表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
79/125

名を授ける者、授かる者



 私が本から出て来た後、文二が天空古代語を解読してくれたおかげでこの本の著者がルシェール・ティア・ディフィリートだという事が分かった。そして本の中にルシェール国初代国王陛下の思念体が居る事も判明している為、午後の授業は変更され、リュカさんとウメユキさんは王宮へと戻る事となった。

 リュカさんと私だけの秘密である“古の御業”については、まだ誰にもバレていない。

 絵本には私達の会話や行動が文字として現れていたらしいが、私が使った古の御業に関するものは全て黒く塗り潰されていたようだ。リュカさんが気付けたのは私が古の御業を使う時によく祈るポーズをしていたからだろう。


 午後の予定が決まったところで、私は早速ヴァンプールの名前についてリュカさんに尋ねる。

 今この大きな図書館の中には、リュカさん、ウメユキさん、世話師猫の文二、グリフォンのテオ、カーバンクルの大福、漆黒竜のヴァンプール、執事頭のユリウスさん、私付メイドのルイーゼが居る。

 四匹のゴロゴロと喉を鳴らす音が館内に木霊してちょっと怖い。軽くホラーだ。



 ウメユキさんはテオに深く礼をし、許可を頂いてからふわふわの毛に触れ、もふもふを楽しんでいる。

 ヴァンプールは甘えたいのか鼻先をぐりぐりと私のお腹に擦り付けている。

 力が強すぎてよろけそうだ。




「ヴァンプール、コハルは脆いからあまり体重を乗せるな」

「グゥゥ」



 リュカさんに叱られヴァンプールが落ち込んだように鳴く。

 私からしてみればこの漆黒竜は体も大きく成体に見える。だが実際にはまだほんの子供らしい。100歳くらいだそうだ。全然ピンとこない。



「リュカさん何か良い名前思いつきましたか?」

「そうだな…。闇を照らすノイヴァー、漆黒の戦士クルーガ」

「ん~微妙です」

「そうか、ではノーアはどうだ?」

「どういう意味ですか?」

「熱烈な守護者という意味だ」

「グォォオオオオオ!!」

『それが良いって言ってる!』

「え?本当にそれで良いの?」

「グオッ」




 ヴァンプールの鳴き声を大福が通訳する。

 ノーアという名前をヴァンプールが気に入った事により、彼の名はノーアに決まった。

 



「因みに初めて出会った時、私がコハルの名を言い間違えてしまった事を覚えているか?」

「はい、覚えてます」

「コハールとは天空古代語で“咲き誇る愛”という意味だ」

「なんだかむず痒いですね。ウメユキさんの名前にも意味はあるんですか?」

「ウメユキの名は天空古代語ではないよ。鬼神式冠名帳から名を取ったと記憶している」

「せやで。ほんま、よう覚えてはるわリュカ君。ウチん名前はウメとユキ、両方の意味を掛け合わせてある。雪の中でも分かるくらい紅く染まった梅の花は凛として美しく、誰もが足を止め一目見る。香りは薄いけど、そんなもんのうても色に高貴さがある。白梅は色なしやけど雪の白さに負けへん香りと気高さで他を魅了する。そうあれる様いついかなる時も気高く、高貴にあれっちゅう意味が“ウメユキ”には込められてあるんやで」

「凄く深い想いが込められてるんですね。素敵です」

「ありがとう、コハルはん。そういえばコハルはんはリュカ君の名前の意味知ってはんの?」

「ああ、以前教えている」



 二人が黙って私の顔を見る。

 美しいお二人にそうまじまじと見られると何処を見て良いのか分からないし困るので止めて欲しい。とりあえず愛想笑いで返してみたが、リュカさんもウメユキさんも私が何と答えるのか待っているようで全然目を反らしてくれない。

 仕方ない。腹をくくるしか無いか。

 確か、初めてヴァンプールに会った時に教えてもらったはず。何かを導くような意味だった気がする。うーん。。。





「引率の先生…みたいな?」

「っくははははっ」

「コハル」

「ふみまひぇん」





 答えは天空古代語で“光を与える者”という意味だった。

 ちょっとおしいような気もする。

 引っ張られた頬っぺが痛い。


 私達が談笑しているとノーアが私の服を咥え、早く早くと何かをせがむ。

 名前はもうノーアと決まっているし何がしたいのだろうと首をかしげると、文二が従属したいのだろうと教えてくれた。


 従属とは魔力を込めて名を与える事だ。

 名を与えられた者は、名を与えた者と同じ時間を生きることが出来る。婚姻の儀と違うのは名付け親に逆らえない事だ。攻撃魔法も何も通用しない。そして名付けられた側は名付け親の魔力を常に感知することが出来る。そうリュカさんが補足説明してくれた。


 私達は外に移動し、この邸に仕える人達が龍体になった時に休むだだっ広い草原の庭に出た。

 此処で今から従属の儀を行う。

 ノーアは体を低くし伏せ状態になり、私はリュカさんと文二から教えてもらった通りノーアの頭に両手を翳し魔力を込めて祝詞を唱える。




「我が名は東郷小春、そなたに名を授けし者である。我の声を聞き、守り給え、そして従属せよ。そなたの名はノーア。ここに盟約する」


 


 唱え終わると地面からにょきにょきと草木が生え、花を咲かせながら私とノーアを覆う。

 不思議な事に全く怖くない。


 1分もしない内にその草木は形を変え輪っか状になり、ノーアの首に巻き付いた。

 漆黒竜、ノーアの首にはカラフルな華のリースが首輪のようにして掛かっている。

 ファンシーだ。



『ありがとコハル。これでじゅうぞくできた。ずっとコハルといっしょにいられる』

「おお!ノーアの言ってる事が分かる!」

『じゃあちょっといってくるね。ておー』

「へ?」




 ノーアとテオは一緒に空高く飛び上がり、気持ちよさそうに飛んで行った。

 私はその場にぽつんと残される。

 いつまでもノーアとテオが飛んで行った方を見る私の側に来たのはリュカさんで、私の頭を優しく撫でた。




「ずっと傍に居てくれる訳じゃないんですね」

「名を授かれさえすればノーアはコハルが何処に居ても察知する事ができるからね。いつでも駆け付けに行ける安心感を得られたからこそ、自由に空を飛びまわってみたいのだろう」

「ちょっとだけ寂しいです」

「そうか、ではコハルが寂しさを感じないよう私がずっと傍に居よう」

「そういうのは遠慮します」

「遠慮するな」





 二匹が飛び立った後、リュカさんとウメユキさんにユリウスさんが『登城できる準備が整いました』と声を掛ける。本に飲み込まれた当人の私は登城しない。それはリュカさんの判断だ。

 体調を気遣ってというのもあるが、一番の理由は私を国王陛下に会わせたくないというものだ。だけどウメユキさんは実際に本に飲み込まれた私を国王陛下に会わせた方が良いのでは?と言う。




「俺の説明で事足りる」

「せやろか?二度手間になるだけやと思うけど?」

「そうならないよう努める」




 カーテシーのやり方をすっかり忘れている私からしたら王宮には絶対行きたくない。

 リュカさんはユリウスさんとルイーゼに私を休ませるよう指示を出し、私の頬を軽く撫でた。

 



「コハル、すぐに帰ってくるからディナーは一緒にとろう」

「せやったらウチもご相伴に預からせて頂こかな~」

「お前は来るな」

「えぇーいけずやなぁリュカ君。世界史教えんでもええのん?」

「ウメユキには鬼人族の国についての講師を頼んだだけだ。全般的なものは俺が教える」

「それはいけません若様。領地の仕事や特務部隊の仕事を優先してください」

「それは分かっている」

「休息を削ってコハル様にお教えするのもいけませんからね」

「…分かった」




 休みを削ってまで教えるつもりだったんですねリュカさん。

 私はゆとり教育で育ってきたのでそんなスパルタ教育は無理です。きっと叩き込まれても全部右から左へ流れていく自信があります。私の頭は優秀じゃないんだと今すぐリュカさんに伝えたい。


 じーっとリュカさんを見ていると、何を勘違いしたのか私の御でこと頬に触れるだけのキスをし、最後に耳をはむっと甘噛みしてから「行ってくる」と行って竜車に乗り込んだ。

 



「なっななななな」


 

 ウメユキさんは赤面して固まっている私を見て爆笑している。ユリウスさんは何処から出したのか三脚魔道カメラで連写しており、ルイーゼに至っては鼻から大量の血を噴出しながら興奮している。


 どれをどこから処理をして良いのか分からない。

 というかリュカさんは未だに爆笑しているウメユキさんを置いて出発してしまった。

 所属している部隊の隊長さんですけど良いんですか?あとユリウスさんは何時から撮ってたんだろう。



「コハル様、若様の言う通り少しお休みしましょうか」



 魔道カメラを脇に抱え、満面の笑みでユリウスさんが言う。そして目に涙をいっぱい浮かべ鼻血をだらだらと流しているルイーゼにリュカさんの私室へと案内された。


 ルイーゼは大丈夫なのだろうか。


 彼女に声を掛けると、『コハル様のピンチに駆けつける事が出来なかった事が悔しいです。でもリュシアン様と仲睦まじそうに触れ合っているお姿を間近で見る事が出来て嬉しいです!なので情緒が不安定なんですぅぅ』と震える声で教えてくれた。

 まず私が本に飲み込まれた時、直ぐに駆け付けに来られなかったのは飲み物を手配しに行ってくれていたからで、それはしょうがないと思う。だけどその理由ではルイーゼは納得してくれなかった。そしてリュカさんが公衆の面前で破廉恥行為してきた事についてはノーコメントを貫いた。

 


 私室に到着し、ルイーゼが口を開く。



「わたし、コハル様のお役に立ちたいです」

「?もう十分してもらってると思う」

「そんな事ございません!何か欲しい物はございませんか?抹殺してほしい者はいないですか?」

「抹殺!?ないです。欲しい物も…う~ん今の所無い?かな」

「そんなぁ。コハル様は無欲すぎますううぅぅ」

「あっえっと泣かないでルイーゼ」




 ルイーゼのダムはついに決壊し、部屋の前で大泣きされてしまった。

 それに合わせていつの間にか姿を消していた文二も現れ、ぶみゃぶみゃと泣き出す。

 いったいどうすれば良いんだ。




「えーと、とりあえず部屋に入ろう?」




 私と文二はソファーに座り、目を腫らしているルイーゼがお茶を淹れる。

 私が前回泊まった時に煎茶が好きだと言うとことを覚えてくれていたみたいで、ユリウスさんが他国から取り寄せてくれたそうだ。大福は私の肩で眠っている。

 

 悲しい事にルイーゼも文二もなかなか泣き止んでくれない。 

 ルイーゼが泣き出した理由は分かるが、文二が泣いている理由についてはさっぱりだ。

 何故泣いているのかと聞いてもぶみゃぶみゃと言っていて中々聞き取れない。

 嗚咽の落ちついた頃、文二が震える声で話し出す。どうやらこの猫ちゃんは私用のドリンクを作りにキッチンルームへ行ったとき、料理長やシェフ達に食べ物に毛が入るからと追い出されてしまったようだ。伝説の世話師猫相手にも駄目なものは駄目だと言える精神、素晴らしく勇気のある料理人さん達だと思う。

 確かに食事に毛が入るのは良くない。特に主人であるリュカさんの食事に入ったりなんてしたら大事だ。




「私の為にドリンクを作ろうとしてくれてありがとう文二。でもいつもみたいに自分の庭?に行って作るのじゃ駄目だったの?」

「面倒にゃ」

「そっか」

「ブンジ様ご安心ください!只今ブンジ様用にキッチンルームを増築中でございます!」

「にゃにゃ!?」

「全てブンジ様サイズに作っておりますので少々お時間がかかっているのです。もう暫くお待ちくださいませ!」




 嬉々としてルイーゼが文二に伝える。

 世話師猫である文二サイズのキッチンは通常のキッチンルームを作るよりも相当時間が掛かる。それは職人さんがあーでもない、こーでもないと試作しながら進めているからだ。

 それを聞いた文二は手伝いに行くと言って七匹に分裂し、姿を消さずに戸を開け、珍しく四つ足で走って行った。肩に乗っていた大福は私の膝の上に降り、すやすやとまた寝息を立て始める。


 ルイーゼに関しては私が武術、中でも防御に長けたものを教えて欲しいと言うとパァアアっと効果音が聞こえてくるくらいご機嫌になり、ニコニコと話し始めた。




「実戦をすると怒られてしまいますので座学にてご説明いたしますね!」

「はい、お願いします」

「コハル様、私に敬語を使っては駄目ですよ」

「でも今は先生なので大丈夫、なはず!」

「せっ先生!?私がコハル様の!?なっなんと光栄な!!!!キャァアアア!」

「あっ止めて興奮しないでルイーゼ!また鼻血出ちゃう!」



◇◆◇

おまけ~性別はどっち?~


「ヴァンプールは女の子かな」

「違うにゃ」

『人の子に見せておやり』

「グオッ!」

「うわっ」

「見せるな!」

「えっでも前に腹ばいになってた時は無かったのに」

「ドラゴンはそういう行為をする時にだけ体内から出す」

「じゃあ普段はどうやって性別を見極めてるんですか?」

「話が長くなるからまた寝る時にでも教えよう」

「寝落ちしそう」



ブクマやイイネ、評価が増えてる!ありがとうございますぅぅうう!!

今後もよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ