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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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リュシアンと小春、貴族街へ行く~満喫編~



 貴族街に到着するまでに色んな事があった。

 途中の乗車駅から乗ってきたお客さんがリュカさんをナンパしたり、車内販売のお姉さんが何度も販売に来たりと、二人で会話を楽しむ時間は全然無かった。

 それに後半はリュカさんの顔から笑みが消えてとても怖かった。

 帰りたい。

 今すぐ帰りたい。

 

 リュカさんと知り合ってからイケメンって大変なんだなって知ったけど、それ以上にその隣にいる普通の人が一番大変だという事を知った。だから顔が良い人は外を出歩く時、縁日で売っているようなひょっとこのお面を着けて欲しい。貴族街にそういうの売ってないかな。




 終着駅の貴族街へ着くとリュカさんにエスコートされ、雲の滑り台がある場所まで案内された。

 滑り台はふわふわな雲でできており、三番隊の人達が続々と滑り降りて行く。

 小さい頃に公園で遊んだ滑り台とは違って、ここは落ちると即死だろうなというくらい高さがある。そしてやっぱりというかセーフティーバーは無い。

 流石に一人で滑るには怖かったので、リュカさんにお願いして一緒に滑りませんかと言うと快く承諾してくれた。彼の足の間に座り滑り降りていると、一緒の車両に乗っていた子ども達がリフトに乗ってゆっくりと降りてきているのが見えた。




「え?リフトもあるんですか?」

「そうだよ」

「じゃあリフトが良かったです」

「リフトだと遅い」

「別に速さは求めてません」

「そうか」





 滑り台を降りきると私の乱れた髪をリュカさんが至近距離で整え、何事も無かったかのように私の手を取り歩き出す。

 リュカさんはもっと自分の顔が良いという自覚を持って欲しい。

 急に綺麗な顔がぐいっと近づいて来ると緊張する。おかげで私の心臓が削岩機並みに脈打っている。

 


 

 貴族街はユリウスさんの授業で習った通り道が広く、地面も整えられていて歩きやすい。

 貴族街にある建物の外壁は誰が所有しているのかが分かる様になっており、その家の当主が龍体化した時に剥がれ落ちた鱗を粉上にして塗装剤に混ぜたものが塗られてある。だから外壁が陽に当たると粒子状になったドラゴンの鱗がキラキラと光り輝く。

 どの建物も違った色の輝きを放っており、それが貴族街特有の幻想的な景観を作り出している。


 貴族街にはリュカさんが経営するお店もあり、カラフィーナで採れた花やその花から抽出した成分で作った化粧水、乳液、保湿クリーム等が売られている。

 花を混ぜて作った焼き菓子やプリザードフラワーなんかも売られているので老若男女問わず来客者が多いそうだ。一番の人気商品は化粧品類でブランド化もされているらしい。だけど今回は視察ではないのでお店には寄らない。


 お店の外観だけでも見たかった私はリュカさんに頼み、お店のある場所を教えてもらいその方角に目を向ける。すると遠目から見ても分かるほどに店前にはお客さんがずらりと並んでおり、外壁も陽に照らされて粒子状に砕かれたリュカさんの鱗が白銀色や藍色にキラキラと輝いていた。私はそのあまりの美しさに自然と心の声が漏れる。

 





「綺麗…」

「その鱗を持った本人が隣に居るのだが」

「リュカさんは直接見ると目にダメージを食らいそうなので大丈夫です」





 

 どうやら今のは失言だったらしく、ぐいっと頬を抓られた。

 怒ってる時もニコっとほほ笑むので眼福を通り越して目が潰れてしまいそうだ。

 きっとこれも言ったら怒られるんだろうな。 

 

 

 学習能力のある私はぐっとでかかった言葉を飲み込み、リュカさんの気が済んだ所でミッションであるショッピングを開始した。

 貴族街なので危ない店はないと思うけど、リュカさんに尋ねながら一つ一つお店に入って行く。

 食料品店や本屋さんといった普通のお店もあれば、異世界らしいお店もある。

 特にドラゴンの鱗を使った工芸品や魔法アイテムは見ているだけで心がワクワクしテンションが上がった。でもどれも値が張る物ばかりだ。

 私は一つ一つゆっくり商品を見たいのに、ドラゴン系の商品に関してはリュカさんが片っ端から自分の鱗でも同様品を作れると横で煩い。







「おおー!これ凄いです!妖精の粉をドラゴンの爪に振りかけてあるから装備するだけで魔除けになるって書いてあります!」

「魔除けをせずとも己に降りかかる火の粉は全て薙ぎ払えば良い」

「リュカさんって前世が巨神兵かなんかだったんですか?」

「きょ…?何だそれは」

「何でもないです。まぁ弱い私には必要なので買ってきますね」

「必要ない。コハルの事は私が守る。それに他龍の物は身に着けるな」

「じゃあこのオヤッサンバのお面だけ買ってきますね」

「そんなもの買うな」

「カマシタレダックのお面なら良いですか?」

「良くない」







 結局私が購入したのは邸の皆さんへ日頃の感謝を込めて渡す用の『雲の食べ比べセット』だけで、他は全てリュカさんにキャンセルされた。

 彼は彼で服や装飾品を私にプレゼントしたかったみたいだが、邸にまだ着ていない服が沢山あるので勿体ないですと言うと諦めてくれた。



 昼食はリュカさんのお勧めで、ウメユキさんの妹であるユキウサギさんが経営する『雪見亭』に行く。雪見亭の人気メニューは鬼盛りパフェと鬼の居ぬマニーニで、既に注文は通してあるとリュカさんが言っていた。パフェは想像できるけど、鬼の居ぬマニーニってどんな食べ物なんだろう。

 

 『雪見亭』は一見さんお断りのお店で、貴族街の少し奥まった所にある。

 辺鄙な場所にも関わらず店内はいつもお客さんで賑わっているそうで、予約が取りにくく有名らしい。そんな有名店の中へ入ると不思議な曲が流れており、時間がゆったりと流れているような錯覚に陥った。

 メニューには鬼○○という言葉を使うのに店内には鬼を彷彿させるような物は一つもなく、それどころか可愛らしいウサギの置物が沢山置かれてある。これは単にユキウサギさんの趣味らしい。


 店員さんに案内された席に座ると、先ほどまでの外の景色と違う事に気付いた。

 ルシェールは常春なのに窓の外には見慣れない小動物達が雪合戦をしていたり雪だるまを作っていたり、かまくらの中で一杯引っ掛けたりしている。他の席の窓からは紅葉のような木も見える。

 



「凄いお店ですね」

「気に入ったか?」

「はい」

「そうか、良かった」

「不思議な物がいっぱいでワクワクします」

「雪見亭は地上に降りなくても他国を旅している気分を味わって欲しいという思いを込めて作られたそうだよ。今私達が窓から見ている景色はどれもウメユキの妹、ユキウサギ嬢が幻術で作りだしたものだ」



 


 幻術と聞いて私はなるほど、と腑に落ちる。

 彼女も龍族の血が流れているので小動物と触れ合った事がないはずだ。だからたまに可笑しな小動物が窓に映し出されているのだろう。ユキウサギさんが一生懸命想像して幻術を生み出しているのだと想像したら、微笑ましくなって笑みがこぼれた。





「ユキウサギさんは想像力豊かなんですね。あそこの窓、ヒヨコが四つ足で歩いてます」

「此処に映し出される幻術は彼女が実際に見た動物ばかりだから、その四つ足のヒヨコも実在するよ」

「見間違いじゃなくてですか?」

「それは無いね。彼女は鬼人族の血が流れているから視力が多種族より遥かに良い」

「2.0とかですか?」

「2.0の基準が分からないな。鬼人族の平均視力は3ゴリラゴリラだ」

「え?ごり?全然分かんないです」






 リュカさんが淡々と3ゴリラゴリラの説明をしているが、ゴリラの登場数が多すぎて私の脳内では最早ゴリラという言葉がゲシュタルト崩壊しつつある。

 そして1ミリも理解できずに説明が終わった。今は西ウホウホゴリラと東ウッホッホゴリラの違いについて話してくれている。

 



「リュカさんもうゴリラの話は大丈夫です」

「単位に使われる事が多いから今の内に覚えておいた方が良い」

「そうなんですか?」

「ふふっコハルは何でも鵜呑みにする癖をどうにかしないといけないね」

「もしかして嘘なんですか!?」

「単位の話はね。それに嘘じゃなくて揶揄っただけだ」

「どっちにしろ性格悪いですひゅみまひぇん」






 今の発言、絶対に私は悪くないと思う。思う…けど、後々が面倒なので抓られた瞬間早々に謝っておいた。でも帰ったらユリウスさんに言いつけてやる。





今話もよろしくお願いしますー!

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