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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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戦闘開始




 カーバンクルの大福が目覚めたのは翌日の朝で、テイクアウトしておいたワイルドベアーのお肉を現在がっついて食べている。


 今日も外ではテヤンデイレッグと冒険者達が戦っており、船の揺れが凄い。

 私は少しでも自分の使える魔法が増えるようにと、朝から部屋の中で自主練をしている。時たまリュカさんにコツを教えてもらいながら、なんとかピッカピカの泥団子が作れるようになった。違うんです。私がやりたいのはこういう事じゃないんです。




「リュカさん実戦魔法教えてほしいです」

「……」

「もしかして授業代の事で悩んでます?」

「そんな訳ないだろう。コハルは私をなんだと思っているんだ」

「破廉恥美形ドラゴン」

「不名誉すぎる」





 両のほっぺたをぐいーと抓られた。そして小一時間かけて龍族の愛情表現について聞かされる。だが私の頭の中は新魔法取得の事で大半を占めており、リュカさんの愛がどうのこうのの話は全部聞き流している。でもまぁ、流石に教えてもらう態度ではないな思い、素直に『すみません』と謝ると本題の続きを話してくれた。





「魔法陣を描き魔力を注ぎ込むやり方の方が良いのか考えていたんだ。だがそれだといくつもの魔法陣を覚えなくてはならない」

「魔法陣ってあの円の中にいっぱい文字や記号が書かれてある、あのやつですか?」

「そうだ」

「うーん。複雑すぎて覚えられる自信がないです」

「そうか」





 私が森の中で何とか取得した魔法『おいでませ泥田坊』は、地面に大量に土がある時だけしか呼び出せない事がこの船の中で分かった。なので今どんなに頑張っても船内にある微量の砂を魔法でかき集めて手のひらサイズの泥団子を作る事しかできない。これでは船内で戦う事ができない。それどころか何の役にも立たない。

 焦った私はリュカさんに頼み込み、何か新たな魔法を教えてくださいとお願いしている最中だ。




 二人でうんうん悩んでいると、まさかの文二が姿を現した。たぶん、私たちが部屋の中に居るからかな。他人と接触する可能性が低いから姿を現したのかもしれない。

 文二の姿は戦闘モードの黒猫だ。挨拶もそこそこに文二が私に木の実を差し出す。私が受け取ったのを確認すると私とリュカさんが座っているソファーの対面にある椅子に座り、一言『お手本』と低い声で呟いた。

 


 文二のちっちゃい肉球の上には、木の実が一つ。




「我に若草の祝福有り。純熟(じゅんじゅく)伸暢(しんちょう)





 文二がそう唱えると木の実からにょきにょきと太い蔓が伸び、ベッドの上で寛いでいるカーバンクルの大福に優しき巻き付いた。そして私の膝の元へと大福を下す。

 文二が何を伝えたいのかリュカさんは分かったようで『その手があったか』と呟いた。え、何ですか。教えてください。全然わかりません。置いて行かないでください。


 私が頭の上で大量の「?」を飛ばしているのに気付いたリュカさんは、文二が先ほど見せてくれた魔法について懇切丁寧に説明してくれた。

 まず最初に私には若草色の精霊から祝福がある事。そして一番適性が高い属性が土である事。

 この二つが合わさると植物を超スピードで発育させる事ができるらしい。普通なら葉が生えた状態でないと蔓を生やせないが、私の場合は古の御業があるのでその力を使って木の実や種の状態から急成長させて蔓を生成する事ができるそうだ。

 先ほどのデモンストレーションは文二が予め木の実に魔法陣を描き、土魔法と水魔法、それに精霊の力を借りて再現したものだ。伝説の生き物の世話師猫でも古の御業は使えないらしい。あと、分かりやすく見せる為だけに今回は詠唱しただけなので、実際は不要だと言われた。その分イメージを強く持つ事が大事だそうだ。




 リュカさんが説明を終え、文二がやって見せろと私の太ももをてしてしと叩く。





「誤発動して部屋が吹っ飛んだらどうしましょう」

「大丈夫だコハル。手のひらに置いた木の実が寒さから目覚め、暖かい陽射しに向かって蔓を伸ばすイメージをするだけで良い」

「はい」






 目を瞑り、リュカさんに言われた通りのイメージをする。

 すると掌に置いていた木の実が動く気配がしたので目を開けた。文二ほど豪快な蔓ではなく、テラリウムに飾れるくらいのサイズの蔓だ。小っちゃい。でも成功は成功だ。





「おおー凄い!できました!ありがとうございますリュカさん。文二も私が使えるような魔法を考えてくれてありがとう」

「にゃっ」

「おめでとう。コハルが魔力暴走を起こしたときに花冠をまき散らしていたから、それをヒントに何ができるか考えれば良かったな。私の視野もまだまだ狭い」







 このままでは実戦には使えないという事で、今からデッキに出てテヤンデイレッグ相手にこの魔法の練習をする。そう決まると文二はスゥーと姿を消し、大福が寂しそうに一声鳴いた。


 文二から貰った木の実を持ち、肩に大福を乗せリュカさんと共にデッキへと向かう。

 この船に乗船してからず----------------っとテヤンデイレッグと冒険者達は戦っており、朝も昼も夜も『う゛お゛お゛ー』という野太い声や魔法の爆発音が凄い。耳がいかれそう。


 広めのデッキに着き、フードを深く被ったリュカさんに背を支えられながら早速教えてもらった魔法を試す。良し!と気合を入れて周りを見る。

 私の前方にはバカでかい大剣を持った冒険者の人が居り、つい先ほどテヤンデイレッグの触手に巻き付かれ海に消えていった。他にも少し間隔を開けて魔法を放っていた女性がいつの間にか居なくなっており、彼女が居たであろう場所にテヤンデイレッグの粘液だけが残っている。早速リタイアしたい。


 種を握りしめ、初めて阿鼻叫喚という字の如くを体感している私は震えが止まらない。

 そんな役立たずな私にリュカさんは優しい言葉をかけながら、向かってくるテヤンデイレッグの触手に無言で氷魔法をぶつけていく。リュカさんが強すぎて此処だけ無双状態だ。周りに居る冒険者達は口を開けて私達を見ている。




「コハル、落ち着いて。魔法にだけ集中して他の事は忘れなさい。コハルの事は()が守るから何も恐れなくて良い」

「は、はヒッ」





 どんなにリュカさんが強くても、そう簡単に恐怖心は拭えるものではなく、返事が裏返ってしまった。





イイネやブクマの数が少しづつ増えていってるの嬉しいです。゜(゜^ω^゜)゜。読んでくださってありがとうございます。あと誤字脱字パラダイスですみません。

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