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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第二章 やって来ました、龍の国 
31/126

走れ、叫べ、ゴーストバスター



 



 私が書いた調査書をリュカさんに見せた所、ルイーゼと同じ言葉を頂いた。

 どうやら私の絵日記は彼らには絵本に見えるらしい。

 

 そして、というかやっぱりそれを国王様に提出する訳にはいかないらしいので、リュカさんに調査書の書き方を教えてもらった。今はそれを清書している。

 私はどうしても日記っぽく書いてしまううクセがある。なので一旦書き終わってからユリウスさんに見てもらい助言を頂いている。リュカさんは日中仕事でいなかったりするのでユリウスさん自らがその役を買って出てくれた。ありがとうございます。


 バロメッツに関しては夜中も唄っていて若干五月蠅い。という訳で召喚した私が責任を持ってその日の内に静かにしてくださいと頼みに行った。外出許可はリュカさんから得ようとしたら、彼も見に行くというので唄って騒いでいるバロメッツを紹介した。

 


 それから数日、別段変わった事もなくリュカさんと朝食を取っていると、聞き覚えのある声が玄関から聞こえてきた。



「リューカーく~ん、遊びましょ~」

「…ウメユキさん?でしたっけ?」

「ユリウス、奴を摘まみだせ」

「それは無理かと」





 朝食を終え、勝手に入って来たウメユキさんをユリウスさんが客室に案内し、私はリュカさんから自室に戻るようにと言われた。だが、邸を我が物顔で歩くウメユキさんに捕まってしまい、今はリュカさんと一緒に客室でウメユキさんの話を聞いている。



 ウメユキさんはそもそも私に用があったそうだ。

 話の内容は、先日五番隊の方々が依頼で行った討伐場所に対象物が現れず、任務が遂行出来なかった事から始まる。場所はルシェールにある田舎町で、人口の少ないバーケモンという所。

 討伐対象は相手が怯えたり怖がったりする感情に敏感で、それを感知して襲って来るらしい。しかし龍族である彼らは対象物に対して恐怖心がなく、討伐対象物が現れなかったそうだ。

 そしてその依頼が今回、特務隊に回ってきた。


 何処に私が必要な要素があるのだろうと思うほど私は愚かではない。ただただ、気付きたくない。なので黙って話の続きを聞く。


 そもそもウメユキさんが隊長を務めリュカさんが所属する特務部隊は、他の隊が失敗などで遂行できなかった任務や依頼を必ずこなす、いわば何でも屋みたいな部隊だ。

 この部隊には色んなスペシャリストが集まっており、情報収集から国の殲滅まで、ありとあらゆる事をこなすエリート集団だとユリウスさんが教えてくれた。

 バーケモンから依頼されている内容の期限が明日までらしく、ウメユキさんは困っているという。もちろん特務部隊の中にもビビリや討伐対象に恐怖心等を持っている者はいない。そこで白羽の矢が立ったのが私だ。



「コハルはん怖いもん苦手やろ?」

「大丈夫です」

「嘘言いなはんな」

「本当です。怖い話とか大好きです」

「そうなのか?」

「はい。もうめちゃめちゃテンション上がります」

「そういえば、旅をしていた時も幽霊に怖がっていた印象は受けなかったな」

「ほな、スリル味わいたない?」

「間に合ってます」

「ん~。結構ガード硬いなぁ」

「ウメユキ諦めろ。そもそも()が同行を許さない」

「ええやん。ちゃんとウチらで守るし」

「そういう問題ではない」

「ん~…あっ!御給金出るよ、今なら色付けて倍に!」

「その話乗った!」

「なっ」

「ええ返事やわコハルはん。おおきに」



 準備の良いウメユキさんは私に特務部隊の制服を渡し、どんどん話を進めて行く。しかし隣に座っているリュカさんは納得していないようで、必死に私に考え直せと説得してきた。

 すみません、いつかの時の為に手持ちはちょっとでも増やしておきたいんです。そう伝えると何とも言えない顔をされ、必要があれば私が金を出すからコハルはそういう面は心配しなくて良いと言ってくれた。リュカさんは私をどこまで甘やかすつもりなんですか。

 

 

 明日はこの邸に集合して此処からバーケモンに向かう。

 今回の任務に召集されたメンバーは隊長のウメユキさん、リュカさん、ルクルさん、ノエルさん、そしておびき寄せ担当の私だ。ウメユキさんは私の為に少しでも面識のある方達を選んでくれたらしい。

 彼から渡された制服はピッタリで、走ったりジャンプしたりと動きやすい。普段着ている上品なワンピースよりもこちらを普段から着ていたい。



 ルイーゼに明日自分が特務隊の任務に特別枠で就く事を話したら、付いて行きますと言って聞かなかった。でもこれは任務なので彼女は同行できない。だが文二と大福にはリュカさんから同行の許可が出ていた。その差は何なんですか。



 翌日、血涙を流しながら手を振るルイーゼに見送られ、私達はバーケモンに向かった。

 移動はウメユキさんが前に乗っていた大きな扇子だ。どういった原理で動くのかも分からないし不安定でとても怖い。風に乗って移動しているようで、ふわふわしている。そして当然ながら安全(セーフティ)バーはない。



「お久しぶりですねコハルさん」

「ウメユキ隊長の扇子(ヴォンティレータ)から落ちないでね」

「お久しぶりです。ルクルさん、ノエルさん」



 昨日、リュカさんと彼らについておさらいしておいて良かった。久々に見る双子龍の二人は、キラキラの金髪を風に靡かせ、相変わらずどこぞの王子様かっていうほど美形度が極まっている。

 丁寧な口調で話し、服をきちんと着ている方がルクルさんで、緩い喋り方で、服を着崩しているのがノエルさん。

 

 私達が今向かっている場所はバーケモンにある、もう人が住んで居ない所だ。

 建物を壊し、新たに事業を始めようとその敷地に入った業者が得体の知れない物に襲われた為、王宮が管轄する部隊に依頼が来たそうだ。

 龍の国は天空にあるので翼のない冒険者は来られない。従って、王宮直属の部隊が国民から出た要望や依頼をこなし、危険な物から国民を守っている。

 龍の国ルシェールは貴族と国民の仲が他の国よりも近いため、和気あいあいとしている。国民は臆さず雑草取り等、簡単な依頼でも王宮の部隊に出しているそうだ。

 


 今、私はリュカさんの股の間に座っている。大福は私の肩に乗っており文二は姿を消している。こんな座り方をしているのは私が落ちないようにするためで、決して密着したいからではない。ウメユキさんが冗談なのか本気なのか、用意してきた抱っこ紐よりは全然マシだけど、やっぱり恥ずかしい。久々のこの近すぎる距離に顔が熱くなってしまう。叶う事なら美形集団に囲まれても平然と振舞える鋼の精神が欲しい。



「だってリュカ君に聞いたらコハルはんが好きなもん安全(セーフティ)バー言うやもん。ちょっとでも快適に空の旅楽しんでもらお思てなぁ」

「リュカさん」

「いや、まあ、すまない」





 いよいよバーケモンに到着する。

 人が住んで居る場所は活気あふれる街並みで、奥に進むにつれて怖い雰囲気が漂う廃墟が見えてきた。その大きな廃墟の手前でウメユキさんが巨大な扇子を空中で仕舞い、彼やノエルさん、ルクルさん、リュカさんは綺麗に地面へと着地した。私はリュカさんに必死にしがみつき、臓器がふわっと浮かぶあの浮遊感に耐え忍ぶ。

 

 

「コハル、目を開けて」

「心を鋼鉄に武装するまで待ってください」

「怖いなら邸に帰ろう」

「ちょっとリュカ君。今回の任務にはビビリ(コハルはん)が必要なんやで?」

「俺らがいるんだしそんな怖がんなくても良いじゃん。何が怖ぇの?」

「コハルさんもっと怖がってください」




 リュカさん以外からは酷い言われようだ。

 心に火が付いた私はやる気を取り戻し、目を開ける。


 辺りは霧に包まれ先ははっきりと見えない。

 ウメユキさんを先頭に廃墟へと繋がる道を進んで行き、私の足元には黒猫姿の文二がしれっと姿を現した。私の恐怖心に反応してか妖怪みたいな化物が沢山現れ、それを皆が瞬殺して行く。色んな意味で怖い。文二もスプーンをブンブン振り回しながら化物を倒していく。

 


 そして、いよいよ業者が襲われた廃墟の中に今から入る。



 此処に着くまでに口裂け女をノエルさんが怒らせて散々な目にあったり、紫鏡にウメユキさんが取り込まれそうになったり、一枚二枚と皿を投げつけてくる女の姿をした妖怪にルクルさんが皿をキャッチしリリースして倒していったりと大変だった。

 でも一番大変だったのは私を守りながら化物を倒していくリュカさんだ。本当に感謝してもしきれない。ありがとうございます。



 建物の中はガランとしていて明かりもなく薄気味悪い。



 八尺様やくねくね、女郎蜘蛛など怪談で聞くような幽霊や妖怪が容赦なく私にだけ攻撃をしかけてくる。それを特務部隊の方たちが楽しそうに倒していき、私はビビリちらかして叫びまくる。

 トイレの花子さんとメリーさんが同時攻撃してきたせいで廃墟が半分に割れてしまい、私とウメユキさんと文二、リュカさんとルクルさんと大福、ノエルさんの3グループに別れてしまった。 

 落ち合う場所を決め、それぞれに任務をこなしていく。


 まさかトイレの花子さんとメリーさんがヒュージョンするとは思わなかった。

 八尺様も口から破壊ビームを出してきたり、くねくねも踊りながらエロ同人みたいに触手を伸ばしてきたりとで、あと一回でもSAN値チェックを失敗すれば私は確実に倒れてしまう自信がある。覚悟が足りなかったようだ。


 

 リュカさんが傍にいない事にかなりの不安を抱いてしまう。だが付いて行くと決めたのは私なので、震える足をバチンと叩いた。



「これ、着とき」



 ウメユキさんが私に差し出してきたのは、いつも彼が羽織っている白い着物。

 これは特別な方法で織られており、貴重な羽衣で出来た着物らしい。有難く受け取り腕を通す。本当はウメユキさんみたいに肩に引っ掛けて羽織りたいけど、きっと私では落としてしまうだろう。



「リュカ君に無理言って半ば強引にれて来てしもたからなぁ。絶対コハルはん傷つけさせる訳にはあきませんのや」


 

 ウメユキさんが何かとても格好良い言葉を言っているような気がする。だけど背後から聞こえてくる何かを引きずっているような音の方が気になってリュカさんの名前しか聞き取れなかった。

 

 後ろを振り向いてはダメな気がする。が、何が迫ってきているのか知りたい。という事で振り向いてしまった。そろーっと私達に近づいて来ていたのはテケテケで、人体が上半身で真っ二つになっている化物だった。そいつは臓物を地面に引きずりながら私達に近づいて来ている。


 私とテケテケの目が合ってしまい、狙いを定めたテケテケが恐ろしいスピードで此方に向かって来た。



「ぎゃぁぁあああ!!!」

「コハルはん、触れてもかましまへん?」

「こんな時に何なんですかぁぁあ!!」

「勝手に女性に触れるんわあきませんからなぁ」



 ウメユキさんが私の了承を得てから手首を掴んで走り出す。



「え、脆っ!」

「何がですか!?」

「コハルはんの手首やわ!何なんこれ柔らかすぎるやろう筋肉つけなぁ!力加減間違えてしもたらポキッと折れてしまいそうやわ」

「止めてくださいね!」

「折らへんよ。よぅリュカ君こんな儚い生き物(コハルはん)と一緒に長旅できたなぁ」




 ウメユキさんがニギニギと私の手首や腕の感触を確かめながら引っ張って走る。

 私は横腹が痛くなって呼吸もやっとなのに、彼は悠長に話ながら走っている。足のリーチが違いすぎて私だけ全力疾走になっている事に早く気付いてほしい。


 初めは一体だけだったテケテケがどんどん増えていき、今は後ろにざっと数えても五十体以上はいる。…と思う。大腸なのか小腸なのか、よく分からない臓物を投げつけては私の足やウメユキさんの足を引っかけて転ばせようとしてくる。



「ぎゃぁぁああ!!」

「クッハハ!コハルはん、ほんまええ声で叫ばはるわ」

「にゃー!」



 五十体以上ものテケテケが臓物を撒き散らしながら尚も襲って来る。

 私にギリギリテケテケの手が届くか届かないかの所でウメユキさんが華麗にテケテケを倒していく。

 彼が太刀に掛ける魔法は美しくて有名らしいが、今はそれを見ている余裕も暇もない。私は足を動かすので精一杯だ。文二も普段と違い四足歩行で走っている。



「何でもっと早く助けてくれないんですか!?」

「だってコイツら人ん恐怖心に反応して現れるんやもん。コハルはんにはもっと泣き叫んで(頑張って)もらわへんとぜーんぶ倒せへんやろ?」

「鬼か!」

「せいかーい。鬼でーす」

「そうだった、ウメユキさん半分鬼でした!」

「ほら早う逃げんと次のが来はんで」




 だんだん走るスピードが落ちて来ている私に反し、彼はスキップで踊り出してしまうんじゃないかというくらい軽やかに走っている。煽りスキルがカンストしているとしか言いようがない。というか振り切れている。

 

 リュカさんと一刻も早く合流したい。

 私の願いは無事彼に届き、襲って来る何十体ものテケテケを氷魔法で一掃し、後ろから追い付いて来てくれた。リュカさんは私の心のオアシスです。

 


「コハル!無事か!」

「隊長が付いてるんやから無事に決まっとるやんねぇ。なぁコハルはん」

「コハルに付いていたのがお前だから余計心配なんだ」

「リュカ君ひっどいわー」

「リュカさん、ウメユキさんはまごうことなき鬼でした」

「何があったんですか?僕とっても気になります」

「キュッー!」

「にゃ!」



 大福がリュカさんの肩から降りて文二とハイタッチを交わす。

 リュカさん達の方にはトコトコが現れ、私が上げた悲鳴の方に向かって走り出したので倒さずに追って此処まで来たらしい。そして私の姿が見えたのでテケテケ諸共トコトコを倒し、今に至る。



 その後ノエルさんとも合流し、私が叫んでも何も現れない事を確認してから任務終了となった。

 帰りもウメユキさんの大きな扇子に乗って邸まで帰ったのだが、私はいつの間にか眠っていた。叫び疲れてはいたけど眠る程ではなかったのに不思議だ。



***



 特務部隊と小春が任務を終了し、ウメユキが操縦する扇子(ヴォンティレータ)に皆が乗り込んだ頃、リュシアンは小春に睡眠魔法を掛け寝かせた。



「何してんのリュシアン先輩」

「コハルを寝かせただけだ」

「どうしてですか?」

「コハルは俺達よりも体力の回復が遅い」



 双子龍に小春が心を許していると感じ取ったリュシアンは彼らにも彼女が異世界人である事を話す。そしてウメユキは今回一緒に行動した事により、彼女が脆いという意味を本当の意味で理解した事を彼らに伝えた。

 双子龍はリュシアンに許可を取り、小春にそっと触れる。龍族の女性の肌に比べかなり柔らかく、少しでも強く指で押してしまえば折れそうだと感じるほどに彼女は脆かった。



「これは…なんと儚い…」

「筋肉つけねぇの?」

「女性故に筋肉が付きにくいそうだ」

「リュカ君が何十にも防御魔法掛けてんの、コハルはんに触れて初めて理解できたわ」



 話は小春のこれからについてや給金を欲しがる理由についてに移っていく。



「何か理由知ってるんやろ?」

「俺も昨日聞いたばかりだ。どう留まらせようか考えている」

「何でコハルちゃんお金欲しいの?」

「宝石や高価な物を欲しがるような女性には見えませんが」

「貯金がしたいそうだ。ルシェールを出た後にその金で住み良い土地を探す旅に出るらしい。後は旅をしていた時に俺が余分に払った額を返そうしている。もちろん金は返さなくて良いと言ったが、コハルの中では金の貸し借りは縁の切れ目らしい」

「しっかりしてはんなぁ」

「こんな危険な事しなくても50年もあればすぐに貯まるでしょ」

「それもそうですね、やはり何か他にあるんじゃないでしょうか?」



 リュシアンは眉間に皺を寄せ、言うか言わないべきか悩む。

 結果、重たい口を開く事にした。



「コハルはそう長くない」

「長くはない言うても、あと100年以上はあるやろ」

「いや、60年だそうだ」

「「「60年!?」」」

「何かの間違いやないの?」

「彼女の世界では平均寿命が80歳前後らしい。それはもちろん人にもよるが…」

「リュシアン先輩呑気に仕事してる場合じゃないですよ!」

「そうだよ!早く婚姻の儀あげてコハルちゃんの寿命伸ばさないと!」



 リュシアンとしては小春の気持ちを完全には計り知れないでいる。

 嫌われていない事は百も承知だが、好かれているかと問われればそれに見合う言葉が見つからない。

 本当に好かれて愛されているのであればきっとリュシアンの邸からは出て行こうとはしないはずだ。だが彼女は国王から依頼された仕事を終えると邸を出て住み良い街を探す旅に出るという。

 きっとこの世界で一番儚い存在の小春はリュシアンの元から離れれば魔獣にやられるか、心無い人達に殺されてしまうかで一瞬にしてあの世へと旅立ってしまうだろう。


 能天気にリュシアンの膝を枕にして眠る彼女は、こんなにも周りの人から心配されている事に気付いていない。いや、多少は気付いているが見当違いな事を思っているに違いない。


 ウメユキから借りて小春に着せていた着物はリュシアンが脱がせ、また後日綺麗にして返すと言ったがウメユキはそのまま肩に羽織った。

 リュシアンの邸に着いた事で小春についての話は一旦終わり、その場で解散となった。



「おかえりなさいませ若様」

「「おかえりなさいませリュシアン様」」



 ユリウス、ユリアーナ、ルイーゼッケンドルフが主と主が壊れ物の様に大切に扱う女性の帰還を玄関前で迎える。ルイーゼッケンドルフは眠っている小春を心配そうに見つめ、自分が彼女を部屋までお連れすると言って手を出したがリュシアンが拒んだ。


 この三人には別の用事を与え、小春の傍から離れさせた。


 リュシアンはただただ眠っているだけの小春を壊れ物のように大切に抱きかかえ、彼女の部屋へと移動する。それを見て邸の者達は勝手に最悪な想像を膨らませた。

 庭師は邸に植えてある碧色と白色の花を大量に摘み取り皆に手渡し、彼女が眠る部屋には一輪の花を持った使用人らが長い行列を作った。


 リュシアンは久々に見る小春の寝顔を楽しんでいるだけなのに、どんどん彼女のベッドに花が手向けられていき戸惑う。



「何をしている」

「短い間でしたがっ…コハル様、とても愛らしい方でした」

「みたらし団子っ美味しかったです」

「なんと儚いっ…」

「私共にもいつも『おはようございます』と元気に声を掛けられてっ本当にお優しい方でした」

「ああ、目を覚まして下さいませコハル様っ」

「たまにコハル様が口ずさむ不思議な歌が頭から離れません」

「…。何か勘違いしているようだが、コハルは眠っているだけだ」

「「「「「なんとっ!?」」」」」



 勘違いが解けた所で皆解散し、各々の仕事に戻っていく。

 彼女はこの邸で生活を送り始めてからまだ日は浅い。にも関わらず邸に仕える者達からこんなにも愛されている。その事実に胸の奥底がじんわりと暖かくなっていくのを感じたリュシアンは、自然と身体が動き、早く自分の元へ堕ちて来いと彼女に深い口付けを落とし、満足そうに小春の頭を撫でた。






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