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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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レッツダンス&クッキング!加速する龍


 私は今、リュカさんと踊っている。

 三毛の世話師猫こと文二は、肩から下げている茶色い鞄から、猫の背丈ほどのコントラバスを出し、優雅に曲を奏でている。


 今から数分前、リュカさんは片膝を地面に着き、私の手を取って口許に引き寄せ、微かに触れる程度の口付けをしてきた。私が驚いていると文二は曲を奏で始め、それに合わせてリュカさんがステップを踏む。


 私は社交ダンスをした事がない。ダンスといえば小学生の頃に運動会で踊ったソーラン節くらいだ。もちろん今踊っているダンスにソーラン節要素は一つもない。だから私はリュカさんにただただ身を預けている。


 日頃から彼との距離感がバグっているお陰か、リュカさんの綺麗なご尊顔が近くても緊張する事はなかった。だけど、時たま私のおでこにチュッとリップ音を鳴らして口付けてくるのは意味が分からない。

 食事中も私の頬っぺたについたご飯粒をペロっと舌で舐めとってきたりと、最近のリュカさんは過激だ。龍族には定期的にハニトラ紛いな事をしないといけない規則でもあるのか。

 あの時、急な出来事だったため私は驚いて硬直してしまい、自分でも分かるくらい顔全体が熱くなった。そんな私を双子龍のノエルさんとルクルさんはずーーーっと茶化してきた。だからいつか仕返ししてやろうと思う。


 今はその二人も大人しく私達のダンスを眺めている。

 見ていて楽しいのかな。


 リュカさんの足は今の所踏んでいない。踏みそうになっても彼がサッと足を引いてくれる。あまりにもスマートに対応してくるので、むしろ足を踏みたくなってきた。

 文二の奏でる曲が終わると私達のダンスも終わりを迎え、黙って見ていた双子龍がパチパチと拍手する。



「やっぱリュシアン先輩のダンス良いね。俺好きだなー」

「久々に良いものが見られました」

「ありがとうございました。リュカさん」

「こちらこそ。久々に踊れて楽しかったよ」




 彼の白銀色の髪がサラっと揺れる。

 本当に綺麗だなぁ。にして誰も世話師猫がコントラバスを引ける事にはツッコまないんだ。私としては猫が楽器を演奏する事に驚いたし、鞄から出して来たのにも驚いた。しかも上手だった。


 文二の頭を撫でるとにゃーと鳴かれ、寝ていた大福も起きて私の肩に乗ってきた。



***

 


 休憩も終わり、私達はまた歩き始める。双子龍は帰る様子もなく私達に着いて来ている。




「いつまで付いて来る気だ。帰れ」

「えーやだ」

「僕も嫌です」

「お仕事大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないけどリュシアン先輩が気になる」

「ですね。特に恋の行方とか」

「恋してるんですか?リュカさん」

「…私の事はいいだろう。コハルは?」

「してないです」

「誰かに恋したことは?」

「ん~ないですね。仕事が忙しかったんで」

「そうか」




 リュカさんの恋の行方については有耶無耶にされ、話している内に私と彼は恋愛初心者だという事が判明した。服を着崩してタメ口なノエルさんと、丁寧口調で物腰の柔らかなそうなルクルさんにも彼女がいない事には驚いた。

 

 急にノエルさんが遠方に向かって攻撃魔法を放つ。

 え!?何事!?と、私が驚いて固まっている間に彼は何処かへと走っていき、何かを手に持って帰って来た。片手には鶏らしき動物を捕まえている。そしてニコニコと笑顔で仕留めた物を私の前に差し出してきた。


 どうやら彼は昼食後、急に身体が軽くなったので運動をしたくて堪らなかったそうだ。ルクルさんも体調が良くなったのを感じており不思議に思っていたらしい。

 私とリュカさんは私が作ったローリエ入りの食べ物に回復効果や魔力増強効果があるのを知っているので、何も不思議に思わなかった。だけどそれを知らずに食べていた二人は、自分の身体に異変が起きたのだと思ったらしい。

 あと、この鶏らしき動物の名前はクック・ドゥードゥル・ドゥと言う。ハードボイルドベアみたいに突然変異で進化するとトサカ大魔王になるそうだ。私が知っている鶏よりもクック・ドゥードゥル・ドゥは2倍大きく、今日の夕食が私の頭の中で唐揚げに決定した。



***


 私の料理に味を占めた双子のルクルさんとノエルさんは今、夕食を食べたら帰るとリュカさんに約束させられている。


 龍族が三人もいるお陰か虫の一匹すら寄って来ない。

 今日の野営ポイントまでの道中、世話師猫の文二が一生懸命にゃーにゃーと話しかけてくる。だけどやっぱり何を言ってるのか分からない。だから適当に相槌を打ちながら歩いた。 


 再び森の中に入ると暗く、リュカさんの手を借りながら歩く。そして夕飯の内容についても伝える。

 リュカさんは鶏の唐揚げを知らなかったので一から手順を説明し、二人で作ってみる事にした。味付けはローリエ香る塩味と醤油味の二種類。付け合わせはクック・ドゥードゥル・ドゥの鶏ガラで出汁を取ったチャーハンにしようと思う。




「クック・じゅー、でゅー…。この動物はどんな生き物なんですか?」

「諦めるなコハル。クック・ドゥードゥル・ドゥだ」

「クック・じゅーじゅる・じゅー」

「…まあ、初めよりはマシ。か」

「リュシアン先輩がコハルちゃんに甘い」

「僕たちには厳しかったのに」




 双子の龍がふざけて泣くポーズをしながらリュカさんをからかう。

 慣れているのかリュカさんはスルーしている。構ってくれない事を察したノエルさんとルクルさんは、クック・ドゥードゥル・ドゥを知らない私に生態を教えてくれた。




「あんま頭良くないよ。でも今日みたいに一羽でいるのは珍しいかな」

「へぇーそうなんですか」

「あとは何処にでも生息していますね。基本的には集団で生活していますが、方言が強すぎてお互いに何を言っているのか分からないそうです」

「えぇぇ」




 クック・ドゥードゥル・ドゥの見た目は私の知っている鶏とそんなに変わらない。が、決定的に違う所が一つだけある。それはネクタイをビシッと締めてキメている所だ。まるでサラリーマンみたいだ。



 野営するポイントまで辿り着くと、リュカさんがポーチから簡易キッチンを出し、他にもいくつか必要な道具を取り出した。お昼に簡易キッチンの組み立て方を見ていたルクルさんとノエルさんにキッチンの組み立てを任せ、私とリュカさんは下ごしらえをしていく。余談だが一度ポーチから物を取り出す際に、道具の名前をゆっくりと取り出しながら言ってみてくださいとリュカさんに伝えると、やってもらえた事がある。



「?。か・ん・い・き・っ・ち・ん」

「違います。もっとこう、ゆ~くりです」

「か~ん~い~きっち~ん~?」

「ぶふっふっふあはははは!ありがとうございます!」

「意味は良く分からないが、腹が立つ」




 当然この後頬っぺたをぐいーっと引っ張られた。笑わないのでもう一度お願いしますと頼んでみたが、二度とやってくれる事はなかった。



***


 クック・ドゥードゥル・ドゥは世話師猫の文二が捌き、薪はカーバンクルの大福がせっせと運んでくれている。私は綺麗な小川に水を汲みに行き、水で鶏ガラに付着している内臓や血合いを洗い流した。そして綺麗になった鶏ガラを鍋に入れ、湯引きして残った汚れを浮かせ再度洗っていく。

 それが終わるとまた鍋に鶏ガラを入れ、熱湯を上から回しかける。流水で落としきれなかった汚れが浮き上がってくるので、もう一度水で汚れをサッと落とせば前工程は終わりだ。手間のかかる作業だがこの作業をする事によってアクが出るのをかなり抑えられる。

 最後にローリエや生姜などを入れて煮込んでいき、その間にお昼に残しておいたご飯を魔法で解凍してもらった。お次はチャーハンだ。


 唐揚げに関してはリュカさんに任せている。

 呑み込みの早い彼は味付けをしながら揚げていっている。たまにつまみ食いをするノエルさんを氷漬けにしたり、油の中に変な生き物を入れよとするルクルさんを地面にめり込ませたりと、大変騒がしく調理している。

 二手に別れて調理している理由は、私以外がローリエ入りの料理をしても同じ効果が得られるのか、実験してみたかったからだ。



 唐揚げにするには小さすぎるお肉を炒めていると、唐揚げが出来上がったとリュカさんが伝えに来た。

 私は煮込み料理がまだだと伝えると、リュカさんが鍋に手を翳し、何かを唱える。




「此方より彼方へ、私が支配する」




 鍋の中を覗くと鶏ガラから出汁が出ており、金色のスープが出来が上がっていた。




「凄いですね!今のはどんな魔法なんですか?」

「時を進める魔法だ。もう少し進めるか?」

「いえ、十分です。ありがとうございます」




 油を引いたフライパンにご飯、溶き卵、先ほど炒めておいたお肉、鶏ガラスープ、醤油を入れる。量が多すぎるせいかフライパンが上手く振れない。

 困っているとリュカさんが交代してくれて、その間に私が木皿におかずを盛り付けた。唐揚げが若干少ないような気がする。これは絶対気のせいじゃない。足元を見てみると、文二が唐揚げを摘まみ食いしていた。ぶ、文二!?



 チャーハンも出来上がり、倒木に座って皆で食べ始める。




「チャーハンって美味しいね。昼に食べたカツ丼のお米とはまた違う感じがする」

「そうですね。こちらのはパラパラしていますね。一粒一粒に卵が絡みついていて美味しいです」

「にゃんにゃん!」

「キュー!」

「唐揚げも美味しいです!うーんジューシー!」

「うん、美味しい。私の邸にも米を仕入れてみよう」




 食べ終わる頃には陽が沈み始めていた。




「コハルちゃん早くルシェールに来てね」

「心よりお待ちしております」

「ありがとうございます」

「お前たちはコハルの料理が食べたいだけだろう」

「えーそれだけじゃないしー!」

「そうですよ。それにリュシアン先輩だけこんなに美味しい食事をしているなんてズルいです」




 どちらの料理も好評で、全てを遠慮なく食べ尽くした双子龍は辺りが暗くなってからドラゴンの姿になり、空へと羽ばたいていった。


 リュカさんが作ったローリエ香る塩味の唐揚げを食べた時、ほんの少しだけ身体の疲れが取れた気がした。でもチャーハンを食べた時は全身の疲れがふわーっと無くなっていき、身体がぽかぽかと温まったような感じがした。




「やはりコハルが作る事に意味があるようだな」

「そうみたいですね」


 


 食事の片づけは双子龍がやってくれたので後は小川で体を綺麗にしてから眠るだけだ。

 小川に行く時はリュカさんにいつも伝えている。それはラッキースケベをされない為だ。


 文二とリュカさんは魔法で体を綺麗にすることが出来るので、今は寝床を整えてもらっている。整えると言っても寝袋を敷くくらいだけど。 




 服を脱ぎ、大福と一緒に冷たい小川の中へ入る。ここの小川は透明度が高くとても綺麗で、小さな魚が泳いでいる。宿屋以外では森を汚してしまう為シャンプーが出来ない。だから野営時はいつもリュカさんに魔法で髪を綺麗にしてもらっている。

 小川から出ると持って来ていたタオルで体を拭き、大福も綺麗に拭いていく。野営地に戻るとリュカさんが文二の頭を撫でて寛いでいたので、髪の洗浄魔法をお願いした。




「リュカさん、今日もお願いします」

「いつも言っているが服はちゃんと着なさい」

「だって暑いです」




 今の私の格好はそれほどはだけてはいない。

 首元はボタン一つしか開けていないし、ワンピースもいつも通りひざ下だ。ただ、普段なら手首まである袖を二の腕までたくし上げている。




「女性がみだりに肌を見せるものではない」

「腕ですよ?」

「腕でもだ」




 リュカさんにするすると手首まできちんと服を正され、ボタンも閉められた。

 どちらかと言うと今の私とリュカさんの距離の方が問題な気がします。でも何度距離感の事を言ってもこのバグだけは修正されない。何故ですか。




ブクマが増えている!嬉しいです!ありがとうございます!

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