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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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龍の尻尾と新発見



 リュカさんは最近私をよく尻尾に乗せてくれる。

 今もまさに大きなベッドの上で彼の尻尾を抱き枕のようにして抱き締め、鱗に頬をつけてどくどくと脈打つリュカさんの鼓動を感じていると、私を振り落とさないように様に尻尾をぶんぶんと左右に振り始めた。

 ちょっとしたアトラクションみたいで楽しい。

 私が笑っていると文二や大福も乗って来て、皆できゃっきゃうふふと遊ぶ。

 




「そんなに楽しいか?」

「はい、楽しいです!リュカさん力持ちですね」

「まぁね。でも私はもっと違う触れ合い方をしたい」

「ゲームですか?」

「そういったものではないよ」





 リュカさんが尻尾を消し、私と二匹は柔らかいベッドの上にぼふんと落ちる。


 リュカさんは旅をしている時とは違い、邸に居る時はナイトウェアを着る事が多い。普通のパジャマを着ているはずなのに美しい彼が着ると、一気に年齢指定が入りそうな色気が漂う。

 この不思議現象に是非とも名前を付けたい。


 そんな大人の色気漂うリュカさんは私の顎を持ち上げ、顔を近づけてきた。

 この後おとずれるであろう行為を察知した私は近くに居た大福を咄嗟に持ち上げ、リュカさんの美しいお顔に押し付ける。

 大福のもふもふ腹を堪能してください。

 




「コハル…」

「今日はもうしましたっ」

「朝しかしていない。夜はまだだ」

「勘弁してください。心臓が持たないです」






 恥ずかしさからか自分の声が震える。

 リュカさんは顔面に押し当てられた大福を肩に乗せ、「これじゃあ愛が伝えられない」と拗ねた様に呟く。

 これ以上ないって程伝わってるので大丈夫ですよと伝えても、納得いかないといった表情で訴えてきた。でも無理強いはしてこない。そういう優しい所が好きだけど、もうちょっとスキンシップを抑えて欲しい。日本の田舎で育って来た私には刺激が強すぎます。

 

 そんな私達を見て文二が声を上げ、大福が復唱する。





「デートにゃ!貴族街デート!」

『でぇとぉ~♪』




 

 夜だというのにこの二匹はテンションが高い。

 ベッドの上を走り周りながらデート♪デート♪と歌っている。

 リュカさんは私の御でこに触れるだけのキスをしてから「それも良いね」と言い、柔らかい笑みで文二の提案に乗った。

 

 そういえば私はルシェールという国をよく知らない。

 以前訪れた時はこのお邸と王宮、そして領地のカラフィーナだけだ。貴族街とはどういう所なんだろう。それにどんなお店や人がいるんだろう。

 

 リュカさんは先に寝ていてと言って部屋を出て行った。

 きっとユリウスさんの所に行くのだろう。

 明日はもしかしたら街へ出かけるのかもしれない。




 翌朝、私は暑苦しさで目を覚ます。

 でも文二や大福が密着しているからという訳ではない。これは湿気だ。

 今はリュカさんに抱きしめられているので外は見えないが、雨が降っているはずだ。このじめじめした暑苦しさには覚えがある。彼が起きたらルシェールにも雨季があるのか聞いてみよう。


 目の前でまだスヤスヤと眠っているリュカさんの髪はゆるふわパーマを当てたみたいにうねっている。

 どんな髪型でも似合うその美貌に嫉妬してしまいそうだ。

 御でこに肉って書いたら怒るんだろうな。

 

 抱きしめられている腕の拘束を緩めてもらおうと声を掛けると、私の鎖骨あたりにぐりぐりと頭を押し付けてきた。湿度が高いせいか彼の髪はいつもよりふわふわしている。そして柔らかい。

 でも前に湿度の高い国へ行った時、リュカさんの髪はゆるふわパーマをあてたような髪ではなかった。一所懸命に整えていた姿も見てないし、ルシェールで振る雨には何か特別な物が含まれているのかもしれない。





「リュカさん、起きてください」 

「ぅ゛んん…」





 ごねる事5分。

 よくやく起きた彼は胸元をはだけさせ、とろけるような笑みで「おはよう」と言って来た。

 私にこの美しさはまだ早いと思う。

 最初のころ目を合わせずに挨拶を返していたら、「そういうのは良くないよ」と優しい言葉とは裏腹に強い力で無理矢理目を合わせる練習をさせられた。

 確かに私も良くないと思うけど、朝からそんな特訓をさせるのもどうかと思う。

 でも文二も大福もリュカさんの味方だった。



 私も朝の挨拶を返し、疑問に思っていた事を尋ねる。





「リュカさんはくせっ毛なんですか?」

「あぁ、そうだよ」

「でも前にパオンパオンを落ち着かせに行ったモンステゴンではそんな髪型じゃなかったですよね」

「あの時は魔法でいつもの状態を維持していた」

「寝てた時もですか?」

「そうだよ」

「何でそんな事してたんですか?」

「惚れた女性を落とす為に身嗜みに気を配るのは当然だろう?」





 恋する乙女みたいだ。

 見た目は超絶美形でたまに破廉恥だけど。

 寝起きでさらっとこんな甘い言葉を言えるリュカさんの頭はどういう思考回路をしているんだろう。

 だんだん恥ずかしくなってきた私は、目を逸らそうと下を向こうとした。しかしリュカさんが両手で私の頬を包み込むようにして触れてきたので、それは叶わなかった。





 

「ふふっ。まぁ今はコハルが私の事を愛してくれていると分かっているから素の状態でいるけどね」

「髪型が変わったくらいで嫌いになったりしません。あと手を放してください。そろそろ限界です」

「うん。でもまだあの時はコハルの気持ちが正確に見えなかったから」

「後半の私の声聞こえてましたか?放してくださいーっ」

「嫌かな」




 

 幸せそうに彼は微笑む。

 朝からこんな美しい人に甘い言葉を貰って平常心でいられるほど私の精神はできていない。

 今にも心臓が口から飛び出そうだ。

 それに動悸が凄い。土管工事で使う削岩機並みに忙しなく脈打っている。


 頬から両手を放してもらおうと彼の手に触れると、中々出てこない私と主人を心配したユリウスさんとルイーゼが部屋をノックしてきた。

 何故か主人であるリュカさんではなく、大福と文二が出てユリウスさんに状況を伝える。

 怪しいジェスチャーが見えたような気がするから後で叱っておこうと思う。



 朝食の支度は既に終わっているそうで、私はルイーゼに連れられて退室する。

 大福はリュカさんに付いて行き、文二は私に付いて来ている。

 

 リュカさんの大きな部屋の中には沢山の部屋があって、寝室、浴室、私室と着替え部屋がある。

 着替え部屋は二つあり、うち一つが私用だ。そしてその隣には化粧室もある。

 高級ホテルも目じゃないくらい広く、調度品も豪華なものばかりだ。

 私はその着替え部屋で一人では着られないようなワンピースをルイーゼに着させてもらい、化粧水や乳液、クリーム、マッサージ、全てを入念に施してもらう。

 マッサージに関しては文二もやってくれている。でも肉球では私の体に化粧水や乳液、クリームを塗れない。だから妖精とは違って人間にできるお世話には限りがある。

 それが嫌なのか文二は嘆き悲しみ始めた。

 




「文二のマッサージ気持ちい良いよ。ありがとう。だから泣かないで」

「ぶみゃっみゃっ」





 文二は世話師猫だけど私の知っている猫とは生態が違い、涙を流しながら泣く。

 それにネギやスパイス、チョコも平気で食べる。苦手な食べ物はテヤンデイレッグだ。

 あれは本当に美味しくなかったので凄く共感できる。

 

 文二が泣き止んだ所でルイーゼに髪を整えてもらい、彼らに癒されながら最後に化粧を施してもらった。

 普段私が使用している化粧品は全てリュカさんの手製品で、私用に作られている。因みに今使用している物は以前使っていた物の改良版らしい。

 凄いなという一言に尽きる。

 いつの間に作っていたのか知りたいし、そんな時間どこにあったんだろう。あと作業風景が気になる。

 いや、気になると言えば金額だ。私の貯蓄で払えるだろうか。

 割引してくれると良いな。





 ・・・此処に居れば居るほど駄目人間になりそう。

 前と違って出ていく事はしないけど、“自分で何かをする”という時間を設けた方が良いかもしれない。



 


 支度を終えた私はルイーゼと文二と食堂に向かい、すれ違う使用人の皆さんと挨拶を交わす。

 リュカさんと大福は既に着席していた。

 私の中で食堂といえば学食とか社食で使う殺風景な部屋に長細い簡易机と椅子というイメージだが、この邸の食堂は違う。テーブルや椅子には美しい細工が施されてあり、座面と背もたれにはふかふかのクッションが入っている。

 部屋の中にはルイーゼ以外にも数名のメイドさんとシェフも居る。皆それぞれに違う役割を担っており、朝食やドリンクを運んでいる。

 そんな豪華な食堂で私は毎日美味しいご飯を頂いている。

 至れり尽くせりすぎて怖い。

 

 料理長が朝食の説明を終えると、私は頂きますをしてからスープを口に運ぶ。

 うん。美味しい。

 海老のポタージュだ。

 目の前に座っているリュカさんは名画みたいに綺麗に食事をしている。

 どこを切り取っても絵になる美しさだ。





「リュカさんゆるふわ整えちゃったんですね」

「ゆるふわ?」

「髪のことです」

「ああ、あれでは外に出られないからね」

「そうなんですね。でもいつもと違う感じがして新鮮でした。それに似合ってましたよ」

「っ…そう。ありがとう」

「あっ照れてる」

「照れてない」

「ユリウスさんシャッターチャンスです」

「バッチリでございます」

「撮るな」




 

 リュカさんが頬を赤らめユリウスさんを注意する。

 しかし彼はどこ吹く風で平然としている。この二人の距離感はまるで兄弟のようだ。

 仕事以外で、だけど。

 

 ユリウスさんに私もその写真が欲しいですと伝えると、貴族社会学で出している宿題を合格できたら差し上げますよと言われてしまった。

 何度も再提出をくらっているので、これはもうユリアーナに頼るしかない。

 目で合図を送ると控えていたユリアーナがこくりと頷く。そしてリュカさんが不満そうな声を漏らした。






「コハルは私を一番に頼らないのか」

「忙しいかなと思いまして」

「どんなに忙しくとも私はコハルを優先する」

「それは駄目だと思います」







 ユリウスさんとユリアーナさんが同時に頷く。

 リュカさんは二人に口で適わないらしく、黙って残りの朝食を食べ始めた。

 私も最後の一口を食べ、ごちそうさまでしたと手を合わせる。


 今日は雨なので外には出られない。

 結構な豪雨だ。

 心なしか地面が揺れているようにも思う。


 せっかくカオカマンガイでお米を買ったので何か作りたい。

 また料理長にお願いしたら厨房を借してくれるだろうか。もし難しいようであれば文二にキッチンを貸してもらおう。

 

 世話師猫用キッチンルームは一昨日出来上がっている。

 文二に連れられて見に行くと煉瓦と輝石で出来た可愛らしいお店風のキッチンだった。文二が試しに作ってくれたムニエルは美味しくて、調理している姿はまるで職業体験型テーマパークで楽しそうに働く子供のようだった。

 もちろんリュカさんも招待されている。ユリウスさんもだ。

  

 因みに最近シャッターを無許可で押しまくってるユリウスさんはアルバム作りが趣味らしい。

 私はてっきり執事としての務めで写真を撮っているのかと思っていた。

 彼の部屋にはリュカさんの幼少期からの写真がアルバムされてあり、その数は一万冊を超えているそうだ。写真の内容は家族写真や執務中などと、リュカさんの私生活から学校生活、仕事中と様々な時を収めているらしい。

 仕事中や学校生活は主にウメユキさんが撮影者で、たまにルクルさんとノエルさんが撮ったやつもあるのだとか…。

 気になるし見てみたい。



イイネやブクマ、評価が増えてました!ありがとうございます!!

今話もよろしくお願いします!

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