目覚め
小春が過ごした世界、主に恋愛について文二から教えてもらったリュシアンは理解できるまで何度も頭の中で単語とその意味を繰り返し覚えた。文二はヤンデレ、クーデレ、ツンデレ、肉食系男子、草食系男子など多種多様な恋愛話をリュシアンにしている。小春が目覚めるまでの間、彼は自分が何系男子で属性は何になるのだろうかと真剣に悩んだ。
文二と大福は小春の顔の近くで眠っており、リュシアンは小春の頬を優しく撫でながら見つめている。すると彼女の瞼がピクッと動いた。小春が目覚めた時、彼女の瞳に己が一番最初に映るようにとリュシアンは優しく顔を固定した。流石愛に深く重い龍族だ。以前『龍族とは己の愛している者の一挙一動、全てを見つめていたい種族だ』と話していた通りの行動を一語一句違わずにしている。
そして、ついに小春が目を覚ました。
「リュカ…さん?」
「うん」
「いつ見ても…リュカさんの瞳って…キラキラしていて…綺麗、ですね」
「コハルの方が美しいよ。髪も、瞳も、全てが愛おしい」
小春は寝起きで頭が回っていないせいか思った事をそのまま口にしている。また、いつもとは違う景色に『ああ、これが精霊なのか』と気づいた。
「リュカさんの周り、色とりどりの、沢山の精霊がいますね。精霊ってこんなにお喋りなんだ…」
小春の視界には今、至近距離で綺麗な笑みを湛えているリュシアンと色とりどりの沢山の精霊達が口早に喋っている光景が広がっている。彼らは小春が死の森の泉を”古の御業”で浄化してくれた事についてずっと感謝しており、祝福を与えた後も自らが礼を伝えたいとずっと付いてきていたのだ。そして彼女の身体がこの世界に定着した今、必死にそれぞれの精霊たちが感謝の言葉を述べている。
「ありがとう」
「泉を綺麗にしてくれた事、感謝する」
「おおきに!」
「泉も私達も元気になったわ。ありがとう」
「本当にありがとうございます。あなたに最大の祝福を」
気が済んだ精霊から泉に帰って行き、最後に若草色の精霊が感謝を述べて帰って行った。帰ったといっても小春は祝福をされているので力を失った訳ではない。ただただ精霊達は小春に自分たちを認識してもらい感謝の言葉を受け取って欲しかったのだ。
そんな幻想的な光を纏った精霊達から再度最上級の祝福を受け、小春は手を振り精霊たちを見送る。精霊達は小春の身体をこの世界に定着させる事に成功したリュシアンにも祝福を与えた。
「コハル、体調は?」
「なんだか、ぼーっとします」
精霊達と小春が会話をしている間、リュシアンはずっと彼女を抱きしめていた。今も尚必要以上に至近距離で話している。
「だろうな。いつものコハルならこんなに長時間私と目を合わせない。赤面して顔を逸らすはずだからな」
そう言ってリュシアンは小春の掌にリップ音を立てて口づけた。
小春の身体は完全にこの世界に定着しているがまだ本調子ではない。その為リュシアンは再度優しくベッドへと寝かせた。今までの様子をこっそり見ていたヴェルゴナの妖精に気づいていたリュシアンは、盗み見した事を許す代わりに今日の採掘を中止にするよう妖精に言付けた。
お昼を過ぎた頃、小春はやっと本当の意味で目を覚ます。
彼女の視界にはリュシアンの綺麗な寝顔が広がっており、叫びそうになるのを必死にこらえて彼の腕の中から抜け出した。温もりがなくなった事に気づいたリュシアンも目を覚まし、元気よくカーバンクルの大福とじゃれている小春を見てほほ笑む。
「やっと目が覚めたようだね」
「あ、おはようございます。色々とご迷惑おかけしました」
「無事に目覚めて良かった。コハルが眠っている間は息が詰まりそうだったよ」
「そんなに長い間寝てたんですか私」
「ああ。1日半だ」
「短ッ!」
「長いよ」
「リュカさんって悠久の時を生きる龍族ですよね?長寿族にとって1日半なんて一瞬なんじゃないですか?」
「コハルとの1日は千日に値する」
「それって喜んでいいやつなのか判断しにくい表現ですね」
小春はなかなか目覚めない文二の頭を撫でながら、自分が眠っていた間の話をリュシアンから聞く。
ヨーディにお世話になった事、文二が自分が生まれ育った世界で人間に化けて情報収集をしていた事、その情報の中に恋愛の話が含まれていた事、しかも小春が居た世界の恋愛方法を文二がリュシアンに勝手にレクチャーしていた事などだ。全てを聞き終わった小春はスヤスヤと眠っている世話師猫の文二の頬っぺたをぐいぐいと引っ張った。
「う゛、うにゃぁ~」
「まったくもう。起きたら絶対説教してやる」
「ところで、コハルが生まれ育った世界には恋愛のシミュレーションゲームというのがあるとブンジから聞いた。それぞれに属性を持っており好みの男性と物語を進めていくのだろう?その、コハルはどのような男性を選んでいたんだ?」
「リュカさん。文二の偏った知識を鵜吞みにしないでください」
「ではコハルの口から聞かせて欲しい」
「何をです?」
「そうだな…。好きな男性の仕草は?」
「ん~美味しそうにご飯を食べる人、ですかね?」
「美味しそうに、か。自国や異国の食事マナーを習う機会は多かったが、美味しそうに食事を摂るというのは新しいな。例えばどんな風にだろうか」
「あの、リュカさん、そんな真剣に考えないでくださいね」
「だがコハルは“美味しそうにご飯を食べる人”が好きなのだろう?」
「そうですけど、人によって美味しそうな表情って違いますし」
「では聞くが、食事の際、コハルの目に私はどのように映って見えている」
「リュカさんですか?うーんと、美味しそうというよりも所作が美しすぎてもはや芸術品?みたいな感じです」
「なっ不合格という事か!?」
「ええ!?予想外のリアクション!これってそんなショック受けるような話じゃないですから!」
更新が遅くなってしまいましたスミマセン(;´Д`)完全に言い訳ですが仕事でてんやわんやしておりました(;'∀')
にもかかわらずブクマが増えていてびっくりです!ありがとうございます!!!イイネも評価も本当にありがとうございます!!




