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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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爆速で進んでいく二人の関係



 夜会当日の朝が来た。

 ダンスレッスンはもちろんの事、食事マナーや会話レッスンなど他にも沢山の知識をギリギリまで必死に詰め込んだ。今回夜会が開かれる理由は、今月だけで婚姻を結んだ人達が3組もいるからだ。

 そもそも龍族は長寿種族のため年に1組あれば御の字らしく、一月に3組もあるのは初の事らしい。だから今日の夜会は盛大に執り行われる。国を挙げて祝う事には驚いたけど、新婚さんいらっしゃいみたいなノリなんだろうか。


 今日行われる夜会には貴族だけでなく国民の多くが参加する。なので場所は以前訪れたダンスホールではなく、城にある大きな庭園で行われる。その3組の中には私とリュカさんも含まれており、一般で結婚された方々にも招待状が出されている。この招待状は国王陛下が直々に送った物だ。

 

 




「3組ってそんなに凄い事なんですか?」

「ああ。龍族は婚姻を結ぶ者は少ない」

「何でですか?」

「悠久の時を生きていると考える時間がそれだけ多く取れるからだろうね」





 リュカさんの話を聞いていると少しだけ祖国と同じだなと感じる部分があった。

 ルシェールではまず成人したら一度は一人で国内を旅する。それは番を探す為だったり、力試しだったりと理由は様々。期限の無い旅なので番を信じている者は長い年月を掛けて探すらしいけど、大体が見つけられず旅を終えるらしい。

 そして誰とも婚姻を結ばずに最期を迎える選択肢を取る者や、一人で自由気ままに生きて行くという選択肢を取る者が多いそうだ。婚姻という言葉に敏感なのは血を絶やさぬよう必死になっているお貴族様だけだとも教えてもらった。


 一般の人達が結婚に興味を示さないは、この国が一夫一妻制で不倫に対する罰が重いからで、最近の若い人達は長い年月を一人の相手と生きて行くより、結婚せずに色んな人と付かず離れずの距離で居る方が楽と考えている。それに長寿種族特有の子を成しにくいという性質も相まって、縛られるだけの関係性に魅力を感じないそうだ。





「結局“番”って今もあるんですか?リュカさんは前に無いって言ってましたけど、ユリウスさんから教わった世界史では昔はあったし今も極稀に存在するって言ってましたよ?」

「……無いとも有るとも言い切れないのが現状だ。でも俺は信じていない」

「なるほど。そういえば番って同種族の中に居るんですか?」

「いや、同種族とは限らない」

「え?じゃあもし居たとしても見つけるの大変じゃないですか!?」

「そうだな。だが“番”という御伽噺みたいな存在に憧れて旅に出る者は未だに多いよ」







 他にも最近の龍族が結婚しない理由は衣食住に困っていないからというのもある。

 龍族がお金に困る事は決してない。それは龍体化した時に剝がれ落ちたドラゴンの鱗を下界に降りて売れば良いからだ。傷物でもかなりの大金になる。だからこの国に貧困層というものは存在しない。

 しかも国民はわざわざ下界に降りて換金しに行くという危険を冒さずとも、密猟者から彼らを守るため国が代わりにやってくれる。 

 密猟者の多くはヒト族で、彼らには野生のドラゴンと龍族が龍体化した時の判別はつかない。でも別に密猟者からすればドラゴンの素材が欲しいだけなのでどっちでも良い。だから龍族にとっては質が悪い。

 

 今の様に国で個人の鱗を管理する前は、それぞれ個人で下界に降りてギルドで換金をしていた。だがある日どうしても大金が必要だった一人の男が、剝がれ落ちた古い鱗ではなく傷も無い綺麗な鱗を換金しようと下界に降りてしまった。

 美しいドラゴンの鱗を見たギルド職員はもしや龍族では?と思い、換金してきますねと薄汚い笑みを浮かべ裏に引っ込んだ。そしてギルド長に美しいドラゴンの鱗を見せ『捉えましょう』と進言し、まだかまだかと待っていた龍族の男にギルドに居た冒険者達が一斉に襲い掛かった。

 捉えられた龍族の男は『ドラゴンに変身しろ』と火炙りにされる。しかし火属性の上位にあたる炎属性を得意とするドラゴンだったため、火炙りされても痛くも痒くもなかったそうだ。

 換金される事無くルシェールへと戻って来たその男は国王陛下に以上の事を伝え、今のシステムが出来上がった。管理するといっても強制ではない。銀行の様な運用で、剥がれ落ちた鱗や折れた爪などを騎士隊に預け、それを騎士隊が下界で換金する。そして10%分だけは国が貰う。



 私はほんの雑談のつもりだったが、リュカさんは話しだすと長い。

 だから適当な所で相槌を打って話を終わらせよとしたが、ふとある事が気になり自然と口が開いてしまう。





「あの、婚約って結婚を約束する事ですよね?」

「ああ、そうだよ」

「私達の婚約をユリウスさんが済ませたあと光の速さで婚姻も結ばれたじゃないですか、あれって私の了承がなくても承諾されるもんなんですか?」

「私達の場合は婚姻の儀もしていたからだ。普通は相手の魔力を専用の用紙に流す必要がある」

「そうなんですね。ん?親の合意とかは必要ないんですか?まぁ私の場合は親にOKか聞けないですけど……」

「必要ないよ。コハルが育った世界では親の合意もいるのか?」

「ん~必ずしもではないですけど、大抵の人は親にこの人どう?って聞いて何やかんや合意を貰って結婚という流れが多いです。それに夜会とは違いますけど結婚式を挙げる人も多いですね。神様や参列者の前で愛を誓って夫婦になる儀式です」

「そうか。こちらではそういった儀式はないね。大昔にはあったようだけど、披露目する度に嫉妬に狂った者達が暴れて会場が乱闘騒ぎになり怪我人が続出したらしい。だからそれ以降は廃止されている。祝いの席で血が流れるのは良くないからね」

「確かにそんな血生臭い結婚式は嫌ですね」





 ルシェールでは相手の親に挨拶に行く事自体も稀で、婚姻届けも国が把握したいが為の記録用紙にすぎないのだとか……。

 そして有難い事に初夜は結婚した夜に、という決まりは無い。だから私はリュカさんにまだ手を出されていない。朝晩の長いキスと甘噛みだけだ。ただ本当に長すぎるので、もうちょっとこう、触れるだけのキスにとどめて欲しい。

 というか付き合ってから結婚までのスピードが異常に早すぎて、リュカさんが夫であるという実感が全く沸かない。本当にこんな綺麗な人が私の夫……?え?って感じである。




 私が祖国の結婚について話し終えると、結納の話にリュカさんが食い付き「だからか」と呟く。

 彼の視線の先には文二お手製の畳が置かれてある。これは世話師猫である文二が私の親代わりにと、デルヴァンクール家に結納したものだ。

 でもこれは普通の畳ではない。ドラゴンの髭で編まれている世にも珍しい一品だ。6畳分あるが未だに寝転んだことは無い。それはリュカさんが許してくれないからだ。

 




「いつになったら私はあの畳に寝転べるんですか?」

「いつまでもだ。大体、夫である俺以外の上に寝ようとするな」

「なんかその誤解を招きそうな言い方止めてください。私はただドラゴンの髭ってどんな感触がするのか触ったり寝転んでみたいだけで、やましい気持ちなんて一切ありません」

「はぁ、俺が髭のあるタイプのドラゴンだったらいくらでもタタミとやらを作ってやれたんだが……。コハルは本当に毛が好きだな」

「だから毛じゃなくてモフモフしたものが好きなんです!」

「ドラゴンの髭はもふもふではない。どちらかというとサラサラしている」

「そうなんですか?」

「ああ」

「経験の為にも畳に触ってみて良いですか?」

「駄目だ。もし勝手に触ったら今まで以上に噛むからね」

「それ脅しですよ!良くないです」

「これでも我慢している方だ」

「ええええ!?」

「何故驚く?」

「だ、だって私が眠ってる間に勝手にお尻とか太もも噛んでるじゃないですか!私まだ許してませんからね!」

「それは、まぁ、つい……コハルは唯でさえ柔らかいから気になってしまって」

「謝ってください」

「それはできない」

「?」

「謝ってしまうと次が出来ないだろう?」

「最低な発言ですね。反省してないんですか?」

「起きている間に噛んでも良いのなら、いくらでも頭を下げよう」

「絶っっっ対駄目です!!!!」

「では俺が謝る事など何一つ無いな」

「リュカさんの変態!破廉恥!助兵衛!」

「なっ!?そんな低俗な輩と俺を一緒にするな!大体コハルが魅力的すぎるのが悪い!」

「えええーー!?凄い責任転嫁!」



「いつまで遊んでらっしゃるんですか。お二人とも早く夜会に出る支度を始めてください」




 ユリウスさんの冷めた声で私達のやり取りはお開きとなった。





おまけ

「文二も夜会に来る?」

「コハルの親代わりゆえ出席するが、いつも通り姿は隠して行く」

「分かった。大福はどうする?」

『僕は文二みたいに姿を消せないから、ルイーゼ達と一緒に居るよ』

「了解!」



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