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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第二章 やって来ました、龍の国 
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心がね 慌ててる




 今日は王宮へ行くらしい。私は飛べないのでリュカさんが手配してくれた馬車に乗って行くそうだ。

 馬車と言っても引いているのは二頭の麒麟(ジラフィーニ)で、下半身が馬で上半身が龍のようになっている。翼は無いが浮力を持っている動物なので空を駆けまわる事ができるそうだ。



 昨日の豪勢な夕食後、国王にお会いする際にカーテシーだけは必ずしなければならないので猛特訓が始まった。ユリアーナさんやルイーゼさんのお陰で何とか形だけはできるようになった。が、2秒が限界だ。私の偏った貴族知識や不慣れな貴族マナーはリュカさんが全力でカバーしてくれるらしいので、カーテシーだけは頑張ろうと思う。


 今は上品なドレスを身に纏い、履いたこともないヒールの高い靴を履いている。リュカさんは全体的に藍色で黒や銀色の刺繍が施された軍服を着ている。馬車の中には私とリュカさんだけだ。

 私付きの侍女になったルイーゼさんも何処かにいるらしいが、姿は見えない。


 

 馬車の中でメイドさんや執事さんの名前をさん付けで呼ばないよう注意を受け、リュカさんに手を握られた。

 


「昨日は眠れたか?」

「はい、ぐっすり眠れました」

「…そうか」



 若干ヘコでいるように見えなくもないリュカさん。

 王様に会うのに緊張しているのだろうか。

 あと何故手を繋いだんですか。今必要ですか?





 王宮に着き、彼にエスコートされながらお城の中を歩く。

 ドラゴンの絵が描かれている壁画の前で足を止め、リュカさんが何かを唱えた。すると私達は壁画から出て来たドラゴンに飲み込まれ、目を開けると知らない部屋のへと移動していた。

 

 部屋の中には机が一脚と椅子が三脚。

 その内の一脚にはツノが生えた男性が座っており、こちらにニッコリと笑顔を向ける。 



「やあ、待っていたよリュカ」

「只今帰還しました」



 彼はこの国の王で、短いツノが手前に二本とすぐ後ろに長いツノが二本。計四本も生えている。髪色と瞳の色が濃い藍色で、この国には美男子しかいないのかってほど彼も美形だ。

 昨日頑張って習得したカーテシーを披露すると、国王様に座るよう促された。

 


 リュカさんの報告が終わると自己紹介するよう促され、挨拶をする。そして自然と私の話題に移っていった。

 国王様の耳にも私が異世界人である事は伝わっており、ヒト族の国ボラギンにいる異世界人の事を知っているかと問われたので、私は素直に答えた。間接的には知っているけど、知人でもなければ会った事もない。そう伝えるとその話は終わってしまい、傍に来るよう手招きされた。



「行かなくて良いコハル」

「えぇ酷いなリュカ。私とお前の仲だろう?」

「どうせ碌な事にならない」

「ちぇー。だってウメユキが面白い刻印が見られるぞって言うからー」

「アイツっ…」




 リュカさんと国王様は年齢が近く、通っていた学園も一緒だった為か仲が良く、仕事以外の時は砕けた話し方をするらしい。後で教えてくれた。

 

 今私達がいる部屋は王家の者が誰にも話を聞かれたくないときに使う場所らしい。

 なので本当に私達以外誰もいない。

 


 場の雰囲気が変わり、リュカさんが真面目な話を始める。


  

「陛下、今私が所属している部隊から調査・情報処理部隊に変更願います」

「却下」

「…少しは考えてください」

「断る。お前の能力は特務部隊で一番発揮される。大方コハル嬢と一緒にいたいから移動願いを出してきたんだろう?お前の事は応援しているが、ソレとコレとは別だ」

「…世話師猫や神獣のグリフォンについて調べたい事があります」

「他の者でも構わないだろう」

「グリフォンが姿を現す条件はよく分かりませんが、世話師猫については私や彼女の前でしか基本姿を現しません。ですから他の者が調査する事は不可能に限りなく近いです」

「…そうか。ではコハル嬢、君がやれば良い」

「わ、私ですか!?」

「彼女は私の客人です。この国に従事する必要はないはずです」

「給金をはずむよ」

「よろしくお願いいたします」

「なっ!?コハル!?」

「ふふっ彼女はやる気満々みたいだね」





 リュカさんの邸にいつまでもお世話になる訳にはいかないし、私には今手持ちが一銭もない。ここである程度稼がせてもらい、ゆくゆくは住み良い土地を探しに地上へ降りるつもりだ。

 その事を二人に伝えると何とも言えない表情をされ、あーとかうーんとか言いながら視線を彷徨わせた。

 

 私の仕事内容は世話師猫や神獣グリフォン、あとは人前に滅多に姿を現さないカーバンクルの生態調査だ。国王様に渡されたハードカバーブックに記していくよう指示を受ける。

 そして私が受け取った本をリュカさんが凝視する。



「…コハル、本を」

「?どうぞ」



 本をリュカさんに手渡すと燃やされた。



「ええええ!?ななな何してるんですか!?」

「この本には覗き見できるよう魔法が仕掛けられてあった。だから燃やした」

「やっぱバレたかぁ~。ウメユキと魔法痕残らない様に頑張ったんだけどな~」

()とコハルで遊ぶな」



 結局本は何でも良いそうなのでリュカさんが手配してくれる事になった。



「ねぇねぇ。ウメユキから聞いたんだけどさ、コハル嬢はどれくらい脆いの?」

「どれくらいと言われましても…」

「じゃあ、異世界人の平均寿命は?」

「人にもよりますけど80歳前後でしょうか?」

「「もうすぐではないか!?」」

「っえ」

「世話師猫の調査とかやっぱ良いよ。好きな事して生きて!」

「コハル、やりたい事はないか?何でも良い!」

「わ、私はまだ20代です!80歳になるまで60年近くもあるんですよ!」

「たった60年の間違いだろう」

「異世界のヒト族はそんなに短い時しか生きられないのか…」



 龍族の人からしたら私はすぐ死ぬ珍獣に見えるらしい。

 他にも話を進めて行く度に驚かれる。



「まあ、コハル嬢の腕が千切れようが足がもげようが聖魔法で治せば何とかなりそうだね」 

「そこまで酷いと死んじゃいます」

「聖魔法で傷を癒すのにか?」

「癒すスピードよりもきっと先に出血多量で天に召されます」

「良し。この部屋からもう出てはならん」

()のコハルをお前が軟禁するな」




 まだ話したがる国王様をリュカさんが止め、彼の邸に帰る。

 リュカさんは調べものが出来たと言い図書館に籠り、私は自室でこの世界の文字を練習する事にした。旅をしている際に見た看板やメニュー表などの文字は今では読める様になったが、リュカさんが書いてくれた音標文字や表語文字などは全く読めない。だからルイーゼさんに手伝ってもらいながら解読していく。



「あら?これは貴族文字ですね」

「貴族文字?」

「はい、御貴族様が使われる文字という意味です」

「何で私が?」

「覚えておいて損はないですよ。陛下にお渡しする調査資料が普通の音標文字では失礼に値しますし」

「なるほど…」

「ルイーゼさんは読めるんですね」

「コハル様、私にさん付けしてはなりませんよ」

「そうでした」




 休憩を挟みながらルイーゼと話す。



「ルイーゼさ…ルイーゼ、は、私付きなんかで本当に良かったんですか?」

「コハル様、ご自分を卑下なさってはいけません」

「はい」

「私は今まで裏の世界で国の為に務めて参りました。誰に感謝される訳でもなくひっそりと活動して誰にも知られぬまま一生を終えるのだと思っておりました。私の生まれたネロ家は戦闘や暗殺が得意で表舞台ではあまり良い評判がございません。ですが、リュシアン様からある一通のお手紙を頂きまして、綴られている熱い想いに感銘を受け、私はそのお方を守る為に生きようと思い裏の世界を引退しました。胸を張って表世界でコハル様をお守りできる事は私にとって最高の誉れです」



 想像以上に重かったし、守る対象がこんなんですみませんという感想しか出てこない。でも自分を卑下するような発言をしたらルイーゼは血涙を流しながら『お仕えする私の実力が足らずコハル様に心労をかけさせてしまっているのですね』と短刀を首に宛て自害しようとするので、出来るだけポジティブな返答をするよう心掛けている。



「気になっていたんですが、この邸に務めている方は誰もリュカさんにキャーってならないんですね」

「そうですね、それよりも遥かに高い忠義心と憧憬の念が深いのだと思います。それにリュシアン様ほどご高尚な方が自分と釣り合うなどとはこの邸に仕える者は誰も思っておりません。安心して下さいませ!リュシアン様は一筋でございますから浮気などのご心配は無用です!」

「そうなんですね。じゃあ、リュカさんに想われている方はきっと幸せですね」

「コハル様ぁあああ!お気付きなさいませ!」

「えええ!?急に何ですか!?」




 荒ぶるルイーゼを止める為に大福を撫でさせる。

 龍族の方は生きている小動物に触れた事がないのでカーバンクルはこの邸でアイドル的な扱いを受けている。テオは呼べば出てくるが何処にいるか分からない。世話師猫の文二は私のベッドの中で基本寝ている。でも私が一人きりになった時やリュカさんといる時はしれっと傍に現れる。



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