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邪神ちゃんと極大魔法詠唱者  作者: 不屈乃ニラ
第一章:神童と呼ばれた姉妹
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冒険に出かけよう 1

 クロードとリィナがアステライト子爵に陞爵されてから、一年弱の歳月が流れていた。


 アステライト子爵領は、少しだけ大きくなった。とはいえ、開拓村がいくつか増えただけだが。

 クロードは変わらずに忙しそうに働いている。




「――――おいおい、噓だろぉぉお!!」


 そろそろ春を迎えるクリシェの街の外れの森、生い茂る木々の隙間を縫うようにラルゴ・ヤンバルディはひた走る。その後ろを大量のホブゴブリンが追っていた。


 息を切らしながら走る彼の前に、憎らしい少年の姿が目に入った。振り向いた少年は目を見開き叫ぶ。


「おい、ラルゴ! 何をそんなに引き連れて来てるんだ!」


 そこにいたのはミハイルであった。慌ててラルゴと並走を始めるミハイル。


「うっせ! ミハイル、お前どうにかしてくれ!」


「こんな時だけ頼るとは……相変わらずいい性格してるな、君は!」


 そう言いながらミハイルは振り返る。ホブゴブリン達の数はざっと見て五十くらい。後ろにいる身体が大きいのはキングか、ジェネラルか。思わずため息をついて、首を横に振る。


「というか、リタとエリスは何処行ったんだよ!?」


「さぁ?」


「相変わらず自由だな、あいつら……」


 思わず遠い目をしてしまうラルゴ。


「で、どうするんだ? このまま街まで引き連れて帰るつもりか?」


「そんなことしたら、師匠(クロードさん)に殺されちまうのは分かってんだろ!」


「……分かってるさ。――――三つ数えたら反転だ。ひと当てしたら、即離脱。少し数を減らそう」


「お前が仕切るなよ――」


 そんなラルゴの声など意に介さず、ミハイルは続ける。


「一、二、三ッ!」


 少年たちは反転する。即座に抜剣し、ホブゴブリンの群れに向かっていく。ミハイルは身体強化の魔術を行使すると、一気に加速し、群れのど真ん中を走り抜けながら黒い肌のゴブリン達を切り裂いていく。

 その討ち漏らしを片付けながら、ラルゴもまた次々に屠っていく。


「ラルゴ、右!」


「分かってるっつーの!」


 ラルゴは右側から飛来するホブゴブリンアーチャーの矢を右手で掴み取ると、前から斬りかかろうとしていた斧を持ったホブゴブリンの眼球に突き刺す。黒い血しぶきが顔にかかり、思わず顔を顰める。だが、余計なことに気を取られていれば死ぬ。苦悶の声を上げようとする目の前のホブゴブリンの首を、ラルゴは瞬時に斬り落とした。


 木々が生い茂る場所では思い切り剣を振るえない。ラルゴは成長に伴い少し大きめの長剣を使うようになっていた。技術ではミハイルには及ばなかったが、力は彼よりも強かったからだ。やはり、自分の長所を主張したくなるのは、彼らの年代を考えれば自然なことなのかもしれない。


 木々の陰から陰湿に遠距離攻撃を放ってくる奴らの相手は、正直勘弁願いたいとラルゴは思う。もっと取り回しの効く武器を持って来てればよかったと思っても後の祭りだ。それでも十数体は数を減らせただろうか。若干群れの中に混乱が見える。


「ミハイル、一旦退くぞ」


「ああ」


 二人は即座に走り始める。後ろからは多数の足音と、時折飛来する矢や魔法。


「クソ、やっぱりまだ追って来てんな!」


「それは分かってる! この先に開けた場所があっただろう? そこで迎え撃つぞ」


「だから、お前が仕切るなっての!」


 そう騒ぎながら走る二人の少年と、聞くに堪えない声を口々に上げながら追いかけるホブゴブリンたちの群れ。



 そもそも、なぜ彼らがこのような事態に陥っているかと言えば、一人の少女の何気ない一言が発端であった。



 ――――遡ること数時間前。


 アステライト邸の庭で、二人の少女と二人の少年はいつものように集まっていた。


 少年たちは相変わらず競うように剣を振っている。

 姉妹の方はと言えば、木陰に座り込んで頬杖をついていた。


「暇……。エリス、何か面白いことない?」


「――そういえば、最近森でゴブリンが大量発生して困ってるってパパが言ってたよ。冒険者たちが、西の洞窟に住み着いたオークの群れにかかりきりで、数が減らせてないんだって。だから適当に間引いてきたらお小遣いくれるって」


 クロードは既に姉妹に街の外に出る許可を与えていた。クリシェ周辺にはそこまで強大な魔物は生息していなかったのもあるし、そもそも魔人を屠ることの出来る少女たちにとっては多少の大型魔獣であっても敵では無いのは明白だ。それに、いざとなればリタの魔法で瞬時に離脱できる。


 彼自身、冒険者登録を行ったのは十二歳であったことから、もう大丈夫だろうと許可を与えたのだ。珍しく文句を言わない母に疑問を覚えた姉妹であったが、彼女は十歳くらいの時から兄に付いて行っては冒険者の真似事をしていたのだという。


「よし、今日は稽古はやめて、冒険だ!」


「どうせ雑魚しかいないよ?」


「いいの! 家で剣振ってるよりはマシ」


「はいはい……絶対すぐに飽きるくせに」


 姉妹は立ち上がると、少年たちの方に歩く。


「ちょっと、東の森に行ってくるね」


 唐突にそう告げたリタに少年二人は首を傾げる。


「ミハ兄とラル君は帰ってもいいよ? ちょっとゴブリン狩りしてくるだけだから」


 エリスの言葉に目を見合わせて頷く少年たち。


「俺も行く」


「僕もだ」


(ま、そう言うと思ってたんだけどね)


 エリスは溜息をつく。きっとまた何かトラブルが起きるに決まっている。

 そうして四人はそれぞれに実戦用の武器を手に取ると街の外へ向けて歩き出した。



 春の訪れを待ちわびるように、森は賑やかだった。鳥や小動物の気配に、木々や植物の力強さが彩り、新鮮な空気にリタも上機嫌だ。


 そう、最初は良かった。リタは楽しそうに木々を蹴って宙を走り、どれだけアクロバティックにゴブリンを殺せるかという、可愛さの欠片もない遊びに興じていたし、初めての魔物相手の実戦に緊張していたミハイルとラルゴも数体屠ったところで多少は慣れてきていた。

 エリスは、彼らが必死に姉にいいところを見せようと吐き気を抑え込みながら、涙目で剣を振るっていることに気付いていたが。


 そんな中、ゴブリンに勝てることに調子をよくしたラルゴが「向こうが怪しいから俺が見てくる」と、勝手に走って行ってしまった。


 仕方がない、後を追うかと目を見合わせる三人。


 だが、リタの頭頂部にいきなり一束のアホ毛が立ち上がったかと思えば、彼女はラルゴとは違う方向に突然走り出す。ポカンとした顔でそれを見るミハイルと、苦笑いのエリス。

 エリスは知っていた。あの毛束はアンテナだと姉が言っていた。アンテナというものはよく分からないが、キリカからの通話を受信するとああなるらしい……。一応人前で話さないだけの分別はあるのだ。声に出さなくても話せるようだが、周囲から見れば、いきなり笑いだしたりする光景はあまりにも不気味なので助かる。


(はぁ、またキリカちゃんからの通話が来たんだね……今日三回目……)


 エリスはリタを一人にしておく気は無かった。リタとキリカが二人だけで話しているのを見るともやもやするのだ。ミハイルもラルゴも多少は戦える。そこらのゴブリン相手にまさか苦戦することもあるまい、と姉を追いかけて走っていく。



「えぇ……」


 取り残されるミハイル。

 結果として彼はこの場を動くことが出来なくなった。


 まさかラルゴが、この後大量のゴブリン、それも上位種のホブゴブリンに追われて戻って来るなど、この時の彼は微塵も予想していなかった。

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