初めての戦闘
リュカさんに後ろから支えられてもらっているという事もあり、思いっきり太くて大きく頑丈な蔓を想像する。すると掌に置いてある木の実からにょきにょきと太く逞しい蔓が伸び、テヤンデイレッグに向かっていく。思っていたよりも簡単に成功した。だがテヤンデイレッグはヌメヌメしていて全然巻き付くことができない。
どうしよう。
考えなきゃ。
考えろ。考えろ。
「コハル、蔓が暴れている。魔法を使用する際は集中しないと危ないよ」
「ッすみません!」
リュカさんの言う通りだ。イメージに集中しなきゃ。
私が悩んでいる間、蔓は宙を彷徨い謎の花を咲かせていた。なんとも緊張感のない魔法である。
周りはテヤンデイレッグに向かって色んな魔法や剣をふるい立ち向かっているというのに、私が魔法で生やした蔓だけは異質に花だけを咲かせている。
花…。
華…。
そういえば、お祖母ちゃんの家にあったガーデニング本に薔薇の育て方が書いてあった。薔薇の蔓をフラワーアーチに綺麗に巻き付けるには根性と書いてあった気がする。よくこれで本を出そうと思ったなと、初めて読んだ時にそんな感想を抱いたのを今でも覚えている。
そうか!棘を生やした蔓にして強度を増せば良いのか。そうしたら相手がヌメヌメしていても、棘が刺さって絡みつき解けないはず。
イメージしなきゃ。
集中して…。
棘の生えた蔓が幾重にも重なり、ねじれる様に成長し、空に、天に、高く伸びる様を。
だけど目はちゃんと見開いて、目標を見逃さないように。
私が想像した通り掌にある木の実から先ほどよりも太く厳つい棘を生やした蔓が生まれ、テヤンデイレッグに向かって伸びていく。
生成速度は遅いが棘が付いた蔓は触手にしっかりと絡みつき、徐々に動きを止める。それに伴い本体のテヤンデイレッグの動きも鈍くなり、そこを冒険者たちが一斉に攻撃する。
強く。
強く。
蔓で縛るイメージを!
額から汗が流れ落ちてくるのが分かる。呼吸も上がっている。
魔法って思っていたよりも疲れるな。
強くイメージした事により、縛り上げていた触手は蔓の力によって千切れた。
「やった!やりましたよリュカさん!やっつけました!」
「よくやったね。でも触手を千切っただけだから」
「うわー間髪入れず現実見せつけてきた」
「コハルのやるべき事は、この世界の生き物の命を殺める事だよ。私達の至上命令を見失ってはいけない」
「至上命令?リュカさんのやるべき事ってルシェールの騎士として害獣を倒したり特務部隊にきた任務を完遂させる事ですよね?」
「ルシェールの騎士としてはそうだ。だがコハルをこの世に定着させる事は私が私に課した果たすべき絶対任務であり、命令だ」
リュカさんの中で私のやるべき事が大層な位置にある事が分かった。
だから今日までの旅の中でやたら半殺し状態にした動物を私の目の前に持ってきてたんですね。それなのに私がビビり散らかしているから動物の方が先にこと切れ、今の所とどめを刺す事なく終わっている。というか、文二がそういう事をしてくるのは私を長生きさせてこれからも世話したいからだって分かっていたけど、まさかリュカさんも私をこの世界に定着させる為に本気で動いていたとは…。てっきりご飯の量が足りなくて狩ってきてたのかと思ってた。すみません。
この後も私がこの魔法を自由に使いこなせるまで練習は続いた。
攻撃魔法とは違い、縛り上げるのがメインの魔法の為どうしても集中力が必要になる。
修行を積んできた訳でもない私は集中力が持続できず、すぐ蔓が暴れ出す。暴れ出すというよりかは花がポンポンポンと咲いて場違いに踊っているに近い。本当に緊張感のない魔法ですみません冒険者の皆様。
イメージし続ける難しさをどう克服しよう。
とりあえず海に落ちそうになっている冒険達を蔓で巻き付け救いながら考える。この間、リュカさんはずっと私を守ってくれている。本当にありがとうございます。
「リュカさん何か良い案ないですか?」
「祝詞を使うという手がある」
「祝詞って好きな言葉で良いんですか?」
「ああ。コハルの魔法は型の無い魔法だから自分が魔法を発動させるのにイメージしやすい言葉を選ぶと良い」
「んんー。悩みます」
「だろうね。また蔓が暴れているよ」
魔法を発動させるための言葉をアレでもないコレでもないと考えていると、その通りに蔓がウネウネと暴れていた。おお、結構豪快に暴れてる。
このままでは周りに被害をもたらすかもしれない。という事で部屋で祝詞を考えたいとリュカさんに伝え魔法の練習を止めた。そう思っただけなのに蔓は一瞬で消え、手のひらに木のみだけが残る。だが、テヤンデイレッグとの交戦中に折れた蔓だけはデッキの上に転がっていた。
リュカさんは私の提案に快く承諾してくれて、二人で部屋へと戻る。
道中、リュカさんから集中している時の蔓のコントロールは良かったよ褒められ、調子に乗った私は何かご褒美を下さいと言ってしまった。おかげでリュカさんは部屋に着いてからも祝詞そっちのけで褒美を何にするかで頭を悩ませてしまい、余計な事を言うんじゃなかったと私は反省した。
「褒美か、何が良いだろう」
「そんな真剣に悩まなくても大丈夫ですよ」
「駄目だ。私がコハルに適当な物を渡す等あってはならない」
「えぇー。頂けるだけで十分嬉しいので祝詞考えましょうよ」
「…」
「じゃあ、例えばルクルさんやノエルさんにご褒美をお願いされた時はどうしてるんですか?」
「あの双子か…。そうだな、組み手が多い…かな?」
「うわー全然参考にならない!」
イイネやブクマが少しづつ増えていってるの凄く嬉しいです~。評価や感想もありがとうございます!!コメント読むの楽しかったです(`・ω・́)ゝ




