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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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新たな国

小春視点ではないです。




 小春にとって初めての危険な船旅は、新たな国“ゴーラントバーデン”に着港した事により無事に終わりを迎えた。大福はいつも通り小春の肩に軽やかに飛び乗り、リュシアンが小春の手を取り下船する。

 ゴーラントバーデンには1ヶ月近く滞在する予定で、港での入国審査が終わるまでの間、リュシアンがゴーラントバーデンという国の特徴や任務の内容を小春に説明した。


 ゴーラントバーデンとはドワーフが治める国であり、主な産業は武器作りや鉱石を使った魔法道具である。以前小春たちが訪れた国“永久不滅の恋と愛~ウンパカドンドン~”の光石や輝石とは違い、この国では鉱物の石が採取できる。光り輝く輝石のようにアクセサリーとして鉱石を使用する者もいるが鉱石は魔法付与しやすい為、貴族よりは冒険者等の魔法に深く関わりのある者が購入する事が多い。中でもよく鉱石を購入する種族は森の民エルフや魔法を操る事が得意な魔族が上客として上がる。


 今回はその魔族からの依頼でリュシアン一行はゴーラントバーデンへと来た。

 鉱石は地面や岩肌から普通に生えている物もあれば、動物の背や頭など体に生えている物もある。今回の依頼は動物の背に生えている鉱石だ。

 魔族は魔法は得意だが筋肉が付きにくい体質のため、肉弾戦は不得手としている。対象の動物から物理攻撃をくらった際、魔法で防ぎきれなかった時の為に龍の国(ルシェール)へと依頼がきた。また、依頼者からは『特務部隊リュシアン殿に依頼するものとする』と名指して届いたものだ。



 遠い昔、暗黒時代よりも遥か昔にヒト族と魔族との間で大きな戦争があった。

 数の多いヒト族に敗れた魔族は当時の魔王が龍族の王に頭を下げ、天空に国を作る技術を教えてもらい物理的にヒト族との間に距離を取った。

 龍の国(ルシェール)ほどではないが天空にある為そうそう他族からの進攻や来客もなく、彼らは煩わしいしがらみから解放され現在も天空で暮らしている。魔族はそのお礼に地上にあった領土を全てルシェールに譲っており、今も尚その友好関係は続いている。だが依然として魔族とヒト族は今でも折り合いが悪く、特に魔族がヒト族を嫌っている状態が続いている。


 今回の依頼者はリュシアンが一人旅をしていた頃に出会ったヴェルゴナ・F・エドモンという男である。彼は当時は魔国の近衛騎士の零番隊隊長を務めていた者だ。

 現在の彼は近衛騎士を退職しており、リュシアンが治めている領地カラフィーナの花とゴーラントバーデンで採取した鉱石を組み合わせたハンドメイド作家として細々と古郷の森の奥で暮らしている。



 以上の事柄を入国する前にリュシアンからマシンガントークで聞いた小春は、序盤の光石、輝石、鉱石の所で躓き、『そういえば永久不滅の恋と愛~ウンパカドンドン~とかいう国に行ったな~。懐かしい』と現実逃避していた。もはや後半の内容はほとんど聞き取れていない。




 二人と一匹は無事に入国し、待ち合わせ場所に指定してある小料理屋まで歩く。

 その道中にかろうじて聞き覚えていた事を小春がリュシアンに尋ねた。





「どうして魔族とヒト族は仲が悪いんですか?」

「恋愛絡みの事が多いと聞く。魔族は美しいものが好きで愛でるのも好きだが、自分自身に対する美にも厳しい。だからという訳か、その美しい魔族の男女をヒト族が取り合っていざこざが絶えず、終いには魔族の者が誑かしてきたと濡れ衣を着させられる事が多かったそうだ」

「へぇ、凄い愛憎劇ですね。もし私がヒト族にカテゴライズされるんでしたら今から会う魔族の方は嫌がりませんかね?」

「どうだろう。アイツは人種だけで差別するような奴じゃないとは思うんだが…。それよりもコハルが気に入られないかが心配だ。コハル、ヴェルゴナには絶対惚れないように」

「そう簡単にほいほい惚れないです。っていうか認識阻害の魔法かけようとしないでくださいね」

「…」

「え!?もしかしてもう掛けてます!?」

「いや、まだだ」

「不安要素満載の返事ですね」




 リュシアンの歩みが止まり、小春に認識阻害の魔法を掛けるか掛けまいかと本気で悩む。すると小春の口からリュシアンの鼓動を早くさせるような喜ばしい言葉が発せられた。




「リュカさんよりも見目が良い人っているんですかね」

「コハルは、その、私の容姿を好ましく思っ」

「あ!リュカさん見てください!小料理屋の前で手をブンブン振ってる方がいます!あの人が依頼者ですねきっと」

「はぁ」

「仕事ですよ。やる気出していきましょう!」

「仕事だからこそ力はほどほどにだろう?」




 依頼者の元まで辿り着く数分の間、リュシアンは小春の口から発せられた彼女の母国の労働環境にドン引きし、小春に自分自身に焦点を当てた生き方や、力の抜き方、生きるとは何かを教えてやらねばなと心の中で強く決心した。



 至る所に鉱石が散りばめられてある可愛らしいウッド調の小料理屋に着くと、依頼者が微笑みながらリュシアンに近づく。

 ヴェルゴナ・F・エドモンの容姿はリュシアンも美しいと思うほどに美形で、おとぎ話にでてくるような王子様みたいな風貌をしている。彼の髪は肩に着くくらいの長さで、髪色はプラチナブロンドだ。瞳は深緑色で右目の下には泣き黒子がある。





「リュシアン君、久しぶりだね。僕の依頼を受けてくれて嬉しいよ」

「指名だったからな。仕方なくだ」

「ふふっ。相変らずクールだね。と言いたい所だけど、何だか少し雰囲気が変わったかな?」

「まぁ」

「で、そちらの女性は龍族…じゃないよね」

「初めまして、私は東郷小春と申します。えーっと人間です」

「ニンゲン?僕はヴェルゴナ・F・エドモン。魔族だよ。僕の事はヴェーレでもヴェルゴナでも好きなようにどうぞ」

「はい。私の事も好きなように呼んでください。名前が小春です」

「オーケー。コハールね」

「小春です」

「あ、ごめんねコハルちゃん」






 小春の肩に乗せている大福の紹介も終え、カーバンクルを間近で見られたと少し興奮しているヴェルゴナも連れて小料理屋へと入る。店に誰もいないのは、彼が貸し切りにしているからだ。

 席に着き、料理を適当に注文し終わってからヴェルゴナは気になっていた事をリュシアンに質問した。





「ニンゲンという種族は初めて聞くんだけど、リュシアン君は知ってる?」

「私も詳しくは知らない。だがヒト族に似ているようで別の種族に思う。小春は今まで出会った種族の中で格段に寿命も短く儚く脆い存在だ」

「そうなんだ。確かに小春ちゃんの見た目はヒト族に似てるけど、ヒト族よりも魔力量が多いね。精霊にも好かれてるようだし」

「魔族の方も特別な眼を持っているんですか?」

「そうだよ。龍族や森の民ほどではないけど、魔族はみんな相手の魔力量が見えるんだ。精霊に好かれていると分かったのは僕の妖精が教えてくれたからだよ」

「おおー凄いですね。妖精さんは今もいますか?」

「僕の妖精は恥ずかしがり屋だから今はこっそり僕たちの事をキッチンから見ているよ。向こうから少しづつ距離を縮めてくるだろうから、その時は宜しくね」

「はい、分かりました」

「それにしても小春ちゃんの祝福の数は凄いね。何をしたらこんなに沢山の精霊から感謝されるの?」





 ヴェルゴナの質問には小春が返答する前にリュシアンが当たり障りのない程度で返した。

 料理が運ばれてくるとリュシアンが一つ一つ丁寧に小春に説明し、その様子をヴェルゴナが楽しそうに見る。食事が進むに連れてどんどん会話も増えていき、ヴェルゴナは小春がヒト族が大好物のテヤンデイレッグが苦手だという話で笑った。






「味覚は僕たちに近い不思議な種族だね」

「僕たち?魔族の方も龍族の方と似たような味覚なんですか?」

「流石に雲は食べないけど嗜好(しこう)は似ているよ。近衛騎士時代にリュシアン君に貰ったチェリーの夕焼け漬けは今でもビンに詰めて大事に保管してるんだ」

「全く想像できない味です」

「きっとコハルも気に入る。夕焼け漬けはルシェールでしか作れないから帰ったら一緒に作ろう」

「リュカさんまたしれっと強引な所が出てますよ」





 ムニっと小春の頬を摘まんだリュシアンを見てヴェルゴナは驚く。

 ニンゲンという種族や小春自体に対しても興味津々だったが、何より一番興味をくすぐられたのはリュシアンに対してだ。

 ヴェルゴナが知るリュシアンは気高く誰も寄せ付けない孤高であり至高の存在だったが、今、自分の目の前にいる彼は最弱種族と思えるか弱そうな女性と一緒に旅をし優しく大事に接している。近衛騎士時代に同僚の魔族の女性がリュシアンに話しかけようとしたり触れようとしたら綺麗にかわし避けていたのに、小春に対してはリュシアンが積極的に自ら触れようとしてさえ見える。そして無知の彼女の為に料理や妖精とは何かについても丁寧に説明している。

 昔とはあまりにも違いすぎるリュシアンにヴェルゴナは本当に本人なのかと疑い、こっそりと鑑定魔法を発動しようとした。が、魔法を発動する前にリュシアンに龍の威圧で阻止された。ヴェルゴナは『この勘の鋭さは自分の知るリュシアン君だ』と確信し、物騒な方法ながらも安心した。そして、リュシアンをつつくよりも小春に質問した方が早いだろうと考え、ヴェルゴナは小春に二人の関係性を聞くことにした。




「ねぇ。コハルちゃんはリュシアン君の弟子かな?」

「違いますよ。リュカさんは私の保護者?です」

「えっそうなの!?」

「違う。嘘は良くないよコハル。私はコハルの保護者になった覚えはない」

「そうなんだね、吃驚したよ。じゃあコハルちゃんはリュシアン君のお手伝いさんかい?」

「それも違う。コハルは私の愛し子だ」

「リュシアン君の愛し子!?あのリュシアン君に!?愛し子!?」

「そもそも愛し子って何ですか」







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