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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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世界に馴染む間



 炎が収まると小春の意識が飛び、倒れる寸前にリュシアンが抱き留めた。彼はすぐさま小春の呼吸を確認し、正常な脈と息遣いをしている事に安堵した。

 ヨーディは滅多に使わない客室をリュシアンに案内し、小春をベッドへと寝かせる。流石に一大事だと思った世話師猫も姿を現し、小春の容体を分析し始めた。


 ヨーディは今何が起こっているのか、また伝説級の世話師猫が何故急に現れ小春の看病をし始めているのかと驚き腰を抜す。そんなヨーディをリュシアンが椅子に座らせ、小春の身に起こっている事について話し始めた。

 彼が何の躊躇いもなくヨーディに小春の事を話すのはヨーディが誠実で口の堅いドワーフだと知っているからだ。昔、リザードマンからボコボコにされているヨーディを助け完治するまでの1か月間、リュシアンとヨーディは一緒に旅をしていた。


 ドワーフ族は他種族の仕事の依頼は受けるが親密になる事はほぼ無い。それは体が頑丈でモノ作りに特化した才能を持つドワーフ族を奴隷にしようと企む種族が多かったからだ。

 彼らは暗黒時代に捕虜として捕らえられ、主にヒト族の奴隷として働かされていた過去を持つ。そんな暗黒時代をとうに終えた現在でも彼らは他種族に対して警戒心を強く持ち、交流を持とうとはしない。しかしヨーディだけは大事な隠れ家をリュシアンに教え、尚且つ貴重なアイテムボックスを短期間で作り上げている。それくらい彼はリュシアンに感謝しているのだ。



 リュシアンは小春と出会った時の事を思い出しながら話していく。

 小春はこの世界に来たばかりの頃、身体が世界に適応できず消えかかっていた。それを救ったのがリュシアンで、助ける方法を助言したのがグリフォンのテオだ。

 テオは小春にこの世界の物を食べさせる必要があるとリュシアンに助言し、リュシアンは口付けで自身の唾液を小春に飲み込ませた。そのおかげで彼女の身体はこの世界に一時的に定着し、一命を取り留める事が出来た。しかし身体が一時的に定着しているとはいえ彼女の精神は不安定だった。そのため魔力は乱れ、精霊も近づく事ができずにいた。リュシアンの力だけで小春の身体をこの世界に縛り付けるには限度があったのだ。


 そしてついに小春自身が自分の体が消えかかっていると知る日が訪れる。それはリュシアンの邸に師と遊びに来ていたハイエルフとエルフのハーフであるエディツェミハエル・イエルバとの出会いだった。

 小春は彼から自分の状態と、このままでは10年ももたずして消滅する可能性があると言う事を知らされる。それから数日後、精神の不安定さについて世話師猫から真実を聞き、小春はこの世界で生きていく事を決意した。


 この世界で本当の意味で存在し続ける為には、この世界の生物を殺す事が必要である。それが生きていく覚悟の表明となる。と、全ての元凶である世話師猫から教えてもらったあと、彼女は再び旅に出た。そのため衰弱しきっているあのウサギの命を小春が自身の手で終わらせてやる必要があった。


 リュシアンの話が終わるとヨーディは事の深刻さを理解し、小春に視線を向ける。

 鉱石達からは簡単にしか教えてもらっていなかったのか、彼は心配そうに呟いた。




「目を、覚ますじゃろうか」

「コハルはこう見えて強い子だ。きっと大丈夫だろう」




 リュシアンはお手付きをして彼女の身体に勝手に龍の刻印を刻んでいる事や古の御業については話すつもりがないようで、旅の道中に出会った世話師猫やカーバンクル、神獣のグリフォンについてヨーディに話した。

 ヨーディはドワーフ族には珍しく冒険家気質な所がある。なので伝説級の世話師猫の実態はもちろん、なかなか間近で見る事ができないカーバンクルや人生に一度会えるかどうかも分からない神獣の話に興味津々で聞き入った。


 夕飯時になっても残念ながら小春は目覚めず、リュシアンはヴェルゴナのアトリエへ戻るとヨーディに伝えた。ヨーディはいつでも待っているとリュシアンに言い、彼は小春を抱えて一瞬にして転移魔法で借りている部屋へと戻った。

 小春を優しくベッドへと寝かせると、アトリエに居るヴェルゴナに小春が疲れて眠っているので夕飯は適当に摂ってくれと伝えた。そして彼女が眠っている部屋へと戻り、リュシアンはなんの躊躇いもなく慣れた手つきで小春の服を鎖骨部分が見えるまで脱がし深い口付けを落とした。


 彼女の左側の鎖骨にはデルバンクール家の刻印が浮かび上がり、リュシアンは優しい瞳でその個所をゆっくりと優しく撫でる。




「早く眼を覚ましてくれ、俺の愛しい」

「またお手付きか」

「ブンジ、見ていたのか」

「いつも見ておる。いっその事まぐわえば良いものを」

「流石にそれは俺も大事にしたい。それに、コハルに無理はさせたくはない」




 世話師猫としては何としてでも小春に寿命を延ばしてもらい、できるだけ世話をする期間を長く設けたいと考えている。己の欲望に忠実な世話師猫はリュシアンの想いが小春に届くよう、彼女がいた世界の恋愛について話す事にした。


 世話師猫は小春が生まれ育った世界に居た時、ただだらしない生活をしている生物を観察していた訳ではない。だらしないだけなら動物や植物だっている。世話のやりがいがあるのが小春だったのだ。その見極め中の際、文二は人間の食事や恋愛等、独自に学んでいた。

 自身が見てきた物や人間に擬態してまで読んだ本の話など、最大限の魔力を使って懇切丁寧にリュシアンに話す。その話をリュシアンは真剣に聞き、長時間喋った事により魔力切れを起こしてしまった世話師猫は朝方魔力補充のため眠りについた。そして数分後、小春が目覚めた。


 世話師猫は彼女が目覚めた瞬間に立ち会う事はできなかった。



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