鬼人族はキーマン
ブルリモンの国境付近へ近づいてくると、ウメユキさんとユメヒバナさん、フィーさんが待っていた。
文二はこの3人に何度も姿を見せているので姿は消していない。大福も私の肩で「キュルルル」と鳴きながら寛いでいる。
久々に見る3人は遠くから見ても元気そうで、私はリュカさんに握られていない手を大きくブンブンと振った。
「お久しぶりですー!」
「コハル、走ると転ぶよ」
「大丈夫ですって」
「そう言って船のデッキで転び膝から血を流した時の事を私は忘れていない」
「あぁ~そんな事もありましたね。でももう身体がこの世界に完全に馴染んでるのできっと大丈夫です!」
「それと怪我は関係ないと思うが」
3人と無事に合流し、挨拶もそこそこにブルリモン国に入る門にウメユキさんとユメヒバナさんが手を翳す。
右側にウメユキさんで左側にユメヒバナさんだ。
この国に入るには鬼人族の血が流れる者二人が同時に門に魔力を流さないと開かないらしい。
アッシヒューレを出る際にリュカさんが鬼人族の血が流れる2人がキーマンとなる仕事だと言っていたが、本当にそのままの意味だった事に驚きだ。
「もしかして此処が鬼人族の国ですか?」
「違ぇよ。前に俺らの国に辿り着くには灼熱の大地超えねぇと入れねぇつっただろ。忘れたのか?」
「相変わらずユメヒバナは口悪いなぁ。フィーさんも大変やろ」
「まぁ」
ウメユキさんとユメヒバナさんが魔力を流し続ける事3分弱。
やっとブルリモン国の門が開く。
扉が開く時はゆっくりだったが閉まる時は一瞬で、挟まれたら圧迫死するだろうなと思いながら私は国の中へと入った。
文二は「にゃっ」とだけ鳴き姿を消し、私の肩で寛いでいる大福が「キュッ」と返事をする。
この国での任務は害獣駆除で、ブルリモンから龍の国ルシェールに依頼が届き、ルシェールの特務隊からユメヒバナさんとフィーさんに援助の依頼を出したそうだ。
ユメヒバナさんはウメユキさんの小言が苦手らしく断りたかったそうだが、給金が良かったのでフィーさんが独断で了承のサインをしたらしい。
「ジジィも一緒とかマジ萎える」
「ユメ、言葉遣いが美しくないぞ」
「ほんまやでぇ。また半殺しされたいんか?」
不穏な会話しかできないのかなウメユキさん。
それにユメヒバナさんがヤンキーと言うよりかはギャルみたいな言葉遣いになっている。
我関せずとして歩いているリュカさんは私にこの国の説明をしながら歩いているが、前方を歩くこの三人のやり取りが気になってしょうがない私は彼の説明がちっとも耳に入ってこなかった。
「という訳でこの国はブルリモンという名になった」
「へ、へぇ~」
「今日は依頼者から害獣駆除エリアを聞き装備品を揃えた後は自由時間だ。宿に向かうにはまだ早いだろうしブッチギリニューイヤーでも見に行くか?」
「え?ぶっちぎり?何ですか?」
「…私の説明を聞いていなかったなコハル」
「う゛、えと…はい。すみません」
リュカさんに頬っぺたを両手でぐいーっと伸ばされる。
確実に自分に非があるのでしょうがないが、ウメユキさんやフィーさん、ユメヒバナさんの前でやらないでほしい。だって3人ともガン見してます。もう離してくださいリュカさん。
「ブッチギリニューイヤー良いっスね!師匠が行くなら俺も行く!」
「ユメが行くなら私もだ。誰かがユメを見張っていなくてはならないからな」
「ウチもコハルはんとリュカ君行くんねやったら付いてくで」
「お前たちは来るな。誘ってない」
「そんなにぶっちぎり何とかって所は楽しい場所なんですか?」
「お前マジでリュシアン様の説明聞いてなかったんだな。普通なら首チョンパだぜ?」
「え、怖っ」
私は恐る恐るリュカさんを見上げる。
するとリュカさんは「コハルを怖がらせるな」と言って手の平から氷柱を作りだし、ユメヒバナさんに向かって容赦なく投げた。
「うぉおお!?」と言いながらも全てをギリギリで交わしているユメヒバナさんは流石冒険者と言うべきか、身体能力の高さが異常だ。
今私たちが歩いている場所は人通りが少ない路地裏だ。
だから人も少なく周りには迷惑を掛けていない。この国は白とピンク色の建物ばかりで、路地裏といっても薄暗かったり汚い訳ではない。地面もピンク色で、至る所に馬をモチーフにした絵が壁や店に描かれてある。
ぶっちぎり何とかが分からないまま目的地の王宮へと着き、代表でウメユキさんが門番に依頼書を見せ全員で王宮の中へと入る。
お城もピンクと白色だけでファンシーだけど、何よりもファンシーなのがこの国の人たちの服装だ。皆ヒラヒラ、フリフリのフリルが多い服を着ている。男女関係なくカチューシャもしているし、中には馬の被り物をしている人もいる。
ブルリモン国に住んでいる人達は今の所馬に似ている顔の人が多いので、きっとヒト族ではないだろう。
私達は今、馬のカチューシャをした男性の後ろを歩いている。
「ここでお待ちください」と案内された場所は貴賓室で、フリルが沢山ついたクッションやピンク色の可愛らしいソファーやテーブルが置いてある。
ソファーは10人くらい座れる大きなサイズで奥からフィーさん、ユメヒバナさん、ウメユキさん、リュカさん、私の順で着席した。
全員が座ると宙に急にティーポットとカップが現れ、全員ぶんの紅茶を豪快に零しながら注ぎ始める。テーブルに置かれたカップの中身を見てみると、量はバラバラで机の上もびちゃびちゃになっていた。
「リュカさん、リュカさん」
「何だ?」
「此処の人達って獣人族ですか?」
「そうだよ。ウーマという種族だ」
他にも聞きたい事があったが貴賓室の扉が開き、カボチャパンツを履いた男の人が入って来た為私は黙った。そして入室してきた男性を見る。
頭にカチューシャとは思えないくらいの大きなメリーゴーランドを載せている。しかもちゃんと動いている。
クルクルと回る回転木馬に目が釘付けになってしまった私はまたしても内容が頭に入って来ず、終始そのよく分からんカチューシャのような被り物のメリーゴーランドを見続けた。
この男の人はブルリモン国の宰相で、名をメッシ・イケメンデスさんと言う。
害獣駆除エリアの地図と国のパンフレット、それに駆除に必要な装備を整えるお金を頂き私たちは貴賓室を出た。
頂いた物は特務部隊隊長のウメユキさんが持ち、廊下を歩きながらユメヒバナさんが毛伸びをする。
「うっし!駆除も明日からっつー事だしブッチギリニューイヤー見に行くか!」
「待てユメっ装備はどうする」
「んなもん後々!」
「リュカ君どうする?」
「そうだな、先に装備を見に行こうと思う。コハルのサイズは探すのに時間がかかるはずだ」
「えぇぇーチビは宿で待ってろよ。ここの宿ジャクジーとかゲームあるし暇つぶしには最高の場所だぜ?」
「クゾガキは黙っとき」
「ハァ?だってどう見てもコイツは戦闘に向いてねぇだろ。足手纏いにしかなんねぇよ」
「コハルはん脆くて儚い事知らへんの?宿に置いて行って帰ってきたら死んでましたや手遅れやろ」
「確かにコハルはヒト族と違って儚い存在だから吾も連れて行った方が良いと思う」
「そもそもコハルに関してお前たちの意見を聞くつもりは無い」
私を害獣駆除エリアへ連れて行くか行かないかの論争にリュカさんまで入ってきた。
確かに私はこのメンバーの中で最弱だ。
ユメヒバナさんの言う通り足手纏いになるかもしれない。だけどリュカさんと文二に魔法の使い方を教えてもらったので3人と出会った時よりは強くなっているはずだ。
縛り上げて相手の動きを一時的に止めるくらいはできると思う。
「あの!ちょっとだけなら魔法使えるようになりました!」
「お前のちょっとなんてミジンコレベルだろ」
「うわームカつく!」
ユメヒバナさんと話すと同級生と休み時間に遊んでいるみたいでちょっと楽しい。
だから私は決して怒っていない。
だが、リュカさんが手を出す前にウメユキさんがユメヒバナさんを殴り飛ばし、彼は空に吹っ飛んで行ってしまった。
流石にやりすぎなんじゃと思って青ざめたが、ウメユキさんはニッコリと笑って「仕置きや」と言う。
リュカさんも何故アイツを心配する?と言って、残った4人と1匹で装備品を買いに行く事になった。
ユメヒバナさんのサイズはフィーさんが把握しているので彼女が購入するそうだ。
宰相さんオススメの装備品店に着くと、紹介状が届いていたのか店の扉が自動で開く。
中はぬいぐるみでも売ってそうな雰囲気だ。
何処もかしこもピンク色で、私が想像していた剣や兜と言った装備品はなく、棚やハンガーラックには着ぐるみ衣装が掛けてある。
触ってみるとテーマパークで触れた事のある手触りの着ぐるみと一緒だった。
「本当にコレ着て戦うんですか?前見えにくくないですか?」
「吾とお揃いにしたかったのだが、やはりコハルのサイズがないな」
「リュカ君、コレとかどうやろ?」
「それだとコハルの胸が入らない」
「ん~ほんならコレは?」
「それだと股下が合わないだろう。コハルの足は長くない」
「リュカさんそろそろ怒りますよ。ていうか何で私の胸のサイズ知ってるんですか」
私の質問はスルーされ、3人とも真面目に装備品を私の背に当てながらあーでもない、こーでもないと話している。
フィーさんが着ぐるみを私とお揃いにしようとしているのは嬉しいが、リュカさんの発言は許せん。
そもそも股下の長い着ぐるみっておかしくないですか?何でこの店の着ぐるみは九頭身ばかりなんだ。
今話も呼んで頂きありがとうございます!前話イイネしてくださった方ありがとうございます!嬉しい!!!




