鬼人族の国へ
ルシェールに野生のドラゴンがいるように、鬼人族の国『アマノミカヅキ』には野生の鬼がいる。
私はリュカさんとは別で『アマノミカヅキ』へ行く事になった。理由は夜会の帰りに龍車内で私が「はいはい」と適当に相槌を打っていたあの会話が原因だ。
アマノミカヅキへは一ヶ月間滞在する。
リュカさんは特務部隊の仕事だが、私は完全プライベートなので観光する気満々だ。任務内容は知らないけど私が付いて行くのは単にリュカさんが寂しがり屋だからだと思う。だってリュカさん達が出発した翌日に私がアマノミカヅキへ向けて発つと知った時、彼は何故一緒に行けないのかと静かに落ち込んでいた。
鬼人族の国『アマノミカヅキ』については既に世界史の授業で習っている。
講師はウメユキさんだったから事細かく教えてもらっている。アマノミカヅキは昔の日本に似ているから今まで訪れた国とは違ってちょっとだけ楽しみだ。
アマノミカヅキは和装が主流で海苔や煎餅といった馴染み深い物があり、お城も西洋風ではなく日本風で町は城下町と呼ぶ。予習はバッチリだ。
今リュカさんは鬼人族の国『アマノミカヅキ』へ行く為、和服に着替えている。
彼は今夜発つ。私は明日の朝だ。
私と一緒に発つメンバーは侍女のルイーゼ、世話師猫の文二、カーバンクルの大福、漆黒龍のノーアだ。執事頭のユリウスさんと侍女頭のユリアーナは邸の管理があるので残る。
ルイーゼが付いて来るのは私付きの侍女であるという理由以外にも、ボーディーガードという役割があるからだ。他にも元暗部時代に鬼人族の国に潜入していたため詳しい情報を持っているというのもある。お土産屋さんだったり、美味しい御飯屋さんだったり、踏み入れてはならない土地だったりと、彼女は沢山の情報を持っている。
例えば鬼人族の国に入る為には灼熱の大地を超えたあとに“うつけ門”と“たわけ門”があり、どちからの門の試練を乗り越えなければ入れない。そして門によって試練の内容は異なる。
“うつけ門”は酒吞童子と利き酒勝負で、酒吞童子が出すお酒の銘柄を当てる事が出来れば門を開けてもらえる。
“たわけ門”は鬼一口と恋話で、彼は年中失恋している鬼なので突破が難しいけど有益なアドバイスをするなど説得できれば門を開けてもらえる。
彼らは国と契約している鬼なので野生の鬼ではない。
以前リュカさんが『アマノミカヅキ』に訪れた時は酒吞童子と勝負し、“うつけ門”から入ったそうだ。
「今の時期は鬼が地獄嶽山から下りて来るけど、油断は禁物だからね」
「何をしに下りて来るんですか?」
「ウメユキから教わっていないのか?」
「はい。実際に会ってみてからのお楽しみやでと言われました。でも鬼の色については教わりましたよ。あとうつけ門の鬼とたわけ門の鬼もです」
「ウメユキめ…」
「鬼は危ない事をしに山から下りてくるんですか?」
「いや、この時期の鬼はそこまで凶暴性はない。地獄嶽山から下りて来る理由は下着の素材を求めてだ」
「下着の素材?ですか?」
「ああ。花嫁を攫う前に身なりを整える為に必要だからだ」
「へぇ…鬼も婚活っぽい事するんですね。そういえばリュカさんは鬼に会った事がありますか?」
「まだないよ。前に訪れた時は百鬼夜行の時期だったからね。野生の鬼には会わなかった」
「そんな物騒な時期があるんですね」
「彼ら妖の中には魔法も物理攻撃も効かない者も居るから良い腕試しになったよ」
「お、恐ろしい感覚をお持ちですね」
百鬼夜行中は出会った妖が勝負を仕掛けてきたら受けて立たなければならないらしい。
リュカさんは化け狸に出会い勝負を仕掛けられたので、化かし合いで決着を着けたそうだ。
勝者は勿論リュカさんである。
「どうやって勝ったんですか?」
「化け狸の妖力切れだ。楽しい化かし合いだったよ」
「面白そうですね。見てみたかったです」
「ふふっ。でも全ての妖が化かし合いで勝負を挑んでくる訳ではないよ。私にも妖術が使えたらもっと楽しめたのかもしれない」
「妖術?」
「私達龍族が特有の力を使えるように、鬼人族には妖術というものがある」
「そうなんですね。サンタ猿も妖ですか?」
「アレは動物だ」
「会ってみたいです」
「私は絶対に会いたくない。それに今の時期にはいないよ。居たらそもそもこの任務を引き受けていない」
「そんなに嫌がるほどサンタ猿が苦手なんですね。昔何が起きたのか気になります」
「絶対言わない」
帯を締め終えたリュカさんは何処をどう見ても縁日を楽しむ外国の人にしか見えない。
何でも似合うなと見とれていたら、何を勘違いしたのか彼は出発時間ギリギリまで何度も深く口付けをしてきた。
うぅッ心臓が爆発しそうだ。
早くこういう事にも慣れないといけないって分かってるけど、無理!
リュカさんが美しすぎる!
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
おまけ①~世界史の授業~
「ウメユキさん質問良いですか?」
「ええよ」
「鬼人族の国にもへんてこな料理ってありますか?」
「ん~ぎょうさんあるけど一番はサンタ猿のすね毛炒めやろうなぁ」
「美味しいですか?」
「…」
「美味しくないんですね」
「せっかくやから食うておいで」
「遠慮しておきます」
おまけ②~リュシアンおすすめの料理~
「アマノミカヅキでは迂闊ダヌキの丸焼きがお勧めだ」
「うかつだぬき?」
「常にぼんやり、ぼーっと空を見上げている狸だ。不用心なのか命知らずなのか、ストレスや悩み事が少ないおかげで肉質も良く臭みも無く食べやすい」
「ほぉ~。食べるよりも出会ってみたいです」




