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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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龍族や勢力事情について



 リュカさんに謝り倒し、彼の気が納まる頃には寝る時間になっていた。

 火の番についてリュカさんと話していると、カーバンクルが私の肩から降りて、ずっと焚火の周りをくるくる回り、何かを主張してくる。もしかして火の番をしてくれるのかな。

 

 とりあえず何を言いたいのか分からないので、初日の今日は野営慣れしているリュカさんが火の番をしてくれる事になった。

 大木の下に寝袋を敷き、リュカさんがその上に座り上半身を木に預け、寄りかかる。



「おいで、コハル」



 私に何か用事でもあるのか、リュカさんに呼ばれたので、毛布を持って彼の隣に駆け寄り片膝を地面につける。



「隣じゃなくて普通は私の足の間に座るだろう」

「どんな普通ですか、座りませんよ」

「良いから、こちらに来なさい」



 ぐいっと引っ張られて、リュカさんが胡座をかいている足の上に座らされた。そして彼は何食わぬ顔で私のお腹の前で手を組み、毛布を私の首元まで引き上げてきた。ん?んん?これはいったいどういう状況なんですか?

 


「龍族は寒さに弱いんだ。それにこれだとコハルを守るのに楽だ」

「私が湯たんぽ」

「ゆたんぽ?」

「寒い時期にベッドやお布団の中に入れて、暖を取る道具です」

「魔法がない世界は大変だな」

「じゃあ魔法で暖を取ってくださいよ」

「省エネを心掛けている」

「急にエコ」




 私がリュカさんに寄りかからず、絶妙な体制をキープしようと腹筋さんに頑張ってもらっていると、全てを察した彼が私のわき腹を突いて来た。紳士どこ行ったんですか!?頭上で「ふふっ」と楽しそうに笑っている声が聞こえるので、からかっているのが分かる。

 色々諦めた私は、それでも若干の遠慮をしつつリュカさんの胸板に背を凭れた。


 中々寝付かない私を気遣ってか、リュカさんが色んな話をしてくれる。話の内容は大変興味深いものなのに、如何せん距離が近すぎて意識が違う方に向いてしまう。あと、耳元で喋るのは止めて欲しいです。

 リュカさんのサラサラな御髪が当たってくすぐったいのもあるんですが、何か距離が近すぎて破廉恥な気がする。



「龍族について知りたいのだったな」

「そ、そうですね」

「私達の住む国は天空にある。気候は年中暖かくて住み良い場所だ」

「どうやって空に行くんですか?」

「龍体になって飛ぶ。それかドラゴンに乗るかだな」

「龍体?ドラゴン?」

「龍族はヒトの姿もとれるが、ドラゴンにもなれる。ドラゴンはドラゴンのままだ。種類や色も豊富だな」

「不思議ですね、獣人族の方も動物の姿になれるんですか?」

「それは見た事がないな。種族の特徴によって足が早かったり夜目が利く程度だと思う」

「次の村で龍族の方に会えますかね」

「それは無理だろう。龍族は基本、他国や他領には住みつかない。これはエルフやドワーフもだな」

「何故ですか?」

「性格が合わないという事もあるが、生きる年数が違うと住みにくい」

「そうなんですね」

「それに私達龍族は寒がりだからな。自国の気候が一番合っている。他に聞きたいことはあるか?」




 最後に私が聞いたのはこの世界のおおまかな勢力。力でいえば龍族が圧倒的だが、知力はエルフやドワーフの方が上らしい。でもお互いに争いは好まないので不可侵条約を結んでいる。魔族や龍族、エルフ、ドワーフは長寿が故に子供ができにくい体質らしく、数がそろえばヒト族や獣人族に圧倒される恐れがあるらしい。

 聞けば聞くほどこの世界のヒトは、私がいた世界のヒトよりも逞しい。それにほとんどの国がヒト族と獣人族の国で、魔族や龍族、エルフとドワーフはそれぞれ国が一つしかないらしい。

 


 頭を使って脳を整理していると、自然に眠りについてた。




―――――――――――――――



 朝目を覚ますと、大きな木のスプーンを持ち、こちらを見て二本足で立っている長靴を履いた猫がいた。

 叫ぼうとしたら後ろにいるリュカさんに口を押えられ、「静かにしろ」と耳元で囁かれた。そうだった私はリュカさんに凭れて寝てたんだった。今度は違う意味で悲鳴を上げそうになる自分を必死で抑え、目の前にいる猫に視線を移す。


 カーバンクルは火の番を朝まで務めた事を褒めて欲しいのか、私にすり寄ってくる。


 

「ニャッ!」

「キュッキュー」

「にゃーにゃにゃー」

「キュキュー」



 二匹で会話し始めた不思議な猫とカーバンクル。ちらちらとたまに私を見ながら話を進めている。カーバンクルが私の服の裾を噛み、昨日作った暴れ鳥シチューの元に連れてきた。一生懸命ジェスチャーでそそぐ動きをしながら不思議な猫の方に前足を指す。

 リュカさんにこの猫にあげても良いか聞くと、頷いたので、暴れ鳥シチューを温め直し、昨日洗っておいた木皿に盛り付け、スプーンを添えて渡してみた。

 


「どうぞ」

「にゃん!」



 私の目の前で長靴を履いて二本足で立っている猫ちゃんが、上品にスプーンを使って暴れ鳥シチュー食べている。

 なんてファンタジーな世界なんだ。

 よく見るとこの猫は茶トラで、瞳は沖縄の綺麗な海を連想させる濃いブルーだった。しかも肩から茶色い鞄を斜めにさげている。いつの間にか寝袋と毛布を畳み、ポーチに仕舞ったリュカさんが私の隣に来た。




「長い事生きているが、コハルと一緒だと不思議な出会いが絶えないな」

「この猫ちゃんも珍しい生き物なんですか?」

「ああ、伝説の生き物とされる世話師猫だ」

「せわし、猫?」

「精霊の世話をする猫のことだ。その昔、精霊は私達とは違う神秘の泉という場所に暮らしており、そこでこの猫たちは精霊の身の世話をしていたと聞く。今私達の目の前にいる世話師猫は伝記にすら載っていない貴重な生き物だ」

「じゃあ詳しい生態は不明なんですね」

「私が聞いた話によると、だらしない生き物の世話をする事を好むらしい」

「だらしない…」

「世話師猫というくらいだから世話をするのが好きなんだろう」




 リュカさんの話が終わると同時に世話師猫が「にゃっ!」と言って空になったお皿を見せてきた。もうシチューはないんだよ、と伝えると悲しそうに瞳を潤ませる。悪い事は何もしていないはずなのに、凄く罪悪感を感じてしまうのは何故なんだろう。



 世話師猫は空になったお皿を持ったまま消えてしまい、私達は今日中に村に着けるよう、朝食をパパッと済ませ、歩き始めた。  

 道中にカーバンクルの名前をリュカさんと相談しながら決めようとするが、全然意見が合わない。そもそもリュカさんが提案する名前はどれも、私には発音が難しく、私が提案する名前は品位に掛けるとかダサいとかで聞き入れてもらえない。確かにキューキューなくからキューちゃんは安直だったかもしれないけど、アメリカにある湖のチャーゴガゴグマンチャウガウガゴグチャウバナガンガンガマウ並みに舌を噛みそうになる名前をつけようとするリュカさんは酷いと思う。



「もふ太はどうですか?」

「却下」

「ゴルチョバッチョフ」

「断る」

跳跳丸(ぴゅんぴゅんまる)

「論外だ」

「大福」

「ダイフク?」

「私の住んで居た国ではほどんどの人が好きでしたよ、白くて丸いんです」

「不思議な響きだな、それにしよう」




 色々伏せて説明したことによってカーバンクルの名前は見事【大福】に決まった。本当の事を教えると怒られそうな気がするから黙っておこう。大福と名付けられたカーバンクルはご機嫌なのか、キラキラと光る青柳色の瞳で私を見つめてくる。青柳色とは青みを増した春の柳の葉のような強い黄緑色のことで、本当はこの綺麗な瞳の色から名前をとりたかった。でも私の名付けセンスが悪いのかリュカさんには却下されてしまい、紆余曲折の末、【大福】に落ち着いた。




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