犯人はアナタだ! 【修正済】
前回投稿した内容とは全くの別物になっております。
展開をあれこれ変えてすみません。
リュカさんから告白されて3日が経つ。
夜会の翌日から彼の事を意識しすぎて挙動不審になる私をルイーゼが必死にフォローしてくれた。当のリュカさんは普段通りで落ち着いており、それが逆に腹立たしい。
二日目の夕方には私も落ち着きを取り戻し、リュカさんと今まで通り一緒に夕食を取る。
「まさか、私の一世一代の告白を無かった事にしてないだろうな」
「してませんよ。ちゃんと覚えてます」
「では何故普通なんだ?」
「意識しまくっている私を見てリュカさんが楽しそうに笑うからです」
「変な動きをするコハルが可笑しくてつい…」
「怒っていいですか」
「…すまない」
「肩を震わせていたユリウスさんも同罪ですからね」
「申し訳ございません」
内心はそれほど怒っていないが一応二人に釘を刺しておく。
緊張が解けた私はやっと告白の返事を真剣に考え始めた。
寝支度を整えベッドの中に入る。
大福と文二とは一緒に寝ており、お風呂も一緒だ。
流石に寝る時とお風呂に入る時は文二が履いているブーツを脱いでもらっている。
体毛は基本茶トラだ。
私は独り言のように思いの丈を呟く。
「元の世界に帰ろうとしてる事、リュカさんに言った方が良いのかなぁ」
「無理である」
「えっ」
文二が唐突に喋る。
お腹を出して仰向けになっていたので、私はすっかり眠っているもんだと思っていた。
因みに大福は私の横で丸まってスピスピと寝息を立てながら眠っている。
何が無理なんだろう。
リュカさんと恋仲になる事?それとも私が元の世界へ帰る事?
文二が発した言葉が気になる。だけど知るのが怖い。
心の決心が着かないまま自分の口が勝手に開く。
「…何が、無理なの?」
「元の世界に帰る事である」
「どうしてっ」
受け入れられない事実に私は飛び上がる。
しかし寒いという文二に肩を押されベッドへと倒れ込んだ。
今は一人と一匹でうつ伏せ状態になり、修学旅行で恋バナするみたいに顎に手を置き思い思いの楽な姿勢で横になっている。
当然私は文二に矢継ぎ早に質問していく。
何故私は元の世界へ戻れないのかや、何故文二がそんな事を知っているのだとか、気になる事知りたい事全てを聞いていく。
だって私は元の世界へ帰る方法を一つ知っている。それは大量の魔力が必要になるからしないけど、でも帰れる方法の内の一つだ。実際にその方法で呼ばれた少女がいるし、呼んだは良いが色々問題を起こすから帰そうかと揉めている話を覚えている。
だから私も帰れるはず…。そう思って今まで余計な事は考えずに頑張って、踏ん張って、泣かずに来たのに…。
文二は淡々と私の質問に答えていく。
そもそも、その少女と私ではこの世界に来た方法が違うらしい。
少女は正式な儀式を経て呼ばれたから帰る事が出来るけど、私は誰かに無理矢理引っ張られて来られたから帰る事は出来ないそうだ。要は正式な手段ではない、誰かの違法行為で私は今この世界に居る。
「っ誰!?そんな勝手な事したの!」
「にゃー」
「いや今大事なとこ!」
文二の回復を待ってから答えを聞く。
犯人はまさかの世話師猫、文二だった。
文二は何百万年もの間、この世界にある精霊が住む場所で世話師猫らしく色んなだらしない精霊のお世話をしていたそうだ。しかし年月が進むに連れ精霊は徐々に自立を覚え行動的になっていき、寂しさを覚えた文二はだらしない生き物はいないかと、こっそり色んな場所に現れて探しに行く。だが何処にもそんな生き物は見つけられなかった。その行動は世界をも越え、遂に一人の女性を見つける。それが私だ。
「めっちゃ理由が酷い…」
「最高の逸材での」
「全然嬉しくない」
地球に現れた文二は何人かの候補を見つけ、監視を始める。
だらしない選手権を勝ち抜いたのはもちろん今この世界に居る私で、決定打になったのは仕事の日以外部屋から一歩も出ず寝てばかりで起きたら夕方になっている頻度が群を抜いて多かったから。
確かに休日は英気を養うため日がな一日中ベッドの上でゴロゴロしていた。あれが良くなかったのか。食材や日用品など要るものは仕事帰りに基本買って帰っていたから、よっぽどの事が無い限り本当に何処にも出かけなかった。
他にも私の行動は世話師猫の文二にとって、手助けしたくなるような酷い生活と仕事ぶりだったそうだ。文二は私が上司に出した茶柱100%のお茶の事まで知っていた。あれは結構苦労して作ったものだ。お陰でお昼休憩が丸々潰れ、午後は空腹と眠気が半端じゃなかった。
そして、日本よりも格段に危険度の高い自分が居る世界にこの子を呼んだら、いっぱいお世話が出来ると考えた文二は行動を起こした。
「どうして正式な儀式で呼んでくれなかったの?」
「?にゃー」
又しても文二の語変換魔力が尽きたので回復を待つ。
今までは世話師猫が伝説級の存在という事で若干敬った喋り方をしていたけど、この猫ちゃんが私をこの世界に呼んだ犯人なので、今からは砕けた口調で話す事にする。
文二がやっと回復した。
正式な儀式で私を呼ばなかったのは、その方法を知らなかったから。
文二が知っていたのは人魚の涙1ガロンとドラゴンの虹色の鱗が1枚、妖精の粉が小さじ3杯、塩コショウ少々、ユニコーンのツノ1片、鎮魂草、パオンパオンのケツ毛適量だそうだ。
色々と気になる事が多い。
塩コショウ少々なんて最早ただの料理。
というかパオンパオンとかっていう見た事もない生き物のお尻の毛で私がこの世界に召喚された事がショックだ。
魔力を込めて全ての材料を混ぜ合わせ、遁走曲を奏でる事で他の世界の者を呼び寄せる事が出来るらしい。しかし文二は遁走曲を一節間違えて奏でてしまい、予定していた座標ではない所へと私が現れた。
あれだけの材料を上手く混ぜ合わせるには相当な魔力が必要で、文二は数日間動けず、やっと私に会えた時には龍の子と一緒に居たので嫉妬したそうだ。あの時、ご飯だけ食べて帰ったのは自分が世話を焼かなくても龍の子が率先してやっていたから。
「じゃあ何でまた姿を現したの?」
「弱いゆえ、守ってやらねばと」
「それは、ありがとうございます」
確かに旅の道中で何度も文二にお世話になった。
もちろんリュカさんと大福にも。
文二は何故私が元の世界へ帰れないのか、最大の理由を語る。
世話師猫の我儘でこの世界に呼ばれた私は、異なる世界の均衡を保つ理に勝手に干渉し、無理矢理世界を跨ぐ違法行為に意図せず関わってしまった為、各世界の神様から二度と世界を跨げないよう天罰が下されたらしい。
ん?酷くないですか?
私、被害者なのに。
流石に可哀想だと憐れんでくれたひと柱の神様が【古の御業】だけ、私にギフトを贈ったそうだ。
「文二が何でそこまで知ってるの?」
「コハルの傍におらぬ時は御神木と居る故、教えてくれ申した」
「そうなんだ。ねぇ、文二は私がこのままだといつか消えてしまう理由も知ってる?」
「うむ」
「教えてっ!もう元の世界に帰れないんじゃ私は此処で生きていくしかない。だから、私自身が消えてしまわない様にするにはどうすれば良い?」
「殺めよ」
「えええ!?」
文二が急に物騒な発言をする。
今まで私の精神が不安定だったのは、この世界で生きていく決心が出来ていなかったから。今は此処で生きようとしているのでクリアできている。
しかし、完全にこの世界に身体を定着させる為には何でも良いので何か生きている生物を殺さなければならない。それが此処で生きていくと言う覚悟の表明になるらしい。
文二が旅の道中に出て来た動物をよく半殺しにして私の元へ持って来ていたのは料理をして欲しいからでは無く、止めを刺せという意味で持って来ていたそうだ。
私がこの世界基準でいくと短命な事は旅をしている時に知ったと言う。
後数十年で死なれてはお世話する時間が少なすぎて暇で退屈になって困ると思った文二は、必死に私の延命方法を探したそうだ。理由が酷い。
「龍の子とコハルが結ばれれば万事解決。婚姻の儀を交わし祝言を挙げよ」
「どんだけ勝手な猫ちゃんなんだ」
文二はリュカさんの恋路を全力で応援している。
窓の外は薄っすらと明るく、夜明けが近づいている。
最大の謎が解けて嬉しいが少しの間一人にさせて欲しい。
急に元の世界へは帰れないだ、生き物を殺さないと消滅してしまうだ、だらしないだ、結婚前提にお付き合いだとか、もう私の頭の容量では処理しきれない情報ばかりだ。
文二は喋りすぎて魔力を大量に消費してしまったのか、今は完全に眠っている。
呑気なもんですね。
君が全ての元凶であり原因なんだぞ!
後日知った事だが、世話師猫は通常7匹おり、普段は毛色別に暮らしているらしい。今はお世話する相手が私しかいないので全てが合わさって一つになっている。
意識や記憶、感情といったものは共有しており個の概念は無く、毛色でそれぞれの得意分野が違うだけだそうだ。




