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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
22/125

不思議な旅はまだ続く


 あの巨乳を擦り付けながら歩く女性二人がいなくなった事により、リュカさんの機嫌はグンと良くなっている。そしてこのダンジョンを最速で抜けようとこの場から魔法で一直線に穴を開けようとしていた。

 止めてくださいリュカさん。ご乱心中ですか?

 魔獣に当たるのは良いとしても、冒険中の人に当たるのは流石に良くない。なのでストレスで思考がパーになっているリュカさんを私は必死で止めた。


 脳筋、所謂脳みそまで筋肉状態のストレスマッハなリュカさんの手を引っ張り、私はどんどんダンジョンの中を進んで行く。先頭は文二で、襲って来る魔獣はリュカさんが瞬殺してくれている。




「リュカさん、ユメヒバナさんやフィーさんが飛ばされたみたいに転移魔法でこのダンジョンを脱出する事は出来ないんですか?」

「ダンジョンの中では転移魔法は危険だ。時空が歪んでいるせいか座標が狂う」

「そうなんですね」




 妙案を思いついたと思ったのに残念だ。


 誰に出会う事もなく、リュカさんとお喋りしながら進む。

 道中は壁から急に炎が噴き出たり、刃物が飛んできたり、小型虫の大群が襲ってきたりと大変だった。特に虫が襲ってきた時、私は大号泣してしまった。


 胴体はカブト虫のような甲虫で、翼の部分がミミズのようにうねうねと羽ばたくキメェンデスという虫。ただでさえ虫が苦手なのに大群でその気持ち悪い虫が押し寄せて来るもんだから、私は失神しそうになってしまった。逃げ切った今でも涙が止まらない。


 私は今体を震わせながら嗚咽を漏らしている。それ故リュカさん、文二、大福が超絶戸惑っているのを感じる。

 リュカさんは落ち着けと言いながら私を抱きしめ、リズム良くポンポンと私の背中を撫でた。子どもにするようなあやし方だけど、不思議と私の呼吸は整い落ち着きを取り戻していく。でも、どさくさに紛れて御でこにチューするのはどうかと思います。というか、それで落ち着くと思ってるんですかと言いたくなる。むしろ違う意味で落ち着かなくなってきた。


 文二や大福もにゃーにゃーキュッキュ鳴き、私を慰めようとしている。

 ありがとう。


 久々に大泣きしてスッキリした私は岩の隙間から光が漏れているのを発見し、それをリュカさんに伝えて攻撃魔法で壁をぶち抜いてもらった。



「やっとダンジョンから出られますね!」

「そうだな。散々な目に遭った」

「にゃっ!」

「キュー!」



 私達が出た場所はどこかの村の近くで、人の気配を感じた世話師猫は片手を上げ姿を消し始める。

 姿が完全に消える前に私は「助けてくれてありがとう」と伝え、休憩のためにも村の中へ入る事にした。


 この村にもその昔、リュカさんは世界中を旅していた頃に寄った事があると言う。

 村の名前はゲートと言い、どんな死者でも大事にする小さな村で、年中歌って踊って騒いでいる陽気な村だそうだ。確かに沢山の歌が聞こえてくる。

 この村に入るには門番にカードを見せるのではなく、歌を歌わなければならない。

 そもそも何故年中歌って騒いでいるのかと言うと、亡くなった全てのものがあの世でも寂しくないように歌を届ける為らしい。


 この村には翼を持った獣人族が多く、村の中腹にある泉に行くと人魚が住んでいる。

 もちろん翼を持った獣人や人魚に会った事のない私はわくわくしている。


 門の前まで行くと門番の人がおり、私は何の歌を歌おうかと必死に考えた。音痴だから入れないとかっていうルールはないみたいだけど、出来れば音は外したくない。という事で、自分が生まれ育った国を忘れない為にも国歌独唱をする事にした。

 歌う前に曲名を門番さんに伝え、相手が知っていれば伴奏してもらえる。当然門番さんが私の古郷の歌を知っているはずもなく、私はアカペラで歌った。


 音は…外していないと思う。




「初めて聞くメロディーです」

「私の故郷の、とても大切な歌なんです」

「そうですか。お入りください」




 歌は一人一人歌わなくてはならないので、もちろんリュカさんも歌っている。彼もアカペラで、美しい歌声が辺りに響き渡った。門番さんはそんなリュカさんの歌声に興奮している。だから私に対応した時よりも丁寧に言葉を並べて村に歓迎した。

 この見た目で音痴だったら面白いのに。そう思いながら私はつまらなそうに彼の後ろに続いて歩いた。



***


 村の中は色とりどりのペンキで明るくペイントされており、家屋は全て派手に塗られている。普通はちょっと恐ろしい骸骨も可愛らしくペイントが施されいる。骸骨はヒトだったり動物だったりと様々だ。


 何軒目かになる宿屋を見つけ、私達は平屋の古ぼけた宿屋に入り受付に向かう。

 他の宿屋は全て満室だった。此処は観光業が盛んな場所らしく、この宿屋に着くまでにも沢山のお土産屋さんと宿屋があった。亡くなったペットや想い人などを供養する為に訪れたり、遺骨をアクセサリーに加工してもらう為に訪れる人が多いらしい。


 受付に居るのは小さな羽が耳の辺りから生えている男の子。私は宿屋に入る前からフードを被っているので、認識阻害魔法は掛けられてない。はずだ。受付はリュカさんが応対している。




「一泊したい。部屋に空きはあるか?」

「空いたりまっせ。だげんども相部屋の大部屋しか空いとりません」

「コハル。野宿にしよう」

「嫌です」




 ごねてごねて、どうにか大部屋に一泊する許可がリュカさんから下りた。

 男の子に案内された場所は修学旅行で泊まるような、まさかの畳部屋。寝る場所もベッドではなく布団。物凄く枕投げとか恋バナがしたくなるシチュエーションだ。しかし一緒に旅をしているのはリュカさんなのでそれは出来ない。


 そして!なんと!この村には温泉がある。

 宿屋にも男女別にお風呂はあるが私は夜に温泉に入りに行くつもりだ。トイレ事情は水洗で有難かったけど、仕切りが下半身部分しかない。何故こんな変な構造なのかと目を疑った。


 


「リュカさん、ここのトイレの仕切り低すぎませんか?」

「この村は交流を重んじる所だから仕方ない」

「え、それって用を足しながらでも話しかけられる可能性があるっていう事ですか!?」

「…そういう事だ」




 そこまでして交流したくない。

 トイレくらい一人でゆっくりさせて欲しい。



 私とリュカさんは一度体の汚れを落とす為に宿屋のお風呂に入った。

 色々な事が起こり過ぎて気付かなかったけど、私達はダンジョンの中に一日半以上もいたそうだ。


***

 

 身支度を整え終えた後、私達は食材の買い足しに出掛ける事にした。

 この村の食材も色の濃いカラフルな物が多く、見ているだけで楽しい。街行く人は皆歌っている。

 リュカさんが村に立ててある地図を見ながらこれからのルートを確認している間、私は暇なのでお土産を見ていた。そしたら知らない人?に歌いかけられた。

 その人は人魚なのか、耳がエラのようになっている。髪色は薄紫で長さは腰まであり、緩く一つに纏めている。瞳の色は赤サンゴ礁のように鮮やかな色だ。そしてとっても美人さん。声が低いので男性だと分かったが、一見女性にも見える。




「き~み~を~探していたような~気がする~」

「へ?」

「さぁほら歌って」

「わ、私その歌知りません」

「心のままに歌うのさ、ホラ!」

「え、えーと、迷いこんだような~」

「僕の中に?」

「ちが」

「二人~出会えば~運命の道が~開か」

「何を呑気に歌っているコハル」

「リュカさん助けて下さい!私っ人生初のラップバトルを仕掛けられてます!」

「ラップバトル?コハルはこの男に口説かれている最中だよ」

「ええええ!?」

「おや?自覚がなかったのかい?さあ、歌の続きを歌おう!」

「黙れ。貴様は年中女性を口説いていないと気が済まないのか」

「おや?リュシアンじゃないか!いつ見ても美しい御顔だね。怒っているその御顔も美しいよ」




 この綺麗な男性とリュカさんは知り合いのようだ。

 彼の名前はシレーナ・ゼーフングラフォード。この村の泉に住む人魚だ。


 シレーナさんは昔、リュカさんが旅の最中にこの村に寄った時、彼を口説くために私にしてきたような歌を歌って口説いたらしい。どんなに歌って口説いても無視をされるので泉の中に引きずり込んでやろうとしたら返り討ちに遭い、その時に力の強さや声で男だと分かったそうだ。

 それ以来、一方的な友達としてシレーナさんはリュカさんに喋り掛けている。リュカさん年中モテ期なんですね。



「久々に君に会えて嬉しいよ。この子は君のフィアンセかい?」

「今はま」

「そうかい!それでいつ式をあげるんだい?僕が心を込めて歌おう!友の~幸せ~」

「止めろ歌うな。最後まで話を聞け」

「クフフっすまないね。つい嬉しくて」




 かなり暴走しているシレーナさんに私は自己紹介をすると、彼は気を良くしたのか一緒にご飯を食べないかと誘ってきた。という事で私達は泉の中にあるレストランに向かう事になった。


 泉の中へ入ると彼は人魚の姿になり、薄紫色の鱗で足が覆われる。私はリュカさんに人魚になる変身魔法を掛けられ、カーバンクルの大福は熱帯魚みたいな黄色い魚に変身した。

 リュカさんも人魚の姿になり、鱗は白銀色で、尾びれに行くにつれ碧みがかっている。私の鱗は黒一色だ。もうちょっと鮮やかな色が良かったなと思ったけど魚人にされないだけマシだと思い、口から不満が漏れないよう口をぎゅっと結んだ。


 地図を見ていたあの場所から泉に到着するまでの間、私は水の中にあるレストランにどうやって入ったら良いのか分からずリュカさんに尋ねた。するとカボチャを馬車に変身させるように、自分たちの体に変身魔法をかけるのだと教えてくれた。




「私は今からどんな魚になるんですか?」

「魚がいいのか?」

「何にでもなれるんですか?」

「ああ、そうだよ。魚人になる変身魔法をコハルには掛けるつもりだ」

「ぎょじん?」

「上半身が魚で下半身は今のままだ」

「絶対嫌です。もっと女性である私を尊重してください!」

「私としては魚人になってもらった方が安心する」

「じゃあリュカさんも魚人になるんですか?」

「いや、私は人魚だ」

「自分だけズルい!」

「ズルくない。これも全てはコハルを守る為」

「嫌です」

「我儘を言うんじゃない」

「じゃあリュカさんも一緒に魚人になってください」

「それは…断る」

「えええ!?」




 久々に鬼畜仕様なリュカさんと揉め、絶対にリュカさんと離れない&口説かれても歌わない事を約束し、人魚になる変身魔法をかけてもらった。



***


 泉の中は透き通っており、小さい魚や地面には色鮮やかなサンゴ礁が生えている。私達以外にも獣人の特徴を持った人達が魔法で人魚の姿になり泳いでいる。もちろん大半が人魚で、耳が巻貝になっている者もいた。

 ほとんどの女性の人魚は上半身がビキニや貝殻で、くびれもあって羨ましい。私の今の姿は人魚なのにローブを羽織っている。その下は貝殻で出来たビキニだ。人生初ビキニが貝殻なんてちょっと恥ずかしい。

 対してリュカさんは上半身裸でローブは羽織っていない。色々と大丈夫なんだろうかと心配していたが、女性の人魚の恋愛対象はヒト族と正真正銘の人魚が大半で、稀に獣人族を好きになる者がいるくらいらしい。力が強すぎる龍族の彼は恋愛対象外みたいだ。


 今の私は端から見ると布だけがふよふよと漂っているように見えるはずだ。

 泳ぎの遅い私は人魚姿のリュカさんが手を引いてエスコートしてくれている。彼は今、目元に数枚の白銀色の龍の鱗を出現させている。神秘的なその美しさと久々に引き締まった体躯を見て、私は赤面しそうになる頬を片手で隠した。

 因みに自分の鱗を触ってみたらドラゴンの鱗とは違い、するするして柔らかかった。ドラゴンの鱗は固くてツルツルとしている。



 先導しているシレーナさんがサンゴ礁で出来たドーム状の建物の中に入り、私達も続けて入る。はぐれそうになった熱帯魚姿の大福は優しく手で捕まえた。

 お店の中に入るとウェイトレス姿の人魚やコック帽を被った人魚が楽しそうに働いており、明かりは不定期に通る光魚だけで、落ち着いた雰囲気のレストランだった。


 私達はウェイトレスの人魚に席へ案内され、そこに座る。

 椅子は昆布の様な海藻で作られており、ちゃんとその人の体にフィットするよう形を変える。なのでまさにThis is 最高に座り心地良い椅子だ。

 テーブルは大きな貝殻やサンゴで出来ている。

 私とリュカさんが隣同士で座り、シレーナさんはリュカさんの前に座った。




「さあ、どれでも好きな物を注文して!久々の友の出会いと、新しい恋の予感を祝って此処は僕に馳走させてくれ」 

「では言葉に甘えて」

「コハル君も遠慮せずに、さあ!」




 ハイテンションなシレーナさんに押され、読めないメニュー表から適当に指をさして注文をしていく。水中にいるのにドリンクがグラスの中にちゃんと入っている事や、相手が何を喋っているのかはっきりと聞こえる事を不思議に思いながら三人と一匹で乾杯した。


 私が頼んだドリンクはシュワシュワしていて葡萄の炭酸ジュースみたいな味。リュカさんとシレーナさんはエールを飲んでいる。運ばれてきた料理は見た事もないような物ばかりだ。




「おお!コハル君は面白い料理を頼んだね」

「面白い?」

「早く食べないと逃げてしまうよコハル」

「キュー!」




 私が頼んだ料理は赤色の丸い粒。

 イクラに似ていたので頼んでみた。藻で出来たスプーンで掬って食べようとすると、足が生え、皿からその赤い粒が逃げ出す。そして逃げ出したソレを熱帯魚姿の大福がパクりと食べた。




「コハル、私が注文した料理を食べなさい」

「見た目が苦手です」

「確かに見た目は酷いかもしれないが味は美味しいよ!」




 リュカさんが私に勧めてきたのは色んな種類の魚の目玉だけが盛られた料理で、濃い紫色のソースが掛かっている。意を決して小さな目玉だけを食べてみると、口の中でプチっと割れて中から辛味のある液体が出てきた。味はエビチリに似ている。

 しかし見た目に抵抗がありすぎたのでこれ以上スプーンは進まず、このレストランにも出されているワイルドベアーのお肉を食べる事にした。食後のデザートはゼリー状の物が運ばれてきて、とても美味しく頂けた。




「また旅を始めたのかい?」

「違う。…が、現状そうとも言い切れないな」

「どうやら事情があるみたいだね」




 シレーナさんはニコニコしながら話している。

 私は上半身裸の美男子(イケメン)二人と食事をしているという異常な現状にハッと気付き、二人の話を右から左へ聞き流して視線を彷徨わせた。 




「どうしたコハル」

「あまり近寄らないでください」

「なっ」

「おやぁ?美しい僕たちに見惚れてしまったのかな?」

「違っ…わなくも無くは無いです。…上半身裸の男性と長時間一緒にいた事がないので、目のやり場に困っているだけです」

「結局どっちなんだ?」

「黙秘します」

「クフフっ顔が赤くなっているのが答えだねコハル君。あ~君たちを見ていたら歌い出したくなってしまったよ。染まる頬~が~麗しの~」

「止めろ歌うな」

「そんなぁ。一曲だけ僕のこの熱い想いを歌わせておくれ友よ」




 私がデザートを食べ終わるまでシレーナさんの歌は続き、リュカさんは尾びれで私の尾びれをきゅっと握ってきた。驚いて隣を見ると彼は外の景色を見ていた。なので表情は分からない。

 でも水で揺れる髪の隙間から少しだけほんのりと赤くなっている耳が見えたので、リュカさんが照れている事だけは分かった。




ブクマが少しづつ増えていってるのが嬉しい!ありがとうございます!励みにな~る~♪

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