表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
127/127

一緒が良い



 温室内にあるソファーに腰をおろし、リュシアンは膝に乗せている妻に、何故一緒に来てくれないのかと尋ねた。



「私、リュカさんのお陰で体がありえないくらい頑丈になりました」

「ありえないくらい?」

「はい」



 彼としては未だに力を抑えて抱きしめたり甘噛みをしている為、妻の発した『頑丈』という言葉に首を傾げる。



「そうは思えない」

「ジャンプしてみせましょうか?」

「いや、良い」



 小春は以前、約20cmほどのジャンプ力だった。しかし、現在は150cmを超えるほどのジャンプ力を持つ。そして、着地した時の衝撃に耐えられるほどの脚力もある。それを披露したかったのだが、断られてしまった。


 

「それと今回の件に、どう関係がある?」

「私の体が丈夫になったので、今は座学よりも実戦練習が増えたんです。だから、ちょっとでも早く使える魔法を覚えたいんです」

「それなら、道中に私が教えるよ」

「えっと、大丈夫です」



 多種多様な魔法が使えるリュシアンだからこそ、彼の説明は難しく、頭があまり良くない小春にとっては相性が良くない。

 先程から断られてばかりいるリュシアンの機嫌は下がる一方で、妻を抱きしめる力が強くなった。



「人魚の国は美しいよ。私達が前回行ったのは村にあたる場所だ」

「そうなんですか」

「行ってみたいとは思わないか?」

「思いません」

「何故、そう頑ななんだ」



 小春は少し間を開け、重たい口を開いた。



「トイレ事情です」

「は?」



 小春にとって、この世界のトイレ事情の優先度は高い。それくらい衝撃的な用の足し方をする国が多いのだ。

 先ほどから話に上がっている【人魚の国】では、便座が無い。そもそもトイレという概念がない。

 では何処でするのか。それは海流の速い場所で、ぷりぷりと、魚みたいに排便をするのだ。



「海は綺麗だよ」


「そういう所を気にしている訳ではなくてですね」


「そういえば、コハルは人魚の便を見た事がないんだったね」


「まぁ、そうですが。というか、人魚だけじゃなく、ほとんどです」


「では、これから見に行くか」


「え、嫌です」


「今日のコハルはイヤイヤばかりだな。あぁ、これが文二が言っていたニンゲンの『イヤイヤ期』か」


「違います!」



 その後も行きたくないと主張する妻を説得し続けるが、話は平行線のまま。

 リュシアンは妻を横抱きにしたまま立ち上がり、温室を出た。行き先は操舵室だ。そこには羅針盤で方角を確かめているユリウスが居る。彼に事情を説明し、出掛ける旨を伝えた。



(だい)オオグソミュージアムですか。それは良いですね」

「名前からして行きたくない…」



 現在ルシェールでは、大オオグソミュージアムが開かれている。

 これは愛の伝道師である天使族が主催しており、大人気の移動式展示会だ。

 彼らは毎年、全種族の土地を渡り鳥の様に飛びながら移動式サーカスのように、その国の土地を借りて大オオグソミュージアムを開いている。今年のスケジュールは、ルシェールとゴーラントバーデンのみ。



「コハル様、ミュージアムには全種族、全動物、全魔獣の大変貴重で元気な便が展示されております」


「そうなんですか」


「便は肥料や薬にもなる貴重な代物なので、各国の医学者が勉学の為に訪れるほどです」


「でも、なんか臭いそうなんで遠慮します」


「まさか。そんな事はございません。清潔な場所です」


「全種族ってことは、まさか、龍族の便も展示してあるんですか?」


「はい、勿論ございます。流石に個人名は伏せられておりますが」



 小春は驚いて夫の顔を見る。

 そして心のままに声に出そうとした。



「それってもしかして」

「怒るよ」

「すみませんでした」



 言葉にせずとも何を言いたいのか分かったリュシアンは、有無を言わせぬ笑みを湛え、それ以降の言葉を防いだ。勿論展示物の便は彼のものではない。

 小春はたまに、とんでもなく失礼な発言をする。その度に仕置きを受けているはずだが、まったく治る気配はない。


 その様子を温かく見守ってたいたユリウスは、侍女のルイーゼッケンドルフを呼んだ。しかし、ダイオオグソミュージアムにどうしても行きたくない小春は、お出かけ用のドレスを拒んだ。


 結局この日はこのまま邸で過ごし、とうとう人魚の国へ出発する日がきてしまった。リュシアンの顔には笑みがなく、珍しくムスッとしている。



「リュカさんもそういうお顔するんですね」

「そうさせているのはコハルだが?」



 リュシアンは意地でも小春を同行させるつもりだったが、そもそもの話、部隊長であるウメユキが許可を出さなかった。

 遡る事数日前、リュシアンはウメユキに、人魚の国へ行きたくないというコハルをどう説得すれば良いか相談していた。



「人魚の国?なんでまた」


「石板の解読のためだ」


「あぁ、『白く長い髭を蓄えた老人』のヒントを探しに?」


「そうだ」


「アカンよ」


「何がだ?」


「コハルはんを連れてくこと」


「何故だ」


「何故って。リュカ君、人魚の国へはルシェールから行くつもりなんやろ?」


「ああ」


「ってことは、リゾート地からやのうて、西部にあるダイナミック・フォールから行くつもりやな?」


「ああ。それの何が問題だ」


「昨日、ダンジョンできてん」


「チッ」


「ほんで、結構デカイらしくてなぁ。住民もまぁまぁ飲み込まれたらしゅうて、今朝の隊長会議でどこが一番に行くか揉めてん」


「確かに、そんな所にコハルは連れて行けないな」


「そもそもの話な、毎回長期任務に奥さん同行させるて、アカンでリュカ君」



 こういった経緯から、小春の同行はなくなった。

 また、今回の任務はスリーマンセルで行う。

 一人は天空古代語が読めるリュシアン、もう一人は水中が得意な竜種である双子龍のルクトゥアール、最後の一人は遺跡調査発掘部隊に所属している人物だ。

 しかし、最後の彼は前日に高熱を出してしまったため、急遽ツーマンセルで任務にあたる事になった。高熱をだした理由は、元七番隊遺跡調査発掘部隊に所属していたリュシアンと一緒に任務に付ける興奮と、知恵熱によるものだ。


 出発の朝、小春からなかなか離れないリュシアンを、笑みを張り付けたルクトゥアールとユリウスが引っぺがした。

 


「無事のお帰りを待ってます!行ってらっしゃいませ、リュカさん!」

「そう元気よく送り出されても微塵も嬉しくない」

「微塵もですか」

「うん」


 

 引っぺがされてもなお、手だけは握っている。

 しかし時間は待ってくれない。



「リュシアン先輩、そろそろ行きましょう」

「はぁ」

「なんなら、僕が魔法でコハルさんに変身しましょうか?」

「止めろ」



 こうしてリュシアンは、後輩のルクトゥアールと共に人魚の国へ赴いた。

 



いつも読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ