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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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要救助者とクッキング~龍を添えて~



 宿屋に帰ってすぐリュカさんとギルドへ行き、男達三人の事を伝えると、お尋ね者だったらしく報酬が貰えた。リュカさんは貯えがたんまりあるらしいので、この報酬は全て私にくれた。いつの間にかリュカさんが買ってくれていたお財布に、彼がお金を入れて私に手渡す。

 やったー!これでやっと化粧品が買える。特に乳液と化粧水。物凄く欲しかったんです。というか、そもそもこの世界に乳液やら化粧水などはあるのだろうか。ちょっと不安になってきた。


 

 一度宿屋に戻り、簡単に朝食を済ませ、市場で食材を買う。

 次に向かう村は此処よりも栄えており、獣人族の人達が多く住む所らしい。その村までは徒歩で二日かかる。なので野宿決定だ。


 私が持っていた登山用リュックはリュカさんのポーチの中に入っている。これはドワーフだけが作る事の出来る四次元ポケットみたいなポーチで、持つ人の魔力量に合わせて入る容量が変わる、貴重な代物だ。 

 なので、買った食材は片っ端からそのポーチに入れていった。

 



 そして、いよいよ村を出る。

 


 ゲームで冒険するのは好きだけど、実際に自分がやるとなると話は別だと思う。魔獣や魔物も怖いが、私は虫が大の苦手だ。だんごむしや蝶々ですら触れない。なのに、今から森や山を越えなければらならい。

 後ろを振り向くと、村がもう小さく見える。目の前には森。地面には沢山の人が通ったであろう、道が出来ていた。道といっても其処にだけ草が生えていないだけで、舗装されいる訳ではなく、うねうねとした道が森の奥までずーと続ている。


 意を決して森の中に入る。

 聞いた事もない動物や、虫の鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。



「リュカさん、虫は平気ですか?」

「好きではないが別段触れないこともない」

「じゃあ虫が出た場合、是非とも駆除をお願いします」

「ふふっ私にそんな事を頼むのはコハルくらいだろうな」



 とりあえず了承してもらえたので、ほっとした。こんな危険な世界で虫が苦手とか言ってる場合じゃない事くらい分かっているが、苦手なもんは苦手なんだ。仕方ない。ずんずんと森の中を進んで歩いていると、額に真っ赤な宝石みたいな石をつけたウサギ?が現れた。

 顔はウサギに近いが、胴体は小型犬みたいだ。尻尾はふわふわしていて長い。毛色は真っ白で耳の先と、尻尾の先だけが赤みがかっている。

 

 これはカーバンクルといって、どこにでも生息している動物らしい。ただ、魔力を持った動物なので、口から攻撃魔法を噴く。そして、額に持つ石の色によって攻撃魔法が変わる。今私達の前で横になっているカーバンクルの額の石は赤色なので、攻撃魔法は炎だ。

 

 ただ、カーバンクルはすばしっこく、人前にはほとんど姿を現さない。性格は臆病で、自分よりも大きな生物を見ると怯えて逃げてしまうからだ。だいたいの人は遠目に見て「あれカーバンクルじゃね?」くらいで終わるらしい。

 なのに今、そのカーバンクルが私達の目の前にいる。距離にして1メートルもない。



「この子逃げ出しませんね」

「珍しいな、私は龍族だから基本的に小動物からは怖がられるはずなんだが」

「もしかして怪我をしてるんじゃないですか?ほら見てください。足がピクピクしてます」

「こら、不用意に近付くな。急に攻撃してくる可能性もある」

「じゃあ此処から呼びかけてみますね」

「動物の言語が話せるのか?」



 そんなもの話せる訳がない。だから、バリバリ日本語で話しかけてみた。そもそも私が今喋っているのは日本語なんだろうか。この世界の読み書きは出来ないのに、言葉は通じているのが不思議でならない。


 私の呼びかけにカーバンクルが「キュイキュイ」と返事をする。

 リュカさんの静止を無視してカーバンクルに近寄ってみると、足がおかしな方向に曲がっていた。



「リュカさんの魔法で治せないですか?」

「生命を吸い取り安楽死させる事ならできる」

「怖っ」

「私は龍族だからな。当然だろう」

「後でその龍族について詳しく教えてください」




 私はカーバンクルの足を優しく手で包み込み、目を閉じて、黒く淀んだ湖でやったみたいに心から祈る。

〈どうかこの子の足が治り、全ての厄災を跳ね除け、身を護る事ができますように〉

 

 自分の身体の内が温かい何かで溢れる。そしてそれが私の手を伝いカーバンクルの足にそそがれていくのが分かった。

 目を開けると、カーバンクルは地面から数センチ浮き、体の内側から暖かな光が漏れ、額にあった石がコロンと地面に落ちた。ええええ!?大丈夫なんですかコレ!?

 落ちた石を慌てて拾い、光が納まったのを確認してから抱き上げる。


 額を確認してみると、新たに小さく金色に輝く石がちょこんと付いていた。耳の先や尻尾の先も淡い黄色に色づいており、この子が起きるまでリュカさんは瞳をいつもの倍以上キラキラさせて、もふもふを楽しんでいた。

 ちなみにリュカさんはもふもふしながらも、今私が行った行為を説明してくれた。

 

 完全に死を迎えた者は無理だが、瀕死状態や植物状態の者に命を吹き込む事こそが【古の御業(いにしえのみわざ)】らしい。自分の力を試しに若い頃世界を冒険し歩き回った時、ハイエルフの友人から見せてもらった石板にそう書かれてあったそうだ。

 そ、そんな大層な力が私に!?


 決して人前では使うな、とリュカさんに約束させられた。この力はどの国、領も欲しがるくらいの最上級の御業で、誰かにバレてしまったら、世界中でこの力欲しさに戦争が起きてしまうらしい。

 急に怖くなってきた。ぎゅっと自分の腕を抱きしめると、リュカさんが私の頭を優しく撫でる。



「だから()が」

「あっ起きましたよ」

「キュー!」

「…。」

「元気になったみたいで良かったです。足もちゃんと治ってますね」

「…はぁ、良かったな。そろそろ今日の野営地を探そう」

「はい。じゃあね、カーバンクルちゃん」



 私とリュカさんは立ち上がり、歩き始めようとしたらカーバンクルが私の肩にとんっと乗っかってきた。重さはそれほどなく、「キュルルルル」と鳴きながら、頭を私の頬にふわふわの毛で押し付けてくる。

 癒される~。

 この子は私達に付いて来たいようで、リュカさんに必死に頼み込む。

 案外簡単に了承が得られ、逆に驚いた。




―――――――――――




 平坦な地面を見つけ、リュカさんが野営の準備をする。お昼は固いお肉を食べながら歩いたので、夕飯はちょっとだけ豪勢にするつもりだ。この旅で戦闘力皆無な私はご飯を作る係に任命され、リュカさんにポーチから私のリュックを出してもらった。

 近くに小川も流れているのでありがたい。

 

 乾いた木をカーバンクルが集めてくれて、私はそれにチャッカマンで火を起こす。自社開発の折り畳み式簡易キッチンをリュックから取りだし、登山用に持って来ていた使い捨ての網をその上に置く。リュカさんが仕留めてさばいてくれた、暴れ鳥の肉を串に刺していき、塩コショウで味付けをする。串はリュカさんが木を研いで作ってくれたものだ。


 余ったお肉と村の市場で買った玉ねぎ、人参らしきものを簡易鍋に入れ、暴れ鳥の脂身で炒めていく。玉ねぎの色が変わってきたら、小川から汲んできた水と、たまたま市場で見つけたローリエを加え、沸騰したらあくをとり、お肉が柔らかくなるまで煮込む。最後に一口大に切ったじゃがいもを加え、さらに7、8分程度煮込む。



「そんなに煮込むのか?」

「その方が食材から旨味が出て美味しくなるんですよ、あとお肉も柔らかくなります」

「キュッキュー!」


 

 頃合いを見てローリエを取り出し、一番重要なビーフシチューの素、ルウを割り入れて溶かす。本当に日本の技術は凄い!感謝感激です!このルウがいつか無くなってしまうのが嫌だ。後、他にはカレーとホワイトシチューの素しかない。異世界に来る前、当初予定していた登山は2泊3日だったので、料理を失敗しても良いようにルーは多めに持って来ていた。醤油もほんの少しならある。

 でもこの便利食材は貴重なので、あまり使いたくはない。

 アロマよりも醤油を嗅いで安心する日が来るとは…。


 ぐるぐるとリュカさんが作ってくれた大き目なスプーンでかき混ぜていると、とろみがついてきた。もう大丈夫かな。辺りには大変美味しそうな匂いが立ち込めている。

 他の動物や魔獣なんかが来るんじゃないかと思っていたが、龍族のリュカさんがいるお陰で寄って来ないらしい。リュカさん様様である。


 串焼きにしていたお肉も丁度良く焼けており、これまたリュカさんが作ってくれた木のお皿に、固いパンと暴れ鳥のシチューを盛り付けて完成。

 


「さあ、食べましょうか」

「良い匂いがするな」

「キュッキュ!」



 リュカさんは暴れ鳥シチューから食べ始め、感激していた。食材を煮て市販のルウをぶち込んだだけの料理なのに、なんだか申し訳ない。

 


「旨いな、肉や野菜の味がこの茶色いドロッとしたものと合っている。どうやってこの味を出したんだ?」

「えっと、私もよく知らないんです。味を付ける固形ルウというものがありまして、私のいた所ではこのルウを使って料理の手間を省いて手軽に美味しいものを食べる、という事が主流だったんです」

「便利だな。これがあれば遠征や討伐任務がずいぶん楽しいものになるだろう」

「確か固形にするには、小麦粉をバターで炒めて調理する…とかだったような…」

「調理方法を知らずともコハルが味を覚えていれば再現できるだろう。私の邸に着いたら料理長と作ってみてほしい」

「私なんかで良ければ」

「己を卑下しすぎる事は良くない。コハルの知識は貴重な財産だ」




 リュカさんはその後2回もおかわりをしていた。カーバンクルも暴れ鳥シチューが気に入ったのか黙々と食べている。明日の朝食は残った串焼きで、暴れ鳥シチューは残り一食分だけとなった。

 

 使い終わった食器や網を小川で洗い、ついでに身体や顔も洗う。リュカさんは洗浄魔法で自分の身体を整えていたので、私もお願いしてみたら「脱げ」と言われたのでやっぱり全力で遠慮した。

 リュカさんはたまに紳士じゃなくなる。


 後で聞いた事だが、洗浄魔法は細部まで分かっていないと効果がでないらしい。やり方を教えてもらったが私にはできなかった。

 むしろ誤発動した魔法がリュカさんを襲いこってり絞られた。



「私に向かって攻撃魔法を放つとは良い度胸だ」

「すいません!悪気はなかったんです!」

「ふふっ疾しい奴は大抵その言葉を言う」

「本当ですって!」




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