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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
24/125

優しい彼と鬼畜な彼



 この世界の治安は国や領によって全然違う。

 私が今まで比較的安全に旅を出来ているのはリュカさんのお陰で、素通りした国やドラゴンの背に乗って過ぎた村の中には治安の悪い所が沢山あった。彼は出来るだけ私の為に安全なルートを通ってくれている。その事に気が付いたのは空から色んな国を見た時で、本当に感謝の念に堪えない。

 野営の片づけをしながら通り過ぎていった国の事をリュカさんに聞き、治安の悪い国を一つ教えてもらった。




「上空から下を見た時に一つだけ土地がやせ細った場所があっただろう。其処にはリザードマンが住んで居る。元はヒト族の村だったが追い出されてしまったらしい」

「そうなんですね。所でリザードマンって何ですか?」




 リザードマンとはトカゲのような見た目をした二足歩行の獣人族に近い種族らしい。近いと言ってもそれは背丈だけで、顔はトカゲそのもので大きく口が横に裂けている。逆にトカゲと違う所は武器などを使いこなし、言語を喋るところだ。

 他にも見た目的な特徴があるようで、肩に厳ついと金属のトゲを付けた肩パッドを着ていたり、モヒカン頭だとか。乗り物はカボチャで出来た馬車。メルヘンと世紀末が合わさったような、何とも言えない種族だなと思った。




「カボチャの馬車なんて可愛らしいですね」

「馬車は他人から金品を強奪する為に乗っているだけだよ。手には斧やモーニングスターを持っているから可愛らしい要素は無かったね」

「見た事があるんですか?」

「昔一度ね。興味があったから寄ってみたんだ」

「どうでした?」

「コハルには最も行かせたくない場所だ」




 モーニングスターとは殴打用合成棍棒の事で、棒の頭部に球状の鉄の塊があり、そこには複数の棘がついている恐ろしい武器だ。当たったらひとたまりも無い。

 リザードマンが住むその国は最も治安の悪い国と世界中に知られており、観光者も少ない。でもたまに度胸試しとして訪れる者がおり、身ぐるみを剥がされたり殺されたりと訪れた者の大半は被害に遭っているそうだ。気に入らない者は殺すし、欲しい物は奪う。そんな国らしい。

 他国の者で生還して出られた者は少なく、昔リュカさんはその国に三日間も滞在したらしい。何をしていたのかが気になる。




「盗んだバイクで走りだしそうな方達ですね」

「ばいくが何だかは知らないが、カボチャの馬車は隣国の姫が乗っていたものを強奪したものだ」

「えぇ!?凄いヒャッハーなリザードマンですね」

「ひゃっはー?」




 今から私達が入る国はそんな治安の悪い国とは違い、観光者や採掘者で溢れる活気ある国だ。

 森の中で文二とは別れ、リュカさんに国名を教えてもらう。国の名前は『永久不滅の恋と愛~ウンパカドンドン~』ウンパカドンドンの意味も分からないし長いしダサい。と思う。


 お昼前には入れたので私達は早速今日泊まる宿屋を探し始めた。

 この国はクリスマスのイルミネーションを彷彿とさせるような装飾が多く、地面は石畳となっている。でも石畳は普通の石とは違いカラフルに色づいている。街の窓は全てステンドグラスだ。


 観光客が多く、リュカさんが逸れないようにと私の手を握る。




「リュカさん!凄いです!歩いた所が光ります」

「ここは輝石の採掘で発展した国だからね。その輝石がふんだんに使われているんだ」

「こうせき?」

「触れると光り輝く石で光石の最も上位に位置する石だ。魔石と違い魔力を持たない石だが、光り輝く美しい石としてアクセサリーによく使われている」

「高いですか?」

「光石は安い。100ベティくらいかな。でもコハルは米を買ったから無一文だろう」

「あっ」

「忘れていたのか」

「お金貸してください」

「ふふっ。断る」

「ええええ!?ケチ!」

「…」

「ひゅみまひぇん」




 私のケチ発言を失言と捉えたリュカさんが今日も美しい笑みをたたえながら私の頬っぺたをぐいーっと引っ張る。ついでに認識阻害の魔法まで掛けられた。

 今私達がいる場所は観光地だが、宿屋は沢山あるので一番最初に入った宿屋に泊まる事ができた。部屋の中にも輝石が沢山使われており、まるで宝石箱の中に居るみたいだ。部屋の中には猫足のテーブルが一脚と椅子が二脚。お風呂は無く、簡易シャワーと水洗トイレが一回の共同スペースにある。この宿屋には食堂がないので食事は外に行かなければならない。ベッドはちゃんと2台ある。よっしゃ!


 大福は私の肩から降り、ベッドの上で丸くなった。

 何処の宿屋でも大福は部屋に着くと大抵ベッドの上ですぐ日向ぼっこしながら寝始める。


 リュカさんは椅子に座り掌に何かを乗せ、それを浮かせて何かを作り始めた。私も椅子に座ってその作業を見つめる。浮いている物体は手のひらサイズの巨大な鱗だ。何をしているのか尋ねてみると、旅の道中で壊れてしまった魔力を制御する魔石のカフスの代わりになる物を作っていると教えてくれた。


 


「その鱗どうしたんですか?」

「これは私が龍体化した時の鱗だ」

「へぇー大きいですね」




 鱗は白銀色に輝き、角度によっては碧く光って見える。リュカさんはそれに魔力をどんどん注ぎ込んでいく。鱗は形を変え、小さなひし形状になり、最終的にはゆらゆらと揺れるイヤリングになった。

 出来上がったイヤリングをリュカさんが片方の耳に付ける。

 とても似合っているし、揺れ動く際に太陽に反射して輝くのが美しい。


 リュカさんは懐からもう一枚鱗を出すと、また魔力を注ぎ始めた。それは先ほどの鱗より二回りも小さい。




「もう片方も作るんですか?」

「いや、今作っているのはコハルの分だ」

「私の?」

「ダンジョンで逸れてしまった際に私はすぐにコハルの元へ駆け付けに行く事ができなかった。だが、これを身につけていれば私は瞬時にコハルの元へ移動する事ができる。他にも付与するつもりだ」

「ありがとうございます。でも、ダンジョンの中は時空が歪んでいて転移魔法が使えないんじゃなかったですか?」

「これは魔法ではなく“龍の意志”という龍族(私達)だけが使える術だ」

「へぇ凄いですね。因みに龍の鱗っておいくらするんですか?」

「今使用している私の鱗なら傷もなく状態も良いのでヒト族の国一つは余裕で買えるな」

「えっ」

「売るなよ」

「売りませんよ!」




 私用に作ってくれたのはピアスで、鱗を丸い球状に変化させたシンプルな物。髪に隠れて人目につかせない様にしたらしい。理由はこれが龍の鱗だとバレると耳を削ぎ落され盗まれる可能性があるからだ。最悪の場合は首をちょん切られる。逆に自分の身に危険が増したんじゃないかと思う。


 


「リュカさんの鱗は輝石よりも美しくて綺麗ですね」

「…まぁ」

「もしかして照れてます?」

「照れてない」

「でも頬赤いですよ」

「見るな」

「そう言われると見たくなる」

「ッ子供か!」

「リュカさんの年齢に比べたら子供ですね」



***


 私は今からぷんぷん怒りながら照れている面倒くさいリュカさんと一緒にお昼ご飯を食べに行く。外に出る際に認識阻害の魔法を解いてもらい、ウィンドウショッピングしながら食事が出来る所がないか探し歩いた。


 道中、沢山くしゃみが聞こえる建物があったので私は気になって覗いてみた。

 中には中年のおじさんの顔に蝶々の羽が生えた生き物が所狭しと忙しなく飛んでいる。おじさんは黒縁メガネを掛けていたり、ハゲ散らかっていたり、基本疲れた顔をしている。通常耳があるはずの所に蝶々の羽が生えており、アゲハ蝶やモンシロチョウなどの豊富な種類の羽が羽ばたいている。




「ななな何ですか此処!?」

「この国の郵便本部だな」

「何でそんな平然としていられるんですか!?」

「?郵便はオヤッサンバの仕事だろう?」

「今にも踊り出しそうな名前ですね」




 嫌がる私をリュカさんが無理矢理引っ張り、二人で郵便本部へと足を踏み入れる。大福は起こしても起きなかったので宿屋にお留守番中だ。さっき私がからかったお返しなのか、オヤッサンバにビビる私を見て彼は物凄く楽しんでいる。鬼畜な部分を呼び起こしてしまった自分が憎い。

 

 せっかく郵便局に来たという事で私達はレターセットを買い、ルシェールに行った際お世話になる執事頭のユリウスさんに宛に私は手紙をしたためる事にした。この郵便本部には手紙を書く場所が設けられており、そこで今必死に文章を考えている。ふかふかのソファーと輝石で作られたテーブル。机に肘をつくたび光るのでちょっと眩しい。

 この世界の文字を上手く書けない私はリュカさんに教えてもらいながらしたためていく。

 二行書くので精一杯だった。なのであいている行は彼が適当に埋めてくれている。


 私達が手紙をしたためるいる最中、オヤッサンバのくしゃみは一度も止まる事なくはくしゅんっ!ぶえくしゅっん!と五月蠅い。リュカさんに何故かと聞くと見てからのお楽しみと言われてしまい教えてはくれなかった。


 そしていよいよユリウスさんに宛て手紙を出す。

 受付に行くと今にも下呂を吐き出しそうな真っ青な顔をしたオヤッサンバが居る。羽は美しいオオムラサキだ。このオヤッサンバが私達の担当となった。


 


「バッタがトイレで踏ん張った。飛び蹴りされトビ下痢。フッフフどうですか?」

「下品にも程がある」




 オヤッサンバは親父ギャグを息をするように言う傾向があるらしい。

 鬼畜モードのリュカさんはツッコみも厳しい。


 オヤッサンバは私が出した手紙に口で判を押し、その手紙を鼻から吸い込んだ。そしてルシェール行きの棚に向かってくしゃみをし、吸い込んだ手紙を吹き飛ばした。いろいろ汚い。




「ひっ」

「ふふっ驚くと思った」

「見たくなかったです」




 手紙は配達が得意なオヤッサンバがくしゃみで吹き飛ばしながら届けるそうだ。

 物凄く嫌だ。

 オヤッサンバは流石に天空にあるルシェールまでは飛んで行けないので、地上にある龍の国の領土に配達員のオヤッサンバが飛んで行き、そこにあるポストに体内にある手紙をくしゃみで吹き飛ばして入れるらしい。

 オヤッサンバ郵便は嫌いな相手や嫌がらせをしたい相手に手紙を送るのに大人気で、意外と儲かっていると最後にリュカさんが教えてくれた。何故それを最初に教えてくれなかったんですか。ユリウスさんすみません。あなたの若様に嵌められたんです。


 この世界にはオヤッサンバ以外にも手紙を送る方法は沢山ある。一番評判が良いのは魔国で、妖精が届けてくれるそうだ。私もその方法でユリウスさんに手紙を送りたかった。




「妖精は気分屋だから届かない事もあるよ」

「それでもオヤッサンバよりは良いと思います」

「たまにイタズラ好きな妖精が恋文を他人に向かって読み上げる事もあるらしい」

「まともな配達者いないんですか?」




 この世界は几帳面で真面目な人には生きにくい世界だと思う。

 

 用事は済んだので郵便本部から出たが、食欲が失せる様な光景を見たせいか今は何も食べたくない。そんな私の気持ちを察したリュカさんは可愛らしいパティスリーに入ってくれた。一階はパイやケーキを売っており、二階は食事のできるスペースとなっている。

 輝石で出来た階段を上り二階に行くと、観光客でにぎわっていた。席は自由だったので窓側の街並みが見える場所に座り、いつも通りリュカさんが適当に注文する。そしてこの後の予定を立てていきながら注文の品を待った。 


 運ばれてきたのはキラキラ光るアイスクリームと輝石に似せたゼリーが入った飲み物。アイスは食べると口の中でパチパチと弾けてハチミツのような味がする。ドリンクはレモン風味のスッキリとした爽やかな味だ。初めてこの世界でまともに美味しい物を食べた気がする。




「お、美味しいです!旅の疲れが癒される~」

「ふふっ本当に美味しそうに食べるね」

「リュカさんは食べないんですか?」

「私はコハルの表情を眺めている方が楽しいから良いよ」

「えぇぇ。お金とって良いですか?」

「いくらだ?」

「100ベティです」

「良心的だな」




 私は冗談で言ったつもりなのにリュカさんは本気で払ってこようとしたので慌てて止めた。

 誰ですかこの人の教育係だった方は。

 

 変な所で財布の紐が緩いリュカさんと食事を終え、他の店も巡る。

 途中ピンク色の髪をした少女とすれ違ったような気がしたが、私は本屋さんのショーウィンドウに飾られてある『サンタ猿とエキセントリックワニのラブラブ大合戦~打ち取った首をソナタに~』が気になりすぎてそれどころではなかった。




「リュカさんこの本欲しいです」

「読めるのか?」

「読めないので読んでください」

「嫌だ」

「何でですか?」

「サンタ猿には良い思い出がない」

「じゃあこの本はいいので、その思い出を聞かせてください」

「コハル。他にも欲しい本はあるか?」

「くっリュカさんに何があったのか気になる!」




 結局その絵本と普通のノートを買ってもらい、夕食用にサンドウィッチを買ってから私達は宿屋に帰った。

 私が部屋に入ると大福が目を覚まし、肩に飛び乗ってくる。

 お腹が空いてたのかな。



ブクマや評価が増えている喜び。ありがとうございます!

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