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12手目. 凶変の魔術師

 「これは魔術師殿」


 城塞都市ファルカシュ陥落から一夜明け、クリスは王国軍の兵士がごった返す旧帝国軍の司令部に足を運んでいた。

 王弟ベルンハルトは集まる部下たちに次々と指示を出しつつも、クリスを見つけて声をかけてくる。


 「殿下、その呼び名は少し・・・」

 「いやいや、見事な策であった。この鉄壁の城塞がこうも容易くな。無血開城と言っても良い」

 「殿下のお陰ですよ。殿下の斥候部隊は満点の動きでした。僕が気付かない訳です」

 「卿のお付きの者たちも素晴らしい働きだったと聞いているが?」


 王弟はそう言って、クリスの後ろに控えるレイフェルス近衛騎士団を見遣る。


 「王弟殿下、僕は戦いたかったよー」

 なんとも無礼な態度で答えるのは、五女の猛将イェッタだ。

 「こら、イェッタ。僕が言えることじゃないが、無礼だ」

 「よい。頼もしいお嬢様だな」


 「そう言えば兄貴、気になってたんだけどさ、火薬で城壁爆破って無理だったのか?ドカーンって」

 「イェッタ様、ここの城壁は分厚い2重壁です。あの状況で何度も同じ場所に大量の火薬を仕掛けられますか?」

 口を挟むのは、北門の陽動の準備で完璧な采配を見せたエルベルトだ。


 「うーん・・・無理なのかな」

 ピンときていないイェッタにクリスは補足する。

 「狙い撃ちの的になるからね。仮に出来たとしても、苦労して作った穴は広くはないだろう?」

 「他にも、夜中にこっそり壁の下を掘って、壁の自重で倒壊させる手も考えたが」

 「エルの言う通り2重だからな。それに倒れた壁の補修だって容易じゃない」


 ふむふむと頷く妹を尻目に、クリスは王弟と「金将」を立てた。

 「今回は殿下のお力添えもあって、囮の篝火も馬も用意できた」

 「エル、良くやった。北門の外に見えたのは立派な大軍だったぞ」

 「はっ」

 「兄貴!僕だって馬でたくさん走ったよ!」


 「うむ。いい配下を持っているな」

 不満そうな小娘をあしらっているレイフェルス家を見て、ベルンハルトは微笑みながら僅かな疑問を問いかけた。


 「レイフェルス卿、今回の作戦は上手く行き過ぎて本質が朧気にしか見えておらぬ」

 「卿にとって、何が一番難しかったのだ?」


 「はい、二つあります」

 「一つ目は敵将がある程度有能であって欲しかったこと。無能でも困りましたし、余りに有能すぎてこの作戦を初見で看破されたら堪りません」

 「うむ」


 「二つ目は、太陽でしょうか」

 「太陽?」

 「それぞれの作戦を実行する時間とでも言いましょうか。敵の視野を操りたかったのです」

 「東門の陽動は、こちらの姿を見せたかった。北門の陽動は、こちらの姿を見せたくなかった」


 「成程。やはり魔術師だな」



 今回のファルカシュ攻略は、王都にも衝撃を以って伝えられた。

 ベルンハルトとクリスの凱旋を待っていたのは、大歓声と大量の花吹雪が乱舞する王都の住民たちの姿であった。


 「王弟殿下、万歳!」「万歳!」

 クリスへの称賛の声は、しばらく後に城塞攻略の詳細が新聞で明かされてから起こることになるのだが。


 謁見の間では、ベルンハルトがクリスを従え、国王に仔細を報告していた。

 「うむ。誠に大儀。よもや一晩であの鉄壁の城塞を落とすとはな」

 「陛下、先程のレイフェルス卿の策があればこそです。卿は帝国の間で『凶変の魔術師』として恐れられ、今後も王国の力となるでしょう」


 王弟からの進言もあって、国王はその場で、フロートの街を含む旧ヴィンケル侯爵領をレイフェルス家に移譲することを宣言。

 要衝ファルカシュの統治はベルンハルトに。

 またベルンハルトとクリスの両名に1等級のブルクハウセン十字勲章が授与された。


 「してベルンハルトよ、本日この後神聖皇国から使者が来ることになっておる。同席せよ」

 「はい、陛下・・・レイフェルス卿も同席させて構わないでしょうか?」

 「む?構わぬが」


 クリスは何やら無関係な面倒事に巻き込まれている気もするのだが、断れる訳もない。

 「喜んでご一緒させていただきます」

 無理に笑顔を作り、相も変わらず無礼に答えるのだった。



 「ブルクハウセン国王陛下に拝顔の栄を賜り誠に・・・」

 白基調の法衣に身を包んだリーフェフット神聖皇国からの使者は恭しく礼を尽くしている。

 王弟ベルンハルトは王の傍に控え、鋭い眼差しで客人の真意を探っている。

 そしてクリスは、表情を変えず興味なさげに使者の話を聞いていた。


 「どう思う?」

 使者が退席すると、国王は難しい顔をする王弟に顔を向け、意見を求めた。


 「このタイミングでの帝国への共同作戦。要衝ファルカシュを落とした我々を利用する腹でしょう」

 「うむ。だがこちらにも実利が無い訳ではない」

 「はっ。しかしあの者は全てを語っておりません。レイフェルス卿は如何見た?」


 王弟は相変わらず興味無さそうなクリスに訊ね、国王も耳を傾ける。


 「怪しいですねえ」

 「ふむ?」

 「神聖皇国にとって、帝国は敵。だが王国の肥大も面白くない」

 「舞台を用意して、王国と帝国を派手にぶつけて眺めるつもりじゃないですかね?」


 「同意見だ」

 頷くベルンハルトにクリスは続けた。

 「僕が神聖皇国の将ならそうします」



 「魔術師が不在の今が好機。目にものを見せてくれる」


 帝国は要衝ファルカシュを失いながらも、憎き魔術師クリスの所在をファルカシュと断定。

 二度に渡り退けられたレイフェルス領へ再侵攻を行い、西からの王国侵略を画策していた。


 その動きを、三女リシェを擁するレイフェルス斥候部隊は看破していた。

 しかし王都にいるクリスの帰還は間に合わない。


 「・・・クリス兄様からお預りしたこの領地。穢すわけには参りません」


 帝国軍の再侵攻を受けて立つは、軍の指揮を任されていた無口な参謀ヘンリエッテだった。


 「・・・私の将棋の神髄、ご覧に入れましょう」

 「・・・戦型は・・・『横歩取り』」

評価とブックマーク、ありがとうございます。執筆のモチベーションあげあげで行きます。

将棋用語って、皆様分かりにくいでしょうか・・・

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