恋はスリル、ショックと?
翌朝、男女関係のトラブルで揉めていたグラマラスな女性が浴室で水死体となって発見された。
発見したのはその女性が所属するパーティーのメンバーで、いかにも聖魔法を唱えていせそうな聖職者の格好をした女の人だ。
彼女は今朝、顔を洗いに共同のバスルームに行った際、浴槽に頭を突っ込んで亡くなっているメンバーを発見したと証言している。
しかし私達が見たのは、浴室でシャワーホースに首を巻き絞められている状態の彼女だった。
この矛盾点については、急いで浴室から引っ張りだした時にシャワーホースに誤って手が当たってしまい、たまたま偶然にも奇跡的に彼女の首に巻き付いてしまったという。
誰がどう聞いても辻褄が合わない証言だ。
「わたしっプリメラがアンデッド化して襲ってくるかもと思って、急いで聖魔法を掛けて体を浄化してあげたの!他意はないわ!安らかに眠ってほしかったの」
「そうか、優しいなアナーゴ」
今の会話から私はグラマラスな女性がプリメラで、聖職者の格好をしている女性がアナーゴだと知る。
そして信じるんかい、と心の中で突っ込んだ。
そもそもこの世界に現場検証は無いのだろうか。誰も何も調べる事無く、パーティーを組んでいる三人は亡くなったプリメラさんを外へ運び出し、皆でいそいそと宿裏の地面を掘り返し彼女を埋葬し始めた。
犯人捜しは後回しなのか。
そうなのか。
今回は事件を解決してくれるようなエキセントリックワニはいない。
だから皆で協力し合って解決に挑まなければならない。私はこのパーティーの中にプリメラを殺害した犯人が居ると思っている。事故な訳が無い。あと、どう考えても聖職者の格好をしたアナーゴが怪しい。
「コハル、気は済んだか?」
「へ?」
「そろそろ此処を出よう」
リビングで犯人の事を考えていると、リュカさんに声を掛けられた。
彼は相変わらず我関せずを貫き通すようで、私に席を立つよう促した。
リュカさんの手に引かれ私が席から立ち上がると、急にパーティーメンバーの剣士風の男性が声を上げる。
「怪しいなお前達!もしかしてプリメラを殺したのはお前達なんじゃないのか!?」
「確かにそうね。フードも目深に被って怪しいわ」
「あぁなんと嘆かわしい」
何なんだこの人達は。
私達が何も反論しない事を良い事に、彼らはベラベラと妄想劇を繰り広げ始めた。
そしてリュカさんの堪忍袋の緒が切れる。
リュカさんは人差し指を立て「耳かましきまで鳴く声に貸す耳も価値も無し」と発し、指を彼らに向け横にゆっくりと優雅に動かす。すると先ほどまでベラベラと喋っていた彼らの口が、何かに縫い付けられるように徐々に閉じていった。
「首と胴体が繋がっているだけ有難いと思え」
「ラスボスみたいな台詞ですね」
「コハルは少し黙っていて」
「はい、すみません」
リュカさんは一人一人のアリバイを説明していき、最終的に犯人は剣士の男だと締めくくる。
証拠は浴室に入っていないのに剣士の男の袖が濡れていた事と、昨日無かったはずのひっかき傷が出来ていた事。シャワホースがプリメラの首に巻き付いたのは、彼が部屋から遠隔魔法で操っていたからだと氷魔法で編み出した記憶水晶で実際の様子を見せてくれた。
リュカさんが魔法を解くと剣士は力なく床に膝を着き、浮気相手と付き合う為にはあの女が邪魔だったと自供し始めた。そして日頃から注意が多く口煩いアナーゴを犯人に仕立て上げ、新しくパーティーを組もうと企んでいた事まで自白した。
「見損なったわ」
浮気相手であろう冒険者服を着た女性が、剣士の頬をパンッと叩く。
アナーゴはそれを無表情で黙ったまま見つめている。
「一件落着か」
「おおー、水戸黄門みたいですね」
「何だそれは?」
「悪い人たちを懲らしめてくれる偉いおじいちゃんの事です」
「爺…、また爺か」
「凄い偉人なんですよ」
「…そうか」
褒めているのにリュカさんの顔色は悪い。
服の中に隠れていた大福を肩に乗せ、私達は宿から出た。
聖職者の格好をしたアナーゴさんがリュカさんに何か話しかけようと追いかけてきたが、リュカさんは気づかないふりをして進んでいく。
「良かったんですか?」
「あの女は夜に私とコハルが眠る部屋に忍び込もうとしてきた」
「え!?」
「無論部屋には入れていないよ。察知した瞬間にあの女の脳裏に恐怖を叩きこんでおいた」
「お、恐ろしい」
「全くだ」
「いやリュカさんがですよ」
アナーゴさんは金品を奪う為に私達の部屋に忍び込もうとしていたそうだ。
しかも彼らは冒険者じゃなく、冒険者を装った盗賊団の一グループだとリュカさんが教えてくれた。
その盗賊団の首領はスゥ・シュナイダーという人物で、いつも何かしらのアナグラムを会話の中に紛れ込ます事で有名らしい。
「あなぐらむ?」
「並び変えると違う意味になる」
「なるほど。でも私もリュカさんもあの人達とそんなに喋ってませんよね」
「ああ。だが最初に一方的に言ってきただろう『浮気するなんて最低』と」
「それがアナグラムですか?」
「そうだ。並び替えると何になると思う?」
「ん~浮気…最低…あ!『わいなんてキスうるさいて?』」
「全然違う。むしろどういう意味だ」
「深く考えないでください。答えは何なんですか?」
「『悪いな すう 天才的』だ」
「うわー自分の名前入れるとか腹立ちますね。しかも何を伝えたいんでしょうか」
「己の名を残すことで有名な盗賊団になりたいのだろう。だが先月テッレディスェホンムで推理好きのエキセントリックワニが一斉検挙に成功したと“トドロケ驚け新聞”に載っていた」
「壊滅寸前じゃないですか」
「そうだな。悪い事はしないに限るよ」
イイネありがとうございます!今話もイイネやブクマよろしくお願いします!
おまけ
~一件落着後のリュシアンと小春~
「リュカさん、リュカさん!」
「何だ?」
「真実はいつも?」
「闇の中だな」
「最悪じゃないですか」
「目に見える真実などそう多くはないよ」
「それは確かにそうかもしれませんね」




