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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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郷土料理とエルフのアシスト



 私が中々リュカさんに近づかないでいると、彼は血の匂いの事について謝ってきた。小春は勘違いをしているだとか、よく分からない事まで言っている。



「?勘違いって何ですか?」

「…言うと私を変態扱いする事は目に見えている。だから言わない」

「逆に凄く気になるんですけど」




 リュカさんが全く口を割らないので私は諦め、臭いの事は気にしない事にした。

 一応フィーさんが帰ってきたら臭うかどうかだけ聞いてみようと思う。


 リュカさんと分裂した世話師猫たちが作っていた料理は龍の国ルシェールの郷土料理で、虹の包み揚げというものだ。体調が悪い時や体を温めたい時に食べる定番の料理だそうで、家庭によって中に包む物が違うらしい。当然私は虹を食べるのが初めてなので味も形も想像できない。一体どんな見た目をしているんだろう。

 ワクワクした気持ちで座っていると、机の上にスープが入った深皿が置かれた。

 中には虹の包み揚げが入っており、見る角度によって色が変わる。見た目は高熱の飴を溶かして引っ張った時に出来る細長い糸のような物が、葉で包んだ何かを覆うように何重にもかけてある。

 スプーンが置いてあったので「いただきます」をしてから割ってみると、葉の中からは一口サイズの野菜が出て来た。他の虹の包み揚げにはフルーツが入っている。

 私はリュカさんと文二に見守られながらスプーンでスープと虹の包み揚げを掬い、ドキドキとワクワクの気持ちいっぱいで口の中に入れた。




「おっ美味しい!」

「コハルの口に合って良かった」

「虹ってこんな味がするんですね。甘いような、でもほんのちょっと苦いような。あれ?でもこっちのは豚骨みたいに濃厚な味がする」

「ふふっ採れた場所が違うからね。それに時間が経つと色が変化するから味も変わる」

「不思議な料理ですね。中の野菜や果物も特別なものですか?」

「いや、それは普通に市場で売ってあったものだ」





 リュカさん、文二、大福と一緒に虹の包み揚げを食べ、私はまたイケメンによる甲斐甲斐しい介護生活に戻った。



***


 

 あれから五日が経ち、迎賓館で接待という名の宿泊を終えたウメユキさんとフィーさん、ユメヒバナさんが帰ってきた。リュカさんはウメユキさんと話しがあるため、今はウメユキさんの部屋に行っている。

 私は現在ベッドの中だ。月のものによる体調不良も落ち着いてきたので体を動かしたいのだが、リュカさんから絶対にベッドから出るなと言われているので大人しく寝ている。暇でしょうがない。

 文二と大福をもふりながらぼーっと天井を見ていると、部屋の戸がノックされた。




「フィーだ」

「どうぞ」





 フィーさんは手土産を持って部屋に入って来ると、私が眠るベッドの側に置いてある椅子に座り、体調はどうだと尋ねてきた。

 大丈夫ですよと答えると柔らかく微笑み、私の頬をひと撫でする。ここの人たちは私の顔を触るのが好きな人が多い。リュカさん曰く柔らかくて気持ちが良いからだそうだが、触られる方からすれば恥ずかしくてむず痒いので止めて欲しい。文二も大福も私が寝込んでいる間、頬を何度もてしてしと触ってきた。

 




「吾とユメは明日ブルリモン国を発つ」

「そうなんですね。もう少し一緒に居たかったです」

「吾もだ。またコハルと会える事を楽しみにしている」

「はい、私もです」

「コハルは脆く儚いから心配だ」

「大丈夫ですよ。私、最初に出会った時よりは強くなったので!」

「そうか」

「それと、あの、フィーさん」

「ん?」

「ちょっと相談というか、お聞きしたい事があるんですけど」

「何だ?」




 私はこのタイミングで生理中の臭いについて相談した。

 血の臭いはするそうだが悪臭とかではなく、美味しそうな匂いがするらしい。私の股から。

 なんか、こう…色んな意味でショックは受けなかったが恥ずかしい事に変わりはない。




「他に聞きたい事はあるか?」

「えっと、実はもう一つありまして」

「言ってみろ」

「ひ、人を好きになるっ瞬間っていつだと思いますか?」

「瞬間か、難しい質問だな」

「じゃあ、えーっとこの人と結婚したいなとか、好きだなってどういう時に思いますか?前にリュカさんから嫁に来て欲しいと告白されたんですけど、どう答えて良いのかよく分からなくて。好きって何だろうって考えるとどんどん自分の中での答えがまとまらなくなって」

「そうか」

「好きって何だと思いますか?」

「離れていてもその者の事を考えていれば、それは好きなのだと吾は思う」

「離れていても…」

「例えば新しい物に出会った時、食べた時、あいつはコレが好きだろうかと頭に過るのならば、それは好きの内に入ると吾は思う。コハルにそういう者はいるか?」

「私に…」

「ではもしこの部屋に急に精霊王が現れたらコハルは誰に伝えたい?今、真っ先に思い浮かべた者の名は誰だ」

「…リュカさん」

「それが答えなのではないか?」

「?」

「コハルの傍には常にカーバンクルのダイフクや世話師猫のブンジがいる。にも関わらずデルヴァンクールの者の名が出てくるという事はそういう事ではないのか?」

「そうなんですかね…。でもそうだとしたら一つ疑問が残るんです。私はリュカさんとフィーさんが隣同士で歩いていた時に嫉妬したりしませんでした。普通、好きな人が綺麗な女性と歩いていたらモヤッとしませんか?」

「吾ではなく他の女と歩いているのをたまたまコハルが目撃したとしたら、答えは変わるか?」

「あ…」

「ふっ。どうやら答えが出たようだな」




 一瞬で心の内がモヤモヤでいっぱいになった。

 私はやっぱりリュカさんをそういう対象として好きなんだ。そう思うと、認めてしまうと、心が一気に軽くなった。





「フィーさん、話を聞いてくれてありがとう」

「ああ、もしデルヴァンクールの者に飽いたら吾の元に来い。いつでも歓迎する」

「あははっそうしますね」

「吾はいつでも本気だからな」




 私達の会話が終わったの同時に部屋の戸が開き、リュカさんとウメユキさんが入ってきた。

 そしてリュカさんが私の体調を確認する。

 数日間寝たきり状態だったので体を動かしたいと相談すると、彼は少しだけ考えるそぶりを見せてから歩いて食材を買い出しに行くかと言ってくれた。出かけるメンバーは私とリュカさん、ウメユキさん、フィーさんだ。ユメヒバナさんは宿の中にある射的場で観光客と遊んでいるらしい。私もちょっとやってみたい。


 出かける準備を整え買い出し後に私も射的場に行ってみたいと伝えると、リュカさんから案外すんなりと承諾が得られた。

 銃の種類は拳銃、散弾銃、機関銃と色々あるらしく、ウメユキさんもリュカさんも久々に競うかと言って盛り上がっている。思っていた以上に物騒な言葉が飛び交っているので今更行きたくない等とは言えない雰囲気だ。

 もうそろそろ市場に着くという所で、観光客と思しき狐耳の獣人族の人とすれ違った。もしかしたら狐じゃなくて犬だったかもしれない。見分けるポイントが分からなかった私はもう一度振り返ってその獣人族の耳を見た。




「コハル、今あの獣人の男を見ていたな」

「へ?」

「私というものがありながら他の男を見るなど…」

「ええ!?」

「私では不満という事か?」

「え!?何がですか!?ていうかむしろ一杯一杯で」

「コハルは私だけを見つめていれば良い。さあ」

「うわ顔近ッ!美しすぎて目がーッ!」

「コハルは大変だな」

「せやなぁ。でもリュカ君がぶっ壊れるんコハルはんの前でだけやから、コハルはんにはもっと頑張って欲しいわ。見てておもろいし」





 ウメユキさんの本心が聞こえたような気がするが今はそれどころじゃない。リュカさんが私の顔をがっしりと両手で包み込むように捕まえている。恥ずかしすぎて顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。

 私はほんの数分前にやっと自分の気持ちを自覚したばかりだ。

 もうちょっと初心者向けの恋愛がしたい。こんな顔面偏差値クソ高美形に顔面を掴まれて近距離で見つめ合うなどというハイレベル上級者向けの恋愛は嫌だ。




「もう離してくださいっリュカさんは美しすぎて緊張するんですっ」

「では緊張しなくなるまで見れば良い。時間はいくらでもある」

「えええ!?無茶苦茶です!それに難易度高すぎます!あと早く市場に行かないと店が閉まっちゃいますよっ」

「そう早くは閉まらない。それにコハルは先ほどあの男の顔を1.7秒見つめていた」

「見ていたのは顔じゃなくて耳ですッ」

「私の眼には耳ではなく顔を見ているように写った。3秒以上俺を見ろコハル」

「えっぅわっ」

「1」

「っ」

「2」

「~ッ」

「…」

「3まだですか!?」

「もう少し」

「もうギブですっ勘弁してください!」

「その願いは叶えられない」

「破廉恥ぃい!ここ人通りですよ!」

「目を逸らすなコハル。また1からやり直しだ」

「くっははっリュカ君こじれてんなぁー」







ブクマとイイネがちょっとずつ増えてる(*´▽`*)ありがとうございます!


おまけ~イケメンによる介護生活2日目~


「今日は時の魔法について話そう」

「それも興味深いですけど、いつウメユキさんと出会ったのかについても知りたいです」

「幼少期だ。では話を戻そう」

「え!?短っ!」

「アイツの事なんぞ知ってどうする」

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