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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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鬼のパンツは良いパンツ!



 リュカさんを見送った翌日の朝、私はルイーゼ達と共にアマノミカヅキへと出発した。龍車ではなく漆黒龍のノーアに乗って行くのは龍車に繋がれているドラゴンが灼熱の大地の熱さに耐えられない種類のドラゴンだからだ。

 ノーアは最初こそ私を乗せて飛べると喜んでいたが、ユリウスさんから私を乗せる上での注意事項を言われすぎて最終的にいじけてしまった。

 ノーアの気持ちはちょっとだけ分かる。私もバロメッツが育ててくれた野菜を見に行く時に「もっと着込んでください」とか、「外は風が強いので必ずルイーゼの手を放してはなりませんよ」とか耳にタコができそうなくらい聞かされている。だからせっかくのワクワクが半減する。でもユリウスさんの心配も分かっているつもりだからちゃんと言う事は聞いている。

 

 ノーアの頭を撫でていると彼も機嫌を戻し、嬉しそうにひと鳴きした。

 今私とルイーゼが着ている服はいつもの洋服と違い着物で、その上からローブを着ている。ローブには防御魔法と反射魔法を掛けられてある。

 普段の動きやすいワンピースとは違って動きにくいけど、アマノミカヅキで洋服だと浮くので和服を着ている。アマノミカヅキに着いたらローブも外し羽織に着替える予定だ。


 ノーアも私と一緒で鬼人族の国『アマノミカヅキ』へ行くのは初めてだ。だからルイーゼが道のりを案内してくれる。

 飛行中はルイーゼが魔法で守ってくれるとはいえ、かなりの強風だ。だからノーアの背に乗り込む前にリュカさんから貰った大事なピアスは落とさないように外して鞄の中に仕舞った。

 邸の皆に行ってきますと手を振り、ノーアの背に乗り込む。




「ノーア、アマノミカヅキまで宜しくね」

「グォォオオオオオオ!!!」



 翼をバサッと広げ、地面を勢いよく蹴り大空へ羽ばたく。

 大福は私の肩ですぴすぴ寝ており、ルイーゼは私が落ちないよう腰を支えてくれている。文二は鬼の爪を採取できると言って遠足前の子供みたいにテンションが高い。言ってる事が物騒すぎて怖いので爪が欲しい理由は聞かなかった。どうせ碌な事じゃない。



 飛行すること3時間弱。

 ぐつぐつと赤黒いマグマに囲まれた日本風の城壁に囲まれた大きな城が見えてきた。




「コハル様、もうすぐ灼熱の大地です。熱気が凄いのでフードをお被りください」

「分かった。大福と文二もおいで」




 私は二匹をローブの中に入れる。

 かなり高い所を飛んでいるはずなのに熱気が伝わって来る。落ちたら即死だ。

 無事に灼熱の大地を超えるとルイーゼの指示でノーアが“うつけ門”の方に降下を始めた。



 

『う゛っ。お酒くさい。鼻がおかしくなりそう』

「大丈夫?」

『だめ。うぇっ』




 ノーアが鼻を押さえ、苦しそうな声を出す。

 地面に下してもらった後、私達は相談して彼をルシェールに戻す事にした。

 伝言をお願いするとノーアは頷き、勢いよく翼を広げ早々と大空へ飛び立つ。

 相当キツかったのだろう。悪い事をしたな。

 伝言の内容は私達が無事にアマノミカヅキへ着いたと邸の皆に知らせて欲しいというものだ。



 気を取り直してルイーゼの指示のもと“うつけ門”に行くと、大きな鬼が待ち構えていた。

 鬼は昔話に出て来るような大きくて厳つい体をしている。

 彼が酒吞童子かとまじまじ見ていると、利き酒勝負をするかと聞いてきた。

 もちろんする。だがしかし相手はルイーゼだ。彼女はお酒が大好きで、しかも上戸だ。私は全く飲めないし、なんなら吐く。




「コハル様!完勝してきますね!」

「頑張れー!ルイーゼ!」

「にゃ!」

「きゅきゅー!」




 私は文二と大福と一緒に勝負の行方を黙って見守る。

 勝敗は物の数分で片付き、ルイーゼが全ての銘柄を当て余裕綽々といったような笑顔で戻ってきた。

 ハイタッチで喜びを分かち合っていると酒吞童子が門を開け、文二が門に入る前にほろ酔い気分の酒吞童子の爪を早業で採取し「にゃにゃにゃ」と鼻歌を歌う。

 流石欲望に忠実な猫ちゃんだ。ぬかりない。


 門を潜り抜けると森で、城下町に出るまでに2~3分程歩く。

 森を抜けると文二は姿を消し、ルイーゼが今日から一ヶ月間宿泊する大きな旅館へ案内してくれた。

 リュカさんと旅をしていた時のホテルとは外装からして全く違い、高級そうな旅館だ。部屋は洋室と和室と選べて、私達が泊る部屋は洋室だ。これはリュカさんの希望らしい。


 


「ん?リュカさんの希望?」

「はい!夜は若様もこちらにお泊りになられます!」

「リュカさんは仕事でこの国に来てるんじゃなかったっけ?特務部隊の人達と一緒に寝泊まりしなくても良いの?」

「はい、大丈夫ですよ。必ずしも提供された場所に宿泊しなければならないという決まりはございません。ですのでゆっくりと愛を育んでくださいませコハル様!」

 

 


 ルイーゼはにっこりと笑い、自分の部屋は隣だと教えてくれた。

 そして城下町を散策する前に、もう一度ルイーゼからこの国についての説明を受ける。文二も姿を現したのでルイーゼの話を聞くようだ。大福は聞く気がないようでふかふかのベッドの上で跳ねて遊んでいる。


 アマノミカヅキの今の季節は鬼が下着の素材を探しに国中に現れる。

 次の季節は花嫁を探しに暴れ回る。

 下着とはパンツの事だ。そして手縫いだそうだ。

 鬼といっても種類があり、鬼の色によって性格が異なる。パンツを縫う時にもその性格が表れる。


 赤鬼は想像と欲を膨らませ興奮しながら縫う。

 青鬼はなんで俺がこんな事を…とイライラしながら縫う。

 緑鬼は基本やる気が無くいつも眠たそうにだらだら縫う。

 黒鬼は愚痴を言いながらもちゃんとした物を作り、手も口も動かしながら縫う。

 黄鬼は縫わないで他の鬼に甘える。



 ルイーゼから再度教えてもらった事は以上だ。

 鬼の性格とか縫い方とかを教えてくれるのは嬉しいし楽しいけど、出会った時の対処法とかそういうのは良いんだろうか。とりあえず鬼の色と、パンツは自分で縫うんだという事を頭の片隅において私達は城下町へと出かけた。

 そして私はルイーゼお勧めの海苔屋さんに着くまでの道中に、衝撃的な物を目にする。

 

 鬼が普通に生地屋で布を購入している。

 赤鬼だ。身長は2メートル以上もある。デカイ。

 

 赤鬼は腰にトラ模様の布を巻いており、手には花柄の布とペガサス柄の布を持って見比べている。

 どっちを買おうか悩んでいるのかな。私はてっきり奪ったりするものだと思っていた。


 その赤鬼がどちらの布を選ぶのかボォーっと見ていると、遠くから魔獣が出たぞぉおおおおおー!という声が聞こえてきた。私はルイーゼの名を呼ぼうと振り返る。しかし流れて来る人波に押され、はぐれてしまった。


 知らない場所まで流されてしまった私は辺りを見回し、高い所からルイーゼを探そうと山を登る事にした。大福は私の肩に乗っていたので逸れていない。文二もだ。

 姿を現した文二は毛色を黒に変え、いつも肩に背負っている木でできた大きなスプーンを構える。

 

 私は今ルイーゼと連絡を取る手段がない。ピアスも鞄の中だし、そもそも鞄はルイーゼが持ってくれていたからリュカさんとも連絡が取れない。どうしたものか……。


 頭を悩ましながら適当に歩いていると、鬼人族の男の人が倒れていた。

 その人は眼帯をしており、片側にうねったような鋭い灰色の角が生えている。髪は藍色で、側には割れたお面と折れた刀があった。




「眠ってる…のかな」

「んにゃ」




 文二がスプーンで彼の頬を突くと「う゛ぅっ」と呻き声をあげ、目を覚ました。

 私は初めて見るその珍しい眼に、久々に異世界を感じる。だって白目の部分が黒色で、瞳の色が朱色だ。




「大丈夫ですか?」

「俺は…気絶…していたのか……。!?」




 男の人は私を見て一瞬だけ目を大きく見開き、立ち上がって服の汚れを払う。

 例にもれず彼も顔が良い。凄く整っている。やっぱりこの世界にはイケメンと美女しかいないのかもしれない。

 勝手に一人ダメージを受けていると木々が揺れ、唸る声と共に魔獣が姿を現した。

 魔獣は黒い瘴気を纏っており、ウサギのような見た目をしている。でも二足歩行で普通のウサギとは思えないような身長と筋肉がある。両手には何故か入れ歯まで持っている。何故だ。

 




「にゃにゃにゃ!」

『アイツが手に持ってる歯は肉をえぐり取ってくるから気を付けろって!文二が言ってる!』

「ありがとう文二、大福!」




 私は魔獣の事をよく知らない。

 黒い正気を纏った異形で食べる事はできないという事くらいしか知らない。どうやって戦えば良いんだ。

 とりあえず木の実が落ちていたので拾い、いつでも魔法が出せるよう準備する。

 私の今の魔法レベルじゃ致命傷は与えられない。きっとこの魔獣の動きを封じる事しかできない。いや待てよ。そもそもリュカさんが居ない所で勝手に古の御業を使っちゃ駄目なんだった。詰んだ。だって種から蔦をだすには多少なりとも古の御業の力を使う。どうしたら良いんだろう。


 お互いに動かず睨み合ったままでいると、ウサギ型魔獣が手に持っている入れ歯をカチカチと音を鳴らし威嚇し始めた。その姿はまるで初めてシャーペンを持ったご機嫌な子供のようだ。辺りは木々が揺れる音と入れ歯がカチカチとぶつかり合う音だけだ。たまに嚙み合わせが悪いのかガチェィっと変な音も鳴らしている。

 五月蠅い。物凄く五月蠅い。


 私がどう出ようか考えていると隣にいたお兄さんが懐から護符を取り出し、魔獣に向かって素早く飛ばす。



封縛(ふうばく)!」



 護符は魔獣の体に張り付き、バチバチと音を立てて電流を走らせる。

 魔獣は体が痺れて動けないのか奇声を発している。

 これはチャンスだ。

 


「おいでませ!泥田坊!」



 私は唯一出来る土魔法で泥田坊を呼び、魔獣の足元をぬかるみに変えた。踏ん張りの利かなくなった魔獣は地面に倒れ手から入れ歯を落とし、泥の中から出ようと必死にもがいている。落とした入れ歯は文二が回収し、スプーンで魔獣の頭をひと殴りした。

 シンプルにスプーンでしばくもんだから私はちょっとだけ驚いた。そこは魔法攻撃じゃないんだね。

 


 魔獣は弱っているように見えるけど、この先をどうしたら良いのかが分からない。鬼人族の国に出た魔獣だから、もしかしたらこのお兄さんは対処法を知っているかもしれない。

 

 



「あの、すみません。この魔獣の倒し方をご存知ですか?」

「分からん。やけくそだ」

「え!?やけくそ!?」

「ああ」





 本当に皆で一斉にやけくそで魔法や物理攻撃を放つ。

 文二は口から暗黒死炎(デスノワール)を噴き、大福は口から吹雪を噴き、お兄さんは印を結んで口から馬鹿でかい火の玉を噴いた。

 私も口から何か出した方が良いんだろうか。いや、でもそんな魔法は覚えていない。


 最後にお兄さんがヘッドロックをかますと魔獣は跡形も無く消滅し、地面には泥田坊の泥だけが残った。

 ヘッドロックって物理攻撃なのかな。





ブクマやイイネありがとうございます!!!嬉しいです!!!!



おまけ~出発前のウメユキとリュシアン~


「ウメユキ、今回は別に宿泊場所を押さえているから俺の部屋は取らなくて良い」

「コハルはん連れてって一緒に泊る気なん?」

「ああ」

「せやったらウチもそこにと~まろっと♪」

「止めろ。来るな」

「たまたま一緒なってもうたら堪忍なぁ~」

「はぁ…」


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