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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第三章 再出発します、龍の国
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魔法はイマジネーション!時々詠唱!



 今日の朝、モンステゴンを発つ。


 昨日の夕食に出てきた幼虫はリュカさんのも含め全て大福が食べてくれた。心から感謝したし宿に帰ってからはいつも以上に丁寧にブラッシングをした。

 その夜、寝支度を済ませるとリュカさんは当たり前のように私を後ろから抱きしめ、ベッドに横になった。久々にリュカさんと一緒に寝る事に緊張しない訳がなく、私の目はガンガンに冴える。それに密着しているから余計蒸し暑くなっ眠れないと思っていたら、リュカさんのひんやりとした肌が気持ち良くて意外にもぐっすりと眠ってしまった。


 いつの間に私は眠ってしまってたんだろう。

 意外と疲れが溜まっていたのかな。

 




 朝目覚めると、目の前には綺麗なご尊顔。

 久々に絶叫しそうになった。

 しかも私の向きが変わっているのは何故。


 いやそんな事よりも、朝起きて一番に見るのがこんな美形な寝顔なのは本当に心臓に良くないと思う。不整脈が凄すぎていつか血管がパーンってなりそうだ。

 

 この蒸し暑い環境の中、冷房の微風くらい涼しさのあるリュカさんからはとても離れ難い。が、覚悟を決め彼の腕から抜け出そうと試みる。

 もぞもぞし始めるとリュカさんと大福が目を覚ました。今日は寝起きが良いみたいだ。


***


 朝食も終え、身支度を整えてから宿を出る。

 モンステゴンを出て2日歩くと大きな川があり、それを超えると依頼してきた国が見えてくるそうだ。文二とはモンステゴンを出た直後に合流した。

 

 地面には幾つもの人が踏んだ跡の土道が出来ており、リュカさんが私の手を引きながら歩く。

 今私達がいる森は駆け出しの冒険者が経験値を上げる為によく訪れる場所らしい。なので私の旅のメインである『この世界に生きる物を殺めて自分自身を完全にこの世界に定着させる』恰好の場という訳だ。


 動物を狩るに辺り、魔法講座を簡単に受ける。講師はリュカさんと文二だ。大福は私の肩に乗って寛いでいる。

 木々の生えている間隔が開いている場所まで歩くとリュカさんは立ち止まり、文二は毛を黒に変えた。




「小春よ、魔力循環は一人でできるか?」

「うん。出来るよ」

「教えようと思うておったのに…」




 いじける世話師猫が可愛い。

 いや、この愛くるしい顔に騙されては駄目だ。

 私がこの世界に違法な手段で呼ばれたそもそもの原因はこの猫ちゃんという事を忘れてはいけない。しかも今は自分が長い事世話したいが為にリュカさんと私をくっつけようとしている。世話師猫というより私利私欲にまみれた猫だ。



 リュカさんと文二から本当に魔力循環が出来るか見せてくれと言われたので、その場でフィーさんに教えて貰った通りにやってみた。

 無事に合格を貰い、いよいよ実際に魔法を発動させるレッスンが始まる。






「そういえば、私は土魔法しか使えないんですか?」

「いや、土属性魔法に対して強く適性があるだけで他の魔法が使えない訳ではない。ただ、他属性魔法を取得するには並々ならぬ努力が必要になる。まずは土属性魔法を使いこなせるようにしてからだ」

「へぇーそうなんですね。分かりました。因みにリュカさんが魔法を使う時って詠唱したりしてなかったりですよね。どうしてですか?」

「よく見ているな。魔法を扱う事になれている種族はほとんどが無詠唱でイメージだけで魔法を放つ。詠唱する時はより精密にその魔法を使いたい時か、祝典や式典で披露する時だ。イメージしながら詠唱するとより一層精密に魔法が発動できるからな」

「そうなんですね」





 祝典や式典で詠唱するのは、ただ単に華やかだからだそうだ。

 前に一度私がダンジョンの中でイメージ無しで詠唱のみの魔法が発動したのは文二がサポートしてくれていたお陰で、リュカさんと出会ったばかりの時に誤発動したのはこちらの世界に呼んだ文二の力が私に少し残っており、それが攻撃魔法としてリュカさんを襲ったらしい。

 文二ってやっぱり凄い世話師猫なんだ。流石、伝説級の存在と謳われるだけある。


 

 魔法初心者の私はまず土魔法で何をしたいのかイメージするよう指示を受ける。

 私の適性が水だったり火属性なら魔法のイメージもしやすいんだけど、如何せん土だ。

 土といえば耕すくらいのイメージしかない。しかし、それでは相手を攻撃できない。攻撃できるような土魔法って何だろう。

 

 私がうんうん悩んでいると文二やリュカさんがイメージの題材となるものを提案してくれた。でもどれも物騒すぎて私の貧弱な脳みそでは全くそれらをイメージ出来なかった。

 特にリュカさんが提案してくれた『地面に転がっている岩や浮かんでいる島の下部の岩片を隕石の如く加速させ対象の物に当てる』というのが全く想像できない。文二は文二で地割れを起こして対象物を割れ目に落とし圧迫死させろとか言ってくる。物騒な発言オンパレードな龍と猫に私は目が点になるしかなかった。



 2時間かけて考えあぐねた結果、私はこれなら出来ると思った土魔法を実践してみる。

 強く強くイメージして地面に両手をつく。

 すると私達がいる場所から1m離れた場所が徐々にぬかるんで行き、その中から泥で出来た一つ目の老妖怪が現れた。そいつは口から泥を水鉄砲のように吐き出したまに嘔吐(えず)く。

 

 ちょっと、いや大分気持ち悪い。でも初めての魔法が成功した事は嬉しい。

 喜んで振り返るとリュカさんと文二は眉間に皺を寄せて『これは酷い』と言い、かなりの不評を頂いた。だよね。でも若干落ち込むな。 

 私が沈んでいるとリュカさんと文二は慌て、魔法が成功した事を褒めてくれた。その優しさが目に染みる。



 次はもっと素早く魔法が発動できるようイメージと魔力のコントロールを注意してやってみる。

 私がイメージしたのは泥田坊だ。オリジナルで編み出した魔法に関しては詠唱に型が無く、自分で想像しやすい言葉を述べて良いらしい。

 

 そもそも土属性に適性を持つ者は一般的に有名なゴーレムを決まった言葉で詠唱しながら練習で作り、魔法を使う感覚に慣れる事から始まるらしい。しかし私の場合はゴーレム自体を見た事がなく想像しにくいため、オリジナル魔法を初めに取得する事になった。


 何度も練習した結果、『おいでませ泥田坊』か『田を返せゴラァア!』で完璧に魔法が発動できるようになった。泥田坊の能力的には相手に泥を投げつけて不快にさせるといった殺傷能力ゼロに等しい技しかない。当たり所が良ければ相手を窒息死させる事ができる。かもしれない。



 


「コハル、この一つ目妖怪のビジュアルはどうにかならないか?」

「ん~。頑張ってリュカさんイメージしてみますね」

「それは止めてくれ」





 スッと私の両手をリュカさんが握り、首を横に振る。

 そんなに嫌なんですね。



 とりあえず土魔法の技を一つ習得で来た。でもこの魔法では一撃で相手を沈める事は出来ない。

 やはりリュカさんや文二、大福の協力を得て動物を狩るしかなさそうだ。

 


 この森で一番狩りやすいのはカマシタレダックとヤッタレスワンという動物で、リュカさんにそれぞれの特徴を聞く。

 まずカマシタレダックとは歩くのが下手なアヒルで、自分の足に躓いて転んでは辺りにキレ散らかしているらしい。ヤッタレスワンとは精神がいつもギリギリ状態で当たって砕けろ気質な白鳥コスチュームを着た変質者の事だ。カマシタレダックはまあ良いとして、ヤッタレスワンは色々アウトな気がする。

 

 カマシタレダックは動物だがヤッタレスワンは元々冒険者の人が多く、この森で生えてる幻覚草を食べてしまった人の末路らしい。腹部から生えている白鳥の口から風の刃を吐き出して攻撃してくるそうだ。

 ヤッタレスワンになってしまうと、もう元には戻れない。基本的には女性男性問わず卑猥な言葉を相手に投げ、返ってくる反応を楽しんでいるらしい。




「何だかちょっぴり可哀想ですね」

「この森に生えている幻覚草を食べてヤッタレスワンになる者は元々そういう気質を持った奴らだ。変態的な思考を持っていない者には幸せな幻を見せてくれる」

「へぇ。変わった食べ物ですね」

「魔族の間ではたまに幻覚草を使用した麻酔を使う事もあると聞くよ。ヒト族の間では近衛兵になる最終試験で食べさせられるらしい」

「龍族の方も食べたりするんですか?」

「食べない。が、私は昔興味本位で食べた事がある。何も起きずつまらなかったと記憶している」





 ヤッタレスワンよりも攻撃力の低いカマシタレダックに狙いを定めて歩き出す。と言うよりもリュカさんがヤッタレスワンを私に見せたくないのが一番の理由だったりする。

 相手をするのは嫌だけど、白鳥のコスチュームを着た元冒険者の方々はちょっぴり見てみたかったな。



 探している最中に他の動物に狙われる事はなかった。

 理由は遠方にいる動物や小型魔獣をリュカさんや文二、大福が一撃で仕留めてくれたから。相変わらず大福が口から噴く魔法が頬を掠めそうで怖い。


 私は文二と大福が仕留める度に頭を撫でる。

 するとリュカさんが急に私を抱き上げてきた。

 大型ショッピングモールで休日に見かける親子のように私は彼の片腕に乗せられ、視界の高さに驚く。





「うわっ。いきなり何ですか」

「こちらの方が私の頭を撫でやすいだろう?」

「その為にわざわざ持ち上げたんですか?」

「?。それ以外に何がある」






 ご所望通りリュカさんの頭を優しく撫でる。

 上から彼の顔を眺めるのは初めてで、どの角度から見ても綺麗なご尊顔で羨ましいなと思った。

 少しだけで照れて嬉しそうに微笑む姿が最高に可愛らしく、ついつい余計な一言を私は呟いてしまう。





「初孫抱いたお爺ちゃんみたい。あ。今の無しでお願いします!」

「それは叶えられない願いだ」

「えぇぇ~そんな~。すみません」

「全く。私の全てを見ておいて尚も爺扱いしてくるとは…。もしや、コハルから見て私はそんなに、その、老けて見えるのか?」

「いいえ全くです!美しいです!私はリュカさんの事仙人みたいに思ってます!」

「嬉しくない」

「え。何でですか?仙人格好良くないですか?」

「コハルの中で仙人とは格好良い者なのか?」

「雲に乗ってそうで格好良いです」

「雲はドラゴンが食べるものだろう?」

「ドラゴンって雲食べるんですか?」

「ああ、食べるよ」

「リュカさんも?」

「龍体になった時はね」

「美味しいんですか?」

「場所にもよるが美味なものが多い」

「ドラゴンって不思議がいっぱい詰まってますね」

「私からすればコハルの方が不思議で溢れている」






 リュカさんから降ろされた私はいつも通り綺麗な微笑みを浮かべた彼に頬っぺたをぐいーと引き延ばされるのであった。物凄く痛い。

 






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