかなか奴隷市場は成長の一途を辿っています」
「いいじゃん。よし、早速教えてくれ! レッツゴー!」
「うわっ、ちょっと、お金はー!?」
「そんなもんどうにでもなるわ!」
嫌がるアルクくんを引きずり、俺達は町へと来ていた。アルクくんが住む場所はこの町の郊外にあり、およそ二十分ほど歩けば到着する。
人口は多くはないが、レンガ造りの家が立ち並び、牧歌的な雰囲気がある場所だった。市場とまでは言えないものの、食料品や雑貨を売っているお店も見つける事ができた。
「で、奴隷商人さんはどこにいるんだよ」
「ススムさん、奴隷を飼うのは生半可な覚悟で出来るものじゃないんですからね。一度買ってしまえば食費に衣服費、更に健康を保つために毎日適度な運動をさせなければならないんです! わかってますか?」
わかったよママ。僕、絶対毎日散歩させる!
そんな俺の瞳を受けて、アルクははぁ、とため息をついた。
「全くしょうがないですね。でも奴隷商人はあまり町には来ません。今日いるかは運次第なところがありますが……」
そう言いながら町の通りを歩いていると、恰幅のよいおじさんが檻の前でなにやらニコニコと立っていた。その横にはボロボロの衣服を着た女の子が、手錠に鎖を付けられ俯きながら立っている。
おいおいおい。いきなり当たり引いたじゃん。
「あれってもしかして?」
「奴隷商人、ですね……。今最もあなたに会わせたくない人です……」
アルクくん! これはね、別に俺がハーレムを作ろうだとか、奴隷ヒロインは定番だとか、そういうことを考えてやってるんじゃないんだよ? 俺が強くなるために必要なことなんだ。
だからこれは正統な理由ありき! 俺、悪くない、きっと!
「すいませ〜ん!」
「あっ、めちゃくちゃ手をモミモミしながら奴隷商人のところへ! 何なんだあの人!」
恰幅のいいおじさんは俺を見てニコリと笑いかけてくれた。俺もニコリとほほえみ返す。
「はい、なんだい。奴隷が欲しいのかい」
「うん! できれば獣人ネコ耳ドジっ娘メイド語尾はにゃ付きでマイペースながらプライドは高くて自分ルールに従わないやつは即ひっかきの戦闘能力もありちょろいやつがいいな〜!!」
「おおっお客さん目が高いね! ちょうど入荷したところだよ!」
「なんだこいつRPGの決められたセリフしか喋らないみたいなことばっか言いやがって」
「え?」
「なんでもないよおじさん! 見せて欲しいなぁ〜!」
俺はスマイルでゴリ押した。おじさんも謎の圧に押し負けたようだった。アルクくんは俺の隣でさらにドン引いている。もしかして俺、またなんかやっちゃいました?
「さぁ、この子だよ。この子は獣人の国、アルケル出身の子なんだ。なんと血統書付き! 今どき珍しいよ〜」
「ほう、この世界にも血統書付きなんてあるんだな。やっぱ純血って珍しいのか?」
奴隷商人はおお! といってさらに俺の耳元へと近付いた。やめろ。
「もちろん! アルケルは最近負け続きでね、国土が結構侵略されているんだ。となると、わかるだろ? 村が襲われて、そのまんま……」
「いや、やっぱいいわその話。あと近付くんじゃねえ」
俺はそっと離れると、
「……だいぶ腐ってない?」
「何言ってるんですか。よくありますよ。というかススムさん……ほんとに獣人を買うつもりですか?」
「あったりまえだろ。奴隷の中でも獣人はランク高いんだよ。多彩なパーティーがあってさらに強くなれるの」
「うわあ……まじでドン引きです……」
アルクくんは俺から十歩ほど距離を取った。いや、離れすぎでは!?
「さ、この子だよ。お客さん目が高いね〜どう、いいでしょ?」
そうして目の前に連れてこられた子のフードが取れる。
まず見えたのは、ネコ耳だった。栗毛のショートがふわりと揺れ、緑と青のオッドアイ。シャープな輪郭に、高い鼻筋。一目で美人とわかる。まさに異世界の真骨頂というような見た目だった。
ギリギリ素肌を隠しているような服はまさにボロ布といった具合で、豊満な谷間がちらりと俺を蠱惑する。スラリと伸びた手足もしなやかで、身軽そうな印象を与えた。
「めちゃくちゃいいね旦那。ちなみにおいくらほど?」
「おおっ、気に入ってくれたかい! お値段はそうだね、金貨三枚ほどだ」
「いいね〜! よし、買おう!」
「お客さん! あんたほんとに分かってるね! よし、即決だ!」
俺と奴隷商人が握手を交わそうとすると、アルクくんがすごい勢いで割り込んできた。そしてそのまま俺をずるずると引っ張ると、
「ちょちょちょっと待ってください! 金貨三枚なんて大金、どこにもないでしょうが……!」
「わかってないなぁアルクくん。俺にはあるんだよ。元の世界の道具は大抵こういうところじゃ大金になるもんだよ?」
「元の世界ってなに……あっ、ちょっと!」
「いや、悪い悪い。じゃあその子でよろしく頼むよ! あ、今手持ちがないんだけども……」
ジャキン、という音がしたと思うと、俺の喉元には刃が突きつけられていた。奴隷商人の眼光は俺をそのまんま殺してしまうほど鋭く、先程までの柔らかな表情は完全に抜け落ちている。
「お客さん……まさかあんた、冷やかしかい? そりゃやっちゃいけねぇことだ……手持ちがないのに声を掛け、あまつさえ買おうなんざ……あんたが奴隷になっても文句は言えねぇなぁ?」
えぇ〜! 怖い怖い! いきなり世界観変わってきたんだけど、なに!? 怖いんですけど!
「ちょっと待って! これ、お金にならないほど値打ちのある国宝級の道具と交換ってのはどうだよ……!?」
そういって、俺はスマホを取り出した。
「なんだいこれは」
「よし、まずはその剣収めて。そう。じゃあ説明するぜ。まずはこうだっ」
パシャリ、と俺はおじさんを写真に納めた。
うわっ、という驚きの声が聞こえる。
「ほら、見てみて。これは一瞬で超精巧な絵画を作ることができるんだぜ。見たことある? 世界に一つだけよ? あんたの腕ならこんなの、金貨三枚以上の値段で売ることできるんだろうなー」
「おいおい、お客さぁん! なんだいこれは異物じゃないか! こりゃほんとにすごいねぇ……精巧な絵画を作るというより、まさに空間を切り取ったかのような出来栄え……素晴らしい」
俺は手応えを感じた。アルクくんは横でちんぷんかんぷんの顔を浮かべている。
「てか異物ってなに、アルクくん」
「異物っていうのは、まさに国宝級の代物です。道具一つにつき、僕達の技術では絶対に解明できず、真似もできない機能が付いてる……。いや、そんなことより、なぜススムさんがそんなものを……」
「ま、細かいことはいいじゃん。さらに、なんとこれは電卓が付いてるんだよ。ほら、ほら!」
スマホに付いてる電卓機能を見せると、おじさんは更に驚いたようで腰を抜かした。完全に泡を吹いている。気絶した? もしかして。
「……!?」
声にならない声をあげるおっさん。
「よし、決まりだな。じゃ、この子貰ってくぜ」
「ま、待ってくれお客さん。これは金貨三枚なんてもんじゃない……白金貨級の代物だ……そ、そんなお釣りは持ってないんだ……」
「別にいらねえって。この子さえ買えるならそれでいいよ。あ、じゃあここの奴隷の子たち全員開放して、お金と服買ってあげてよ。お釣りは全部あんたのものってことで。いいだろそれで」
「お客さん……! ありがとうございます、ありがとうございます! 一生このご恩は忘れやしません!」
「おう! で、契約魔法とかないの? こう、一度結んだら魂までガッチリと拘束されて、契約破ったら死ぬみたいなやつ」
「え、なにそれコワ……」
「ないかぁ〜。ま、いいや。じゃあよろしくな。名前、なんていうんだ?」
俺は手錠が解錠され、驚きで目をパチクリとさせているアルケル人の子を見た。自由になった手を見つめ、先程までのやり取りを思い返しているのだろう。
よしよし、俺は今すごいポイントを稼げたのではないだろうか。なんだか力が漲っている気もする。能力の発動条件を満たせた、ということでいいのだろう。
俺はアルクを見て、頷いた。
「よし、初めまして。俺はススムで、こいつはアルク。お前の名前を教えてくれ」
俺は手を差し出した。異種族交流とは、まず握手から始めるものだ。俺はジェントルマンな笑みを向けた。
「よっしゃ自由にゃ! 触るにゃー!!」
バリィッ! と俺は顔面を引っ掛かれた。
あれ〜?
そのまま勢いで倒れる俺。
「ススムさん!? 大丈夫ですか!?」
「パーフェクトコミュニケーションだ……」
「いやどこが!?」
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