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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
62/125

買い物の後はリゾートホテルでクッキング

 



 リュシアン、ウメユキ、フィーがテーマパークに居るキャラクターのような着ぐるみを選ぶこと2時間。やっと小春のサイズに合う猫の着ぐるみが見つかった。

店主は申し訳なさそうに冷や汗を掻きながら、こんなにずんぐりむっくりで短足な着ぐるみで良いのかと何度もリュシアンに確認する。小春はその発言に内心一発殴ってもギリ怒られないんじゃないか、私はそんなに短足じゃない、皆がナイスバディなだけだ等と不満を爆発させそうになっていた。




「ところでリュカさんは何の着ぐるみにしたんですか?」

「コハルと一緒でネコだ」





 リュシアンの着ぐるみは三毛猫で小春が黒猫、ウメユキもサイズがあったため猫の着ぐるみを購入している。ウメユキの着ぐるみはキジトラだ。

フィーはサイズが無かった為、ユメヒバナと色違いでパンダの着ぐるみを購入している。フィーが緑でユメヒバナが普通の白黒パンダだ。

 小春はフィーが購入している姿を見て、明日本当にこれを着て皆で害獣駆除をするのかと想像を膨らませる。そして愉快な想像をしてしまったため一人必死に笑いを堪え、笑っているのがバレないよう店の床に視線を落とした。リュシアンは彼女がそんなくだらない理由で肩を震わせ俯いているとは露知らず、害獣との戦闘に脅えているのだと勘違する。





「コハル、私が傍に居るから安心しなさい」

「?ありがとうございます。そういえば、どうして害獣駆除に着ぐるみが必要なんですか?」

「刺激しないように近づく為だ」

「なるほど。でもこの着ぐるみ全部同じ表情で逆に警戒されそうじゃないですか?目は死んでるのに口元は笑ってるってちょっと不気味で怖いです」

「…」

「ほんまやな」






小春の感想にリュシアンは言葉が詰まり、ウメユキは確かにと頷く。



***



 装備品(着ぐるみ)の購入に時間がかかってしまった為、4人はブッチギリニューイヤーを見に行くのを止め、そのまま宿泊先の宿に行く事にした。

 今回泊まる宿は3階建てのゴージャスなホテルだ。

ブルリモン国はリゾート業で成功し国が成り立っているので、普段泊まるような簡素な宿はない。どの宿もリゾートホテルのような外観をしている。


 宿に到着するとウメユキがチェックインを済ませ、部屋のキーをリュシアンに一つ、フィーに一つと渡す。今回彼らが泊まる部屋は3階にあるVIP ROOMだ。

3階は部屋数が3つしかないのでウメユキ達の貸し切り状態になる。

貸し切りにした理由は貴族特有の男女が同室の場合、少しでも扉を開ける必要があるという面倒なマナーを避ける為だ。ホテルのスタッフ側は彼らが服装からして任務で来ていると分かっているが、念には念を入れての行動である。

 フィーも任務によってはウメユキと一緒の部屋に泊まる事があるので特に不満なくウメユキからキーを受け取ったが、小春がいるのなら女性二人で泊った方がいいのでは?と口を開こうとして噤む。

それはリュシアンが前に出会った時よりも小春の事を愛おしそうに見つめているからだ。


 部屋の割り当てはユメヒバナとフィーで一室、ウメユキで一室、リュシアンと小春で一室だ。

どの部屋も内装は同じで客室はリビングとベッドルームがセパレートになっており、キッチンや魔導式洗濯機なども完備されてある。小春が育った世界でいうところのコンドミニアムだ。

割り当てられた部屋に小春が入ろうとするとフィーが頬を染めながら彼女の服の裾を遠慮がちに掴んだ。その行動を見てリュシアンはフィーに対して警戒を強め、黙って事の成り行きを見守る。




「コハル、その、少し頼みがあるのだが」

「どうしたんですかフィーさん」

「あー…」

「此処では話しにく内容ですか?」

「いや、えーっと…その、コハルの」

「私の?」

「コハルの料理がもう一度食べたい!」

「えっ」

「私の為にまた作ってくれないかッ!?金は出す!買い出しにだって行く!」

「それやったらウチもご相伴にあずからせて頂きたいわぁ」

「私もコハルの手料理なら食べたい」

「えええ!?そんな大した物作れませんよ!?」

「そんな事はない!吾は色んな国を旅してきたがコハルの料理が一番美味い!」

「ああ、コハルはもっと自分の腕に自信を持った方が良い」

「リュカ君の言う通りやでコハルはん」

「えぇぇー。大袈裟ですよ」

「で、その、作ってくれるか?」




頬を染めたフィーがもじもじと上目遣いで小春を見つめる。

その姿を見て小春は「うぉぉおお!エルフ最高!フィーさん可愛い!嫁にきて!」と語彙力が吹っ飛びそうなくらい明後日な事を考えていた。




「じゃ、じゃあ頑張って作りますね。因みに食べたい物ってありますか?」

「ありがとうコハル!コハルの料理なら何でも良い。作ってくれるだけで感謝だ」

「リュカさんとウメユキさんはどうですか?」

「私はまだ食べた事がない肉料理を希望する」

「ウチもや」




 リュシアンとウメユキはしっかりと小春に希望を伝え、彼女は何を作ろうかと思案する。

3人ともテヤンデイレッグ以外苦手な食べ物はないという事なので、肉料理はハンバーグで、付け合わせはオニオングラタンスープに決まった。

 各自部屋で軽装に着替え玄関に集合し、宿の近くにある市場へと出かける。カーバンクルの大福はいつも通りベッドの上で丸くなって眠っている。


 市場は沢山の人で賑わっており、小春が4人でぞろぞろ歩くと他の人の邪魔になってしまうので二手に分かれようと提案する。その案を了承した3人は彼女に教えてもらった“じゃんけん”で早速チーム分けを始めた。




「リュカ君よろしゅう」

「ああ」

「コハル、宜しく頼む」

「はい!よろしくお願いしますフィーさん」





 リュシアンは小春と一緒のチームになれなかった事に少し落ち込んだ。


 集合場所を市場の入り口に決め、ハンバーグチームとオニオングラタンスープチームに分かれ早速買い物に出かける。ハンバーグチームがリュシアンとウメユキで、オニオングラタンスープチームがフィーと小春だ。

 気合の入っているフィーは小春の注文通りの食材をテキパキと探し当て、10分も掛からずに二人は集合場所へと戻ってきた。そしてその5分後に大量の肉と頼まれていない物まで購入したリュシアンとウメユキが戻って来た。しかもユメヒバナまで連れている。






「あれ?ユメヒバナさんじゃないですか!何処に行ってたんですか?」

ウメユキ(おっさん)が俺の事ぶん殴って吹っ飛ばした事忘れたのかチビ」

「一言余計ですユメヒバナさん」

「ほんまやで、また教育的指導されたいんか」






 ユメヒバナはウメユキに殴られて吹っ飛ばされた後、フィーの気配を辿って市場まで来ていた。しかし尊敬するリュシアンに背格好が似ている人物を先に見つけた為、フィーではなくその人物を追いかけ始めた。

普通ならリュシアンの隣をフードも被らず歩いているウメユキを見て彼の隣の人物がリュシアンだと気づくはずだが、リュシアンを敬愛するユメヒバナはウメユキの事など眼中になく、人混みを避けながらリュシアンと思しき人物の背を愚直に追いかけていた。そして勇気を持って「リュシアン様!」と声を掛けると彼が振り向いたので、ウメユキは敬愛するリュシアンを背格好と歩き方だけで見抜けたと喜び、満面の笑みで見事に合流を果たした。


 日頃からリュシアン愛をフィーに語っているユメヒバナは、フィーに自分の洞察力は凄いのだと自慢をしながら宿に向かって歩く。





「でな!リュシアン様の一歩一歩踏み出される足がマジで無駄が無くてよぉー!」

「はいはい」

「それさっき聞いたでユメ。何べんも同じ話するやなんてアホ通り越して馬鹿の極みや」





ウメユキが隠すことなくユメヒバナを馬鹿にして鼻で笑う。

小春はその様子を黙って見ており、リュシアンをツンツンと突く。





「どうした?」

「ユメヒバナさんのリュカさん愛凄いですね」

「コイツに好かれても嬉しくない」







 リュシアンは心底嫌そうに顔を歪める。

しかしそんな顔すらも美術品のように美しく、小春は感嘆の息を漏らした。

 

 宿に着き、食材を小春とリュシアンの部屋にある魔導式冷蔵庫に入れる。

ハンバーグとオニオングラタンスープがどんな食べ物かを簡単に小春が説明し、早速全員で調理に取り掛かり始めた。

 まずはブロック肉をハンバーグ用のひき肉にする作業からだ。

フィーから貰った羊皮紙に小春がざっくりとしたレシピを書き、必要な食材をキッチンテーブルの上に置く。ハンバーグ調理の担当になったウメユキがブロック肉をひき肉にする為、小春からひき肉とは何かを教えてもらい完成形をイメージする。

イメージが出来たのかウメユキは掌から刀を取り出し、アイランドキッチンの上に置かれた大量の肉に刃先を向けて構えた。



「降り注げ斑雪(はだれゆき)



詠唱を終えると刀身が消え、無数の刃が豪雪の如く肉に降り注ぐ。

見た目は美しい魔法だが詠唱の3秒後にはブロック肉がミンチ状になり、魔法の美しさと残酷さのギャップを小春は初めて経験した。




「こんなもんでええか?コハルはん」

「お、思ってた以上にミンチになって吃驚です」

「肉の時を戻した方が良いか?」

「いえいえ大丈夫です!お気遣いありがとうございますリュカさん」




玉葱も同様にウメユキが微塵切りにし、飴色になるまで炒めていく。次の工程を小春がリュシアンとウメユキに説明し、ハンバーグチームから一旦離れる。そしてオニオングラタンスープチームのフィーとユメヒバナに作り方の説明を始めた。





「まずは玉葱を薄切りにします」

「手本を頼む」




 小春にレクチャーされながら二人は玉葱を切っていく。

 フィーもユメヒバナも玉葱を切るのは初めてで、目を真っ赤にし涙を堪えながら二人は玉葱を切っている。ハンバーグ作り中のウメユキは、ユメヒバナがえらく大人しいと思い彼を見てその姿に爆笑する。昔から勝ち気で涙とは無縁なユメヒバナの泣き顔は貴重なのだ。フィーもウメユキにつられて笑っている。




「見てんじゃねぇ!!」

「くっははっ」

「ぶふっ」

「フィー!テメェも笑ってんじゃねぇよ!」




 リュシアンは我関せずとして、粗熱のとれた玉葱とミンチ肉とその他の材料を混ぜ合わせ黙々とこねている。

 

 ウメユキに泣き顔を笑われたユメヒバナは高速で玉葱を切り終え、小春に文句を言いながら次の指示を仰ぐ。

次の工程は鍋に切り終えた玉葱と調味料、ローリエ、水を加えて飴色になるまで中火で炒めていくだけだ。出来上がったらスープを耐熱容器に入れ、一切れのパンを浸してその上にチーズを置く。トースターはこの世界にはないので、焼き色がつくまで火魔法で炙れば完成だ。




「これだけで良いのか。どんな味がするのか楽しみだ」

「俺は一生タマネギなんか切らねぇ」

「ユメヒバナさん良い経験になりましたね」




一方、順調と思われるハンバーグチームの二人が不穏な会話を始める。




「リュカ君、空気どれくらい抜く?」

「コハルは軽く投げるようにして空気を抜けと言っていたな…。俺が投げるからキャッチしてみてくれ。それでどれくらい空気が抜けるか試してみよう」

「せやな。あ、けど投げるんやったらある程度固めなアカンのとちゃう?」

「この柔らかい食材を固めるとなると、水分を一度全て飛ばしてみる必要があるな」

「オーケー。ほんなら」

「ちょっ待ってください!」




二人の異常な会話に気付いた小春が制止の声をあげる。

彼女はお手本を見せる為、こねられすぎたハンバーグの素を片手で掬い楕円形に形を整える。そして表面をならし、片手から片手へと軽く投げるようにして空気を抜き始めた。

その様子をリュシアンとウメユキは真剣に見ており、しれっと姿を現した世話師猫の文二も頭に頭巾をかぶり、調理方法のメモを取りながら彼女の手元を真剣に見る。

小春は成形し終えたハンバーグを焼き、ひっくり返すタイミングをリュシアンとウメユキに伝えてからソース作りに取り掛かった。

 文二がしれっと姿を現している事に気付いた彼女は、世話師猫も何か作りたそうにしているのに気付き、ハンバーグソースを一緒に作らないかと誘う。世話師猫は元気よく「にゃ!」と返事をし、ベッドで寝ているカーバンクルの大福を叩き起こしに向かった。そして起きてきたカーバンクルの大福、世話師猫の文二、小春とでデミグラスソースとトマトソースの二種類を作った。





「あぁ~めっちゃ良い匂いしてきた」

「そうだな。あと少しの辛抱だユメ」

「へいへい」

「コハルはん、ハンバーグ焼けたで~」

「はい!じゃあ皿に盛りつけましょうか」

「コハル、残った玉葱で何かつまみは作れるか?」

「ん~オニオンリングでも良いですか?」

「ああ、頼む」





リュシアンの希望で小春が玉葱を切り、酒のつまみを作り始める。

玉葱を切っているのに何故小春は泣かないのかとユメヒバナは疑問に思い、彼女を観察し始めた。するとリュシアンがユメヒバナに見すぎだと注意し、ウメユキが面白がってリュシアンを冷やかす。最終的に世話師猫の文二とカーバンクルの大福、フィーがハンバーグをつまみ食いした事によってこのどんちゃん騒ぎは終わり、つまみを作っていた小春は4人と2匹を見て「皆顔が良いな、眼福眼福」と心の中で呟いた。


 全ての料理が出来上がり、全員で机に持って行き着席が完了したのを確認してから食べ始める。

パーティかと言うくらい机の上には料理がてんこ盛りで、ウメユキとリュシアンが買ってきた酒とつまみも置いてある。

最初は全員、食欲のそそる香りを放つハンバーグに手をつけ、口々に感想を述べ始める。




「流石コハルだ!美味い!」

「うっめぇ!やべぇコレ!天才じゃんチビ!」

「おぉ、これは旨いわぁ。遠征時にでも持って行けそうやな」

「ハンバーグ自体も美味しいが、このトマトソースも良いね」

「にゃぁーーーーん」

「キュキュー!!!」

「!?このスープ凄いでリュカ君!魔力全回復や!」

「あぁ本当だな、それに美味しい。温かみのある優しい味だ」

「フィー!早くこのタマネギスープ飲めよ!一口飲んだだけなのにジジィに殴られた痣消えちまったぜ!?凄くね!?」

「効果も凄いが味も美味いのがコハルの料理の凄いところだ。くっお手付きさえされていなければ吾がコハルを娶りたかった」

「え?」

「やはりそういう目でコハルを見ていたのか」

「ええ!?」




小春は驚きの声をあげ、フィーとリュシアンを見る。

しかし一番驚いたのは文二の口周りだ。ユメヒバナと同じくらい世話師猫はハンバーグにがっついており、口の周りがデミグラスソースで汚れまくっている。

カーバンクルの大福はちろちろと舌でオニオングラタンスープを食べているので、口周りは汚れていない。

世話師猫は綺麗好きなので食べ終わった後に自分で綺麗にするだろうと分かってはいるが、小春はどうしても文二の口周りが気になったため濡れた布巾で文二の口を拭き始めた。それを見たリュシアンは世話師猫なのに小春に世話をされている光景を不思議に思い、心の片隅で「ズルくないか?」とごちた。



今話もよろしくお願いします!


おまけ~食事中のリュシアンと小春~


「リュカさんって所作綺麗ですけど食べるの早いですよね」

「そうか?」

「はい。ちゃんと噛んでます?」

「そのつもりだが」

「それなら良いんですけど、喉の筋力も加齢とともに衰えてくるので気を付けてくださいね。喉詰まらせちゃうと呼吸困難になって危ないんで」

「私を爺扱いするな」

「ひゅみまひぇん」



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