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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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たまには知らない事もある



 朝、昨日よりも身体の怠さを感じながら目を覚ました。これはもしかするとアレかもしれない。

運の良い事に今日のリュカさんの腕の拘束は緩く、簡単に抜け出せた。

 


 シャワールームに行き、服を脱ぐ。



 下着を確認してみたら血はほんのちょっとしか付着しておらず、ほっと安堵の息をついた。この世界に来てからというもの衝撃的な出会いが多すぎてすっかり失念していた。この世界にナプキンはあるのだろうか。無ければ困る。それに、世の女性はどう対処しているのだろう。

 

 血を止める薬も道具も今の私の手元にはない。なので、服を脱ぎ股から滴り落ちる経血をシャワーで洗い流している。

 

 うーん、いつまでもこうしている訳にはいかない。

 せっかく昨日までフィーさんと一緒だったんだから聞いておけば良かった。



 後悔の念に駆られているとシャワールームの外からバタバタと激しい足音がこちらに向かって来るのが聞こえた。

 これはマズイ。

 

 私は渾身の力でシャワールームの扉をグッと抑えた。脱衣籠に衣服を脱ぎ散らかしている事が悔やまれる。

 この宿屋には畳二畳分のシャワールームが各部屋に備え付けられており、有難い事にトイレは別だ。シャワールームには脱衣所と簡易洗面台が併設してあり、扉一枚を隔てた所にシャワーが一つだけ備え付けてある。シャワーは天井に固定されており、水圧は弱い。

 

 

 見事、扉の向こう側からリュカさんが私に声を掛けてきた。



「コハル!そこにいるのか!?」

「はい、いますよ」

「無事か!?」

「無事ですけど、大丈夫ではないです」

「どういう事だ!?」



 リュカさんは部屋中に充満している血の匂いに気付き、中でも濃い匂いを辿り此処まで来たらしい。

 充満しているんですか…すみません。



「っ誰にヤられた!!」

「急になんですか!?」

「なっ()の口から言わせるつもりか!?」

「だって分からないです」

「…し、下着に血痕が…」

「みみみみ見たんですか!?変態!」

「はあ!?私の何処が変態だ!そもそもこの部屋には防御魔法を掛けてある!コハルが部屋から抜け出さなければ襲われる事はなかったはずだっ」

「私は一度も部屋から出てませんし襲われてもいません!」

「じゃあこの血痕は何だ」

「…言いたくありません」

「…」

「…」

「…はあ、私も配慮が足りなかった、すまない。相手の特徴だけ教えてくれ、今すぐ八つ裂きにしてくる」




 リュカさんが、かなり物騒な方向に暴走しているので、大分濁して私に起こっている事態を説明する。月経の事を知らなかったみたいで、慌てながら謝罪してきた。

 



―――――――――




 しばらくすると、フィーさんが私の元に下着とポーションとタンポンを持ってやって来た。ちなみに私は未だにシャワールームの中にいる。

 

 フィーさんは朝からユメヒバナさんと一緒にギルドで依頼書を探しており、急にリュカさんが背後に現れて薬屋に転移魔法で飛ばされたらしい。

 頬を染め言い淀むリュカさんに、察しの良いフィーさんは私と一緒じゃない理由を見抜き、早々に必要な物を買ってこの宿屋に来てくれたみたいだ。

 ありがとうございます!新しい下着まで買って来て下さるなんてフィーさんは天使なんですか。いや、エルフでしたね。しかも超美しい。




 リュカさんは今この部屋の外で全てが終わるのを待っているそうだ。

 

 

 そして、ナプキンはこの世界に無くタンポンが主流なので、やり方をフィーさんから教わり注意事項を聞いた。

 まず、私がいた世界のタンポンよりも長時間吸収に長けており、二日間入れっぱなしでも大丈夫。でもそれは冒険中や移動中など、交換がどうしても出来ない場合においてなので、基本は一日おきに変えること。そして戦闘力皆無の私は絶対に山や森、動物や魔獣がいそうな所には入らない事。

 経血の匂いは、そういった危険な生物を呼び寄せる特殊な香りがあるらしい。最後に渡された桃色のポーションは生理用の痛み止めポーションで、一回飲めば一週間は効果が持続するらしい。私は初日の夜と二日目だけ特に腹痛が酷いので痛み止め薬の代わりになるポーションがあって良かったと心から発明した人に感謝した。

 


「フィーさん、何から何まで本当にありがとうございます」

「初めての事なんだからしょうがないさ。汚れた下着は私が処分しておこう」

「すいません、お世話になります」

「気にするな。貴重なものも見れたしな」

「貴重なものですか?」

「ブフッん゛ん゛ん、すまん、龍族やドワーフには生理がない。エルフも魔族も年に一度あるか、ないかだから困ったのだろう」

「…?そうなんですね」





 新しい下着に穿き替え、いつものワンピースに着替える。

 フィーさんはこれから魔物の討伐に出かけるようで、再度お礼をする暇もなかった。私が着替えている最中に笑いを堪えながら彼女は震える声で、「今、コハルが穿いている下着は彼が選んだ物だ」と爆弾発言を残して華麗に去っていった。

 

 どどどどどどうしたら良いんですか、この後!




――――――――




 フィーさんが部屋を出たのと入れ替わりに、大福を肩に乗せたリュカさんが入って来た。片手には分厚い本を持っている。



 桃色のポーションは飲んだが未だに身体は怠く、効果は感じられない。

 大福がリュカさんの肩から降り、私の元へやって来た。私は今ベッドで横になっており出来るだけ身体に負担をかけないようにしている。リュカさんは私と目も合わせない。100年以上も確実に生きているくせに思春期の男子みたいな行動につい笑みが零れてしまった。




「げ、元気そうで良かった。その、色々と失礼してすまない」

「知らなかったんですから、しょうがないですよ」




 少しだけ頬を赤く染め、目を泳がせるリュカさん。なんだかとっても可愛らしい。

 本で知識をつけたのか、この国には一週間滞在すると伝えられ、彼はかいがいしく私の世話をし始めた。

 今はベッドの横に椅子を持ってきて其処に座っている。


 

 お互いに喋らず、でも居心地は悪くない。

 段々とお腹の下腹部が締め付けられるように痛みを増してきて、それに伴うようにして私の呼吸が荒くなる。

 シャワールームで聞いた防御魔法の事について聞きたいが、お腹の痛みが酷すぎて呼吸をするのがやっとだ。ベッドで横になっている私の手を握り、リュカさんは酷く心配そうな顔をする。

 フィーさん、全然あのポーション効きません。



 リュカさんに辛そうな顔をさせたくないな。

 彼は色々と言葉が足りないけど、いつも私の知らない所でそっと守ってくれる、優しい龍だ。あと美しい!

 どうしてそんなに肌が綺麗なんですか…




―――――――――――




 いつの間にか寝ていたみたいだ。

 手は今もしっかりとリュカさんに握られている。



「起きたか、調子はどうだ?」

「あれ…?全然痛くないです」

「そうか、良かった」

「何かしてくださったんですか?」

「……少し、な」




 さっと会話を切り上げた彼は、食堂から持ってきたパンのミルクがゆを私に食べさせようとしてきた。リュカさんがふーふーしてくれるのは有難いんだけど、あーんされるのは意地でも阻止したい。



 自分で食べられますと伝えるが、リュカさんはぐいぐいとスプーンを私の口元に持って来る。



「体調が思わしくない時に無理をするものではない」

「無理してません」

「意地を張るな」

「張ってまふぐっ」



 喋っている最中なのに隙を突いて口の中にパンの乗ったスプーンを入れられた。ミルクがゆは食べやすくて美味しいが、体調も良くなり意識もハッキリしているのにイケメンから食べさせられるというのがかなり恥ずかしい。

 リュカさんは私のお世話を止めるつもりは無いらしく、今日からの一週間が憂鬱で堪らない。



 夕食は私がフィーさんと話している時買ってきた物を食べたみたいで、大福にも何かを与えたあとがある。気にせず何処かに食べに行ってくれても良かったのに。でも、正直ずっと傍にいてくれたのは嬉しい。

 食べ終わった食器は部屋の外に置いておくと、宿屋の従業員が回収してくれるそうだ。 



 夜、流石にシャワールームまではついて来なかったけど、今日も一緒に寝る事が彼の中では決定されていた。




「おいで、コハル」

「いや、だからおかしいですって」

「?何もおかしい事はない」

「覚えてますか?私は成人した女性なんですよ?」

「ああ、覚えているよ。そして儚いという事も」

「龍族に比べたらほとんどの種族が儚いんじゃないんですかね」




 いつもより丁寧にベッドの中へと誘導され、眠りに着く。

 リュカさんのご尊顔を見ながら眠るのは無理だけど、この匂いは落ち着く。同じシャンプーや石鹸を使っているはずなのに、彼からは優しい爽やかな香りがした。




本編とも全然微塵も関係ないですが、今日初めてトイレに無意識で箸を持って入っていました。自分が怖いです。鼻セレブは美味しいですがきっとトイレットペーパーは美味しくないと思います。そもそも食用じゃない。

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