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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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初めて見る表情


 

 魔獣を倒し終えた私達はお兄さんの案内の元、城下町に向かって山を下りている。

 


「アンタと一緒にいるその化け猫、初めて見る」

「化け猫じゃなくて世話師猫の文二です」

「せわし、ねこ……あの伝説のか?」

「はい」

「こんな(なり)をしているのか」



 お兄さんは表情も変えず文二に触れようとしたが、文二は触れられる事を嫌がり尻尾で彼の手を払いのけた。




「…肩に乗ってるのはカーバンクルか?」

「はい。カーバンクルの大福です」

「人に懐くんだな。珍しい。そういえば何故アンタは山に居た」




 魔獣が城下町に現れた事で人並みに飲まれ侍女と逸れてしまい、侍女を探そうと山に登った事を説明すると「愚かな」とお兄さんは小さく声を漏らした。

 なぜならこの山は危険区域だからだ。

 私もお兄さんも助かって本当に良かった。




「だがアンタがこの山に入って来なきゃ俺は魔獣に殺されていたかもしれない。礼を言う。俺は温羅一族のヨツバヒメだ」

「私は小春・デルヴァンクールです。私も温羅さんに助けてもらいましたのでお互い様ですね。ありがとうございます」

「一族名だと誰を指しているのか分からんからヨツバヒメと呼べ。それにしてもデルヴァンクールとはあのデルヴァンクールか?お前は龍族には見えないが」

「私は人間です。結婚した相手が龍族の方なんです」

「そうか。よく龍族と結婚したな」

「?」

「アイツらは愛に重い種族だろ。疲れないのか?」

「他種族の人からしたら龍族ってそういう認識なんですか?」

「さぁ。俺はそうってだけだ」




 二人で山を下りていると目の前に知らない男性が姿を現した。

 この人にも角が生えている。角はおでこの真ん中にある。顔は動物のお面で隠れているから分からない。髪色は薄紫だ。





「お前、面は?」

「割れた」

「ふぅん。だからって素顔で出歩くのは良くないね。面倒事になる前にさっさとこの子の首を撥ねておやりよ」

「その必要はない。こいつには効いていない」

「…そう。じゃあ試してみよう」





 そういうとお兄さんはお面を外し、目線が合うよう私の顎をクイっと持ち上げた。

 彼も美しい顔をしている。リュカさんみたいな気品溢れる美しさではなく人を惑わすような妖艶さだ。

 二人を見てみるとウメユキさんが龍族とのハーフだという事がよく分かる。

 だってウメユキさんは二人ほど妖美ではない。艶やかでしなやかな美しさは勿論あるけど、龍族の気品あふれる厳格さがウメユキさんにはある。





「驚いた。この子には本当に俺達の素顔に魅了されないんだね。持って帰って実験でもする?」

「龍族に嫁いでいるから止めた方が良い」

「そう。残念だなー」




 

 実験という不穏な言葉に私は身を固くする。文二も黒猫姿のままだ。

 この山も危険そうだし早く下りたいな。そう思っていると空から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。ルイーゼだ。




「その薄汚い手を放せェえ!!!」




 彼女の荒れた口調は初めて耳にする。しかもドスまで効いている。

 ルイーゼは私の前に着地すると龍体化させた両手を二人に向けた。

 



「コハル様!お待たせして申し訳ございません!彼らは厄除(やくよけ)(えにし)部隊の者達です」

「なんだか有難い名前の部隊名だね」

「ははっ面白いねキミ」

「そんな悠長な事を言ってる場合ではございません!彼らの素顔を見てはなりませんよコハル様」

「ざ~んねん。もう見たよ、その子」

「ッ貴様ぁぁあああああ!!!!!」

「ルイーゼ!?」




 ルイーゼは龍体化させたドラゴンの手を思いっきり自らの太ももに突き刺し、血がブシャーッと噴き出た。今彼女の太ももはドラゴンの鋭利な爪が貫通している。

 私が驚いて固まっている間にルイーゼは太ももから爪を引き抜き、血が滴るその爪でお兄さんを切り裂こうとした。


 正気を取り戻した私はルイーゼに止まってと声を上げる。

 私の声は聞こえているようで、瞳孔が開ききった瞳のまま彼女は私の元へ瞬時に帰って来た。ドラゴンの鱗を頬まで出現させている。

 



「ルイーゼ!血がっ!!」

「わたくしの事などどうでも良いのです!コハル様の魅了を解かねば!」

「私は何もされてないよっだからいつものルイーゼに戻って!」

「安心しろ龍族の者。コイツに俺達の魅了は効かない」

「……確かに…いつものコハル様ですね。コハル様は彼らの顔を見ても平気なのですか?」

「うん。そうみたい」




 私の様子を確認するとルイーゼは安堵の息を吐く。

 良かった。でもどうして急に怒り出したんだろう。怒るっていうレベル超えてたけど。怖すぎて私が泣きそうだ。

 心臓をバクバクさせているとルイーゼはいつもの顔に戻り、頬を染めながら絶叫した。




「ハァアアアアン!流石リュシアン様が見初められた方です!あぁ~んコハル様ぁぁぁああ!一生付いて行きます!!」

「いやいや今はそんなこと言ってる場合じゃないよ!早く止血しないと!」




 私は急いで古の御業を使おうと胸の前で祈る様に手を組む。しかしルイーゼが真剣な顔つきでそれを止め、鬼人族の二人に向かって面を着けろと冷たい声で言い放った。

 角が一つのお兄さんは外していたお面を着け、腰にぶら下げていたもう一つの動物のお面をヨツバヒメさんに渡し彼も装着する。二人の面が装着されるのを確認するとルイーゼは辺りに生えている木々から少しづつ生命エネルギーを貰い、太ももを完治させた。

 




「自己紹介がまだだったね。僕は胡蝶花(しゃが)一族のナツメフジ。気軽にナっちゃんて呼んでねコハルちゃん」

「なっちゃん?」

「うん。僕たちの顔を見ても魅了されない君に興味が沸いた。というか興味を抱かない方がおかしい。だから宜しくね」

「コハル様に近づくな」





 ナツメフジさんが差し出した手をルイーゼが叩き落とす。

 これも龍族あるあるなのかな。リュカさんも一緒に旅をしていた時にちょくちょくやっていた。

 そういえば世界史の授業で厄除縁部隊の話は一度も聞いたことがない。彼女がここまで警戒色を見せるくらいだから彼らは何か良くない人達…なのかもしれない。

 

 私が考え事をしていると、ナツメフジさんが厄除縁部隊の事を教えてくれた。

 厄除縁部隊は妖の血を色濃く引き、同種族の人をも魅了してしまうほどの顔面の良さを持った部隊だそうだ。男性は女性を、女性は男性を勝手に魅了させてしまうらしい。同性には効かない。

 鬼人族の美しさは魅了魔法とは違うので、自我を保つためには相当な精神力が必要になる。たまたま見てしまった場合はルイーゼみたいに痛みで目を覚ますしかないそうだ。





「それだけだと説明不足だろう。俺達は暗部が国を裏切った時に始末する部隊だ。だが普段は魔獣狩りをしている」

「説明不足とかっていうレベルじゃないですよナツメフジさん」

「ナっちゃんと呼んでおくれ」

「呼んではなりませんよコハル様」





 ルイーゼとナツメフジさんは相容れないのか、ずっと見えない火花がバチバチ飛んでいる。

 ルイーゼが迎えに来てくれた事だし、そろそろ別れようかな。

 そう思い別れを告げるとナツメフジさんが着いて来ようとしてきた。しかもヨツバヒメさんもだ。無言で後ろを歩いている。





「付いて来るな」

「やだ」

「でももうルイーゼと合流できましたし、本当に大丈夫です」

「誇りと信念を持って護衛致しますよ」

「吹けば飛んで行きそうなホコリしか持ってないだろう」

「はははっ大当たり」






 ルイーゼはずっと二人を睨んでる。心なしか文二と大福もだ。それに全然言葉を発しない。

 まぁ文二と大福は他人が居るといつもこうだけど。

 もしかして龍族は身内以外には塩対応なのがデフォルトなのかな。リュカさんも一緒に旅をしていた時よく塩対応モードになっていた気がする。あまりにも無表情でレストランの店員さんに接するもんだから、一度冗談で塩分摂りすぎてるからそんなに塩対応なんですか?と聞いた事がある。勿論その時は頬を思いっきり抓られた。あれは本当に痛かった。




イイネやブクマ、評価ありがとうございます!!!嬉しいですー!!!

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