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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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龍の想いと明かされた秘密



 明日の仕度を終え、私はひと足お先に眠りについた。というかリュカさんに頭を撫でられた瞬間、抗えない眠気が襲ってきた。私はそれに素直に従い目を閉じ、翌朝目が覚めるといつも通りリュカさんに抱きしめられていた。

 私が寝るはずだったもう一つのベッドにはウメユキさんが眠っている。先に眠ってしまったから美形の御二人に自分の平凡な寝顔を見られてしまった。いや、晒してしまった。はぁ、何で昨日すやーっと眠ってしまったんだろう。



***



 コハルがリュシアンの魔法で強制的に眠りにつかされた昨夜、二人の男は酒を片手に椅子に座り、話しを始めた。二つあるベッドの内一つには寝息を立てて眠るカーバンクルと、それを抱き枕にして眠る女性が一人。男達はその一人と一匹を綺麗な笑みを浮かべながら見つめていた。一人はもちろん龍族のリュシアン。もう一人は龍族と鬼人族のハーフのウメユキだ。


 鬼とドラゴンのツノを合わせ持つ男が酒の入ったグラスを傾けながらリュシアンに話しかける。





「コハルはん、ええ子やね。お手付きしとんのやったら早う落としや」

「いつ刻印を見た」

「ふふっそう睨み付けなさんなて。横取りなんて野暮な事しぃひんよ。たまたま風呂上がりのコハルはんに出会うてな、転びそうやったから手ぇ貸してん。ほんでうっかり魔力流したらリュカ君の刻印が鎖骨辺りに浮かび上がってきてなぁ。ほんまビックリしたわぁ」

「うっかり魔力を人に流す訳がないだろう」

「ふふっ」





 二人の酒を飲むペースはゆっくりで、次第にリュシアンとコハルが出会った頃の話に移っていく。





「リュカ君のお陰で狙われそうになっとった新人のあの男の子、元気やで。君ん事めっさ心配しとるよ」

「そうか。無事で何よりだ」

「ふふっ『僕ルシェールに帰ったら好きな子と結婚するんです』言われたら何が何でも帰さなあきませんしなぁ」

「まあな」

「ほんで、大方この子に助けてもろたんやろ?でもよぅ分からへんのが刻印やわ。自分ら二人ともそないな仲違わはるんやろ?どうやって口付け落としてん。リュカ君が寝こみ襲う訳ないし…まだヤっとらへんねやろ?」

「相変わらず遠慮なく聞いてくるな」

「そらわざわざ苦手な書類仕事終わらせて来てんやから当然やん。リュカ君の初恋情報の一つや二つは持ち帰りたいわぁ」

「はぁ…ヤってない」

「せやろなぁ。ほんで?」

「ウメユキには言うが、コハルは異世界から来た。ヒト族よりも脆く儚い存在だ」

「異世界…ほんまにあるんやね。脆くて儚いてどうゆう事やの」

「2mの高さから落ちただけで死ぬし、ショックを受けても死ぬ。精神にダメージがきても死ぬ。他にも色々あるが、コハルは普通のヒト族とは違い簡単に死んでしまう」

「ようこの子これまで生きてこれたな」

「俺もそう思う」




 龍族は番になる相手を見つけると相手の承諾を得て口付けを落とす。すると力の弱い方の身体の一部に相手の家の刻印が現れる。もし刻印を刻まれた側なら襲われた時、刻印にかけられた術が発動し相手を呪い殺す。


 この世界の物を食べていなかったせいで消えかかっていたコハルを助ける為、リュシアンはこの方法をとって彼女を救った。小春は無意識下で彼の口付けを承諾したのだろう。


 リュシアンはコハルと出会った時の事を思い出しながら友へ話す。

 後輩を助ける際に致命傷を負い地に落ちてしまった自分を助けようと声を掛けてきた女性がいた。魔獣が襲ってきた事に驚いたその女性は自分の腰に掛けてある剣を持とうとしたが、持てなかった。だが彼女は諦めずに魔獣に果敢に挑み、何故か逆にもっと魔獣を怒らせていた。リュシアンは彼女の意外過ぎる行動に驚きを隠せなかった。


 名も知らぬ縁もゆかりもない自分を己の身を挺してまで助けようとする彼女を見て、リュシアンは草木から吸い取った力で何とか起き上がり魔獣を倒す。足に力が入らず倒れ掛かけそうになったが、そこはその女性が寸での所で支えた。彼は意識は残っていたが気絶した振りをして彼女に体重を預け、引きずられながら洞窟の中へと入る。

 かなりの生命エネルギーを傷の回復に充てていた為、リュシアンの体に傷は無い。だが手当てをしようと名も知らぬ女性が自分の服を脱がそうとしていたため、彼は様子見も含めそのまま黙って眠ったふりをする事にした。リュシアンの下には初めて触る感触の細長いシーツのような物が敷かれており、彼女の下にはない。女性の動きが止まった事を確認すると彼は体を起こし、地面の上で丸くなって眠っている女性を見た。


 あまりの危機感の無さに笑みが零れ、寒さで震えて眠る命の恩人を抱きしめ、再び横になった。 


 


 彼女の名はトウゴウ・コハル。リュシアンにとっては珍しい響きの名だ。

 初めはお互いの会話が噛み合わず可笑しな会話を繰り広げていたが、次第に謎が紐解けていく。お互いの状況を理解した後は神獣のグリフォンが現れ、コハルは臆せず食料を分け与え、名前を付ける許可まで貰っていた。なんと不思議な女性だと思った事だろう。彼の傍には今まで煌びやかに着飾った女性や、自分の顔だけを見て褒めてちぎったり頬を染める女性、アクセサリー代わりにされて他の女性を牽制したりと、女性関係では良い思いをしたことが一度もなかった。

 素朴で純粋なコハルと喋るのは楽しく、助けてくれたお礼にルシェールへ招待しようと思うまでにそう時間はかからなかった。しかし死の森を出る為に村へ向かっている途中、朝早くに目覚めたコハルはふらっと何処かへ行ってしまった。不用心だなと思い付いて行こうとしたが、用を足す為だったら失礼に当たると思い寝たふりをして待つ事にした。


 あまりにも帰りが遅い。

 急いでグリフォンと共に探しに行くと、黒く淀んだ湖の前でコハルが倒れ消えかかっているのを発見する。

 抱き上げると力なく微笑み、声が出ないのかコハルは口をパクパクと動かすだけだった。次第に手足の先端が消えていき、身体も地面が見えるくらいに透き通っていく。

 焦るリュシアンに対し神獣のグリフォンは冷静に事の状況を見極め、コハルが異世界の人物だと見抜き彼女の身体が“この世界”に適応できずに消えかかっているとリュシアンに教えた。そして繋ぎとめたければこの世界の物を食べさせろと助言する。彼は迷いなくコハルに口付けた。


 刻印を付けてしまえば付けた側は他の者と結ばれる事はない。もしコハルが自分を振ってしまえばデルヴァンクール家に後継者は生まれない。それに加え悠久の時を独りで過ごしていかなければならない。

 それでもリュシアンはこの選択に後悔をしていない。彼女に刻まれた刻印は彼よりも強い者と番になれば消す事が出来るが、まぁそうそういないだろう。



 それからは初めての感情に戸惑いながらもリュシアンは少しづつコハルにアピールをしていく。ルシェールに着くまでに恋仲になれたら良いなと淡い気持ちを抱いて旅をする。だがしかし、かなり鈍感で思考回路が複雑なのか単純なのかコハルはいつも逸脱した行動と思考で動いていた。

 この世界のヒト族よりも儚い存在のコハルを守りながらの旅は決して心休まる日が無く、ダンジョンに飲み込まれたりとハプニング続きで脆く儚い彼女が死んでしまわないかと彼はいつもヒヤヒヤしながら過ごしていた。

 コハルの美味しい手料理や伝説級の存在の生き物に出会ったり、古の御業を使って瀕死の動物を助けたりと一緒にいると驚愕の連続で、リュシアンは昔一人で世界中を旅していた時よりも驚きに満ちた旅だなと思っていた。毎日飽きずに色んな話題を振ってくるコハル。そんな彼女との旅を彼はとても楽しんでいた。



 夜はコハルを守るため幾重にも防御魔法を重ね、自分が盾となり眠る。最初の頃は中々背を預けてくれず、寝かせつけるまでがとても大変だった。いや、今でもそれは変わらないかもしれない。だが人の良いコハルは赤面しつつも自分が寒いと言うといつも一緒に眠ってくれる。

 他にも色んな感情を抱いているが全てを語るつもりのないリュシアンは此処で話を区切った。






「へぇ~。まぁいくら自分が強うても守る対象がそこまで儚い存在やとヒヤヒヤもするわなぁ。でもリュカ君なんか楽しそうやわ」

「もう良いか?」

「駄目やでリュカ君。まだ話してない事ぎょーさんあるやろ?全部話し」

「断る」

「ほんならあの濃い~刻印なに?絶対重ね付けしとるやろ」

「…」

「ふふっあない濃くなる言う事は毎日夜中こっそり口付けしとる証拠やわ。ぎょうさんあの子の身を護る魔法も掛けられとるみたいやし?コハルはんにこの事バラしたらどないな反応返ってくるやろなぁ」

「なっ」

「ぜーんぶ丸っとお見通しやでリュカ君」





 リュシアンは明け方近くまでウメユキに根ほり葉ほり聞かれたが、生理事件の事だけは何としても死守した。




***




 ウメユキさんはまだ付いて来るそうで、今は三人と二匹で森の中にいる。森に入り文二が現れた時、ウメユキさんは興奮しすぎてその場でぴょんぴょん跳ねていた。




「えろう可愛ぇなぁ世話師猫いうんわ」

「にゃー」




 あまりに構ってくるもんだから文二は私の足元に隠れ、振られてしまったとショックを受けたウメユキさんはリュカさんに話しかけに行き、もうそろそろ龍体になれるんじゃないかと聞いていた。

 今のリュカさんなら本来の力の半分くらいは戻ってきているのでドラゴンの姿になれるらしい。だけど私を踏みつぶしそうで怖いからルシェール領に行くまでは人の姿で旅をするみたいだ。



 空を見上げると暴れ鳥が飛んでいる。



 旅の道中でリュカさんが食べた私の手料理を食べてみたいというウメユキさんの要望で、今日のお昼ご飯は暴れ鳥のシチューだ。自分の希望を叶えてもらうお礼に空を飛んでいる暴れ鳥は彼が捕まえてくれる。

 ウメユキさんは掌から太刀を出し、切っ先を空に向けて唱える。





「降りそそげ斑雪(はだれゆき)





 刃の部分が雪の粒になり、空へと舞っていく。

 幻想的な風景だが落ちて来た暴れ鳥はズタズタに刃で切り裂かれたようになっていた。

 料理の手間が省けたような、そうでないような…。


 ウメユキさんは太刀を掌に仕舞い、くるりと此方に振り向く。お礼を伝えると嬉しそうに微笑んだ。

 あれは何?これは何?と質問攻めしてくるウメユキさんの相手をリュカさんに押し付け(任せ)、私と文二と大福で暴れ鳥シチューを作っていく。完成した頃にはリュカさんはぐったりしていたので暴れ鳥シチューを渡して回復してくださいと伝えた。




「っ!!これは!旨い!」

「うん。今日も美味しいよコハル」

「にゃにゃー!」

「キューー!!」




 ローリエの効果もちゃんと出ているようで、それを感じ取ったウメユキさんは不思議そうに私の手を見つめてきた。是非とも料理番として入隊して欲しいと頼まれたが、リュカさんが全力で拒否し私は一言も発さずにこの話は終わった。




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