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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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ウチの最高の友達

 

 


 ウメユキがこれほどまでにリュシアンの恋路を見守り気にしいるのは、彼が幼少期の頃にまで遡る。


 ウメユキは鬼人族と龍族の親から生まれた混血だ。

 鬼人族は数が少なく、龍族は基本天空に住んでいる為ウメユキのようなハーフが生まれるのは珍しい。

 龍族も鬼人族も美しい容姿をしているが、その美しさは対極にある。龍族は気品に溢れた強く逞しい肉体を持ち、男女関係なく筋肉がつきやすい。そして瞳が宝石のように美しく、ツノは岩のようにゴツゴツとしている。

 一方、鬼人族はツノが陶器のようにツルツルスベスベとしており、容姿は男女ともに魅惑的で妖艶だ。魔族程ではないが彼らも龍族と比べて筋肉がつきにくい体質のため、妖術でパワー不足を補っている。

 しなやかなその肉体美は相手を勝手に誘惑してしまう事が多々あり、彼らもまた他国に住まう事は少ない。

 ただし強者を求めて冒険をしているユメヒバナだけは例外だ。



 ウメユキは鬼人族の国で生まれ育っている。

 しかし両親の都合により妹が生まれてからはルシェールで過ごすようになった。

 彼は子供ながらにして人を惑わすような魅惑的な色気を持っており、同年代よりも大人の女性から声を掛けられる事の方が多く、それが同年代の子達を遠ざける要因になっていた。だが別に爪弾きにされていた訳ではない。同年代の子たちからするとウメユキの纏う雰囲気が魅惑的で近寄りがたかっただけだ。

 また今とは違い、幼少期の頃の彼は含み言葉ではなくドストレートに物事を伝える節があった為、勇気を持って声を掛けに来た恋多き少女たちを無意識に傷つけていた。そのため遠巻きに目の保養として見られる事が多かった。

 大人になったは今はより美しさに磨きがかかり、夜会では男女共に声を掛けられている。

 

 彼が生まれた鬼人族の国では同年代がおらず、ルシェールではよそよそしく接してくる者がほとんどだったため、彼は年の近い者と遊んだことがない。当然友達と呼べる者もいない。

 たまに見かける同年代の子ども達が遊ぶ姿を見て、何故自分には友達がいないのだろうと彼は考え始める。

 まずは種族の見た目の違いに着目し、考察していく。

 自分が同年代よりも年上の女性によく声を掛けられる事に気付いたウメユキは、鬼人族の人を魅了する容姿について本気で悩みはじめた。また、自分は龍族でもなく、鬼人族でもない半端者だとも…。



 この世界で混血は珍しい。

 特にハイエルフは混血に対し差別的な目を持っている。

 理由は不完全な半端者だと思っているからだ。



 それを本で知ったウメユキは徐々に口数が減り、自分は半端者ではないと知識を付けるため貴族街にある国営図書館に行くようになった。そこで自分の悩みを容易く消し去ってくれる人物と出会う。それがリュシアンだ。

 ウメユキは国営図書館でも一人でいる事が多く、基本誰とも話さず閉館時間まで居る。

 そんなある日、ウメユキが『子供でも分かる楽しい毒殺』を読んでいると自分とは違った美しさを持つ少年に声を掛けられた。




「350ページ目の蟲毒、内容間違ってるよね」

「えっ」

「あ、ごめん。僕はリュシアン・ヴァンディファ・デルヴァンクール」

「ウチは忍冬が一族、ウメユキ言います」

「そう、何て呼べば良いかな」

「ウメユキでええで。キミん事は何て呼んだらええかな」

「リュシアンで良い。呼びにくかったらリュカでも良いよ」

「ほんならリュカ君て呼ばさせてもらうわ。もしかしてリュカ君の名前て天空古代語?」

「天空古代語を、知ってるの?」

「ま、まぁ。ちゅうかウチとあんま喋らん方がええで」

「どうして?」

「…半端者の混血、やから」

「混血が半端者?あぁ、あの一方的な思想本を読んだんだね。僕はウメユキと天空古代語について話したいから別にキミがどんな種族であろうと気にしないよ。それにあんな本を国営図書館に置くのもどうかと思っていたんだ。一緒に燃やす?」

「燃やすて…リュカ君、案外過激なんやな」

「冗談だ」

「冗談下手やな自分」







 リュシアンは話を戻し、ウメユキの隣に座る。

 同年代で天空古代語を知っている彼に興味を持ったリュシアンは瞳をキラキラとさせ、他に知っている事は?と問う。そして日が暮れるまで会話を楽しみ、また会おうと言って彼は図書館を出た。

 ウメユキは初めて容姿ではなく、意見交換という会話を楽しむ。自分の考えを主張すると、それについて相手が答える。自分もまた相手の主張に対して意見を述べる。

 こんな楽しい会話は初めてだと気持ちを高揚させ、次にリュシアンと会う日までに沢山の知識をつけようと多くの本を開いた。

 それからというものリュシアンはウメユキを見かける度に話しかけ、彼らは交流を深めていく。

 リュシアンが話しかける事により彼に付きまとっていた双子龍のルクルとノエルもウメユキに話しかけるようになり、彼の周りには次第に人が増えていった。

 いつの間にかウメユキの交友関係は広まり誰も彼を遠巻きに見る者は居なくなっていた。


 ウメユキは環境の変化に驚く。

 容姿でも血でもなく、自分自身に興味を持ってくれた最初の友達。

 彼の子供のころの日記帳にはそう、リュシアンの事が綴られている。




 リュシアンとは天空古代語で“光を与える者”。

 その意味の通り自分に友という光を与えてくれたリュシアンにウメユキは感謝している。

 リュシアン・ヴァンディファ・デルヴァンクールという男は、本人が知らぬ間に名前の意味を実行している事が多い。双子龍もそれを実感している。

 



 ウメユキは今でもリュシアンが幼少期時代の自分に声を掛けてくれた事をつい先日のように覚えている。彼にとってリュシアンと出会うまでの日常は毎日が同じ事の繰り返しで詰まらなく、面白みのないものだった。そんな詰まらない日常を光の照らす方へと導いてくれたリュシアンに彼は心の底から感謝し、また幸せになって欲しいと願っている。だからこそ彼がある女性に惚れて一緒に旅をしていると双子龍から聞いた時、苦手な書類仕事を急いで終わらせて親友の元へと向かった。

 


 そこで出会ったのが小春だ。


 

 ウメユキは心の中で「えろぅ小さいな」と呟き挨拶を交わす。

 そして彼女が親友の事を一切恋愛対象として見ていない事に驚いた。だが何よりも一番驚いたのは親友の変化だ。表情が柔らかく言葉数も増え、ニンゲンという小春に丁寧に料理や国の特徴について話している。

 出会った時から今までずっとリュシアンの近くに居たウメユキは、今自分が見ているリュシアンが本物なのかと目を疑った。


 彼もウメユキ同様、昔から女性に人気でモテる。

 騙されているのでは?と小春を疑ったウメユキは風呂上がりの彼女に触れ、ニンゲンが妖術の類を使えるのかと魔力を流し判断する。すると分かったのは親友が彼女にお手付きをし、しかも何重にも守護魔法を重ね付けしているという事だった。

 ウメユキはこんな平凡そうな少女に何故リュシアンが好意を寄せているのかと困惑する。


 だが真剣に考えれば考えるほど親友は空回りしており、二人のやり取りを見ていると次第に笑いが込み上げてきた。





(せやった。リュカ君惚れられる事はよぅあっても自分から誰かを、しかも女性を好きになるなんて初めてやったわ。せやからこんな戸惑うたり、いつもみたいにスマートちゃうんやな)

 

 

 

 

 小春は話せば話す程平凡で、だがそれが心地良く、ウメユキは勝手に滞在を延ばして東郷小春という人物を知ろうとする。しかし二人きりになろうとすればする程リュシアンが阻止してきた。

 そのため二人きりで話す事は諦め、惚れている本人から聞き出す事にした。


 騙されていないか、はたまたどんな惚気話を聞かされるのかと内心ニヤニヤしながら耳を傾けていると、まるで親が子供に本を読み聞かせるようなお伽噺みたいな出会い方に思考が停止する。そして聞けば聞くほど驚きとワクワクが詰まっている旅の内容に、ウメユキの心は好奇心でいっぱいになっていった。

 話を聞き終わり、ウメユキは不器用な親友の恋を応援しようと気持ちを傾ける。

 しかし疑い深い彼はまだ小春の事を信じ切れず、一つ芝居を打つ事にした。

 

 大人になったウメユキは女性を魅惑するような美しさが更に増している。おかげで女に困った事はない。だからこそ彼はその幼少期の頃から悩ませていた見目の良さで小春に色仕掛けをする事にした。

 これで彼女が自分に落ちるようであれば密かに処分しようと考え、胸元をはだけさせて小春に近づく。

 





「ウメユキさんリュカさんに捕まりますよ」

「捕まる?」

「服をちゃんと着ないとリュカさんが『肌を出すなー』ってすっごい恐ろしいくらいの美しい笑みを浮かべて服を着させてきます」

「へぇ…そうなんや」

「自分はそれ以上の破廉恥な事してくるのにって感じですよね」

「あぁうん、でもこの隊服自分一人で着るんにはちょっと面倒やから手伝うてくれへん?」

「お断りします」

「え」

「だって目が笑ってないリュカさんが今にもウメユキさんの服を正そうとこっちに来てます」

「うわ、ほんまや」





 

 

 

 ウメユキはリュシアンにこってり絞られたあと、小春が発した何気ない一言に心を許すようになる。

 それは彼の血についてだ。

 翌日一緒に森の中を歩いていると種族の話になり、「どっちの血も流れてるって格好良いですね」という彼女の発言に、そんな見方をする人もいるのかと驚き、その嘘偽りがない言葉がすとんと心の中に落ちた。

 




「リュカ君聞いた?ウチん事かっこええやて」

「…」

「そぉんな怖い顔せんでもコハルはんに惚れへんよ。絆されそうにはなったけどな。恐ろしい子ぉやなー。普通ならどっちつかずの血ぃや言う人んが多いのんに。半端者やない見方されたん久しぶりやわ」

「コハルはそういう考え方をしない」

「ええ子やね」

「ああ」






 今でこそ言葉数が増え、見た目で感情を読み取れるくらいに表情が柔らかくなったリュシアンであるが、昔の彼は表情が乏しく言葉数も少なかった。そのため行動で気持ちを示す事が多かった。

 彼も小春同様に血で人を差別するような人物ではないとウメユキは知っている。

 リュシアンは血や種族よりも個を見る。

 そして根が真面目で律儀だ。

 リュシアンは小春と出会う前に世界中を旅していた時、鬼人族の国にあるウメユキの祖父母が住んでいる邸に菓子折りを持って訪れ、ルシェールでのウメユキの活躍を話している。

 そんな友達思いの彼だからこそ、ウメユキは騙されているんじゃないかと心配していた。

 



 それが杞憂に終わった今、ウメユキは全力で親友の恋を応援している。



 

 今ではウメユキがリュシアンの元に訪れる事が多いが、昔はリュシアンの方がよく彼の邸に訪れていた。二人の関係はそんな頃から続いているため、リュシアンもまたウメユキの助言はできるだけ聞き、心の片隅に置いている。





「ウメユキ」

「なんやリュカ君どうしてん」

「婚姻届の事はコハルに謝罪した。勝手に提出して悪かったと」

「さよか。怒ってはった?」

「いや、頬を赤らめていたが何も言われなかった。だがその後にシた事については拗ねられてしまった」

「何やらかしてんリュカ君」






イイネがめちゃめちゃ増えてましたありがとうございますぅぅううう!!!

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