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邪神ちゃんと極大魔法詠唱者  作者: 不屈乃ニラ
第三章:観測者の意志と聖女の思惑
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閑話:ラルゴのデート大作戦

 王立メルカヴァル魔導戦術学院、男子寮。ミハイル・フェルトシアの部屋にて、部屋の主ではない大柄な少年が唸っていた。


「なぁ、ミハイル……。これ、ギリギリ入ってるよな?」


 いつか着る日も来るだろうと思い、大枚をはたいて購入した一張羅を纏ったラルゴ・ヤンバルディは、地味な服装で武装を点検しているミハイルに声を掛けた。勿論、ユミアという名の後輩とのデートの準備である。


 日ごろから鍛えていることもある。思いのほか、上着がきつくなっている。今度、調整してもらわないとな、とラルゴは思っていた。


「君も、そんな服を持ってたんだな? ラルゴにしては、悪くないセンスじゃないか」


 ミハイルの上から目線の言葉に、何か言い返してやりたいところではあったが、そうもいかなかった。これも作戦とはいえ、後輩の女の子の前で恥をかきたくない。ミハイルであろうと、頼れる奴には頼りたいのだ。


「つーかさ、今更緊張してきたんだが? あのユミアって子、結構可愛いしさ、庇護欲をそそるっつーか。しかも、リタ達より高いとはいえ、あの身長であのスタイルだろ?」


「最低だな……、ラルゴ。リタちゃんに伝えとくよ」


 ミハイルは、蔑んだ目でこちらを見ている。ラルゴは慌てて続けた。


「ち、ちげーからな!? じょ、冗談だって! まともで大人しい女の子なんて、学院に殆ど居ないから、接し方が分かんねーんだよ! 俺たちの幼馴染なんて、あの調子だしな。分かるだろ?」


 そう言って、ラルゴは苦笑いを漏らす。ミハイルは見た目は間違いなく優男だ。悔しいが、ラルゴの学年の女子たちからも人気が高い。どうせ、週末はデート三昧に決まっている。何か助言でも欲しいところだが……。ラルゴはそんな思いでミハイルを見る。


 だが、ミハイルは鼻で笑って肩をすくめただけであった。


「おいおい、優男! アドバイスのひとつくらいねーのかよ!?」


 たまらずそう声を発したラルゴの視線に、ミハイルは目を逸らして口を開いた。


「……すまない、ラルゴ。実は僕もデートとかしたこと無いんだ」


「はぁ!? お前、いっつもステインレーブルのやつ連れ歩いてんじゃねーか!」


 ミハイルに纏わりつくように、いつも一緒にいるマグノリアはある意味有名人だ。ミハイルに近づこうとする女子たちを片っ端から威嚇している。尚、ラルゴは彼女が苦手だった。


(なーにが、粗野な人間がミハイル様と幼馴染だなんてもっての外ですわ、だよ。俺だって好きでそう生まれた訳じゃねえっつうの。思い出したら腹立ってきたな)


「そういえば、同じクラスだったな君たち……。いや、彼女とは全くもってそんな関係じゃないんだよ。――――というか、知ってて言ってるだろ?」


「はぁ……、ステインレーブルが聞いたら泣くから、本人の前でそれ言うなよ? つかお前も、アイツの気持ちには気付いてんだろ?」


 苦手とはいえ、あそこまでミハイルに惚れてますオーラを普段から全開にしているのだ。多少の憐憫の情は湧いてくる。ラルゴは、モテ男に対する憎しみも込めて、蔑みの視線を投げかけた。


「あれで気付かない訳が無いだろう!? 気付いてるさ……。理由だって知ってるけど、その、あれだ。ラルゴ、お前なら分かるだろ!?」


 ミハイルの真っすぐな視線を受け止めつつ、ラルゴは肩をすくめる。


「ああ、そうだな……。けどな、あんまりハッキリしないのは良くねーと思うけどな」


「耳が痛いな。まぁ、卒業までには、色々と決着をつけるよ」


 ラルゴの言葉に、ミハイルは苦笑いでそう返した。ミハイルは暫く学院に残るとは聞いているが、一応三年生だ。形としては、一旦半年強で卒業となる。


「そうかよ」


「そろそろ時間だな、行くか」


 もうそんな時間か……。ラルゴは、コンパクトな武装を上着の内側に収納する。流石に、デートだというのに大剣を背負っていてはカッコつかないだろう。見た目は小さく、剣の握りだけを切り取ったようにも見える。だが、街中で使うには強烈過ぎる性能であることには違いない。作ってくれた少女の顔を思い浮かべながら、上着の上からそれを撫でる。


「結局アドバイスも無しかよ。仕方ねーな」


 目立たない恰好ながら、同じくコンパクトな武装を腰に差したミハイルにラルゴは嫌味を投げつける。しかし、ミハイルは微笑むと口を開いた。


「ちゃんと、誠実に向き合ってるのが伝わればいいんだよ。上辺を無理に取り繕う必要は無いけど、必死でカッコつけろ。多少失敗したって気にするな。君はそれくらいで丁度いい。――でも、目的は護衛だからな? それは忘れるなよ?」


 ミハイルは、唇の端を吊り上げてそう言った。思いがけないアドバイスに、ラルゴは一瞬呆けつつも、そんな自分が恥ずかしくなって取り繕う。


「……フン! 気には留めておくよ。――――そんじゃ、いっちょやりますかね! 俺たちの後輩を傷つけて、幼馴染を悲しませたクソ共をぶちのめす時間だ」


 ラルゴが突き出した右の拳に、ミハイルが拳をぶつけながら笑う。


「それはラルゴの役目じゃないから、安心しろ」


「チッ! それを言うなよな!」


 肩を叩いて笑い合った二人は、集合場所へ向かって歩き始めた。

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