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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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一方的な思いと通じた想い




 シャドウタウンを発った後、彼らは次の国カオカマンガイへと足を踏み入れていた。

 カオカマンガイは商人溢れる国で、色んな国の商人が自国の商品を売りに出店を開いている。道という道、全てに出店があり、商人たちの情報交換の場ともなっている。観光客も多くどの通りも人でいっぱいだ。もちろん出店には小春の大好物の米も売っている。


 祖国の味を見つけた小春は早速リュシアンを置いて走り出し、二人は国に入って早々にはぐれてしまった。彼は自分を置いて食材を見に行ってしまった彼女に少し腹を立てた。が、慌ててはいない。それは以前リュシアンが小春に送ったピアス、龍の意思で瞬時に彼女の元へ移動できるからだ。

 


 リュシアンと逸れた事など微塵も気づいていない小春は、米と味付け海苔に出会えた事に感動し店主にありったけの米と味付け海苔を注文し始めた。

 そして遂に、彼女はこの世界に召喚された同郷の女性と出会う。



 三田尻 亜加だ。

 


 彼女は護衛を引き連れてカオカマンガイへと来ていた。

 それはコンソメスープを作った女性、小春を探すためだ。商人で賑わうこの国でなら何か情報を得られるのではないかと思った三田尻は、いつもの我儘で国費を使い、王宮の護衛部隊と自身のお気に入りの護衛を連れて情報収集をしにカオカマンガイへと訪れていた。

 そこに米と海苔を嬉々として購入している小春を見て、三田尻はニタァっと笑みを浮かべる。

 



「あなたね、コンソメスープを作って御者に教えたのは」

「へ?」

「私の専属シェフにしてあげる。ボラギンへ戻るわよ」

「え、ちょっ」




 三田尻は勝手に話を進め、小春の手首を掴んで歩き出した。

 彼女の横には美しい顔をした護衛が二人と、隊服を着た男達が後ろに五人。

 小春は混乱しながらも今自分の手首を掴んでいる女性こそが、ユメヒバナとフィーが言っていたあの人物だと気づく。そして彼女の頭髪を見て、この髪色が発情期のサンタ猿のお尻と一緒なのかと場違いな事を考えていた。

 

 ユメヒバナとフィーは三田尻の事を少女と言っていたが、小春からしてみれば日本人特有の童顔にしか見えない。三田尻はフリルを沢山あしらったピンク色のドレスを着ており、可愛らしい顔とその服装のせいもあってより幼く見える。

 




「ま、待ってください!私はボラギンへは行きません。それにあなたはっ」

「あぁ、自己紹介してなかったわね。私は愛し子の三田尻亜加よ。今は髪も瞳の色もピンク色だけど日本人。ボラギンを救ってくれって召喚されたの。まぁ聖女みたいなもんよ。あとアンタの意見なんか聞いてないから。アンタはただ私に付いてくれば良いのよ。てか私この世界の食事口に合わないのよね~」

「私は東郷こは」

「あぁ~、イイ、イイ。名乗らなくて良いから。アンタの名前覚えるつもりないしキョーミないし。私のご飯作ってくれれば良いから。まぁ注意事項として言うなら私の護衛に惚れない事ね。このイケメン二人は私の物よ」

「…」

「何黙ってんのよ。もしかしてどっちか一人でも自分に惚れてラブストーリーでも始まると思った?ざぁ~んねん。アンタみたいな芋い恰好した女に私の護衛が惚れる訳ないでしょ?ほらさっさと歩きなさい?アンタを探すためにどれだけ国費使ったと思ってんの」




 小春は三田尻の一方的なマシンガントークに唖然とする。

 彼女の横に居る容姿の整った護衛二人は彫刻の様に表情を崩さず、ただただ立っているだけだ。

 言葉が通じそうな人がいないと判断した小春は、掴まれた手首をどう解こうかと思案し始めた。それと同時に肩に乗っているカーバンクルの大福が毛を逆立て威嚇を始める。



 やっと追いついたリュシアンは小春の手首を掴んでいる三田尻を見て、あの女が小春と同じ世界から召喚されたニンゲンかと心の中で呟く。

 一方リュシアンが近くまで来ている事に気づいていない小春は、ボラギンへは行きませんと足を踏ん張って意思を示した。しかしこの世界に召喚されて以来好き勝手し放題で我儘を否定されてこなかった三田尻は、その小春の行動に腹を立てる。

 彼女は小春よりも魔法の扱いに長けている。よって三田尻は痛みと恐怖で小春を支配しようと自身の手に強化魔法を掛け、手痕がくっきり残るほどの握力で小春の手首を握り締めた。




「その手を放してはもらえないだろうか。私達は先を急いでいる」

「は?アンタ誰?てか私に気安く話しかけないでくれる?私は聖魔法が使える愛し子よ!」

「愛し子?おかしい事言う。愛し子は聖魔法とは関係ない。愛し子とは精霊から最低でも一つ祝福をされていなければそう呼べないはずだ」

「はぁ?何言ってんの?っていうか私と話す時はフードを取って跪きなさいよ!これだから礼儀のなってない冒険者は嫌いなのよ。私の護衛に殺されたいの?」





 三田尻はリュシアンが目深に被っているフードを風魔法で無理矢理吹き飛ばした。

 そして静寂が訪れる。

 三田尻はリュシアンの美貌に。

 彼女の護衛達は龍族に喧嘩を売ってしまった事に。



 最初に意識を取り戻したのは三田尻の後ろに控えていたボラギン国の護衛達だ。

 彼らは腰を抜かし、尋常ではない汗を額から流しながら口々に叫んだ。



「ヒッヒィェッ!?りゅりゅりゅりゅ龍族!?空の支配者が何故こんな所に!?お、おおおおおお俺はまだ死にたくねぇええええ!!!!」

「お、俺もだ!」

「儂もっ」

「もうこんな護衛沢山だッ」



 三田尻の後ろに控えていた隊服を着た護衛達は全員彼女を置いて逃げ出し、金で雇った美しい二人の護衛だけがその場に残った。

 しかし三田尻を守る風でもなく、ただその場に立っているだけだ。

 当の喧嘩を売った三田尻はリュシアンの美貌に一目惚れし、標的をリュシアンに変更して小春の手首から手を放した。

 解放され自由になった小春は手痕が残った手首を摩り、リュシアンと三田尻を交互に見る。最初に動いたのは三田尻だ。彼女は龍族のリュシアンを護衛兼コレクションにしようと魅了魔法を使い、自身が発する言葉に掛けてすり寄った。




「合格だわ、その顔。私の好みピッタリよ!あんたも一緒にボラギンへ来なさい。私のお気に入りに入れてあげるわ」

「えっ」

「私に風魔法だけでなく魅了まで使うか。無礼を超えて余程死にたいと見える」




 礼儀も無く、小春や自分に失礼な言葉ばかりを浴びせる三田尻にリュシアンは龍の威圧で睨みつける。

 彼女の側に居た護衛二人は瞬時に防壁を張ったが間に合わず、膝を着く。彼らに守られた三田尻は自分の状況が分かっておらず、興奮冷めやらぬ声で尚もリュシアンに魅了魔法を掛け続け、その勢いに小春が不安を募らせた。

 彼女はつい先日自分の想いに気付いたばかりだ。

 ずっとタイミングが掴めずにリュシアンからの告白に返事ができていないままでいる。そんな中、小春から見て可愛らしい三田尻が必死にリュシアンにアピールをしている姿を平常心で見ていられなかった。




「駄目ですっリュカさんはダメっ」

「黙れ!五月蠅い!あんたの意見は聞いてないって言ってんでしょ!?つーかこのイケメンとどういう関係よ!」




 リュシアンは黙って小春の言葉を待つ。

 また爺や保護者と言われるのだろうと期待せず後でどう叱ろうかと考えていると、まさかの言葉に自身の耳を疑った。




「リュカさんは私の好きな人ですっ関係は、関係は~何だろう」

「はぁ?あんたの気持ちなんて聞いてないわよ。ていうかそんな芋い恰好でよく恥ずかしげもなく好きだなんて言えるわね」

「コハルが…私を、好き?」




 三者三様それぞれに違う感想を述べ、場は一層混乱と化す。

 かと思いきや、小春の想いに心底嬉しそうに微笑むリュシアンを見た三田尻含む道行く人々は、その場に白目を向いてドタバタと倒れ始めた。

 小春は慌てて倒れた人に駆け寄り頬をぺちぺちと叩く。そして皆口角が上がっている事に気付いた。




「え?え?大丈夫なんですか?え?リュカさんどうしましょう」

「行くよ小春」

「この惨状を放ってですか!?」

「祝言をあげよう。いや、その前に婚姻の儀か」

「どうしちゃったんですか急に!?もしかしてミリョウとかいう魔法食らって頭がパーンになっちゃったんですか!?」

「なっていないし、掛かってもいない」

「そ、それは良かったです」

「ふふっ魅了は相手を惚れさせる魔法だけど、己より弱いか魔力量が少ない者、元々好意を持っている者にしか効かないよ」

「えっそうなんですか?」

「ああ」

「じゃ、じゃあ」

「私はいつだってコハルに惚れているから魅了に掛かる事はないよ」

「よ、良かったです。その、言い出すタイミングが掴めなくて、伝えるのが遅くなってすみません」

「うん。もう一度コハルの口から聞きたい」

「…」

「まだか?」

「…さっき言いました」

「良く聞こえなかった」

「そんなはずないです。リュカさん地獄耳ですから」

「…」

「ひゅみまひぇん…。~っ好きですっ」

「良し」



 強引に小春の口から再度告白の言葉を聞いたリュシアンは、至極幸せそうに微笑んだ。

 そして周りに人々が沢山倒れている中、二人はようやく結ばれた。


 



ブクマやイイネよろしくお願いします!そしていつも読んでくださってありがとうございます!!


おまけ~リュシアン講座~


「空の支配者って何ですか?」

「ヒト族は我々をそう呼ぶ。天を統べる者と呼ぶ者もいるな」

「何でですか?」

「翼を持たないヒト族からしたらどの国よりも天高くあるルシェールが幻の国に見えるのだろう。それに、暗黒時代に唯一どの国にも負けていない」

「龍族ってそんなに凄い種族だったんですね」


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