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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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天空に住まう者たち



 ウメユキさんと別れたあと、私達は野営ポイントに着く前に突如出現したワープホールに飲み込まれた。

 

 ワープホールは転移魔法が誤発動した時に現れる。

 きっとこの近くにあるダンジョンに潜っていた冒険者が誤って発動させてしまったのだろう。そうリュカさんが冷静に状況を説明してくれた。

 そしてワープホールは何処にでも繋がっている。

 私達が落とされた場所はブルリモン国から遠く離れた、シキィロ横丁という町だ。

 ここは天使族が治める国で、龍の国ルシェールよりは低いが空にある。住民は皆翼を持っており、一日の大半を翼のブラッシングや手入れをして過ごすそうだ。




「天使族がいるという事は悪魔族もいるんですか?」

「ああ。魔国の隣だ」

「へぇー。天使と悪魔は仲が悪いですか?」

「いや、そんな話は聞いた事がない。天使族が森の民を苦手としているという話は聞いた事があるが、実際はどうだろうね」

「何かあったんですかね」

「同族嫌悪というやつだろう。天使族も森の民も気に入った者は何でも自分の物にしたがる。私の刻印が無ければコハルもフィーに攫われていただろうな」

「へ?」

「以前、彼女から虹色の葉を貰っただろう?」

「はい、貰いました」

「あれは森の民が気に入った者にだけ贈る通行証だ。天使族は自分の羽に魔力を込めた物を贈る。そしてその通行証で入った者は自力では出られない」




 え、フィーさんが?まさか…。

 でも、今思い返せば危ない発言が多かったような気がしなくもない。




「もしコハルが森の民の国へ行きたいのなら、その虹色の葉を使わなくても行き来する事はできる」

「どうやってですか?」

「ルシェールに戻れば良い。昔、妖精の悪戯でルシェールにある星の森と、森の民が治める国の森が繋がれてしまったんだ。あまり使う者はいないが前に私の邸に訪れたロイフォード・エヴグラーフォヴィチが年に数度行き来しているよ」

「…あ。あのリアルに花を背後に咲き乱れさせながら歩いていた雅な方ですね?」

「雅?コハルにはそう見えるのか。それにしてもコハルは面白い覚え方をしているな。普通は相談役として記憶する者が多いというのに」





 相談役という階級が凄いのは知っているけど、漫画みたいにバックに花を咲き乱れさせながら歩いている人がリアルに居るという事の方が私にとっては衝撃的だった。

 あとエビフライみたいな名前で美味しそうだなと思った事も覚えている。

 




 私はリュカさんの説明を聞きながらシキィロ横丁の街並みを眺める。

 この町は一面真っ白で、屋根だけが青い。

 空にはギリシャ神話に出てきそうな天使が優雅に翼をはためかせている。

 私の肩に乗っている大福も興味深々なのかソワソワしている。文二はいつもの如く姿を消しているが、きっとこっそり付いてきているだろう。





「リュカさんはシキィロ横丁に来た事がありますか?」

「此処は初めてだ。私が以前訪れたのはハルイッショク大手通りだ」

「仕事ですか?」

「いや、旅をしていた時だ。ハルイッショク大手通りには世界的に有名な化粧品作りをしている職人が住んでいる。だから領地の花を使って化粧水やクリームが作れないかとヒントを得に来たんだ。あの時は確かユメヒバナも一緒だったな」

「ユメヒバナさんは退屈してそうですね」

「そうでもないよ。彼の趣味はテラリウムだからね。隣の店のコケを熱心に見ていた」

「え?テラリウムってあのガラス容器に小さな庭を造るやつですか?」

「そうだよ」

「意外です。妖刀集めとか、そういうのが趣味かと思ってました」




 私の発言にリュカさんがふふっと笑う。

 どういう意味で笑ったんだろう。もしかして私が想像しているテラリウムとこの世界のテラリウムは違うのかな。それとも妖刀集めをしてそうという発言で笑ったのかな。どちらにせよ、もしユメヒバナさんが私が育った世界に来たら、きっとテラリウムに飾れるガチャガチャのフィギュアをブン回すんだろうな。




「珍しいで言えばウメユキの方だろうね。あいつは呪いが掛かった面を集めるのが趣味だ」

「えぇぇー。呪いが怖くないんですかね」

「忍冬一族は呪詛返しを得意とする一族だから怖くないだろうな。それにそんな事に怯えていては特務部隊の隊長は務まらないよ」

「なるほど。もう凄いという言葉しか出てこないです。もしかしてリュカさんもウメユキさんみたいに特殊な趣味ですか?」

「ふふっ違うよ。私の趣味は天空古代語やまだ解明されていない文字の調査かな。でも今はこうやってコハルと話す時が一番心躍る」

「え、あ、それは…どうもです」





 やっぱり不意打ちでくるリュカさんの甘い言葉が苦手だ。

 今も赤面している私の頬をつついて遊んでいる。止めて欲しい。

 なので私は苦し紛れにリュカさんが好きそうな話題に無理矢理切り替えた。

 天空古代語が何かとかよく分からないけど、たぶんエジプト文明とかエイリアンの話は好きだと思う。

 

 

 エイリアンの説明に私が詰まっていると、リュカさんがある一軒家の前で足を止めた。ドアには「キューピッド直送便」と書いてある。

 



「此処に入るんですか?」

「そうだよ。本来なら最後に来ようと思っていたけどワープホールで飛ばされてしまったからね。先にこの依頼を済ませようと思う」





 なんと依頼内容は両片思いの二人をくっつける事。

 依頼者は両方のご両親からで、二人はかれこれ50年以上もお互いに片思いし続けているらしい。周りが告白しても大丈夫だと言っているのに疑心暗鬼が酷すぎて進展しないそうだ。だから周りがキューピッド直送便に依頼して二人をくっつけようとしている。

 特務部隊は何でもやると聞いていたが、何でもの範囲が広すぎやしないだろうか。そもそも自分達でキューピッドに依頼した方が安く済む気がする。




「何で依頼者は自分たちでキューピッドにお願いしないんですか?」

「翼を持たない種族だからだ。それに龍族に頼んだ方がこういった内容の依頼は安いからね。他にも翼を持った種族はいるが冒険者や他国に頼むと高額になる事が多い」

「何でですか?」

「危険を冒してまで人の恋を叶えるのが癪に障るからだろう」





 こちらの世界でもリア充爆発しろという概念はあるのか。




 「キューピッド直送便」の店内へ入るとハートをモチーフにした飾りが至る所に置いてあり、リュカさんが受付の天使にくっつけたい二人の名前を告げる。そして依頼料を支払うと担当になった天使が私達を二階へと案内し、壁に貼ってある巨大な世界地図に二人の名前を入力した。


 何人かヒットする名前があったようで、天使がリュカさんに国と種族を確認する。

 因みに私達の担当となった天使は頭に光る輪っかがあり、小さな白い翼が生えている。格好は褌のみを履いており、そこには両片思い担当と書いてあった。




「このお二人で間違いない?」

「ああ。頼む」

「あいよ」




 すると担当天使がプルンドゥアという羽ペンで、世界地図の上に表示された二人の名前を赤い線で繋ぎ始めた。線は一直線という訳ではなく、手書きなのでガタガタしている。




「はい。これで完了です。一階で終了証渡しますんで待っといてください」

「分かった」

「え?これで終わりなんですか?弓矢で打たないんですか?」

「それは複雑恋愛のみですよ。はははっ。両片思いの場合は簡単ですんで赤い線を引くだけで良いんです。弓を使ってもできますけど、あれ結構難しいんです。線引く方が我々からしても楽ですし割引対象にもなるんでお得ですよ~」




 本当に効果があるのか疑いたくなる。

 でも、お客さんが多いのできっと効果があるのだろう。今受付には長蛇の列ができている。


 この「キューピッド直送便」の一階にはお土産屋さんがあり、そこには天使の羽に赤い太文字で『恋、叶えたりまっせ』というかなり上から目線の言葉が書かかれたアクセサリーが置いてある。値段は500ベティなので手土産には丁度良い。だからなのか終了証を受け取りに行った人達のほとんどが購入していた。




「リュカさんも買いますか?」

「私には必要ない。コハルは欲しいのか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか」




 リュカさんは嬉しそうに私の頭を優しく撫でた。





ブクマやイイネありがとうございます!!


おまけ①~趣味~


「コハルの趣味は何だ?」

「ん~寝る事です」

「寝る事が趣味?それはどういった意味の"寝る"だ」

「普通に睡眠ですよ。何でキレ気味なんですか」

「睡眠が趣味?どういう事だ?意味が分からない」

「えぇー意味と言われましても・・・。えっと、ふわふわのベッドの上に泥の様に眠るのが良いんです。あと寒い日の布団の中とか最高です!」

「それは趣味なのか?」



おまけ②~言うんじゃなかった~


「コハルの言う布団の中を体験してみたい」

「え?」

「最高なのだろう?」

「まぁ最高ですけど」

「では早速今日の夜一緒に試そう」

「一緒には遠慮します」

「遠慮は良くない。私にはありのままで接してくれ」

「じゃあナチュラルに暴走するクセどうにかしてください」

「暴走など一度もした覚えはない」



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