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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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空のスポーツと不穏な動き




 自分の気持ちを自覚したからといって恋愛初心者の私がすぐに行動に移せる訳もなく、日々は淡々と過ぎて行く。


 この世界で初めて泊まった豪華な宿は本当に楽しかった。

 それは単にリゾートホテルだからという訳ではなく、リュカさんやウメユキさん、フィーさん、ユメヒバナさんといった気心の知れた人たちと過ごせたからだと思う。文二や大福は人目に付きたくないという理由で部屋以外の場所には姿を現さなかった。


 この宿には宿泊客を飽きさせないようにと色んな娯楽施設があり、射的場以外にも沢山遊び場がある。

 中でも一番楽しかったのは飛行体験レースだ。

 レース会場には魔女が乗っていそうな箒が壁に立てかけてあり、出場者はそれに乗って上空にある障害物を交わしながらゴールに向かうというスポーツだ。これはプロ選手がいるくらい人気な競技らしい。

 団体戦や個人戦もあり、優勝した人は賞金が貰える。レースに参加しない観客はその団体や個人選手にお金を賭けて楽しむそうだ。

 私が育った世界でいう競馬やボートレースみたいなものかもしれない。

 


 皆経験があるようなので私だけリュカさんと一緒に箒に跨り、いよいよ空へと浮上する。

 上空から見るブルリモン国はテーマパークのように見えた。

 


 それぞれがスタート位置に着き、私は皆の個性豊かな箒の乗り方に驚く。

 まずユメヒバナさんは箒に跨っていない。箒の上に前のめりに立っている。今からサーフィンでも始めるんじゃないかという勢いだ。あと体感が良いどころの騒ぎじゃない。

 対してフィーさんは箒に横座りしている。よく漫画やアニメで魔女が座っているような座り方だ。

 そしてウメユキさんは箒に寝そべっている。全くと言っていい程にやる気を感じられない。

 私はもちろん超が付くほどのド級の初心者なので箒に跨っている。後ろに居るリュカさんもだ。近くてドキドキするけど、このドキドキはきっと違うドキドキも混ざっていると思う。だから耳元で麗しい声が聞こえてくるけど無視だ無視。

 

 ピー!と開始の音が鳴り、ユメヒバナさんとフィーさんがフルスロットル全開で飛んで行った。

 早すぎて追いつける気がしない。

 リュカさんは全く競うつもりが無いのか、超安全運転だ。たぶん時速にして20kmもないと思う。隣には箒の上に器用に寝っ転がっているウメユキさんもいる。





「フィーさんとユメヒバナさん凄い速さで飛んでいきましたね」

「そうだな」

「追いかけなくても良いんですか?」

「ふふっコハルはん、このスポーツは早うゴールせなアカンけど攻撃も有りなんやで?」

「?」

「要はあの二人がゴールする前に箒から落とせば私達の勝ちという事だ」

「物騒なスポーツですね」

「コハルが居た世界ではこういうスポーツは無かったのか?」

「ん~無かったと思います。そもそも空を飛ぶ競技自体が少ないので。あ、でも鳥人間コンテストという大会はありましたよ」

「鳥になるのか?」

「着水までの飛行距離を競うスポーツです」

「鳥は?」





 ウメユキさんからの質問に私は答える事ができなかった。

 確かに鳥人間コンテストでの鳥の要素は少ない。人力飛行機コンテストと伝えた方が分かりやすかったかもしれない。

 

 結局私達は障害物をゆる~く交わしながらゴールへと辿り着いた。ゴール付近にはぶーたれたユメヒバナさんが待っており、文句を言いながら私の頭を小突いてきた。

 きっと彼は本気で勝負がしたかったのだろう。ごめんなさい。

 リュカさんは最後まで安全飛行だった。


 




「リュカさん、一途にリュカさんを待っていたユメヒバナさんにファンサをお願いします」

「ふぁんさ?」

「えーと手を振ったり、手でこうバキューンと撃ったりしてファンとコミュニケーションを取る事です。あ、でもユメヒバナさんにはこういうファンサよりも組手の方が喜ぶかもしれませんね」

「そうか。撃てば良いのか」

「え、ちょ待っリュカさぁぁぁああああああん!!」






 私がお手本で示した銃のジェスチャーをリュカさんが真似し、指先から高速で氷柱を放った。

 今回はリュカさんの近くにユメヒバナさんが居た為避ける事が出来ず、彼は私の説明不足による尊い犠牲となってしまった。

 すみません。




「オイ、面貸せやコハル」

「嫌です」



 ユメヒバナさんは私を普通にしばいてくるので、今近づくと秒殺されるかもしれない。

 とりあえず私は彼の機嫌を取ろうと「顔面から血を流していてもユメヒバナさんはイケメンですね!」とヨイショしておいた。

 



***




 フィーさんとユメヒバナさんとはブルリモン国を出た所で別れ、ウメユキさんとは次の国に向かう途中の森まで一緒に行く。

 フィーさんとユメヒバナさんと別れる際、ユメヒバナさんから護衛の任で一時期就いていたサンタ猿のケツみてぇな頭した女がお前を探していると言われた。

 彼女が私の存在を知ったのは、コンソメスープが原因だそうだ。

 

 それは初めて私がユメヒバナさんとフィーさんに出会った時に教えた料理だ。

 あの時、幌馬車を引いてくれていた御者にもコンソメスープの作り方を教えている。そしてこの世界の食の向上のためにも広めて欲しいとお願いしたような気がする。まさか彼女の元にまで届くとは。

 


 彼女の名前は三田尻(みたじり) 亜加(あか)

 ユメヒバナさんやフィーさんからしたら聞き慣れない名前だったので思い出すのに一苦労したらしい。

 因みにリュカさんとウメユキさんは三田尻さんの名前を事前にルシェールで入手していたそうだ。私に教えなかったのは三田尻さんを調べた際に良くない情報しか集まらず、もし私がその内容を知ってしまったらショックで死んでしまう可能性があるかもしれないと判断した為だ。

 私がショック死しそうなくらいの情報とは何だろう。余計気になる。

 

 彼女は聖魔法で魔物を退治しに行った際、出店にあったコンソメスープを飲み、その懐かしい味に自分以外にも召喚された人間がこの世界に居るかもしれないと感づいたそうだ。

 そして店主にこのコンソメスープを作ったのは誰かと聞き、自分だと答えられたのでレシピは?と聞くと御者経由で私に辿り着いたらしい。しかし私についての細かい情報は入手できなかったので、現在は護衛に探らせている状態だという。


 どういう思いで三田尻さんが私に会いたがっているのかは分からないけど、私は正直会いたくない。

 前は会ってみたいなと思っていたけど、冷静に考えてみると彼女がユメヒバナさんやフィーさんにとった態度は良くないものばかりだ。護衛の人にお願いして転移魔法でフィーさんとユメヒバナさんを僻地へ飛ばすような人に私は会いたくない。

 そもそも彼女は私と会って何がしたいんだろう。きっと良い理由じゃない気がする。

 それに彼女が居るボラギン国ではなく、彼女自身が私を探しているという事に引っかかる。

 うん。不安要素しかない。

 





「リュカさん、今回の任務でボラギンに行く予定はありますか?」

「ないよ。近くの国には寄るけどね」

「そうですか」

「迂回するいう手もあるよ?あの辺やったら飛行船あるやろうし」

「飛行船は無しだ。エキセントリックワニに襲われる可能性がある」

「ボラギン国の付近のエキセントリックワニは危ないんですか?」

「鬼婆に乗って攻撃を仕掛けてくる」

「わお。全然想像できないです」

「せやった。コハルはん鬼人族の国来た事あらへんかったな」

「?」

「鬼婆は基本、鬼人族が住む国の地獄畑に住んでいる。だが最近では地獄畑を荒らしたサンタ猿の皮を剝ぐ為にエキセントリックワニと協力してボラギン国付近の上空を飛んでいる」

「やっぱり全然想像できないです。そもそもどうやって鬼婆が飛ぶんですか?」

「むしろ飛ばない鬼婆などいるのか?」

「え?」






 この世界ではどうやら鬼婆は空を飛ぶのが当然という認識らしい。そして鬼婆がエキセントリックワニをおんぶして攻撃を手当たり次第に仕掛けてくるそうだ。

 手当たり次第にって・・・。

 サンタ猿関係ないじゃんと言いたい。



 そういえばユメヒバナさんからチャッカマンを返してもらうのを忘れていた。

 彼の事だから火が着かなくなったと言って、そこら辺に捨てていそうな可能性がある。

 早くこの世界にスマホなるものが普及されてほしい。

 




「ほんならウチは此処で一旦お別れや。またなリュカ君、コハルはん」

「ああ」

「はい、お元気で」





 ウメユキさんとも森の中で別れ、あっという間にリュカさんと文二、大福と私だけになった。

 いつもなら自然に会話を始められるのに、自分の気持ちを自覚してしまったがためにリュカさんに話しかけづらい。

 どのタイミングで告白の返事をしたら良いんだろう。




「今である」

「絶対違うと思う」

「何がだ?」

「キュキュー?」





 文二は読心術でも心得ているのかというほどタイミング良く私に助言してきた。

 これは恋愛が進むようにとお世話してくれている・・・という理解で良いのかな?





ブクマやイイネありがとうございます!


おまけ~地獄畑~


「地獄畑ってどんな所なんですか?」

「野菜の直売所だ」

「へぇ~新鮮な野菜が売ってありそうで良いですね」

「ふふっ地獄畑は劣悪な環境やから干からびた野菜がほとんどやで」

「え?売れるんですか?」

「売りつけてくる」

「えぇー。ぼったくりバーみたいな所ですね」


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