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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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早すぎる恩返し



 早速だが私が彼の名前を中々呼ばない事で、聞き取れていない事がバレてしまった。

すみませんバビブベボさん。

しかし何度も何度も頭の中で復唱する事で、やっと覚える事が出来た。

リュシアン・ヴァンディファ・デルヴァンクール。デルヴァンクールが家名で、ヴァンディファが龍の色や種類を表し、リュシアンが名前。

情報が多すぎる。

龍の種類って何ですか。

しかもお貴族様だったんですね。

まぁ彼の身のこなしや話し方など、上品だなとは思っていたけど、まさか本物の貴族とは…。


貴族様という事で急にギクシャクし始めた私を彼はクスクス笑い、普通に気軽に接してくれと言ってきた。

本人が言うんだから大丈夫だよね。無礼講みたいな感じかな。

いやでも急に不敬だとか言い出されたらどうしよう。

貴族の普通に気軽にっていうレベルが分からない。


  


「でるばんくーる様は」

「待て」

「はい、なんでしょうか」

「もしかして、コハルには私の名の発音は難しい?」

「やっぱり変でしたか?」

「…」

「正直に言ってくださって構いませんよ」

「聞くに堪えない」

「それは酷すぎます」

「ふふっ冗談だ。リュカで良い」

「龍って冗談言うんですね」





彼の名はリュシアンであるが、親しい人や友達などにはリュカと呼ばれているらしい。

顔に似合わず結構きつめの冗談を口にする事に驚いたが、笑ったお顔が物凄く綺麗で、ついつい目を逸らしてしまった。

何だこの得も言われぬ敗北感。



二人とも元気になった所で、そろそろこの洞窟を出ようと寝袋を片付けていたら入口が急に暗くなった。

リュカ様が私を背に庇い、鞘に手をかける。

息を殺して彼の背に隠れていると、グォォォオオオオオオオっと洞窟内に轟音が響き渡った。

身体中がその音にビリビリする。  

私はリュカ様の背中しか見えず、何が目の前にいるのか分からない。

でも今の音は威嚇というよりも、何か別の音に聞こえた。

なのでリュカ様の背からひょこっと顔を出し、前方を確認する。そこには2メートルを優に越える鷲が此方を物欲しそうに見ていた。





「鷲?にしては足が四つある」

「神獣だ」

「え?これが神獣?」

「これとか言うんじゃない。グリフォンだ」

「ぐりふぉん」




私の発音のせいで急に緊張感がなくなった。

グリフォンの上半身は猛禽類の鷲か鷹のような姿で下半身はライオンのような神獣だ。

滅多に人前に出てこないらしい。

この子はまだ子供で、お腹を空かせてこの洞窟にまでやって来たのではないかとリュカ様が言う。なるほど。確かにこんなに荒れ果てた場所ではエサも無く大変だろう。

 




「私たちの非常食あげても良いですか?」

「グリフォンの生態はあまり知られていないから、何とも言えないな」

「じゃあ、あげてみましょう」

「コハルは危ないから下がって」

「大丈夫ですよ、きっと」

「何故そう言い切れる?」

「だって襲おうと思ったらいつでもやれるのに、ずっと洞窟の入り口にいるだけで此方には一歩も近づいて来ません。きっと無害アピールですよ、あれ」

「そうだろうか。私には相手の力量を測る為に睨みつけている様にしか見えないが…」





意見が全然合わないので私は無謀にもグリフォンに直接聞いてみた。

もちろんリュカ様の背からだ。だって流石に面と向かっては怖い。




「もしかして、お腹すいてますか?」

『空いた』

「「喋った!?」」





どちらかというと脳内に直接語り掛けてくる感じだ。リュカ様も初めての体験だったみたいで驚いている。

私は急いで鞄の中から非常食を取り出し、グリフォンに与えてみた。

そして心の中で「口の中パサパサになりますよ?ごめんなさい」と思っていると、『美味しい、ありがとう』と返事がきた。

凄い。これが以心伝心?

 

グリフォンが全てを食べ終えた頃、私達はやっと洞窟から出て近くの村へ行く事にした。

本当ならリュカ様が龍体になって空を飛べば早いのだが、密猟者が近くにいるかもしれないのと、龍体になる為にはもう少し力を貯えないといけないらしいので徒歩で向かう事になった。

 

村に着いてしまえばリュカ様とはきっとお別れになる。

それまでにこの世界の一般常識とお金の数え方、数字や文字を覚えなくては…。

私はそう心の中で決心しながら歩く。

因みにリュックは重たいのでリュカ様が担いでくれている。初めは遠慮したがリュカ様が渡してくれなかったので諦めた。

グリフォンは私達と間隔を少し空けて着いて来ている。

  



「懐かれたんですかね?」

「神獣は誇り高き生き物だ。食事を分け与えた程度で懐くだろうか」

「でも着いて来てますよ」

「確かに…」





私は後ろを振り向いてグリフォンに自分の名前を告げた。

すると『我には名がない』と返事がきたので、名前を付けても良いですか?とドキドキしながら聞いてみると、快く了承してくれた。

この一連の会話を聞いていたリュカ様は何故か吃驚している。

どんな名前が良いだろう。 




「グリフォンだから【グっさん】とかどうでしょう?」

「却下だ」

『我も嫌だ』

「じゃあ、ザビ丸」

「神秘性に欠ける」

『我もそう思う』

「む、難しいですね」

「逆によくもそうヘンテコな名が出てくるな」

「ん~では、テオなんてどうですか?どこの国かは忘れてしまいましたが、神様からの贈り物という意味があるんです」

「うん、それなら良いんじゃないか?」

『我もそれが良い』

「決まりですね」




だからといってテオが私達の近くを歩く事はなく、距離は開いたままだった。

日が暮れてからの移動は危ないのでテントを張ろうすると、色が目立つという理由でリュカ様に却下された。


 

野営準備のため、私は枯れ木を集める。

火はリュカ様が起こしてくれた。

初めて魔法を見た私は終始凄い凄いとはしゃぎっぱなしで、他にも魔法を見せてくださいとお願いしたが魔力は有限なので今はダメだと言われてしまった。

むしろ村に着いてしまえば、もうリュカ様の魔法は見られなくなるのに…。

いや、でも、もしまた魔獣に襲われたら危ないか。

大人しく従っていよう。



今日の夕飯も私が持って来ている非常食だ。

しかし昨日までとは違いレトルト食品だ。

明日のお昼には村に着くらしいので其処に着くまでに必要な飲み水は使わず、余る分量だけで作れるか確認し、大丈夫そうだったのでさっそく作ってみる事にした。

作ると言っても火は起こされているので、その上に簡易鍋を置き水とレトルト食品を一緒に入れて、沸騰したらリュカ様が作ってくれた木のスプーンで食べる。それだけだ。

技術に感謝。

カトラリーに関しては本当は持ってきていたはずなのに、中身が入っていなかった。

私のバカ野郎。

 


スプーンが無くて落ち込んでいたらリュカ様が「スプーンくらい作れる」と言い、懐から出した短剣で木を削ってささっと作ってくれた。

靴や椅子、机などは騎士なら作れて当然らしい。

それよりもいつの間に短剣を懐に忍ばせていたんだろう。

そっちの方が気になる。



 

「遠征や討伐をしていれば自然と身に着く技術だ」

「そうなんですね、ありがとうございます」

「それで、これは何だ?」

「これはレトルト食品といって沸騰させるだけで美味しいご飯ができるんですよ」

「俄かには信じがたい…が、コハルの持っている物には驚きが詰まっているから楽しみだ」

『我のは?』

「ちゃんとありますよ、テオ様は食べちゃダメなものとかあります?」

『テオで良い。瘴気以外は何でも食える』

「勝機?」

「違う、瘴気だ」

「しょうき」

「また食後にでも教える」




今回は自社開発した既にお米が入っている牛丼、親子丼、中華丼だ。

特に説明はせずにリュカ様とテオに選んでもらい、私は残った中華丼を食べた。

テオは嘴なので食べにくいだろうから、私がスプーンで掬って食べさせている。美味しいみたいで早く早くと頭を私に擦り付けてくるので、たまらず頭をわしゃわしゃと撫でてみた。

うわぁ~もふもふ!

ブラッシングしたらもっと、ふわふわでもふもふになる事間違いなしだ。 



リュカ様も気に入ってくれたみたいで、レトルトではない一からの作り方を教えて欲しいと頼まれた。なので調理方法を簡単に説明し、具材についても分かる範囲で答えた。

こちらの世界にも牛や鶏、それに似たような物までいるので再現はできそうだけど、醤油がないのが難点だ。一応醤油の作り方も説明してみたが、これについては色んな豆で試してみるしかなさそうだという結論に至った。

頑張ってくだいリュカ様。



今日も寝袋を敷き、リュカ様にこの上で寝てくださいと伝える。

しかし食事のお礼にテオが自分に寄りかかって寝ても良いと言ってくれたので「きゃーそこにシビれる憧れる♪」と言い、私は寝袋に座り上半身だけをテオに預ける様にして目を瞑…れる訳がない!

こんな超絶美形の人が横にいるのに眠れる訳がない!

そして近い。

肩が当たってますよリュカ様!

 


初めは寝ずの番をリュカ様が申し出てくれたがテオがやると言って聞かなかったので、私達は素直に体力回復を優先する事にした。

体力回復どころか精神根こそぎ持ってかれそう。

年齢イコール彼氏いない歴0年の私がイケメン耐性なんてあるわけがない。

鎮まれー鎮まれー私の鼓動!

大丈夫。

昨日だってなんやかんや寝てたんだから、今日もいつの間にかコロッと寝てるはず。

目を閉じるんだ私。







ダメでした。

駄目でしたー。

朝まで余裕で起きてました。

最高に寝心地の良いテオの体に身を預けていたのに全然眠れなかった。

それもこれも隣で綺麗な顔して寝息を立てているリュカ様のせいだ。

いや、勝手に意識しすぎていた私のせいか。

ぐっ自分の恋愛遍歴が憎い。 



口をゆすぐ為に昨日沸騰させた水を空のペットボトルに入れ、テオやリュカ様から離れた場所へ行くと湖がみえた。

でも、そこにはお世辞にも綺麗な水など無く、黒く濁り異臭を放っている。

ササっと用事を済ませ元の場所に戻ろうとしたら、何故か私の手足が透け始めた。 



ななな何これー!?



ついでに声も出ない。

嬉しくないセットだ。

しかも段々力が抜けてきて立っていられなくなってしまった。

膝をつき、ぼーっとする頭で考える。

此処で意識を手放しちゃいけない気がする。


しかし意識を保つことだけで精一杯な私は地面に倒れ込んでしまった。そして目の前の死んでる湖を見る。最後の景色が死んだ湖とか嫌すぎる。

そんな事を考えていたら、こちらに向かって来る足音が聞こえた。

きっとリュカ様とテオだ。

彼は倒れている私を抱き上げ、焦った声色で私に言葉をかける。




「!?身体が消えかかっている…。しっかりしろコハル!」

「      」

「声が…出ないのか?」

『…龍の子、この娘はこの世の理とは別の世から来た?』

「ええ、そうです。何故分かったのですか?」

『身体が、この世に適応できずに消えかかってる』

「っ!?何か助かる方法をご存じですか」

『簡単な事。この世の物を娘に食べさせれば良い』

「この世の…」





リュカ様は死んで腐りきっている湖を見つめている。

そんな殺生な。

こんな水飲むくらいなら私は儚く散って逝きます。そして最期にリュカ様の綺麗なご尊顔を見て逝きたいです。

そう必死に口を動かすが、リュカ様には全然伝わっていないようだ。




「コハルがさっきから何かを必死に訴えていますが分かりますか?」

『身体が消えかかっているゆえ心が読み取れん。が我は優秀故、読唇術ができる』

「では、なんと?」

『生 き た い』




若干違うよテオ。合ってるんだけど違うんだよテオ。

もうダメかも、だんだん視界がぼやけてきた。リュカ様とテオが認識できない。

意識も…もう…  








私は何かに優しく包み込まれているような感覚に目を覚ます。

でもそこは現実ではなく、夢の中みたいな場所だ。先ほどまでの景色とも違う。

何だろう。

水?いや氷?かな。

私を包み込んでいるナニカに触れてみると、冷たいのにとってもあったかくて優しさが伝わってきた。そして氷の様な何かに頬を預けると、視界がクリアになってきた。

全体をぐるっと見渡してみる。

何処なんだろう。とりあえず私は氷で出来た球体の中にいる事は分かった。

自分がどんな場所にいるのか認識した直後、手足が徐々に氷に包まれ始めた。でも全然寒くないし、むしろ穏やかな気持ちになっていく。

頭まで全て氷に包まれた瞬間、パーンっと全身を覆っていた氷が弾け飛んだ。そして目を開けるとドアップでリュカ様のご尊顔があった。


 

うぇええおおおおお!?

ズキッと頭が痛み、リュカ様のご尊顔が離れていく。



「目が覚めたか?」

『娘、龍の子に感謝』

「あ、ありがとうございます。も、もしかして、そこの黒ずんだ水飲ませたりしてません…よね?」

『クッハハハハ。愉快、愉快だ娘。龍の子は』

「それはいずれ()の口から言います」

『…承知。我は傍観する』

「え、何なんですか?あの黒ずんだ水よりも恐ろしい物なんですか!?」




生き返った喜びよりも、リュカ様が私に何をしたのかが気になりすぎる。

全然生還した気がしない。

しかもさっきの氷の球体の夢はなんだったんだろう。


私の生還方法をリュカ様に聞いても、彼は全く答えてくれなかった。

とりあえず未だに力が入らず立ち上がれない私は、胸の前で手を組み〈どうかこの湖の水が綺麗でありますように〉と祈った。

すると私の身体全体が発光し、その光が黒く淀んだ湖を照らし異臭や黒い淀み、全ての負の要素を弾き飛ばして綺麗な湖が現れた。





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