表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
21/125

初めてだらけの始まり


 朝、目を覚ますと知らない洞窟の中にいた。

 昨日の夜はいつも通りリュカさんの抱き枕になって眠っていたはずなのに、いつの間にこんな洞窟の中に入ったんだろう。私の近くには大福しかおらず、世話師猫の文二とリュカさんはいなかった。



 三つの明かりがこちらに近づいて来る。




「起きたか、コハル」

「にゃー」

「おはようございますリュカさん。あの、此処はいったどこなんですか?」

「ダンジョンだ。夜に急に現れて私達を飲み込んだ」

「ダンジョンって急に現れるもんなんですね」

「予告してくる訳がないだろう」

「そう言われればそうですね」

「キュッキュイ!」




 地形が変わっても眠っていた自分に驚きだ。

 危機察知能力皆無なのかな。


 リュカさんは異変を感じた時、私を抱きかかえてすぐにその場から逃げ出そうとしたらしい。だけどダンジョンの出来上がるスピードの方が速く、間に合わずに飲み込まれたそうだ。そして私が起きるまでの間、彼は世話師猫の文二と辺りを探索し、ルートの確認をしてくれていた。本当にいつもありがとうございます。


 一つの明かりはリュカさんが生み出した氷魔法で、ミラーボールの様に辺りを照らしている。すごい場違い感だ。もう二つの明かりは世話師猫の文二の瞳。小さい頃に見たアニメのネコの旅客自動車を思い出す。子供の時にだけ訪れる不思議な出会いなんだよね。私の場合は大人になった今の方が不思議な出会いにまみれているけど。



***


 大福を肩に乗せ、リュカさんに手を引かれながら歩く。

 先頭を歩いているのは意外にも文二だ。世話師猫である文二の体毛は今、白ソックスを履いた黒猫になっている。大きな木で出来たスプーンを手に持ち歩く姿は凄く可愛い。




「世話師猫の体毛の変化は、もしかしたら得意なものを表しているのかもしれないな」

「そうなんですか?」

「前に【暗黒死炎(デス・ノワール)】を口から噴いた時も黒だっただろう?」

「はい、そうでした」

「このダンジョンが出来上がると同時に世話師猫の体毛が三毛から黒に変わった。だから体毛が黒い時は戦闘が得意なのかもしれない」

「へぇー凄いですね」

「あくまでも私の推測だがな」

「でもその可能性は高いですね」




 今の所道は一本で、魔獣が現れる事もなくどんどんと進んで行っている。

 私達は攻略する為に進んでいる訳ではなく、出口をただひたすら探しているだけだ。ダンジョンの最下層に行くためには愚直に降りていくか、魔物が守っているワープホールに飛び込むかのどちらかになる。ダンジョンの入り口は一つだけど出口は幾つもあるらしい。

 最下層に待ち構えているのはダンジョンのボスで、そのボスを倒すと勝手に何処かの出口に強制ワープさせられる。でもわざわざボス魔獣を倒しに行かなくてもダンジョンは抜けられる。

 初心者の私にリュカさんが懇切丁寧に教えてくれた。




「ダンジョンという事はお宝があるんですよね?」 

「そういう知識はあるんだな」

「本で読んだことがあります」

「そうか。まあ、宝箱はあるが仕掛けが施されている物がほとんどだ」

「危ないですか?」

「ここのダンジョンは見やすいから凝った仕掛けはないだろうな」

「じゃあもし宝箱を見つけたら開けてみても良いですか?」

「ふふっ。良いよ。ダンジョンの醍醐味だからね」




 リュカさんから許可を得た事により、宝箱というワクワクが止まらない単語に惹かれ私は意気揚々と歩き出す。

 洞窟の中を上っているのか下っているのか分からなくなって来た頃、私達の他にもダンジョンに飲み込まれた人たちと出会った。その人たちは最下層まで行くらしく、手を振ってその場で別れた。そして別れた先で初めての宝箱を見つけた。


 宝箱は開けるまで何が入っているか分からない。それにどんな仕掛けが襲ってくるかも分からない。ドキドキしながら人生初の宝箱を開けてみると、カギは掛かっておらずすんなりと空いた。



 残念ながら記念すべき第一回目の宝箱の中身は空だった。



 そこから先へ進むと今度は道が二つに別れており、上には文字が書かれてある。

 私は読めないのでリュカさんに読んでもらった。




「犬と猫」

「そう書かれてあるんですか?」

「ああ。そうだよ」




 何を指し示しているのか分からないので、文二がいる事だし私達は猫の方を選択した。

 すると数分もしない内に後ろからゴーッという音が鳴り響く。後ろを振り返ると猫が吐いた毛玉のような大玉がこちらに向かって転がって来ており、私は叫び声をあげた。選択を間違えたかな…。


 洞窟の幅いっぱいの大きな毛玉を、私の肩に乗っている大福が口からサンダーボールを噴き燃やす。そこからは先に進むにつれて意味不明な問題と一緒に別れ道が続いていき、乳はでかい方が好きかとか、死は救済であるかとか、点Pは何故動くのかとか、風呂の栓を抜きお湯を溜める精神を理解できるかとか、一緒に家を出ない兄弟を求めたくないだとか、きっとこのダンジョンを作りだした魔獣は算数が死ぬほど嫌だったんだろうなと思いながら乗り越えいった。というか、どんな魔獣がこのダンジョンを作り上げたのか気になる。 

 乳問題はリュカさんが固まってしまったので、私が巨乳の道に先導を切って進んでおいた。


 今は久々に出会った宝箱を開けようとしている。


 


「何か良い感じの武器が入っていますように!」

「ふわっとしているな」

「うわああ!?」




 開けた瞬間、宝箱が私に噛みつこうとしてきた。

 リュカさんよりも文二が早く動き、大きな木のスプーンで宝箱を弾き飛ばす。ナイスショット!と言わずにはいられなくらい綺麗に弧を描いて宝箱は遠くへ飛んで行った。助けてくれてありがとうございます文二様。

 その後も私はめげずに宝箱があったら開けていくが、中々お目当ての物には出会えていない。


 私が自ら宝箱を開ける事ができるのは、リュカさんが私に反射魔法を掛けてくれているからだ。もし私に攻撃が当たるような事があれば彼が掛けてくれた魔法が反撃してくれるようになっている。だから私はさほど怖がらずにどんどん宝箱を開けていっている。


 また先へ進んで行くと、先ほど出会った人達とは違う三人組が前方にみえた。

 一人は剣を持った男性、もう一人はダンジョンの中なのに上半身だけブラジャーみたいな踊り子の服装をしている女性、最後の一人も女性で占い師みたいな恰好をしている。女性は二人ともナイスバディで、かなりの巨乳だ。肩が凝りそうな事この上ない。そして最悪な事にダンジョンの中を走ったりしていたのでリュカさんのフードは頭からずれ落ちており、綺麗なご尊顔があらわになっていた。




「私達ぃ迷ってるんですぅ、お兄さん一緒に行きません?」

「行きましょうよー!」

「俺のパーティーは前衛が俺しかいなくて困ってたんだよ!一緒に行こうぜ!」

「は?断る」




 私は会話に入らず行く末を見守る。

 入らずというか入る隙もないというか、きっとこの三人組に私自体が認識されていない気がする。それに結論から言うと一緒に行動したくなくても、この先も一本道なのでこの三人組パーティーと進むしかない。

 二人のナイスバディな女性はリュカさんしか目に入っていないようで、伝説級の世話師猫の存在にも気付いていないようだ。もちろん男の人もだ。 


 一番先頭を剣を持った男の人が歩き、その次にリュカさんを挟んでナイスバディな女性が豊満な胸を押し付けながら歩いている。器用な歩き方をする人達だな。そして何故か一番最後に私。

 えぇぇこの中で一番戦闘能力皆無なのに後衛…。

 かなりパワーバランスおかしいと思う。

 でも私にはカーバンクルの大福と世話師猫の文二が付いてくれている。だから元気を出して文二のふわふわな手をにぎにぎ握りながら歩みを進めた。


 因みにリュカさんの手は私から離した。だってお姉さん方の視線が怖かったんだ。仕方ない。でも今はリュカさんから発せられる不機嫌オーラの方が怖い。なのにこのパーティーの人達にはその不機嫌オーラが見えていないようだから不思議でならない。ダンジョンの中のはずなのに、此処だけブリザードが吹き荒れる極寒の地にいるみたいだ。


***


 この三人組パーティーと歩き始めて何時間たっただろう。久々に分かれ道にたどり着いた。

 壁には二つの似たような絵があり、上部には〇と×が書かれてある。何だろうこれ。



「えぇ~わかんな~い」 

「私も~」

「とりあえず〇に行ってみるか!」




 え、そんな決め方で良いんですか?


 私は二つの絵をじーっと見て、違和感の元を探す。

 ん~何かが引っかかる。

 絵は歯を見せて笑っている大人二人がご飯を食べているだけで、騙し絵ではない。




「ちょっとアンタ置いてくわよ」

「てか肩に乗せてるの何?あたしに毛なんかつけないでよ?」

「あっ!」

「何か分かったコハル」

「はい。歯ですよ」

「ちょっと!適当な事言って気を引こうとしてんじゃないわよ!」

「何?歯についてた青海苔でも取れたの?」

「違いますよ!海苔なんか食べてません。むしろ海苔の文化がある事に驚きです」




 この絵は間違い探しになっている。

 右の絵の方だけ左の絵よりも歯の本数が多かった。なので答えは×だ。


 私が答えを導きだしたはずなのに、剣を持った男の人が意気揚々と×の方に進みだす。ナイスバディなお姉さん方はまたリュカさんを巨乳で挟みながら歩く。どんなに腹が立っても手を出さないリュカさんは凄い。

 初めは鬱陶しいとか言っていたけど、リュカさんが喋れば喋るほど女性二人が騒ぐので今は黙って死んだ魚のような目をして歩いてる。心中お察しいたします。

 たまにチラッと後方にいる私を気に掛けてくれるので、やっぱり彼は優しい。ただ、振り向く頻度が多いと思います。


 先へどんどん進んでいくと今度は一本の細い道になっており、上には沢山の蔦がぶら下がっていた。道の両サイドは崩れ落ちており、落ちたら一巻の終わりだ。


 女性陣がキャーキャー騒ぎながらリュカさんに抱き着く。私も流石に怖い。先ほどまで先頭を切って歩いていた男の人も何故か最後尾の私を先頭に立たせようとしている。それでも男なんですか。というか冒険者としでどうなんですかソレ。

 リュカさんは二人の巨乳女性を振りほどき、私を抱き上げようとしたが手で制した。

 こんな狭い道の上であの面倒そうな女性陣の相手を私はしたくない。目で物凄く訴えると伝わったのか、超嫌そうな顔で渋々と納得してくれた。


 文二が先頭を歩き、私と大福、ヘタレ男、ビキニお姉さん、リュカさん、占い師ぽい人の順で歩く。途中道が崩れていたので、そこは蔦に掴まって先へ進む。


 思い切りが肝心だ。


 というのは建前で、実際はターザンをやってみたかったので場違いにも「ア~アア~♪」と声を上げ渡った。おかげで沢山の翼を持った魔獣が攻撃してきた。すみません。




「ちょっとアンタいい加減にしなさいよ!」

「魔獣引き寄せてんじゃないわよ!」

「コハル。少しは危機感を持ちなさい」

「うおっ危なっ」




 当然責められたし奇異の目でも見られた。だがしかし、知らない人達になんて思われようと構わな…いや、やっぱりちょっとヘコんだ。なので魔獣を引き寄せてしまった事については素直に謝った。

 

 細い道を抜けた後はまた数匹の魔獣に襲われたが女性二人が瞬殺してくれた。リュカさんに格好良い姿を見せたかったものだと思われる。理由は既に息絶えた魔獣に対し何度も攻撃魔法を食らわせていたからだ。でも肝心のリュカさんは全く見ていない。


 


「コハル。そろそろ限界だ」

「頑張ってくださいリュカさん」

「ちょっと何コソコソ話してんのよチビ!」




 色々ムッと思ったが、社畜生活をしていた頃に受けたクレームより全然マシだ。余裕で我慢できる。こんなストレス耐性、本当は持た無くて良いんだろうけど。


 ここにいる女性二人は背が高く、フィーさんよりも高いから180cm以上はある。そんな人達とこれから一緒にトロッコに乗る。もちろんセーフティーバーはない。インチキマジシャンでも亡霊でも良いから「セーフティーバーは私が下ろす」って言って欲しい。切実に。

 余談だが女性二人が私を貶す度に、リュカさんの眉間に深い皺が刻まれていっている。そしてブリザードも吹き荒れている。だから色んな意味で私を貶すのは止めて欲しい。



 トロッコに席なんてある訳もなく、立って乗る。文二は私が抱えてトロッコに乗せた。それにしても恐い!怖い!怖すぎる! 

 剣を持った男の人が勝手に舵をきり、女性二人はトロッコが揺れる度にリュカさんに抱き着きキャーキャーと楽しそうに騒ぐ。対して私は顔面蒼白で必死にトロッコにしがみつき、文二と大福も私に必死でしがみついている。

 トロッコはジェットコースターのように急降下したり一回転したり後ろ向きに走ったりと、かなりのスピードで走っている。叫ばずにはいられない。




「無理無理無理無理むりぃぃぃぃいいいい!!」

「ちょっうるさ!!」

「コハル!口を閉じろ!舌を噛むぞ!」

「そんなアドバイスよりもトロッコを止めてくださいぃいい!!」




 フルスピードで走っているにも関わらず、トロッコに乗っている私達めがけて低級魔獣が飛びながら攻撃魔法を放ってくる。そしてそれをリュカさんや他の人達が魔法で撃ち落としている。

 私はトロッコや魔獣が怖すぎて涙で目の前がぼやけ、視界がはっきりしなかったせいか大きく立てに揺れた時にトロッコから手を離してしまった。あと占い師っぽい女性にドン!と押されたような気もする…。という訳で、私はトロッコからふわっと体が浮きあがり落ちてしまった。



 そう、今まさに一人で落下している。




「にゃー!」

「ぶっ文二!」

「キュキュー!」

「大福!良かったぁー!独りじゃない!」




 頭から真っ逆さまに落ちながらも一人じゃない事に安堵した。襲ってくる魔獣は文二と大福が倒している。とても頼りになる。でもこのままじゃ地面に衝突してしまう。どうしよう。

 私はどうにか空中で向きを変え、なんとか正常な姿勢をとった。大福は私の肩に乗り直し、文二は下に向かって大きな木のスプーンを構える。





「復唱せよ。『古の知恵、加護は我に在り、花紅柳緑(かこうりゅうりょく)』」

「えっ待って!い、古の知恵!籠は我に在り!加工龍力!」

「にゃ?」

「あ、あれ?違う?」




 文二がいきなり喋って驚いたのと聞きなれない言葉すぎて私は違う祝詞を上げてしまった。

 それでも何かの魔法は発動したらしく、地面から東洋龍のような茶色い木が生え、体をうねらせながら籠を作りだした。私、文二、大福はそこへ落ち、傷も無く無事に生還する事ができた。


 木で出来た籠から降りるとそれは消え、文二の光る瞳を頼りに歩き出す。


 リュカさん心配してるだろうな…。


 この世界に来て初めてリュカさんと離れ離れになった。ちょと心細い。




「コハル!!」




 寂しすぎてかリュカさんの幻聴が聞こえてくる。

 ダメだしっかりしろ私。このダンジョンを出てちゃんと元の世界へ帰るんだ。あとルシェールの観光とか色々するんだ。




「コラ。人が呼んでいるんだから待ちなさい」

「え!?リュカさん!?」

「無事で良かった。遅くなってすまない」

「いえ、文二と大福が助けてくれたので」

「そうか。ブンジ、ダイフク、コハルを守ってくれてありがとう」

「にゃ!」

「キュー!」

「もしかしてリュカさんも振り落とされたんですか?」

「?。自分から落ちて来たに決まっているだろう」

「何でそんな危険な事したんですか!?」

「コハルが落ちたんだ。当然だ」




 そう言い終わるとリュカさんはぎゅーっと私を抱きしめた。しかも中々放してくれない。

 でも、私もちょっとだけ寂しかったので、緩く抱きしめ返した。いつの間にリュカさんの腕の中が安心する場所になっていたんだろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ