苦悩する龍とお喋り好きな龍鬼【修正済】
修正前のを何度読んでも展開スッ飛ばし過ぎでしょと思ったので書き直しました。
また読んでいただけると嬉しいです。
忍冬ご兄妹が先に国王様へ挨拶を済ませ、その後に私達も無事に終える。
国王様の挨拶が終わり、いよいよダンスを披露する時が来た。男性がそれぞれのパートナーの手を取る。
「コハル、もし間違えてしまっても大丈夫だから。私に身を預けて、私の瞳だけを見ていれば良い」
「リュカさんの瞳を見続けるのは結構難易度高いですよ」
「ふふっ。コハルは全然靡かないな」
曲に合わせて踊り出す。
リュカさんが人とぶつからない様にリードしてくれるお陰で私は誰ともぶつからずに踊れている。
言われた通り視線を合わせるが、不整脈が凄い。こんな煌びやかな場所で生演奏をバックに美男子とダンスをして豪華なドレスも着て、まるで御伽噺に出てくるような御姫様にでもなったかのような気分だ。
「ふふっ。コハルの頬が熟れたリンゴのようだ」
「リュカさんは、えーと死んだ魚の腹のような」
「良い。それ以上言わなくて良い」
甘ったるい比喩表現の仕方など勉強した事のない私は必死に白くてスベスベした物を考えて喩える。しかし御気に召されなかったようだ。
踊っている最中、エド君とロイ様のペアとすれ違った。エド君は幸せそうな顔で踊っており、ロイ様は初孫を喜ぶお爺ちゃんのような顔で相手をしていた。
一曲目の演奏が終わり、最後に礼をする。
「二曲目も踊」
「キャァアアー!デルヴァンクール様ァア!是非私と踊って下さいませ!」
「ではその次は私と!」
「いいえ!私が先よ!私と踊りましょう?」
「それよりも私と共に愛について語りませんか!」
リュカさんの人気は凄まじく、私はあれよあれよと端に追いやられてしまった。
尊い犠牲となってしまったリュカさんに一礼し、私は並べられてある豪華な料理を取りに行く。テリーヌ、ステーキ、サンドウィッチ、クロカンブッシュと多種多様な料理が机の上に並べられてある。中には見たことも無い不思議な料理もある。お皿を持って気になる料理を片っ端から取っていき、ダンスホールから見える庭へ行くと、ベンチに座って愛を語らう男女や壁の花になっている女性、私みたいにお皿に料理をてんこ盛りにしている男女が居た。
今日は邸に帰っても夕食は準備されていない。と思う。だから此処でたらふく食べて帰ろう。後は貧乏性故か元を取りたくなる。まぁそもそも夜会に参加費があるかは知らないし払ってもいないけど。
一応リュカさんの死角にはならないよう、こちらからもダンスホールが見渡せる席についた。
「ご一緒しても宜しいか?」
声を掛けて来た人物は何故か一人のウメユキさん。モテそうなのに、何で一人なんだろう。
彼は私が返事をする前に勝手に席へと着いてしまった。
「リュカ君のこと、他のお嬢さん方に取られはったん?」
「私は一曲目のスローワルツしか踊れないので、そもそも二曲目は踊れません。リュカさんには尊い犠牲になってもらいました」
「そ、そうなんや」
「ウメユキさんは踊らないんですか?」
「ちょっとなぁ、話したい子ぉが独りやったから断ってきてん」
「へぇ、行ってらっしゃいませ」
「ちょぉ待ち。自分の事やと思わへんの?」
「?。思いません」
ウメユキさんは以前にも何度か私に話しかけようとしていたらしいが、全てリュカさんに阻止されていたらしい。何やってるんですかリュカさん。
という訳で、ウメユキさんはここぞとばかりに色んな事を質問してきた。
「率直に聞くけど、コハルはんはリュカ君の事どう思うてはる?あっ恋愛的な意味でやで」
「ん~…良い人だとは思います。けど、恋愛対象にはならないです」
「何でなん?」
「生きていく年数があまりにも違いすぎます。それに、私の方が先にお婆ちゃんになってしまうなんて嫌です。しわくちゃな姿を見られたくありません」
「それやとその問題さえクリア出来れば恋愛対象なるゆうこと?」
「今のはあくまで例えばの話です」
「ほんまに?」
「ほんまです」
「ふ~ん。まぁええわ。コハルはん婚姻の儀って知ってはる?」
「いえ、知らないです」
ウメユキさんがニコニコしながら婚姻の儀について話す。
まず、長寿種族は種族ごとに寿命の短い相手を自分と同じくらい長生きにさせる方法を持っているらしい。龍族では“婚姻の儀”と言って、龍族が魔力を込めた血を口移しで相手に飲ませると相手が己の種族を越えた寿命を手に入れる事ができる。そしてその龍族と同じ寿命まで生きる事が出来る。
但し婚姻の儀を交わした龍族が死んでしまうと自分も一緒に死んでしまうらしい。つまり運命共同体という訳だ。そしてそれに似たようなものがもう一つある。
それは相手に新たなを名を授け従属させるという方法だ。こちらは名を与えた側が基本となる。そして長寿種族はまず短命種族に従属する事はない。だって寿命が縮んでしまうから。
「婚姻の儀ってなんだかロマンチックですね」
「今はな。暗黒時代ん時は酷い使い方やってん。とまぁ暗い話は置いといて、どう?」
「?」
「これでリュカ君との恋愛に障害は無いも同然やろ?」
「その話続いてたんですね」
「だってリュカ君、コハルはんの事ごっっつ好きや言うてアピールしてはんのにコハルはん全然気付けへんのやもん。ここは親友のウチが一肌脱がなあきませんやろ?」
「えっ」
「おっ!顔赤うなるゆう事は脈アリな証拠やね。良かったわぁ。これで安心してリュカ君の事からかえるわぁ」
一人勝手に盛り上がるウメユキさんを止める術など知っているはずも無く、彼はどんどん昔のリュカさんについて話していく。
リュカさんは昔、世界中を旅する前はツンツンしていて表情も硬く、無愛想だったらしい。でも他人を見下すという事はなく興味がないといった風な態度だったそうだ。
「全く想像できません」
「昔っからリュカ君人気やったけど、今みたいにメス共から黄色い悲鳴上げられて取り囲まれるなんて事なかったんやで」
「そうなんですか?」
「うん。気になる子ぉらはみーんな遠目にリュカ君の事見てはったわ」
「何でですか?」
「近付くなオーラ出てはったからな」
「へぇ」
ウメユキさんの思い出話はまだ続く。
リュカさんは武功を上げ、家名を譲り受ける事が決まってから世界中を巡る長い旅に出た。これは私もたまに聞く話だ。
彼は領地を受け継ぐ事や家名を受け継ぐ覚悟など、視野を広げて自分が領主としてどうあるべきかを学ぶために旅に出ようと考えたらしい。
長い旅から帰ってきたリュカさんはウメユキさんや長年付き合いのある人が驚く程に口数が増え、交流も増えていったそうだ。
「凄いですね。何があったんでしょう」
「それよりもこっからの方が凄いんで」
「ワクワクします」
受け継いだ家も領地経営も順調で、周りは彼のお嫁さん候補は誰になるだろうと盛り上がる。上流貴族や名のある他国の姫など、色んな人が縁談を申し込んだがリュカさんは全てを断り今も断り続けているらしい。まさかのビックリ新情報だ。
そしてある日、一人の部下を救う為にリュカさんは自らを犠牲にした。
致命傷を負いながらも何とか助けた部下と仲間が無事に撤退して行くのを見届けあと、彼は空から地に落ちた。
致命傷を負ってしまったリュカさんは龍体化できずルシェールに戻る術を失ってしまい、何とか生きようと木々から生命を奪い傷を癒す事に専念する。しかし傷を癒すのにも魔力が必要で、全身に力が入らず立ち上がる事も出来なかったリュカさんは少しでも楽に呼吸が出来るよう枯れ木に凭れ掛かった。そして、遠くから近づいて来る魔獣の気配を感じ取った。
「だ、大丈夫なんですか!?この後どうなるんですか!?」
「ククッ。そんでな」
普段の彼なら瞬殺レベルの魔獣だが、今は満身創痍で剣を抜く事すら出来ない。そんな絶望的な状況だと言うのにリュカさんはまだ生を手放しておらず、何か魔獣を倒す策はないかと朦朧とする意識の中で考えた。
まとまらない思考の中、背を預けていた枯れ木の方から急に新たな気配を感じ取る。こんなにも堂々と気配を隠さない人物に、自分を奇怪な魔術で撃ち落とした密猟者かと思い、最後の力で攻撃魔法を放つ準備をする。しかし、目の前に姿を現したのは不思議な格好をし、大きな荷物を抱えた一人の女性だった。
何故こんな危険な場所に女性が?と思いつつも警戒は解かない。
女性はリュカさんの横で『よっこらせ』と言い、呑気に大きな鞄の中から何かを取り出そうとした。彼女は気配も仕舞わず、あまりにも場違いな雰囲気で佇む。しかも魔獣が近付いて来ている事に微塵も気付いていない。
この女性は密猟者ではないのではないか?と思ったリュカさんは、魔獣が来るから逃げろと枯れた声で必死に伝える。しかし全く伝わらず、その女性は頓珍漢な事を言いながら不思議な味のする液体をリュカさんに飲ませた。
いよいよ女性の肉眼でも捉えられるまでの距離に魔獣が近づいて来た。彼女は迫って来る魔獣に変な道具で立ち向かい、逆に魔獣を怒らせてピンチになってしまう。
最初こそ魔獣に立ち向かう為にリュカさんの剣を抜いて持ち上げようとしていたが、彼女にはその剣が重く、持ち上げられなかったそうだ。しかしそれが功を奏してか抜刀状態のままだったお陰でリュカさんは剣を気力で持ち上げる事ができ、彼女を守って魔獣を倒す事ができた。
「なんだか童話を聞いてるみたいです」
「自分も初めてこの話聞いた時おんなじ感想言うたわ」
「リュカさんの行動めっちゃイケメンですね。最後は結ばれるんですか?」
「え、気付かへんの?」
「?」
「ほな話続けよか」
女性を助けた後リュカさんは力尽きて倒れそうになる。しかし助けられた女性が間一髪で支え、地面に激突せずに済んだ。
その女性とリュカさんとではかなり体格差があり、リュカさんは女性に引きずられながら洞窟の中へと入って行った。
この時、意識はあったそうだ。
意識が無いフリをしていたのは邸に仕えている者や母以外の女性に良い感情を持った例がないから。その為また別の意味で警戒を強める。
演技をしていたり裏があるのではないかと、女性を慎重に見極めていく。しかし彼女の行動には一切それらを感じられず、リュカさんは徐々に警戒を解いていった。
何故種族も違う赤の他人の自分を必死に助けるのだろうと不思議に思いながらも、確実にその女性が善だと言い切れる確証が得られるまでは黙って様子を見る事にしたらしい。
慣れない手つきで服を脱がされ、タオルで綺麗に身体を拭かれていく。自分の身体の下には敷物があるのに対し女性の下は土で、服がドロドロに汚れてしまっている。それを見たリュカさんは彼女に対する認識を変え始めた。
その後は自己紹介やお互いの状況を話していき、噛み合わない会話に頭を抱えたそうだ。女性は薄い板のような物を出して耳にあて騒ぎ出し、『繋がらない』だとか『圏外』と言う言葉を発して酷く落ち込み、終いには『腹が減っては戦は出来ぬ!』と言って背負っていた鞄の中から変わった食料を取り出す。中から出来たのは見たことも無い棒状の食べ物で、彼女はそれをリュカさんにも分けて『口の中パッサパサ地獄仲間ですね』と意味不明な言葉を発したそうだ。
「…」
「なぁ心当たりあらへん?」
「まぁ、ちょっと…」
「ちょっと違うやろ。正直言い」
「だいぶ心当たりあります」
「せやろ?旅の話はなんぼ聞いても詳しゅう聞かせてくれへんから此処までなんよ。死んだかも思うとった友達が性格180度変わったんか言うくらい表情も豊かなって優しい顔するようなってはって…。久々に会うた時はほんま驚いたわ」
「お爺ちゃん扱いすると怒るも追加してください」
「そうなん?リュカ君ほんま今までで一番イキイキしとるわ。ほんまありがとう」
「私は何もしてませんよ?」
「そんな事あらへん。リュカ君めっちゃ良い方に変わってはる。それはコハルはんのお陰や。ほんでな」
「ウメユキ。それ以上何かコハルに話してみろ。この場でお前の首を刎ねてやる」
「何やもう振りほどいて来はったん?早かったなぁ」
リュカさんが怒気を含んだ声色で恐ろしい発言をする。
肝心のウメユキさんは飄々としており微塵も怖がっていない。
若干やつれた感のあるリュカさんは私の手を引き席から立たせ、『帰るよ』と言ってきたので慌ててウメユキさんに別れの挨拶をし、ルイーゼやユリウスさんが待つ馬車へと向かった。
***
馬車の中は静かだ。
でも決して居心地が悪い訳ではない。
先ほどウメユキさんから聞いた話を思い出し、自分の気持ちを考えてみる。
リュカさんはどんな時も私を守ってくれて、たまに意地悪だけど優しい人だ。
生きていく年数については種族別に解決策がある事が知れて面白かった。
でも、私はこの世界の人じゃないし、いつか元の世界へ帰る。だからこの世界の人と恋をするのは良くないと思う。自分の為にも、相手の為にも。だって別れが辛くなるだけだ。
リュカさんと私の距離は今が丁度良いんだと思う。
ウメユキさんはリュカさんが私の事を好きだと言っていたけど、お得意のからかい遊びの可能性大だ。あの人の話を鵜呑みにするのは良くない。それにもしかしたら、ウメユキさんはリュカさんの私に対する距離感がバグっているのを見て勘違いしてしまったのかもしれない。彼は恋愛目線で私達を見ていたからそういう結論に導かれたのかもしれない。きっとそうだ。そうしたら全て辻褄が合う。
リュカさんの性格が180度変わったのは更年期的なやつか、旅の道中に宿屋で食べた喋るキノコのせいだろう。あんなにやかましい料理を平然と食べるリュカさんに私は驚きを隠せなかった。
リュカさんの中で、私と大福はきっと同レベルの存在だと思う。世話師猫の文二は伝説級の存在だから扱いが丁寧。でも私と大福はよく頬っぺたを抓られている。
私は失言のせいだけど、大福はご飯の食べ過ぎが原因かな。
リュカさんの顔をチラッと見る。
彼は今、外の景色を眺めている。毛先にいくにつれ碧みがかった白銀色の髪が風に揺れて綺麗だ。こんな美しい人が私の事を好きになるはずがない。もし、こんな美男子に好かれたら私の心臓は絶対に工事現場の削岩機並みに五月蠅く爆速で脈打つことだろう。
ウメユキさんと話している時に恋人同士になった私とリュカさんを一瞬でも想像して頬を染めてしまった自分を殴りたい。早急にクールになる必要がある。
私が心の中で荒ぶっているとリュカさんが外の景色を眺めるのを止め、両手で私の手を包み込んできた。視線もしっかりと合っている。
「ウメユキが話していた事は、全部本当の事だ」
「リュカさんがツンツンからツンデレに成長して性格180度変わるくらいの更年期に突入したという話ですか?実話だったんですね」
「全く違う。真面目にアイツの話を聞いていなかったのか?」
「聞いてましたよ。全ての女性をハードボイルドベアのガトリング銃並みに撃ち落としモテモテ学園生活を過ごしていたらしいですね。ヒューヒュー!よっ色男!男前!」
「何から正せば良いんだ…」
「誰にだって黒歴史はありますよ」
「はぁ。一度しか言わないよ。俺は、コハルを愛している」
リュカさんが頬を染める。そしてガラス玉のような紺碧色の瞳がいつもより輝きを増す。
何だこの可愛さと美しさは。少しは分けて欲しい。
もちろん珍獣的な意味で大福とセットで愛されているのは知っている。
「返事はゆっくりで良い。待つ事には慣れている」
「珍獣に対しても誠実なんですね」
「珍獣?」
「珍獣です」
私は自分を指差す。
「ま、まさか今のでもコハルには伝わっていないのか!?」
「そんなに珍獣に飢えてるんですか?」
「違う!俺はコハルと繋がりたいと思っていると言っているんだ!」
「キメラ的なやつですか?お断りさせて頂きます」
「何故伝わらない…」
リュカさんは項垂れ、手で顔を覆う。
「そういえば、コハルは比喩表現が苦手だったな」
「そうですね」
「分かった。コハル、私の嫁に来てくれないか?そして俺を愛して欲しい」
「眼と頭大丈夫ですか?」
「至って正常だ」
「夜会で変な物食べました?」
「何も食べていない」
「リュカさんがおかしくなった!」
「おかしくない」
どストレートに愛の告白と求婚をされた。当然私は戸惑う。
ウメユキさんが言っていた事、本当だったんだ…。どうすれば良いんだろう。
普段の落ち着きを取り戻した彼はゆっくり考えてくれと言い、私の頬を優しく撫でた。




