閑話:黄昏時のアステライト邸
夜の帳が下りる少し前。
琥珀色の瞳をした少女は静かに目を開けた。
少しだけ涼しくなった風が汗ばんだワンピースの隙間を駆け抜けていく。
寄り添って寝ていたせいか、ほてった体にとても気持ちがいい。
隣には、だらしない笑顔で涎を垂らしながら寝ている彼女の姉。
さっきまで寝たふりをしていたようだが、完全に眠ったようだ。
「もう、お姉ちゃんったら……」
エリスの右肩にはリタの涎が染みを作っていた。
エリスはそれでも優しく微笑む。
エリス・アステライトは聡明な女の子だった。
あまりに早熟で聡すぎたと言ってもいいだろう。
彼女は、姉がいつも自分を守ってくれているのを知っていた。
彼女は、姉がいつも自分に合わせて手を抜いているのを知っていた。
だから――
もし、姉が困っていたら私が助けたい。
いつか、姉が本気で私と向き合ってくれたら嬉しい。
「いつもありがとう」
――――ゆさゆさと揺さぶられる感覚がある。
「お姉ちゃん、もう夕方だよ。起きて」
「うーん、エリス……?」
いつの間にか眠っていたようで、周囲は薄暗くなっていた。
「んんー」
リタは思い切り伸びをする。
「お姉ちゃん、涎……」
そう言ってエリスは呆れたような顔でハンカチを差し出す。
そのハンカチで口元を拭いながら、これじゃどっちが姉か分からないなとリタは苦笑いしていた。
「そろそろ、パパ帰ってくるね?」
「うん、お姉ちゃん、おうち入ろ?」
「うん!」
そうして二人は手をつないで玄関を潜る。
特別な姉妹の、どこにでもあるような日常は続いていく。