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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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新たな生活の始まり



 美男子(イケメン)と猫ちゃんによる超密着破廉恥介護生活は、本日の夕方に終わりを迎えた。

 そう、私は自分の意思で動けるようになったのだ。でも寿命が延びた感じとかは特にしない。

 なので私は今、ルイーゼと共に以前使わさせていただいていた部屋に向かって歩いている。だけどこの部屋を使えるのは今日だけだ。明日からはまたあの豪華なリュカさんの部屋に戻らなければならない。

 それは婚姻の儀が終わった後、使用人の皆さんがリュカさんの部屋で私も寝食を共にできるよう準備を進めていたからだ。だから今日寝る部屋にはベッドくらいしかない。ピアノも移動させてあるそうだ。だけど私は1日だけで良いから前に使わさせてもらったあの部屋で寝たいと我儘を言い、「1日だけなら」と渋々答える彼から了承をもぎ取った。

 

 いつもなら私の肩に乗っている大福、足元をうろちょろしている文二が夜になっても現れない。

 もしかしたら私の介護に疲れてどこかで休んでいるのかもしれない。

 そういえば、夕方以降リュカさんの姿も見ていない。

 おやすみなさいの挨拶をしないで眠るのは初めてだ。


 ルイーゼは私が部屋へ入ったのを確認すると「お休みなさいませ、コハル様」と言って下がり、戸を閉めた。

 訪れた静寂に、私は久々に一人でゆっくり眠れるなとベッドへぼふんとダイブしようとした。が、何故かナイトウェアを着た麗しいリュカさんが当然のようにベッドの上で寛いでいたので出来なかった。

 



「何でリュカさんが居るんですか」

「?コハルの居場所は俺の居場所だ」

「めちゃくちゃな理由」

「めちゃくちゃではない。婚約者の傍に居るのは当然の事だろう」

「婚約者…」

「おいでコハル。体が冷えてしまうよ」




 マイペースすぎるリュカさんに手を引かれ、ベッドの中へと入る。

 大福と文二は既に枕元で丸くなって眠っていた。彼らはこの邸の人達に慣れて来たのか、前ほど頻繁に姿を隠さなくなっている。

 というか此処に全員集合してたんですね。

 

 明日、リュカさんは残りの任務を終わらすべく朝早くにルシェールを発つ。

 当然のように私を後ろから抱きしめて眠る彼の吐息に、私は今日も心臓をバクバクさせながら目を閉じた。

 

 


 全然眠れない。

 眠れる訳がない。




 いつもならいつの間にか眠っているのに今日は目も頭も冴えている。だから仕方なく破廉恥美形ドラゴンの寝息に耐えながら明日の自分の予定についておさらいする。

 

 明日はこの世界、主に貴族社会学についての授業がある。これは私がリュカさんにお願いした事だ。

 この世界で生きていく為には必要最低限の常識を身に着けておきたい。それに出会い方は良くなかったけど、三田尻さんみたいに私も勉強して魔法をもっと使えるようになりたい。今の私には知識が足りさなさすぎる。そうリュカさんに伝えると彼は嬉々として全て自分で教えようとスケジュールを組んできた。もちろん執事頭のユリウスさんに全て却下されている。

 なので主に貴族社会学をユリウスさんに、世界史をルイーゼ、そして魔法学を文二に教えてもらう事になった。世界史についてはショッキングな内容もある為、事前にリュカさんとルイーゼ、ユリウスさんとで話し合って何をどう伝えるのか決めるらしい。

 何故世界史だけこんなに面倒なシステムを組んでいるかというと、三人とも人間がどのレベルでショック死するのか分からないので慎重になっている。そんな簡単にショックで死なないですよと言いたいところだが、試しに暗黒時代の奴隷生活を記憶水晶で見させてもらった際に私は嘔吐してしまった。だから三人とも物凄く世界史を教える事について慎重になっている。


 因みにユリウスさんにあれだけ駄目ですと言われているのにリュカさんは空いている時間があれば抜き打ちでテストをするからねと言ってきた。何が何でも関わるぞという強い意志を感じる。

 ユリアーナさんも時間があれば貴族社会について教えてくれる予定だが、彼女は私のドレスや何やらで忙しいので食事をする際のマナーをメインに教えてくれる事になった。

 

 いくらリュカさんが貴族としての振舞いと求めないと言っても、現実はそういう訳にはいかない。だから私のこの申し出にユリウスさんは大層喜んでくれた。そして邸の中で一番狭いこの部屋でリュカさんが眠る事に対しても中々首を縦に振ってくれなかったのもユリウスさんで、ずっと『こんな狭い部屋に若様を寝かさせる訳には…』と渋っていた。





 翌朝、私は朝日に照らされてではなく文二の寝相の悪さによって起こされる。頬っぺたを触ると頬が若干凹んでいたので、きっと足跡がついていると思う。

 リュカさんはというと珍しく私より早く起きており、ベッドの縁に座って黒いピチッとしたインナーを着ている最中だった。インナーが彼の美しく引き締まった肉体をより一層引き立たせている。



「そのインナー、すっごくド助平でエロエロですね。直視すると目がやられそうです」

「えろ…?」

「その体にフィットしてる黒インナーの事です。肉体美を強調させすぎてR指定待ったなしですね」

「コハルが何を言っているのかほとんど理解できない」

「うわっ近づかないでください!目がー目がー!破廉恥!」

「なっ近づくなとはどういう意味だ!」

「機嫌悪ッ」



 プンスコ怒るリュカさんが私の顎を持ち上げ、ズイッと顔を近づける。

 朝から美しすぎるご尊顔に私の目が潰れそうだ。

 なので目をぎゅっと瞑った。



「コハル、目を開けなさい」

「無理です。美しすぎます。あと朝から見て良いような体じゃない」

「意味が分からない」

「無理なものは無理ですッ!」

「開けろ」

「嫌です」

「俺を見ろ」

「断固拒否」

「…」

「うわぁああっ力強っ!!」



 リュカさんは力ずくで私の目をこじ開けようとしてきた。

 絶対白目向いてたと思う。

 最悪だ。しかも寝起きで髪もぼさぼさなのに。


 ユリウスさん、至急あなたの主に乙女心というものを教えるなり叩き込むなにりしてください。私の心がピンチです。なんならルシェールに着いた初日から悲鳴あげてます。



 この意味の分からない攻防をなんとかやり過ごし、朝食を頂いたあとに使用人さん達と一緒にリュカさんを見送った。

 そして、いよいよ授業が始まる。

 場所は邸の中にある大きな図書館で行われる。

 一歩足を踏み入れると異国に居るかのような静けさと暖かさで、天窓から入る木漏れ日が心地よい。本棚は天井にまで届くほどの高さで、本がびっしりと埋まっている。

 ここにある本たちはユリウスさんの固有魔法で自らの意思を持っており、「読了」と一言唱えると鳥の様に羽ばたいて本棚へと戻っていく。実際に見せてもらうと想像とは全く違って驚いた。

 本にも性格があるらしく、鷹や鷲が獲物を見つけた時みたいに一直線に飛ぶ本もあれば、ペンギンのように飛ばずによちよちと歩いて本棚へと戻っていく本もいる。



「剛速球で飛んでいく本が頭に当たったりしないんですか?」

「はい、当たります」

「駄目じゃないですか」

「ですのでコハル様には物理反射魔法を事前に掛けております」

「ありがとうございます」



 私も早く魔法を使いこなせるようになりたいものだ。


 今日はそんな面白い固有魔法が使えるユリウスさんに貴族社会学を学ぶ。

 貴族社会学は上流貴族のマナー、貴族間の力関係、階級の見方、私の一番苦手とする比喩表現等が含まれている。



「ユリウスさん、早速質問良いですか?」

「はい、どうぞ」

「リュカさんは当主なのに何故ユリウスさんは“若様”と呼んでるんですか?」

「良い質問ですねコハル様。我が主は若くして数々の武功をあげられました。ですので敬意の意を込めて若様とお呼びしております」

「なるほど」

「では早速上流階級の貴族が使用する表現について学んでいきましょうか。夜会やお茶会、パーティー等に招待されますと身分の高い方々と食事をする機会が多々ございます。その際に男性であっても女性であっても欲が表情にあらわれてしまわれる方がいらっしゃいます。そんな時はなんとお伝えして差し上げれば良いか分かりますか?」

「ん~…ド助平フェイスになってます?」

「…これは、難敵ですね」

「一緒に乗り越えましょう」

「そうですね。腕が鳴ります」




 頂いた魔導書に教えてもらった表現をどんどん書き込んでいく。これは普通の魔導書とは違い、対になっている魔導書が存在する。片方の魔導書に何かを記すともう片方にも同じ内容が刻まれていくという代物だ。

 もちろんその対となっている魔導書はリュカさんが持っている。たまに赤ペン先生みたいに加筆修正されるので見られている感が凄い。



◇◆◇

おまけ~コハルとユリウス~


「ちなみに答えは何ですか?」

「決まった答えはございませんが、よく使われる表現は“邪竜に魅入られますよ”ですね」

「ほぉ~。いつか使ってみたいです」


ブクマやイイネ、高評価よろしくお願いします!

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