これまでの事、これからの事
ゴーラントバーデンを出国する前にヨーディさんに会いに行き、私が倒れていた間のお礼を伝えてから私達は次の国へと出発した。
久々に森の中を歩く。次の国まではリュカさんと大福と文二だけだ。
地面はぬかるんでいる訳でも草木が生い茂っている訳でもないので歩きやすい。なのにどうしてかリュカさんは私の手を引いて歩く。肩には大福も乗っているのでちょっと暑苦しい。文二は木で出来た大きなスプーンを両手に持ちながら私たちの前を歩いている。気まぐれに小型魔獣を倒してくれるのでありがたい。せっかくこのメンバーしかいないので、私は前々から気になっていた事をリュカさんに聞いてみた。
「リュカさんは、その…いつから私を意識し始めてたんですか?」
「質問の意図が分からない。好きになった開始時刻が気になるのか?」
「なんかそう言われると困りますね。知りたいのは、どうして私を好きでいてくれてるのかが分からないので困っている、という事です」
「コハルにとっては好意を持たれた理由とその好意の持続理由が必要という事か」
「言葉にされると凄く固い響きですね。まぁ、大体そんな感じです」
「そうだな、好意を持った理由は力も無いのに俺を救おうと必死になっていた所だ」
「なるほど。でも私がリュカさんを救おうとしたのって初めて出会ったあの時だけですよね?」
「そうだな。あの後体力も魔力も回復したからコハルの手を煩わせた覚えはない。好意の持続理由としてはコハルが愛しいに尽きる。その思いが私を突き動かす」
「そこが全然分かりません。私何かリュカさんに好いてもらえるような事しましたっけ?」
「誰に対しても自然体で嘘偽りないコハルの行動や言葉に俺は癒されている。それだけでは理由にならないか?」
「え、あ、ありがとうございます」
「まぁ、『愛している』という気持ちにエピソードを後付けしているだけで、実際はいつからコハルの事を気になり始めたのかは私にも分からない。だが“コハルを誰にも取られたくない”という気持ちは旅をし始めてから直ぐに芽生えた。その思いに気付いてからは出来るだけ行動に、形に表れるように動いているつもりだ」
「え、えと」
「これから先も、私の手でコハルを守りたい。守らせてほしい。コハルの成長も何もかも、私が一番に知っていたい」
「だんだん重くなってきました」
「重くない。これが龍族の愛し方だ」
その後”お手付き”についても聞いたが、よく理解できなかった。また何処かでフィーさんに出会った時に聞いてみようと思う。ユメヒバナさんと冒険をしているくらいだから、また何処かで出会うだろう。
久々の野営飯はゴーラントバーデンで買ったブッコロギューという牛に似たお肉で作るシチューだ。慣れた手つきで各自野営準備をしていき、私はリュカさんに出してもらった簡易キッチンで調理を始める。ブッコロギューは私が暮らしていた世界でいう闘牛のような牛だそうだ。生きている姿を見た事はないけど鳴き声が「ブゥゥコロッ!コロコロコロコロコロ」と鳴くらしい。聞いてみたいような、聞いてみたくないような。
「ずっと聞いていると頭がおかしくなりブッコロギューの鳴き真似をし始める者が居るそうだ。だからお勧めはしない」
「この世界ってそんな動物ばっかですね」
出来上がったシチューを木皿に移し替え、余ったブッコロギューをハーブと塩で下味をつけてから焼いていく。串焼きにしても良かったけど久々にサイコロステーキを食べたいなと思っていたら手が動いていた。文二はめっちゃサイコロステーキを見ている。涎が落ちてきそうな勢いだ。
リュカさんと文二、大福には多めに盛り、皆で出来上がったシチューとサイコロステーキを頂く。
「いただきます」
「うん、美味しい。コハルの料理を食べると心が安らぐ」
「そう言ってもらえると作った甲斐があります。嬉しいです」
「んにゃ~」
「キュッキュ~」
夜の支度も終え、久々に地面の上で寝る。のかと思いきやリュカさん膝の上に乗せられた。これは好きだと告白される前からされているので今に始まった事ではないけど、やっぱりオカシイと思う。特に距離感。
「もう近いとかっていうレベルじゃないですよね」
「コハルを感じていたい」
「限りなく変態に近い発言ですよリュカさん」
「変態じゃない」
「分かってますって。龍族の愛情表現?なんですよね?」
「まぁ半分は」
「え?半分?じゃあもう半分は何なんですか?」
「秘密」
「えぇぇ、教えてくださいよ」
「コハルが私の妻になってくれるのなら教えても良い」
「なんか急にハードル上がってます。恋人期間すっ飛ばさないでください」
「恋人期間…という事は、俺の気持ちにやっと答えてくれる気になったのか」
「違っ待ってください!それはまだで、今のは順番の話をしただけです」
「俺を弄ぶとは…」
「そんなつもりは微塵もないです!私はこういう、リュカさんみたいなド直球の愛情表現に慣れていないだけで…その、ちゃんと真剣には考えています」
「そうか、ありがとう。では早く俺のものになってくれ」
「前後の温度感凄っ!」
「コハルには嘘偽りのない正直な気持ちで向き合っていたい」
「あ、ありがとうございます」
でもやっぱり私がリュカさんと付き合うなんて想像できない…。別に嫌いなわけじゃないけど、だからってこんな中途半端な気持ちのまま付き合っても良いのかなって思う。やっぱり失礼だよね。でもリュカさんは日に日にどんどんグイグイ来るし…。
この状態にだんだん羞恥心が高まってきた私はリュカさんの腕の中から逃げ出そうともがいた。しかしリュカさん腕力に敵うはずもなく、肩に顔を埋められて溜息をつかれた。そこで息を吐くのはアウトな気がする。破廉恥極まりない。
「龍の子よ、押し倒して既成事実を作るという手もある」
「なっ。文二は黙ってて!っていうか思考回路どうなってるの!?」
「コハルとの初夜は大事にしたい」
「チッ」
世話師猫って舌打ちできるんだね。
しかもリュカさんしれっと凄い事言った気がする。
めっちゃイイネ増えてて驚きです!ありがとうございます!
今話もよろしくお願いします!!!




