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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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我慢と理性とお勉強と




「いくら待つことに慣れているとはいえ、流石にもう待てそうにない」

「すみません」



 リュシアンはベッドの上で小春に夜の営みについて話していた。だが小春はこの時点ではまだ何の話をされているのか理解していない。彼女は主語を飛ばした会話が苦手なのである。

 リュシアンは小春の事を思って彼女のペースに合わせ生活していたが、鬼人族の国で妻に性癖の歪んだストーカーが現れてしまった事により、今は少しだけ冷静さを失っている。


 彼は片手で自身の美しい顔を覆い、ぽつりと呟く。




「そろそろ限界だ」

「限界?」

「ああ。爆発してしまいそうだ」

「爆発!?」

「邸に帰ったら覚悟しておいて」

「え!?避難訓練ですか!?」

「…はぁ」



 リュシアンは片手で顔を覆い、呆れた顔を露にする。

 そして小春に分からせるため言葉ではなく、あえて彼女の手を取りある場所に触れさせた。



「これで分かった?」

「っ」



 流石にリュシアンが何について話していたのか理解した小春は顔から湯気が出そうなほど赤面し、素直に首をぶんぶんと縦に激しく振る。

 その様子を見て気分を良くしたリュシアンは小春に先に寝ていろと言い、彼女の頭を撫でて部屋の外に出た。




***



 異国に来たからといって小春の勉強時間が無くなる訳ではなく、リュシアンは隙あらば「勉強の時間だよ」と言って手取り足取り教えようとしている。彼は執事に邪魔されずに自分で教えられるのが嬉しくて楽しくてたまらないようだ。延々と喋っている。

 

 リュシアンが休みの今日、二人は城下町に出て工芸品を見ながら鬼人族の国(アマノミカヅキ)を楽しんでいる。ルイーゼッケンドルフは影として付いて来ており、大福と文二は部屋で留守番中だ。

 二人は工芸品を見終わると団子屋を訪れ、今は喧嘩している鬼人族の男達を題材にリュシアンが小春に問題を出している。



「他国でいざこざを起こさないのは当然として、喧嘩を売られてしまった場合はどうすれば良いか分かるか?」

「基本は避ける、ですよね?」

「そうだ。特に相手が貴族の場合は国家間の問題に発展しかねない。だがただ回避すれば良い訳ではない。手は出さずとも相手を言いくるめる方法がある。小春なら何と言って相手を宥める?」

「ん~盛り上がってまいりました?とかどうですか?」

「それは、さらに相手を挑発している事になるから止めておけ」

「分かりました」



 リュシアンが手本となる言葉を伝えようとすると、注文していた団子が二人の元に届いた。小春はいただきますと言ってからそれを頬張り、彼の有難い説明を右から左へと聞き流した。




「今日はあんまり鬼見かけないですね」

「そうだな」

「今頃一所懸命に手縫いしてるんですかね?」

「さぁ、どうだろう」

「リュカさんって、もしかしなくても鬼に興味ないですよね」

「別にそんな事はないよ」

「そうですか?」

「ああ。ただ今は邪魔に思う」

「え?」

「この国に来てから小春は鬼の話ばかりしている」

「そんな事ないですよ」

「いや、そんな事ある。昨夜もブンジやダイフクと鬼の話をしていた」

「あれは桃太郎の話を教えていただけで」

「誰だそいつは。浮気は許さない」

「違います。誓って浮気じゃないです。桃太郎は桃から生まれた男の子が鬼を倒すって話で」

「待て。桃から赤子が産まれるのか?まさか、コハルが居た世界では食物から子が生されるのか!?盲点だった……良いかいコハル、龍族に限らずこちらの世界では女性の腹の中に新たな命が宿る。それに至るまでには」

「え!?こんな所で性教育!?何考えてるんですかリュカさん!破廉恥!変態!」

「前にも言ったが私は変態ではない。それに、これは私達にとって重要な話だ」

「そんなキリッとした顔で言わないでください。あと、たぶん一緒だと思うんで大丈夫です」

「いや、宿に帰って確認しよう」

「嫌です」




 リュシアンは先ほどまで龍族である自分の方が希少な存在のはずなのに、小春が獣人族や鬼人族にばかり興味を抱いている事に嫉妬していた。だが今は違う事で暴走している。

 小春はもちろん龍族が好きだ。彼女が彼に龍族の話を振らないのは、普段からルイーゼッケンドルフやユリウスに話を聞いているからである。


 ユリウスは基本的に何でもその場で小春の質問に答える事ができている。だがルイーゼッケンドルフは言葉をかみ砕いで分かりやすく説明するのが苦手だ。

 理由は暗部時代が長かったためだ。そのおかげで彼女は暗殺術には長けている。しかしコミュニケーション能力や人に物を説明する能力などはかなり低い。

 暗部時代に必要だったものは如何に素早く暗殺(任務)を遂行するかで、それら以外の技術を身に着ける機会も必要もなかった。特にネロ家として生まれて来た彼女は祖父母に厳しく育てられており、機械的な会話のやり取りしかしてこなかった。

 彼女の両親は既に他界している。

 二人は生まれて来た彼女にネロ家とは関係なく自由に女の子らしく過ごして欲しいと思いルイーゼと名付けようとしていた。しかしそれを父方の祖父母が激しく非難し、ゼッケンドルフという男らしい名を付けようとしていた。結果、彼女の名前は龍族の中でも珍しい名前となった。



 ルイーゼッケンドルフはネロ家を離れ、リュシアンに小春の専属メイドを命じられた際、どうやって人とコミュニケーションを取っていけば良いのだろうかと考えていた。小春がルシェールにやって来るまでは侍女頭であるユリアーナが徹底してルイーゼッケンドルフに仕事やメイドとは何たるかを教えている。そのため彼女は他の使用人と会話をする機会がほとんど無かった。

 しかし、現在は小春があれは何?これは何?と聞いてくるため、ルイーゼッケンドルフはそれに答えようと必死に邸内を走り回っている。そのおかげで他の使用人と話す機会も増え、仲も良くなり、今では随分とデルヴァンクール邸に馴染んでいる。


 別に今までの彼女が浮いていたという訳ではないが、小春の素朴な疑問や行動はいつも意図しない所で彼女を救っているという事だ。だからルイーゼッケンドルフは小春の事を盲目なまでに慕っている。



 そんな元暗部の彼女は物影に潜み、鼻血を垂らしながら小春とリュシアンの会話を一語一句聞き漏らさないように聞いていた。

 自国の任務を終えた厄除縁部隊の胡蝶花ナツメフジはたまたまその姿を見てしまい、ルイーゼッケンドルフの横に降り立つ。




「鼻血大丈夫?」

「煩い黙れ。リュシアン様とコハル様の声を遮るな下衆」

「うわー酷い言われよう。そういえばウメユキから聞いたんだけど、小春ちゃんって龍族の愛情表現あんま知らないんだってね」

「それがどうした。貴様には関係ないだろ」

「龍体化した龍族が相手の顔面を舐めまわす愛情表現があるって知ったら驚くと思うよ。僕に締めつけられるのとどっちを嫌がるだろう。ふふっ。あ、でも小春ちゃんになら股で顔を挟まれるのも良いな。興奮しちゃう」

「口を縫い付けられたいのか一反木綿。次にコハル様で想像してみろ、お前の大事なブツを切り刻んでやる」

「おー怖。でも鼻血のせいでその凄みも台無しだよ。早く病院へお行きよ」





めちゃめちゃ更新空いてしましました…。また読んでくださると嬉しいです。

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