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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第二章 やって来ました、龍の国 
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龍も猫も狙った獲物は逃がさない




 リュカさんと文二が夜遅くに一緒に帰ってきた。

 翌朝の早朝からルイーゼがせっせと私の旅仕度を始め、ドレスではなく動きやすいワンピースに着替えさせられた。





「コハル様、リュシアン様から離れてはなりませんよ。私もご一緒出来れば宜しいのですが、リュシアン様のお仕事ですので…。ルイーゼッケンドルフはこのお邸でコハル様の御帰りをお待ちしております!もしもの時は手紙を送ってください!必ず駆け付けます!」

「え?全然話が見えません。どういう事ですか?」

「コハル様は今日から1年間、リュシアン様のお仕事に御同行されるのですよ」

「えええ!?聞いてないです!」

「本当は昨日お伝えするべきだったんですが、気持ち良さそうに眠っていらっしゃっるコハル様を見ていますとお起こしするのも憚られてしまい、お伝えするのが遅くなってしまいました」

「えぇぇ。見つめてないで叩き起こしてください」





 昨日、リュカさんは私が借りている部屋から姿を消した後、王宮にある龍の間へ入室しようとしたら足元に急に現れた文二から助言されたらしい。

 何と助言されたのかは教えてくれなかったけど、言われた通り国王様に進言すると話がすんなり進み『1年以内に任務を遂行し、帰還せよ』と命を受けたそうだ。

 任務の内容は特務部隊に届いていた他国からの依頼が主で、害獣駆除や魔獣討伐など多岐に亘る。そんな危険な任務に何故私が同行するのか、邪魔になってしまうんではなかろうかと不安や疑問が脳裏に浮かんだ。

 

 最後にルイーゼに上質なローブを着させられ、私は大量の『?』を頭の上に飛ばしながら一階に向かう。

 いつも食事をしている部屋に入ると、リュカさんや大福、文二、ユリウスさんが居た。

 リュカさんも前回よりしっかりとしたローブを身に纏い、中には軍服を着ている。





「おはよう。コハル」

「おはようございます。コハル様」

「おはようございます。リュカさん、ユリウスさん」

「にゃ!」

「キュー!」





 文二や大福とはハイタッチで挨拶を交わす。

 

 私が同行するとリュカさんのお仕事の邪魔になってしまうのでは伝えると、『問題ない』の一言で片付けられた。

 



「コハルは私が半殺し状態にした動物に止めを刺す係だ。一度だけで良いよ」

「私はまだ攻撃魔法が使えませんし確実に足手纏いになります」

「魔法なら私とブンジが教える」

「ルシェールから地上に降ろしてもらうだけではダメですか?」

「駄目である。祝言を挙げてもらう為に龍の子に協力したのだ」

「文二め…」

「私としてはコハルにアピールできる時間が増えて嬉しいよ。期限は一年しかないから覚悟しておいて」

「降参しても良いですか」

「それは私の告白を受けるという事か?」

「いつからそんな前向き思考になったんですか」






 こうして私とリュカさん、文二、大福の新たなる旅が始まる。

 前回よりも確実に危険な旅となるので、私の持ち物には全て防御魔法や物理反射魔法が掛けられ、この世界に奇跡的に持ち込めた登山用のリュックにはバロメッツ畑からもぎっ取った醬油入りランチャームを沢山詰め込み、リュカさんのポーチに入れさせてもらった。



 準備も整い、陽の明るい内に地上へ降りる。

 外に出ると大きな影に覆われ、辺りが暗くなった。

 上を見てみると懐かしい黒いドラゴンが翼をはためかせながら、ゆっくりと邸の庭へ降りて来た。

 いつしかの漆黒の仔竜(ヴァンプール)だ。



「グゥゥオオオ!」

「前より大きくなりましたかね?」

「そうだな」



 私は龍の言葉が分からないのでリュカさんがヴァンプールと話す。

 



『やっと見つけた。名付けはまだ?』

『今コハルに名付けられてしまうと60年余りしか生きられないよ』

『それでも良い』

『もう1年待つともっと長く一緒にいられるとしたら返事は変わるか?』

『待つ』

『賢明な判断だ』

『何処か行くの?』

『旅に出る』

『コハルを乗せたい』

『コハルだけでは乗せられない』





 グオグオと会話が終わり、リュカさんが私を抱き上げてヴァンプールの背に乗せる。

 リュカさんは私を後ろから抱きしめる様な形で座り、大福は定位置の私の肩で、文二は私のお腹にしがみついている。

 文二曰く私が落ちないようにとの事らしいが、どう見てもそういう風には見えない。



 邸に仕える全ての方に見送られ、私達はルシェールを飛び立つ。

 1年間の間に終わらせなければならない幾つかの案件の中には、途中合流してウメユキさん達と討伐する物もあるらしい。

 ひとまず魔族の住む国へ向けて旅をし、その道中に依頼されている国の案件を終わらせていく。一番最初に片付ける依頼内容はモンステゴンという国で暴れているパオンパオンを落ち着かせる事だ。

 パオンパオンは気性が荒く、いつも踊っているらしい。

 攻撃魔法は打ってこないが肉弾戦が得意で、主に足技を使うそうだ。ヒト族や獣人族では力負けしてしまう為、龍族や鬼人族によくパオンパオン関係の依頼が来ると言っていた。

 パオンパオンってどういう動物なんだろう。

 凄く気になる。

 




「倒すんじゃなくて落ち着かせるのが任務なんですか?」

「一応希少種だからね。昔乱獲されすぎたせいで今は殺める事を禁止されている」

「何で乱獲されたんですか?」

「パオンパオンからは魔法薬に使える素材が豊富に取れるからだろうね」

「へぇそうなんですか」





 リュカさんと話しをしていると、あっという間にルシェールが遠く小さく見えた。 

 流石ドラゴン。

 飛行スピードが速い。

 鱗がスベスベで体制は取りにくいが、リュカさんがしっかりと私のお腹に腕を回してくれているお陰で安心だ。

 ウエストがバレしまうだとかは今更すぎて、私は無の境地に入り掛けている。



 岩だらけの殺風景な地上へ降り、此処でヴァンプールとはお別れだ。

 鼻先を私に擦り付けて離れがたそうにしてくるので構い倒していると、途中でリュカさんから強制ストップが入りヴァンプールは空へ羽ばたいて行った。




 今からは前に訪れた事のあるアングルナージュとは別の方向へ足を進めて行く。

 地面はゴツゴツとした岩から徐々に柔らかい土へと変わり、森が見えて来た。

 すると突然、前を歩いていたリュカさんがしゃがみ込んだ。





「大丈夫ですか?膝関節に違和感でも覚えたんですか?」

「私を年寄り扱いするな」 

「ふみまひぇん」





 思いっきり頬っぺたをぐいーと引っ張られ、如何に自分が健康であるかを延々とリュカさんに語られる。

 もうちょっと手加減をして欲しいです。

 めちゃくちゃ痛いです。


 そして、しゃがみ込んだ理由をリュカさんが話す。



 この時期には珍しいバッドコウモリの足跡があり、いつ頃のものかを調べる為にじゃがんで土の感触を確かめていたらしい。関節痛じゃなくて良かったですね。

 リュカさんの見た目は20代くらいと若い見た目をしているが、実際は結構な年数を生きていらっしゃるのでたまに勝手に心配している。でも年寄り扱いするとプンスコ怒るので、さりげなく今みたいに声を掛けている。が、だいたい失敗に終わっている事がほとんどだ。


 大福は私の肩に乗って辺りをキョロキョロと見回しており、文二は私のローブの裾にツメを引っかけて遊びながらとてとて歩いている。

 ローブがズタボロになるので止めて欲しい。

 本当に文二は私をお世話するつもりがあるんだろうか。



 この森は今まで歩いて来た中で一番ジメジメしていて歩きにくい。

 土も柔らかすぎて若干ぬかるんでいる所がある。




「にゃー!」

「ん?」 

「キュゥゥ」

「雨か…」

「何でリュカさん分かったんですか?」

「匂いがする」

「なるほど」

 




 その数分後、ゲリラ豪雨並みのどしゃ降りに遭い、私達はリュカさんが急遽魔法で建てた氷のお城の中に避難した。もしかして歌い出すんじゃないかと思ってドキドキしながら見ていた私は期待を裏切られショックで若干落ち込んだ。せめてローブをバサァっと脱ぎ捨てて欲しかった。


 龍族は寒さに弱いはずのに氷のお城の中に居ても大丈夫なんだろうか、とふと疑問に思う。





「リュカさん寒くないですか?」

「平気だ」

「少しもですか?」

「ああ、寒くない」

「惜しい」

「何がだ?」

「何でもないです」

「…あぁ。温めて欲しかったのか」

「違いますよ。大丈夫です」

「すぐに察してやれなくてすまない」

「今も全然察せられてないですからね」






 結局リュカさんに後ろから抱きしめられるような形で氷で出来たソファの上に座らせられ、私の膝の上には文二が座る。

 大福はリュカさんの肩に移動して、高級なファーのような状態になって甘えている。



 氷で出来たお城は外の鬱蒼とした暗い森の様子が見えて怖い。

 雨も酷く、止みそうな気配は全くないので気を紛らわせる為に文二を撫でる。

 そして気になっていた事をリュカさんに聞いた。 




「龍族の方は寒さに弱いんじゃなかったんですか?」

「己で編み出した魔法には寒さを感じないよ」

「そうなんですね」

「しかしコハルは徐々に体温を奪われていくはずだから、雨が止めば此処を出よう」

「このお城はどうするんですか?」

「仕掛けを施して残すよ」

「仕掛けですか?」

「ああ。バッドコウモリはズル賢く面倒だからな」





 今の所私は寒くない。

 リュカさんと文二に挟まれてとても温かい。

 

 雨が止むまでこの氷のお城に仕掛ける内容をリュカさんに聞いてたら、クリスマスシーズンになるとよくテレビで放送されていたあのポインセチアだらけで特に盗む物がなさそうな家の映画を思い出した。




「パオンパオンとバッドコウモリはどちらが強いですか?」

「パオンパオンだろうな」

「名前は可愛いのに凄く強いんですね」

「可愛い?」

「はい。響きが可愛いです」

「パオンパオンが…可愛い…」

「そこまで真剣に考えないでください」







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