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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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熊のお肉は意外と美味しい



 野営地に付き、二頭の馬を御者が専用の杭に繋ぐ。

 荷台には肉塊になったハードボイルドベアーも乗っており、道中生臭すぎて吐くかと思った。普通は氷属性の魔法で冷凍保存したり、臭い消し様の薬草があるのだが、いつまた魔獣や動物が襲って来るか分からないので魔法は仕様せず、薬草に関しては御者が持って来るのを忘れたそうだ。

 御者ー!しっかり!

 途中、臭いに耐えきれなくなった私はリュカさんのポーチに入れたら良いんじゃないかと提案するも秒で拒否られた。


 決して楽とはいえない幌馬車の旅でようやく森を抜け、今は平地で夕食の準備をしている。もちろんリュカさんにポーチから私の登山用リュックを出してもらい、今は簡易キッチンを組み立てている。

 それを初めて見る御者やフィーさんユメヒバナさんは興味津々といった様子だ。



「すっげーなコレ!」

「驚いた、まさか厨が出来るとは。どうやって作るのだ?教えてくれコハル」

「んー私もよく分からないんです」

「では言い値で買おう」

「すみません、非売品にさせてください」



 食器類はリュカさんとフィーさんが手分けして人数分作ってくれて、御者さんは馬に餌をやり、ユメヒバナさんはハードボイルドベアーを一口サイズに切ってもらっている。

 今日の夕食はカレーにするつもりだ。


 初めは野営地に着いた途端、リュカさん以外、自分の鞄から干し肉を出して食べ始めたので、一緒に食事をしませんか?と誘ってみた。三人とも初めは頭上に?を飛ばしていたが、リュカさんが率先して準備をしているのを見て自然と動き始めた。リュカさんの影響力が凄い。




 御者さんから許可を得て、幌馬車に積んであった大鍋を借りそれにハードボイルドベアーの脂身をひいてから一口大に切ったお肉を焼いていく。火はもちろんチャッカマンで点けて枯れ木は手慣れた大福が準備してくれた。

 ユメヒバナさんはチャッカマンを気に入ったのか、何度も点けたり消したりして遊んでいる。止めて燃料なくなっちゃう。 

 世話師猫は私の手元をじーっと見ながらにゃうにゃう唸っている。時たま何かを聞いて来るが、何を言っているかの分からない。なので、適当ににゃーにゃー言ってみた。



 前回余ったじゃがいもと玉葱もユメヒバナさんに切ってもらい、鍋に投入する。玉葱が透き通ってきたら水を入れ煮込む。その際にローリエも一緒に入れ、灰汁を取りつつお肉の固さを確認する。煮込んでいる間は暇なので、使い終わったまな板や要らない物は片付けていき次の料理に取り掛かった。因みにお水はユメヒバナさんの水属性魔法で出してもらっている。 


 きっとカレーだけでは物足りないはずなので、ハードボイルドベアーのお肉を串に刺し前の村で買っておいた砂糖と私の持っている貴重なお醤油で味を付け、なんちゃって焼き鳥を作る。鳥じゃなくて熊だけど。しかもガトリング銃ぶっ放しちゃうようなハードボイルドの。んーそれにしても、ネギがないのが悔やまれる。

 

 串に肉を刺していく作業をユメヒバナさんに任せ、私は大鍋にカレーのルウを入れる。ハードボイルドベアーは暴れ鳥よりも臭みが強かったので、ローリエは食べる直前に取り出す事にした。

 リュカさんやフィーさんが木で食器を作り終わる頃にはカレーが完成しており、大鍋を火から離して前回使った使い捨て用のBBQ網を置いて串を焼いていく。


 ジューっと良い音を立てながら串が焼かれて、お肉から砂糖醤油のあまじょっぱい良い匂いがする。串を焼く作業は御者さんとユメヒバナさんにお願いし、私はにゃーにゃーとじゃれてくる世話師猫の相手をする事にした。



「にゃー!」

「んー?」

「にゃにゃ!」

「んん?」

「にゃーにゃっ」



 やっぱり全然分からない。

 私の肩に乗っているカーバンクルの大福は、世話師猫の言っている事が理解できるようで、たまに相槌を打っている。

 

 焼けたぞーとユメヒバナさんが私を呼ぶ姿を見て、ふと、縁日の屋台で焼き鳥を売ってそうだなと思った。あの黒いツノが邪魔でやりにくいだろうけど、白いタオルを頭に巻いてみて欲しい。きっと似合うと思う。



 リュカさんから木皿を受け取りカレーを注いでいく。ご飯はないけど、かったーいパンならあるので、それに浸けて食べる。ハードボイルドベアーの串焼きは適当に食べてください、と伝えて皆で一斉に食べ始めた。この世界には「いただきます」という言葉がない。だけど、こっそり手を合わせて私だけいただきます、と呟いた。

 

 座る場所は地面が草で和らいので、そのまま腰を下ろしている。私が適当に座ると、リュカさんと世話師猫と大福がやってきた。フィーさんはユメヒバナさんの近くで、御者さんは少し離れた所に座っている。

 なんだか皆でピクニックをしているみたいだ。いや、キャンプかな?


 カレーを一口食べてみるとハードボイルドベアーのお肉はワイルドベアーよりも柔らかく、上質な牛肉のような食感だった。味もちゃんと染みていて美味しい。

 隣に座っているリュカさんも美味しそうに食べている。いつ見ても美しい所作だ。同じものを食べているはずなのに彼だけ高級フレンチでも食べているかのようだ。

 

 

「うっま!なにこれ!すっげー!うっま!」

「御者生活が長いですが、こんな美味しいもの食べた事がありません!」

「これは…美味!」

「スパイシーさがやみつきになりそうだ。香りも良い」

「キュキュー!」

「にゃぁぁぁあん!」

「皆さんのお口に合ったようで良かったです」




 御者さんに料理名を聞かれたので、カレーですよと伝えると、初めて聞きました、と答えられた。串焼きも好評で、リュカさんはカレーよりも串焼きの方を多めに食べている。

 

 ユメヒバナさんは「うっめー!すっげー!」と叫びながらガツガツとカレーを食べている。育ち盛りの中学生みたいだ。フィーさんは自分のポーチからとてもカラフルなキノコを取り出し、柄の部分を物凄い力で握った。何をするんだろう。

 

 よく見てみると、キノコには顔があり、フィーさんが柄の部分を握れば握るほど、その人面キノコは口を膨らませる。そしてオロロロロとカレーに吐いた。

 吐しゃ物はテレビで見る様なキラキラ仕様になっており、見た目的なショックは低いけど、人面キノコの表情や吐く時の声が不気味すぎて食欲が失せてしまった。



「ななな何やってるんですかフィーさん!?」

「ん?」

「コハル、あれはエルフが好む調味料だ。見た目は酷いが美味しいらしい。一口貰ってみてはどうだ?」

「え、遠慮します」



 フィーさんは見た目に似合わず、カレーはぐちゃぐちゃにかき混ぜるタイプのようで、キノコが吐いた下呂とカレーを一緒に食べて頬を赤く染めている。まあ、美味しいなら、良かった…です。

 世話師猫もカレーをお替りして、大量に作った大鍋の中身はすっからかんになった。カレーを食べ終えたフィーさんにユメヒバナさん、御者さんは身体が軽くなった事に驚き騒いでいる。

 


「やっべ何これ!身体軽っ!」

「凄いな、力がみなぎってくる!」

「おおっ疲れが吹っ飛びました!」



 ユメヒバナさんはあり得ないくらいの高さまで飛んだり跳ねたりしていて、本当にこの人はヒト族ではないんだと思った。それに、あんまりはしゃぐとまた疲れちゃいますよ。と心の中でつっこんでおいた。いつもならフィーさんがユメヒバナさんに注意して止めるけど今回はフィーさんも自分の身体を不思議そうに見つめている。

 世話師猫も大福と一緒に追いかけっこを始めた。 

 

 私は皆よりだいぶ遅れてカレーを何とか食べ終え、一つだけ取っておいた串焼きを頬張る。

 うん、美味しい。

 タレが良い感じに焦げて、肉の旨味と合わさっている。ご飯が欲しくてたまらない。



「やはり、コハルが作ったローリエ入りの料理にはポーションのような効果があるな」

「みたいですね、手に職持ててラッキーです」

「そう良い事ばかりではないよ。この世には人を道具にしか思ってない輩もいる。だから人攫いに合わない様、今まで以上に気を付けないとな」

「…」

「どうした?」

「今日、私は戦闘で何の役にも立てませんでした」

「それがどうした?」

「私、お荷物は嫌です。せめて自分の身を守れるくらいには強くなりたいです」

「それで?」

「リュカさん!私に魔法を教えてください!」

「コハルは戦闘に向いてない。魔力暴走して出てきたのは花だったろう。教えたとしても土が耕せるくらいだ」

「じゃあ体術でお願いします!人攫いなら、魔獣じゃないですよね?襲ってきても投げ飛ばせるくらいにはなりたいです」

「私の剣も持てないその腕で?」

「…筋トレ、今日から頑張ります」

「ふふっコハルはそのままでいれば良い」

「それじゃあ私、お荷物のままじゃないですか」

「私はコハルの事をお荷物だなんて思っていない。コハルには戦闘も知らない、綺麗な存在のままでいて欲しい」

「私は、リュカさんが思ってるほど綺麗な存在じゃありませんよ。ムカついたら手が出ちゃいそうな時もありますし」

「そうなのか?それはそれでコハルを怒らせてみたくなったな」

「え、変な事してこないでくださいよ、もし虫とか投げつけて来たらブチ切れますからね」

「そんな低俗な事を私がすると思うのか?」

「…若干」



 今のを失言と捉えたリュカさんに、頬っぺたをぐいーっと引っ張られた。痛いです。

 




 夜も更けて来たが今回も簡易テントの出番は来ず、御者さんは御者席で、他の皆は幌馬車の中で眠ることになった。テントだと外部の音を遮られるので、襲われた時に気付くのが遅くなる可能性がある。その為今回もテントは無し、とリュカさんが判断した。


 火の番は用心棒の二人が買って出ててくれた。

 私とリュカさんはお言葉に甘え寝支度の準備を始め、寝袋を椅子に敷き今日は横にならず座ったまま眠る事にした。

 私は寒くないのでリュカさんに毛布を譲ったら、何を勘違いしたのか彼は私をひょいと持ちげて股の間に座らせた。そして二人一緒に毛布を被る。

 リュカさんの手は私のお腹の前でしっかりと握られており抜け出せない。



「寝ずらいですリュカさん」

「私は丁度良い」

「あといつも思ってたんですけど、リュカさんの私に対するパーソナルスペース狂ってませんか?」

「正常だが?」

「いやおかしいですよ、0距離ですよ!?」

「コハルは弱いからな。私が守ってやらねば」

「話を逸らさないでください」

「ふふっ温かいな」

「どっちかっていうと暑いです」




 リュカさんが私の頭の上に顎を乗せてきた。重い。

 隣を見ると世話師猫がリュカさんの真似をして大福を抱えて眠っている。猫ちゃん、リュカさんに似ないでね。


 自分の鼓動がバレないようリュカさんと距離を取ろうとしたら、ぐっと腕に力を入れられて余計密着してしまった。私で楽しんでませんかリュカさん。止めてください。

 こう見えて意外とイケメン耐性無いんですからね。


 自分の頬と言うよりも顔全体が赤くなっていくのが分かる。

 寝入る前が一番緊張するっておかしいよ。そもそも男女が一緒の部屋に入るのはいけないのに、こんなに密着して眠るのは良いんですか!? 







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