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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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筋肉痛が気になる龍と叱る執事




 最近の文二はよく私の前に来て前足を伸ばし、バンザイポーズをする。

 このポーズは抱っこをして欲しい時の合図(サイン)だ。

 重たいので長時間は無理だけど、私も文二の毛をもふれるので別に嫌ではない。

 だけど連日抱っこをすると腕が筋肉痛になるので毎日は勘弁してほしい。

 

 筋肉痛に無縁なリュカさんは私が筋肉痛になる度に、「それはどんな痛みだ?」と聞いて来る。

 初めて聞いてきた時は私の貧弱さを馬鹿にしているのかと思った。


 この世界で初めて筋肉痛になったのは旅を始めてから三日目のことだ。

 最初の村を出たあと、ふくらはぎや太ももが痛くて地面にしゃがみこんでしまった。何も言わずに急にしゃがんでしまった為、リュカさんは龍族(自分)を狙って来た密猟者に私が攻撃されたのかと勘違いし、怒りを露にして戦闘モードに入った。

 そして辺りの草木は枯れ始め、冷気が漂う。






「なっ何か来るんですか!?」

「しっ。静かに。体調はどうだ」

「物凄く足が痛いです」

「毒針か?足を見せろ」

「毒針!?ただの筋肉痛です!」

「は?筋肉つう・・・とは何だ?」

「へ?」





 

 人間は普段使わない筋肉を動かしすぎると熱感や腫れを伴う痛みが症状として出る。そう説明すると彼は驚いて「ニンゲンは一定以上動くと痛みが付与される呪いでも掛かっているのか?」と、真面目な顔をして尋ねてきた。

 そんな訳あるか。

 

 私が旅の道中にローリエ入りの食事をわんさか作っていたのは、この筋肉痛対策の為でもある。

 だけどこの御邸に来てからは厨房になかなか入れないので今は作る機会が少ない。

 だから私が筋肉痛になってしまった時は文二かリュカさんが聖魔法で治してくれている。

 

 聖魔法とは聖属性魔法の略で、五大元素魔法と違い人体に悪影響のある魔物を取り払ったり病気やケガを治す魔法の事だ。高難易度の魔法なので使える人は少ない。もちろん私も使えない。でも聖魔法の最も上位に位置する魔法がある。


 

 それが古の御業だ。


 

 これを使えばリュカさんと文二に頼らずとも筋肉痛を自分で治せる。聖魔法はあくまで治療魔法であって、古の御業みたいに命を吹き込む事は出来ない。そうルシェールの祖である初代国王様が教えてくれた。

 でも私が筋肉痛を治すために古の御業を使わないのは、単純にリュカさんと文二の対応が早いからだ。

 特に文二はすぐに治癒魔法や回復魔法を掛けて来る。それは勉強中やダンスのレッスン中など、少しでも私が疲れた顔をすると「にゃっ!」と言って元気100倍にしてくる。最初は素直にありがとうと言っていたけど、文二が私の疲れを即座に吹っ飛ばすせいで小休憩は無くなり、授業がノンストップで行われるので最近はその優しさから逃げまくっている。

 お陰で防御魔法だけ扱いが上手くなった。

 ユリウスさんはその攻防を見る度に「聖魔法をわざわざ跳ね返すのはコハル様くらいでしょうね」と笑っている。そもそも貴方とリュカさんが授業をギチギチに入れなければ私は疲れずに済むのにと言いたい。






 今朝もリュカさんからの破廉恥攻撃を何とか乗り越え、朝食を済ませてから一緒にダンスホールへと向かう。

 理由は来月行われる夜会のためだ。

 以前教えてもらったスローワルツはうろ覚えどころか全く覚えていない。

 一昨日の夜ユリウスさんの前でリュカさんと踊ってみたが、案の定「不合格」を貰ってしまった。だから夜会当日までは勉強よりもダンスに時間が割かれる事になっている。

 しかもこの夜会にはリュカさんのご両親も参加される。

 私はお義父様と一緒に踊る約束をしているので、今回は何が何でもステップを覚えなければならない。これは龍族特有のルールとかではなく、リュカさんが勝手に婚姻届けを出した週に彼のご両親へ挨拶に行った時、お義父様からお願いされたのだ。

 


 今日の練習相手はリュカさんだ。

 彼は昨日まで出張で四日間留守にしていたので、今日から三日間休みで御邸に居る。

 三日間ともリュカさんが相手なので練習にならないかもしれない。

 だって彼は私に甘い。

 


 ダンスホールへ着くと長椅子のソファーに座り、本番同様に踵の高いヒールをルイーゼが手際よく私に履かせる。服装は夜会で着るドレスではないが、似たような長さと重さのドレスを着ている。

 リュカさんは私の準備が終わると片手を差し出し、私を立たせる。そしてダンスホールの中心まで行くとお互いに向き合い、彼の腕に軽く自分の腕を乗せてもう片方の手を彼の掌に乗せた。






「コハル、俯かないで私を真っすぐ見て」

「リュカさん楽しそうですね」

「ああ、楽しいよ。寝る時以外でこんなに近くにコハルを感じられるのはダンスの時しかないからね。それに徐々に色づいていく頬が愛らしくてずっと」

「若様始めますよ」






 延々と喋り続けそうな主をユリウスさんが止める。

 リュカさんは機嫌が良いのか美しく微笑んだあと、私の御でこに触れるだけのキスをして姿勢を正した。

 

 え?今そんな事する必要ありましたか!?

  



 私が色んな意味でドキドキハラハラしていると、文二が肩から下げている鞄からコントラバスを取り出し曲を奏で始める。本番よりかなりゆっくりめで弾いてくれているので、私はユリウスさんが魔法で床に描いてくれたステップを踏みながら踊っていく。

 リュカさんとのダンスはとっても踊りやすい。

 だけど覚えていないステップの時に下を向いて確認しようとすると「見栄えが良くないよ」と言って腰をぐっと引き寄せ、私の姿勢を正してくる。お陰で距離が縮まりダンスに集中できない。あと顔が近すぎやしませんかね。

 ステップを確認できない私は序盤からミスをしまくり、ユリウスさんが止めに入る。だが足を踏みそうになってもステップを間違ってもリュカさんが華麗に交わして踊り続けるので、最終的にユリウスさんがリュカさんを叱って止めに入った。でも超ご機嫌でゴーイングマイウェイなリュカさんはどこ吹く風である。そんなにダンスが好きだったんですね。


 

 そういえば、婚姻の報告をしに彼のご両親に会いに行った時も彼は自由だった。

 お義父様の髪色はリュカさんの毛先と一緒の碧色で、リュカさんがもう少し年をとったらこうなるんだろうなぁというくらい見た目がそっくりで、お義母様はゆるくウェーブのかかった銀髪で、リュカさんがたまに見せる優しく笑った時のお顔や雰囲気がそっくりだった。

 私との出会いや婚姻の儀、龍の刻印など、他にも沢山の事をちょくちょく手紙で両親に伝えていたそうで、お義父様とお義母様は私に会った時全然驚いていなかった。それどころかやっと会えたと凄く歓迎してくれた。

 ユリウスさんの先輩にあたる執事さんに客室へ案内されると、お義父様とお義母様から大量のドレスやお祝いの品を頂き私は戸惑う。だって、私はこの世界で最弱だ。そんな世界一弱い私が強い龍族の、しかもお貴族様なリュカさんの元に嫁いでも良いのかと、今更ではあるが急に心配になってきた。

 だから、その場で聞いてしまった。

 本当はこういうお祝いの席でネガティブな発言はしたくはなかったけど、でも、もしお二人が人間()の事を知らないのならそれは騙している様な気がして嫌だったから。質問した後に不安な気持ちでうつむいていると、何故か隣に座っていたリュカさんが首筋を噛んできた。

 






「なっなななな!?」

「言ったよね。次に己を卑下するような発言があったら噛むからねって」

「でも今はっ」

「場所なんて関係ないよ」

「大有りです!」

「うふふっ。ごめんなさいねコハルさん。リュカは私に似て自分の感情に正直なの」

「苦労を掛けると思うが、愚息を宜しく頼む」






 

 お義母様は美しく微笑み、お義父様が苦笑する。

 そして私が不安に思っていた子供の事についても解消してくれた。

 まだリュカさんとキス以上の事はしていないけど、いずれ身ごもった際に生まれて来た赤ちゃんが私のせいで弱かったりしたら迷惑をかけるんじゃないかと心配だった。

 でもそれは杞憂で、龍族はそもそも子孫を残しにくい体質なので生まれくれるだけでお祭り騒ぎになると教えてくれた。それにリュカさんは私と出会う前、ご両親が縁談話をする度に「結婚はしない」と言っていたそうだ。






「そんな息子が貴方と出会い、リュカは変わった。私達はコハルさんに大変感謝している。我々龍族は悠久の時を生きる長寿種族だからね、その永い時を一人で生きていこうとする息子の事が心配だったんだ」

「ええ。本当に感謝しているわ。それに跡取りの事は心配しないで?子は授かりものだし、もし生まれて来た子が弱くても私達が守れば良いわ。種族の事は気にしちゃダメよ?」

「はい、ありがとうございます」

「コハル。帰ろうか」


 




 まだ話したそうにしているお義母様をリュカさんがあの手この手で振り切り、最後に「龍族の愛情表現で困った事があったら是非私に相談してちょうだい!」と、少女漫画の新刊を待つ女の子の様に頬を染め瞳をキラキラさせて言ってきた。

 リュカさんが文二から教わったという『恋愛シミュレーションゲーム』をご両親に話していない事を祈るしかない。


 昔のリュカさんを知らないので私がどう役に立ったのかは分からないけど、本当に歓迎してくれている事や二人が息子の成長を嬉しそうにしているのは十分伝わってきた。

 もし私の両親がリュカさんに会ったら腰を抜かすんだろうな。

   




 脳内で回想していると私の集中力が切れている事に気付いたユリウスさんが、「やっぱり若様相手だと練習になりませんね」と辛辣な言葉をはいてその日の練習は終わった。








イイネやブクマありがとうございます!

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