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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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着ぐるみ着て戦闘開始!



 朝、まだ陽が昇っていない時間に小春が目を覚ます。一同は昨夜、就寝前にウメユキの部屋に集まり害獣を駆除するための大まかな作戦を立てた。ユメヒバナとフィーが特攻で、小春、リュシアン、ウメユキが全体を把握後にユメヒバナとフィーに加勢するというものだ。出発は早朝で、昼過ぎには帰って来るという計画になっている。なのでお弁当はいらない。



 彼らが泊っている部屋にはキングサイズのベッドが二台ある。通常なら一人一台で寝るはずだが、小春はリュシアンの「寒い」という我儘のせいで一緒に寝ている。この国の気候は決して寒くない。龍の国ルシェールよりは涼しいかもしれないが寒いという程ではない。


 朝食作りのため起きたい小春は、自分を抱きしめて眠っているリュシアンに声を掛けた。




「リュカさん起きてください」

「…」

「リュカさーん」




 リュシアンは朝に弱い。そして起きてから覚醒するまでにも時間がかかる。しかし今日の彼は小春の声で目を覚ましていた。だがまだ完全に起きたくないのか彼女の鎖骨辺りに頭をぐりぐりと押し付け始める。言っておくが彼らは付き合っていない。

 当然小春は「破廉恥!」と叫びリュシアンの肩を押し返した。しかし彼女の弱い力ではリュシアンはびくともせず、むしろじゃれているのかと勘違いされ先ほどよりもぎゅっと強く抱きしめられてしまった。





「ぅぐっ」

「…」

「りゅ、リュカさんギブっ!お、折れちゃう…。ていうか息っできなっ」






 その言葉にハッとしたリュシアンは目を完全に覚まし拘束を緩めた。そして小春に「すまなかった」と言い、彼女の目元に口付けを落とす。

 何度でもいうが彼らは付き合っていない。現在リュシアンが小春に絶賛片思い中のため全力でアピールをしているだけだ。


 朝からドキドキが止まらない小春はなんとか彼の腕の中から抜け出し、着替えを済ませてからキッチンへと向かう。今日の朝食はサンドウィッチだ。昨日作ったハンバーグやオニオンフライ、オニオングラタンスープは全て昨日の内に完食されている。なので小春は一からサンドウィッチに挟む具材を作り始めた。

 今回作るサンドウィッチはゴーラントバーデンで出した際に好評だったカツサンドと卵サンド、それにフルーツサンドだ。フルーツサンドはフィーとユメヒバナのためだ。二人ともフルーツ好きで、特にユメヒバナは甘いものに目が無い。彼女はそんなユメヒバナの為にホイップ多めのフルーツサンドを作ろうとしている。

 身支度を整えたリュシアンも朝食作りに加わり、小春に調理方法を教えてもらいながらカツを揚げていく。香ばしいカツの匂いに目を覚ました世話師猫の文二とカーバンクルの大福も途中から参加し、二人と二匹で朝食を完成させた。





「文二、つまみ食いしちゃ駄目だからね」

「…にゃー」





 世話師猫の文二はカツサンドに伸ばしていた前足を引っ込め、小春が見ていない隙に斜めに掛けている鞄にこっそりとカツサンドを入れる。カーバンクルの大福はホイップが気に入ったのか、皿に余ったホイップを舐めている。

 朝食は宿を出発する1時間前にリュシアンと小春の部屋に他の三人が集まり、昨夜同様に感嘆の声をあげながら全員で完食した。もちろん今回のサンドウィッチにも回復効果のあるローリエを使用している。




***



 五人と二匹はブルリモン国の宰相、メッシ・イケメンデスから受け取った地図を頼りに害獣駆除エリアへと入る。此処はブルリモン国内でもまだ未開拓の土地である。そのため自然が多く残されており、害獣が住み着く原因となってしまった。

 一行は害獣駆除エリア内の入り口で着ぐるみに着替え、小春はそのおかしさに堪らず吹き出す。





「ぶふっ」

「笑ってられるのも今の内だぜ。チビ」

「パンダの着ぐるみ姿でそう言われても、やっぱり可笑しいですよっふふっ」

「コハル、頭は重くないか?私は被り物の重さでコハルの首が折れてしまわないかが心配だ」

「折れる事はないと思うので大丈夫です。でも首に負担がかからない様にたまに脱いでストレッチとかして安全につとめますね」

「え?コハルはんこの被りもんの重さでもアカンの?」

「つーか脱がねぇ方が良いんじゃねぇの?」

「吾もそう思う。着ぐるみを着ておけば多少ではあるが防御になる」

「え…あ、あの」




 小春はユメヒバナとフィーの言葉に戸惑いながらも、着ぐるみは長くても30分弱しか着ていられない事を説明する。するとその内容に世話師猫やカーバンクルを含む全員が驚いた。

 まず人間は着ぐるみを着て歩いたり動いたりするだけで大量の汗を掻き、熱中症や脱水症状になる恐れがある。安全に動ける時間は持って20分程度だ。


 この事実に、その場にいる全員が小春の脆く儚い生態に絶句した。





「おまっマジでよく今まで生きてこれたな」

「コハルが此処まで儚いとは…想定外だった」






 リュシアンは苦しそうに眉を顰める。

彼が宿に戻ろうと小春に声を掛けようとした瞬間、地面が大きく揺れ害獣が彼らの前に姿を現した。





「な、なんですか!?あれ!?あの巨大な…何!?」

「害獣確認。二体やな」

「よっしゃー!行くぜフィー!!」

「行くぞユメ!」





 パンダの着ぐるみを着ているにも関わらず、フィーとユメヒバナはいつも通りの軽やかな動きで害獣に向かって走り出す。一方で猫の着ぐるみを着ているリュシアンとウメユキは小春を宿に帰せないと判断したため、二人同時で彼女の周りに防御魔法と結界を張った。

 世話師猫の文二も体毛を黒に変え、カーバンクルの大福も毛を逆立て臨戦態勢に入る。リュシアンは攻撃を仕掛けに行った二人の戦況を冷静に分析しながらも気持ちを切り替え、小春に害獣の説明を始めた。




「キメェンデスを覚えているか?」

「えーっと、…あ、前にダンジョンにいた虫ですね?」

「そうだ。あれが成長するとキモイガナになる」

「もしかして」

「そうだよ、今回依頼があった害獣駆除はキモイガナだ。最終形態のキモチワルになる前に駆除しておかないと後々面倒な事になる」




 キメェンデスは胴体がカブト虫のような甲虫で、翼の部分がミミズのようにうねうねと羽ばたいている虫だ。それが成長するとキモイガナになる。キモイガナは全長10メートルもの巨大な害獣で、顔はカマキリに似ており胴体はムカデのような見た目をしている。見た目が気持ち悪すぎるせいでショック死する者もいる。


 阿吽の呼吸で繰り出される攻撃に小春は「凄い」、と目が釘付けになり声を漏らす。

 彼女は自分に想いを寄せるリュシアンが近くに居るにも関わらず、着ぐるみパンダ姿のユメヒバナとフィーの息の合った魔法攻撃や体術に瞳をキラキラさせ食い入るように見ていた。当然面白くないと感じたリュシアンは大人げなく行動に移す。




「ウメユキ」

「了解やでリュカ君」





 リュシアンは小春の側を離れる前に一瞬で人一人が入れる巨大な鳥籠を氷魔法で編み出し、彼女をその中に閉じ込めた。この氷の鳥籠にも強力な守護魔法が掛けられてある。

 デザインは美しく芸術品のようだが、リュシアンの元々持つ生真面目な性格ゆえにこの鳥籠にはしっかりと扉がある。頭があまり良くない小春は扉を開けようとしたが、肩に乗っている大福がそれを制した。

 フィーとユメヒバナが一旦呼吸を整えるため木の枝に着地し、タイミングを見計らってから猫の着ぐるみ姿のウメユキとリュシアンが空高く飛び上がり詠唱する。





「咲き誇れ、紅梅(べにうめ)!」

「狂い咲け、氷龍!」





 キジトラの着ぐるみを着たウメユキの手に握られていた刀が姿を変え、猛毒を帯びた大量の紅梅の花びらとなり一体のキモイガナを覆う。花びらに飲み込まれた害獣は動きが鈍り、苦しそうに悶え始めた。

 ウメユキが放った魔法は忍冬(すいかずら)一族が得意とする猛毒を含んだ血脈(けつみゃく)魔法だ。血脈魔法とはその一族だけが使用する事ができる魔法の事だ。

 彼が先ほど放った血脈魔法の内の一つ『紅梅』は、花弁一つ一つに猛毒が仕込まれており触れただけでその毒が感染する。まずは痺れから始まり、徐々に腐り落ちていき最終的には死に至る。


 続いて三毛猫の着ぐるみ姿のリュシアンが氷魔法で生み出した巨大な氷龍は、もう一体のキモイガナに向かってブレスを噴く。氷龍のブレスをおもいきり食らったキモイガナは結晶化していき、倒れる事すらなく体が氷の粒となって消え始めた。

 リュシアンが放ったこの氷魔法は、氷龍が噴くブレスや体に当たるとそこから結晶化していき、最終的には跡形も消えて無くなる。結晶化していく様は幻想的で美しいが、消えた後は初めからそこに何もなかったかの様にしてこの世から消されるので残酷な魔法でもある。


 二体のキモイガナはウメユキとリュシアンが放った魔法に苦しめられ、動きを止める。

 完全に鎮静化した事をウメユキが確認すると、彼はユメヒバナを呼んで着ぐるみを脱ぎ始めた。そして倒れている二体の巨大な害獣に向かって印を結び同時に祝詞を詠み上げる。




「悪しきを祓い安らかに眠れ、忍冬一族が命ず」

「悪しきを祓い安らかに眠れ、朱夏(しゅか)一族が命ず」

「「鬼神流(きじんりゅう)成敗(せいばい)!!」」




 パンッ!と二人が胸の前で両の掌を勢いよく合わせる。すると二体のキモイガナの上空に紙垂で飾られた注連縄が円を描くようにして現れ、その円の中から複数の朱色と黒色の鳥居がキモイガナ目掛けて動きを封じるよう落ちてきた。

 そもそもこの二体のキモイガナはリュシアンとウメユキから受けた毒と結晶化でもう暴れる体力も体もほぼほぼ残っていない。その為、特に暴れる事も無く鳥居に動きを封じられた。

 この朱色と黒色の鳥居は対象物を押さえ込む際に使用する事もあるが、本来はこちら側の勝手な理由で殺めてしまっているので、誰も祟らず安らかに眠ってくださいと天に還すためのものだ。


 キモイガナの見た目はショックを受ける程に気持ち悪い。だがただの巨大な虫だ。そこら辺を飛んでいる小さな虫と変わりない。

 害獣とされているのはハードボイルドベアやエキセントリックワニと違って各種族にとって利になるものが無く、またショック死に至る程の見た目のグロテスクさや不快感、巨大が故に大地を揺るがすせいだ。

 一方的な理由で殺されていけば、いずれキモイガナは「見た目だけの理由で何故ここまでされなければならない」と恨みを持ち魔物に変化する可能性がある。なので鬼人族の霊界葬上(れいかいそうじょう)で最期を送る必要がある。



 鳥居でキモイガナの全身が見えなくなると一つ二つと鳥居も消えていき、大地には荒れた地面だけが残った。





「終わったな」

「えぇー俺、師匠の氷鏡招無限(インフィニティアイス)見たかったー!」

「ユメは早う蜃気楼(ミラージュ)覚え」

「あれ幻術だろ?攻撃力皆無な上に複雑で覚えにきーし面倒」

「相手を惑わし隙を作る事も必要だ」

「そっすよね!師匠!」

「だからお前の師匠になったつもりはない」






 害獣駆除を終えたウメユキ、リュシアン、ユメヒバナ、フィーが小春の元へと帰って来る。

 彼女は四人に「お疲れ様でした」と声をかけ、先ほどの鳥居は何だったのかと聞いた。







「あの鳥居も魔法ですか?」

「あれは魔法ではなく種族葬術(しゅぞくそうじゅつ)といって散っていった命を天に還す術だ。私は龍族だから神仙界の門を開く事ができる」

「しんせんかい?」

「精霊や妖精、神獣を送る場所だ」

「へぇ~。キモイガナとは送る場所が違うんですね」

「冥界なら吾らエルフと魔族に任せろ」

「冥界に霊界に神仙界…。なんか難しい話になりそうなんで、あえてこれ以上聞くのは止めますね」

「賢明な判断やねコハルはん。そうしとき」

「そういえばお前って死んだらどこ行くんだろうな」

「縁起でもない事を言うな」

「そうだぞユメ」

「こらまた仕置きが必要やな」

「でも私が死んだら本当に何処に行くんでしょうね。天国だったら良いな」

「てんごく?天に近い国なら私の祖国ルシェールだ。いつでも帰ろう」

「あぁー、リュカさんちょっと意味が違うんです」





 無事に害獣駆除を終えた五人と二匹は宿で汚れを落とした後、五人だけでブッチギリニューイヤーを見に行った。







評価とイイネが増えてる!(*´▽`*)ありがとうございます!!!



おまけ~小春の疑問~


「着ぐるみ着る必要って本当にありましたか?」

「ああ、あったよ。キモイガナは最初私達を動物と認識して食べようとしていたからね」

「へぇ~私達の事食べようとしてたんですね…。え!?それって着ぐるみ着てもリスクあんまり変わらないって事じゃないですか!」

「だが着ぐるみ着て近づかないと先に攻撃を食らってしまう可能性がある。だから着ぐるみは必要だ」

「えぇぇー納得いかない」

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