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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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情報交換しましょう



 名も知らない男の人を何とか引きずり、見つけた洞窟の中で雨風を凌ぐことにした。

山岳用の軽量テントはこの狭い洞窟の中では広げられないので、リュックから寝袋を取り出し男の人をその上に仰向けにして寝かせる。

呼吸は浅く汗も酷くかいている。


タオルで土や汗、埃などを拭った事により、この男の人の顔がはっきりとした。

目を閉じていても分かるくらいにこの男の人は美しく、肌はきめ細やかで透明感がある。髪色はくすんだ灰色で毛先は青みがかっているのかと思いきや、軽く髪をタオルで拭ってみると鮮やかな白銀色になった。そして毛先に向かって碧みがかっている。到底日本人には見えない。

どこの国の人だろう…。


 

とりあえず眠っている彼に一言「服失礼しますね」、と声を掛けて服を脱がしていく。

これは傷を見る為であって、決してやましい気持ちなんてない。私は無である。と誰が見ている訳でもないのに必死で心の中で言い訳をしながら、難しい軍服を脱がし始めた。

ボタンや紐、見た事もない留め具に苦戦をしながらやっと上半身の軍服を脱がすことに成功するとガッチリとした筋肉の引き締まった体があらわれた。

この人は着痩せするタイプなのかな?


タオルの綺麗な面で彼の体を拭き始めると、ある疑問が私の頭の中で浮かぶ。

何処にも傷が見当たらない。

おかしい…よね。

服にはこんなに血がべっとりついてるのに。

どういう事…。




ぐぅぅ。

考え込んでいると、自分のお腹が鳴った。

非常食はリュックの中にあるのでそれを取り出し、まずはペットボトルの水で口の中をゆすぐ。食べれば食べる程、口内がパサパサになる非常食。まぁまぁ味は美味しいけれど、水分が貴重なのに物凄く飲み物が欲しくてたまらなくなるので改良する必要大だな。


口内パッサパサ地獄のせいでペットボトルの中身は空になってしまい、流石にこの男の人に固形物は無理だろうと判断した私は魔法瓶の蓋を開けて水を飲ませる事にした。



陽が完全に暮れた頃には横になっている男の人の呼吸も安定し始め、ただ眠っているだけのように見える。いつ、またあの化け物みたいなのが襲ってくるかも分からない。だから私はリュックの中に何か武器になりそうな物はないかと探した。しかし特に何もなかった。

まぁ、チャッカマンくらい、かな。

 



寝心地の悪さに目が覚める。

あれ、そういえば寝ずの番をしていたはずなのに、私はいつの間に横になっていたんだろう。

しかもお世辞にも柔らかいとは言えない寝袋が私の下に敷かれてある。あと眼前には立派な胸板がある。

何で!?

ぐっと叫びそうになる声を気合で抑え、体制を変えようとしたが身動きが取れない。何故なら昨日まで重症だった彼がガッチリと私を抱き締めているからだ。

心の中で言葉にならない悲鳴を上げ、もぞもぞっと動くと、いつの間にか勝手に枕代わりにしていた彼の腕が動いた。



 

「起きたか?」

「は、はい。おはようございます、所でこの状況は一体」

「…夜、起きたら君が寒そうに縮こまっていたから、嫌、だったか?」

「いっいえ、お気遣い頂きありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう。君のお陰で生きながらえる事が出来た」




そう耳元で囁かれ、男性経験の乏しい私にとってそれは耐え難い破廉恥行為の何ものでもなかった。

親以外の異性にこんな近距離で抱き締められた事のない私は、飛び上がるように起きて距離を取ろうとしたが、狭い洞窟だった事を忘れていたので頭をひどく打ってしまった。そして今は彼に頭を撫でられている。

いっ痛いし、恥ずかしい。

でも、何故だろう。彼が撫でてくれる場所がひんやりとしていて気持ち良い。




ちらっと洞窟の外を見てみると、陽が上っているのか荒れた木や草が見えた。

しかし全てが荒れ果ててしまっているせいか、どんよりとして見える。そして私の頭の痛みが取り除かれた頃、私のお腹が鳴った。

は、恥ずかしい…。

穴があったら入りたい。いや、もう既に入っているか。

私は持っている非常食と魔法瓶を彼に差し出し、一緒に食べないかと誘った。

 



「あの、宜しかったら一緒に食べませんか?」

「いや、それは君が食べると良い」

「いえ、一人で食べるよりも二人で食べた方が美味しいので一緒に食べましょう、そうしましょう」




若干強引に口内パッサパサ地獄になる非常食を渡す。

開け方が分からないようだったので、お手本を見せてから私が最初に一口食べて見せる。すると彼も真似をするように食べ始めたので、それに合わせて次第に会話も増えていった。



 

「自己紹介がまだだったな」

「そういえばそうですね、私は東郷小春と言います。たまたま登山をしていたら貴方を発見しました」

「登山?…私はリュシアン・ヴァンディファ・デルヴァンクール。騎士をしている」

「ば…騎士?」


 


名前が長すぎて、もはやバビブベボにしか聞こえなかった。

流石にもう一度聞くのは失礼かな。

まぁ、そもそも聞いたところで、どれが名前かすら分からない自信があるから止めておこう。

それにしても、このご時世に騎士?

私達はお互いに軽く自己紹介しただけなのに、引っかかるものを感じた。


 


「失礼だが、此処は登山に来る様な場所ではない」

「確かに、初心者向けではなかったですね」

「駆け出しか?」

「駆け出し?登山用語ですか?」

「…私とコハールでは話が食い違っているように思う」

「そう、みたいですね。あと、私の名前は小春です。コハールじゃありません」

「すまない。聞きなれない名前だったからつい、美しい響きだとは思う」 

「それは、ありがとうございます」





まず、お互いの今日までに至った話をする事にした。

彼の話は聞けば聞くほど意味が分からなくなりそうで、とりあえず深く考えずに言葉の通り記憶してみた。

此処は死の森といって何処の国、領分にも属さない場所で、一部の精霊や神獣の住処になっており加護や恩恵に授かろうと色んな種族の人が来るらしい。彼は龍だった。

ええええ!?




「龍族特有の瞳だから分かると思った」

「そのガラス玉みたいな目のことですか?」

「そうだ」

「綺麗だなとは思いましたけど、まさか龍だとは思いませんでしたよ」






私がそう言うと彼は目を瞑り、頬の辺りに銀色に輝く綺麗な鱗を出現させた。

もう驚きすぎてお腹がいっぱいである。

しかし、そんな私を置いて彼はどんどん話を進めていく。此処には神獣を密漁しに来た輩を討伐する為に来たらしく、相手が龍族にだけ効く妙な術を使ってきたので一度隊全体で撤退したらしい。しかし、撤退する際に深手を負ってしまったので身を隠していたという。

あれで隠れていたのか。

私には木に凭れかかっているようにしか見えなかった。


龍族の人はドラゴンの姿も持っているらしい。

神獣ほどではないが、もし密猟者に捉えられたら鱗や爪、瞳、全ての物が高額で売りとばされるそうだ。

恐ろしい。

恐ろしすぎるよ。

あと、やっぱり龍って何?お兄さん人じゃないの?




「そんな事を私に話しても良かったんですか?」

「コハルなら私を悪いようにはしないだろう。実際こうして助けてくれている」

「それは、人命救助第一ですし」

「感謝してもしきれない、ありがとう。そういえば不思議な道具で魔獣を怒らせていたな。何故あんなことを?」

「やっぱり怒らせてましたか」

「ああ。右目に命中させたのは凄いと思うが、その後は考え無しという行動には驚いた」

「その節はすみませんでした」





お互いのお礼合戦を終え、彼の説明の続きを聞く。

此処、死の森には魔獣や魔物といって負の感情や毒素に満ちた魔法に触れた物が闇落ちした生物がはびこっているそうだ。

魔獣は獣の姿をしており、魔物は人を誑かしたり怪しい力を持つ形のない物らしい。精神力や魔力が強い者には魔物は近寄って来ないそうだ。

龍族は気高い種族なので魔物に屈する事はなく、殆どの被害はヒト族や獣人族に出ているらしい。むしろ龍以外にも種族がいる事の方に驚きが隠せない。




「他にも種族があるんですか?」

「ああ。言い出せばキリがないが主要どころとえいば、森の番人エルフ、それに魔族くらいだろうか」

「魔族?」

「魔法や魔術に特化した種族で、我々龍族や森の番人と同じ長寿種族だ」

「長寿って事は100歳くらいまで生きるって事ですか?」

「100歳くらいならまだ子供だな」

「100歳の子ども…ちなみに」

「私の年齢は秘密だ」






 私の質問は読まれていたみたいで、先手を打たれてしまった。

 今度は私の番で、持っていたリュックの中身をあれやこれや聞かれる。そしてお互いに徐々に気付き始めていた事だが、どうやら私はこの世界の人間ではない事が分かった。

 私の住む世界や日本の暮らしの話をしていると、彼は常に驚いていた。




「そのひこうきとはどう飛ぶ」

「ええぇぇ、原理までは分かりません。私は発明者や技術者ではないので」

「では、でんしゃとやらは?」

「それは電気の力ですね」

「でんき?」

「えーと、雷を物凄く微弱にして流す事で動くんです。たぶん」

「カミナリか、あまり使い手のいない魔法だな。術式は分かるか?」

「術は使いません。私がいた所では魔法はお伽噺の世界なんです。でも科学がとても発展しているんですよ。特に私の生まれた日本は科学大国で、日常生活のあらゆる所で電気を使い、より良い生活ができるよう日々色んな人が働いているんです」

「そうか、魔法も無く魔獣や魔物といった命を脅かす生物がいない世界は不思議だな」

「人同士の争いはありますよ、日本は比較的平和ですが。私からしてみれば魔法や精霊、神獣のいる世界の方が不思議です。まさか龍族の方と話せる日がくるとは思いませんでした」

「龍族は基本的に他国や他領には行かない。こちらのヒト族であっても私と会う事は珍しい事だ」

「そうなんですね」




 死の森に魔物や魔獣が増えすぎると自国に襲い掛かってくるので、色々な国や領が定期的に討伐に来ているらしい。

 魔獣に関しては物によって皮が売れたり、防具や武器の素材になるそうだ。

 なんだか昔遊んでいたRPGの世界みたいだと思った。




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