死に装束と鎧武者
さらに拳をふりあげる。将軍だろうが帝だろうが関係ねぇ。
おれの仲間の生きざまを、死にざまを足蹴にするようなやつは、叩きのめしてやる。
「副長っ、落ち着いてください。上様には上様のおかんがえあっての行動でしょう。いまは、みなが無事にここより逃れることに専念ください」
振り上げたおれの拳をおおきな掌でつつみ、おれの耳朶に囁いてくる。
おれの精神面での片腕たる、島田だ。
島田は、ごつい体躯のわりにはなんにたいしてもこまやかで、よく気のつく漢だ。
もともとは新八の剣術仲間の一人で、新八の誘いで入隊してきた。
新八のやつにはいったこたぁねぇが、よくぞ島田を誘ってくれたもんだ。そして、よくぞ島田も、新八の誘いにのってくれたもんだ。
おれが暴走しそうになったり、迷ったりくさっていたりすると、さりげなく支えてくれる。
それが、どんだけありがたいか・・・。
「ちっ」
大仰に舌打ちする。
それから、豚一の胸元を乱暴におす。
豚一は、いとも簡単にうしろへ吹っ飛び尻もちつきやがる。
それでもまだ、おれを睨んでやがる。
「副長、奥からだれかやってくるぞ?うーん、煙でよくみえぬが、複数いるようだ」
壁際で片膝ついてる勘吾のしらせに、豚一はやっとおれから視線をはずし、その方向へと向ける。
おれも、それを追う。
黒煙のむこうに、たしかに人影がみえ隠れしている。
「斎藤、大石」
「承知」
その人影を指さすと、斎藤はすぐに意を察し、右腰にある「鬼神丸」の鯉口をきりながら配置につく。
が、大石の馬鹿野郎は、きこえねぇふりをしてやがるのか、わかってねぇのか、あらぬ方向へ視線を向けてやがる。
大石は、江戸での二度目の隊士徴募の際に志願してきやがった陰険な野郎だ。
正直、たいした腕じゃねぇ。
が、他人を斬ったり傷つけたりすることを、平気でやってのける。
内外の暗殺をさせる為だけに、入隊させた。
みるからに陰険で、じっさい鬱陶しい。
おれも、なにかを命じるときにしか口をきかねぇ。
「大石っ・・・」
「副長、わたしが」
登がおれの肩をたたき、身を低くしながら移動する。
中島登は、同郷同門だ。理心流をつかわせりゃ抜群にうまい。
八王子千人同心だったが、なにかの諍いで仲間を斬っちまいやがった。いまだに、その理由はいいたがらねぇが。
まぁ、いられなくなって入隊したんだろうが、そこそこ腕は立つし、機転もきく。なにより、同郷だ。
それにかぎる。
それにしても、大石の野郎・・・。
おれたちが入ってきた方角から突風が吹きこんできた。わずかに視界がひらける。
「なんだありゃ?」
勘吾のつぶやき。
たしかに、ありゃなんだ?といいたくなっちまう。
「おまちくだされっ!この期におよび、往生際がわるいですぞ」
「そちらが腹を斬れっ!余はしらぬ」
どたどたと駆けてくる集団。
その先頭は、いまから切腹をしようってのか?白の着物に、袴姿の太っちょ。
そのすぐうしろは、これも白い着物姿の女子、否、よくみりゃかなりの年増じゃねぇか。兎に角、その連中がこっちへ向かってくる。
その二人を、鎧武者の集団が追っかけてやがる。
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