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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第二章 やって来ました、龍の国 
34/125

分かってるのは胸のドキドキだけ



 今朝から皆バタバタしている。

 理由は簡単、今日が夜会当日だからだ。


 私はルイーゼやユリアーナに朝からお風呂で念入りに洗われ、今は全身のマッサージを受けている。痛気持ちい指圧のお陰で眠りそうだ。

 ドレスは白銀色で裾にほんの少しだけ碧色の刺繍が施されている。夜会では素肌を出したドレスが多いらしいが、私が着るドレスは肩くらいしか出ていない。手から二の腕にかけてはウェディングで使うようなレースグローブが準備されている。このドレスはリュカさんがオーダーしたらしい。

 


「恐れ多くてこのドレスを着るのが怖いです」

「まあ!恥じらうコハル様、とっても可愛らしいです」

「本当に私の顔色見えてます?」




 顔面蒼白とまではいかないが、決して私の頬は色づいていない。

 

 ここ数日間で一曲目に必ず流れる曲は踊れるようになった。しかしそれ以外はてんでダメで、見るに堪えない仕上がりだ。なので一曲目が終わったら即帰るつもりでいる。

 昔リュカさんは夜会やパーティーに出席した際、挨拶だけ済ませダンスもせずに帰っていたそうだ。一曲目はちゃんと踊ろうとしている私は褒められても良いと思もう。

 もし二曲目も残るような事があれば、伴奏者としてピアノ席に座りたい。そしてお貴族様のダンスを間近で見てみたい。



 ドレスはお昼過ぎに着るようで、今はカーテシーの練習をしている。

 国王様主催なので当然国王様もご出席される。という事はカーテシーを披露する場が必ずある訳で、カーテシーレベルを2秒から3秒まで上げなければならない。お昼に行われる簡単なパーティーなら1,2秒で良いらしいが、夜会は全体的にゆっくりな動作で優雅に振舞わないといけないらしいので最低でも3秒間はあの体制をキープし続けないといけない。そんなルールを決めた人にちょっとだけ物申したい気分だ。


 一度カーテシーは教えて貰っているし、国王様の前でも披露した事があるから大丈夫だろう。と油断していたら出来なくなっていた。その事に気付いたのは夜会がある3日前で、急いでユリウスさんに教えを乞うた。

 取り合えず現状を披露してみると、お控えなすってぇみたいになってしまったので滅茶苦茶扱かれた。扱かれすぎて太ももがプルプルして立てないでいる私を見たリュカさんは絶句し、急いで聖魔法を掛けてくれた。お陰で筋肉痛は一瞬にして治ったが、リュカさんの過保護具合が加速した。



 お昼も食べ終わり、コルセットを締めてもらう。

 私とルイーゼ、お互いに緊張が走る。





「わわわわわ私っ、コハル様を絞め殺してしまいそうで怖いです」

「私も臓器が押し潰されそうで怖いです」






 あわあわと慌てる私達を見ていたユリアーナが深呼吸をし、『息が苦しくなったら手を上げてくださいね』と言って慎重に私のコルセットを締めていく。何とか無事にコルセットの装着は完了した。

 コルセットを締めた事により、自然と背がまっすぐ伸びる。その後はドレスを着せられ、髪も綺麗に結われ、お化粧を軽く施していった。最後は口紅を塗って終わりだ。という所で部屋がノックされた。


 ルイーゼが扉を開けると、正装姿のリュカさんが立っていた。彼の服装は私と対になっており、白銀色をベースに裾や襟元だけ碧色の刺繍が施されている。軍服姿とはまた違う格好良さがあり、目の保養になる。ありがとうございます。眼福です。ところで股下何センチあるんですか?と聞きたくなる。それくらい彼の足は長い。


 この部屋へ来た理由は、私の唇に口紅を塗る為だそうだ。

 その為だけにわざわざやって来たらしい。





「何でですか?」

「何故だと思う?」

「お化粧するの好きなんですか?」

「違う。初めてだ」

「初めて!?初めてなのに私の唇塗るんですか!?」

「ああ、そうだよ」

「えぇぇ。自分でやります」

「ダメだ」

「…じゃあ、失敗しないでくださいね」

「ああ、分かっている」

「上唇と下唇両方塗っちゃダメですからね」

「…」

「え、塗ろうとしてたんですか?めちゃめちゃ濃くなるんで止めてくださいね」





 いつまでも喋る私をリュカさんが黙らせる。

 黙らせ方は至って簡単で、私の首元を触るだけだ。どうもそこを他人に触られるとこそばゆく、喉に振動を与えたくない私は自然と黙ってしまう。最近その弱点を知ったリュカさんは度々触りに来る。破廉恥極まりない。


 リュカさんが真剣な顔で私の唇に触れる。

 ズキュゥゥウンされそうな距離に心臓がバクバクするし、目を何処にやれば良いのか分からず困る。

 自然と下を向きそうになると顎をグッと持ち上げられ目が合った。

 うわぁああ!これ何て拷問ですか!?血の巡りが良くなりすぎて顔が熱い!




「コハル、動くな。ズレてしまう」

「もうズレても良いんで早く解放してくだい」

「良くないだろう。あともう少しだ」 




 私の頭なの中は今『顔近ッ!睫毛長ッ!顔良ッ!』など、語彙力の低下が著しい。


 最後に目を閉じ、懐紙を噛まされた。その際にふわっとした物が当たったような気がした。が、スーパー破廉恥タイムが終了した事に心の中で喜び勇んでいた私はそんな些細な事など一瞬で忘却の彼方へと吹っ飛ばした。




「似合っている」

「ありがとうございます。リュカさんも似合ってますよ。手品でハト出してきそうな感じです」

「それは、褒めているのか?」

「褒めてます」




 ドレスやアクセサリーなどのお礼も伝え、外に出る。

 空は夕焼け色に染まっており、早くも精神が擦り切れて満身創痍な私は全てを投げ捨ててバーベキューがしたい気分に駆られる。しかし、リュカさんから夜会の一連の流れを聞き現実逃避から目を覚ました。


 夜会会場は王宮にある一室で、今は空に色んな種類のドラゴンが馬車や見た事も無い乗り物を引いて飛んでいる。 

 私もリュカさんと馬車に乗り込む。

 普段乗っている馬車とは違い、御者席にユリウスさんとルイーゼの座る場所がある。引いているのは麒麟(ジラフィーニ)だ。


 王宮へ着くと馬車を引いていたドラゴンが翼を休めていたり、着飾った女性が男性と腕を組んで歩いている。男性はそのままだが、女性は生えているツノに宝石や綺麗な飾りを付けている。私にはその飾りがユリウスさんのツノに付けられている装飾とどう違うのか分からない。しかし、龍族の人には違いが分かるらしい。

 

 リュカさんに支えれ、馬車から下りる。

 あまりの豪華さに気後れしそうになるが、リュカさんに恥をかかせる訳にはいかないので姿勢を正して歩く。周りからの視線、特に女性陣からの視線が凄い。だけど今の私に周りを見ている余裕などない。

 夜会が行われる部屋に到着するまでは、頭の中でステップの再確認をする。

 クルッと回って…んん?どうだったかな。

 

 




「すみませんリュカさん。ちょっと確認したい事があるんですけど良いですか?」

「どうした?」

「ステップの事なんですけどね、クルッと回ってその後一回転するんでしたっけ?」

「しない」

「あれ?」

「一歩後ろに右足を引くんだ。一回転しないでくれ」

「分かりました」

「…不安になってきた」

「奇遇ですね。私もです」




 エスコートされながら歩いていると、見知った顔を見つける。

 彼もこちらに気が付き、手を振って来た。

 



「お晩どす」




 正装しているウメユキさんは新鮮で、美男子度が普段よりもUPしている。パートナーには妹さんを連れており挨拶された。

 妹さんは儚げな美人さんで若干あどけなさが残っている。髪色や瞳の色、ツノまでもがウメユキさんと同じで、新雪の如く真っ白で絹の様な髪と朱色の瞳をしている。ツノも朱色だ。



「ウチん兄がいつもお世話になっております。ユキウサギ言います。どうぞよろしゅう」

「私は東郷小春です。小春が名前です。よろしくお願いします」

「妹とも仲良うしたってくれると嬉しいわ」

「はい。私でよければ」




 夜会会場まで二組で歩いて行く。

 ユキウサギさんとはまだ少ししかお話ししていないが、笑えない冗談やギリギリアウトな発言を好むという事だけは分かった。様で呼ばれるのは嫌だと言われたので私はさん付けで呼んでいる。私も敬称はいらないと言ったが外してくれなかった。何故だ。 




「ふふっ。コハル様ったら全て鵜吞みにしはるんやもん。もっと早う紹介して欲しかったです」

「にしてもコハルはん。せっかく綺麗にしてはんのにえらい強張った顔してはんな」

「もうすぐ会場に着くよ。緊張は解けた?」

「口から心臓飛び出そうです」

「それは、病気か何かか?」

「比喩表現ですよ。真面目に捉えないでください。というか本当に口から心臓が出て来たら色んな意味でヤバイですよ」

「今から夜会やのに自分らなんちゅうグロい会話してはんの」




 



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